亀姫は母譲りの強い人だからこそ
蘭丸が六三郎の嫁取りと宗六郎の今回の件を比較しながら大広間に到着すると、既に亀姫が
「父上!義父様!それに九之助様!先程も申しましたが、
娘の昌美を柴田播磨守様の次男の宗六郎殿への嫁入り、もしくは許婚として縁を結ぶべきだと強く推したいのです!
これ程の良縁の機会、そうそう無いのですから、絶対に結びましょう!高代殿もよろしいですよね!?ねっ?」
これでもかと宗六郎との縁組を猛プッシュしていた。亀姫の迫力に奥平親子は、中々言葉が出なかったが、実父の家康が
「亀、昌美はまだ八歳なのだからそれ程慌てずとも良いではないか。それに、宗六郎殿は三歳じゃぞ?
そもそも、父親であり柴田家当主の六三郎殿が居ない中で、その様な事を決められるわけが無い事、お主も知っておる筈じゃが何をそれ程慌てる必要がある?」
亀姫を嗜める。しかし、亀姫は引くどころか、逆に反論する
「父上!その様な悠長な事を仰っていては宗六郎殿の正室が決まってしまいます!
生まれ故郷の三河国や兄上の事を悪く言いたくありませんが、奥平家の家臣、兄上の家臣、父上の家臣の誰かしらに昌美が嫁いだとして、
昌美の夫になる殿方が、播磨守様の様に人の話を聞いて領地と主家を発展させられる知謀溢れる武士である可能性は低いではありませぬか!
兄上が治める三河国、父上が治める遠江国と駿河国、どちらも播磨守様の世話になったと聞いております!
この様な話を聞いて、何故それぞれの家の家臣が頑張らないのかと思ってしまった以上、家臣達に嫁がせては昌美が苦労するのが目に見えます!
だからこそ、私は宗六郎殿の嫁か許嫁に昌美を推挙しておるのです!」
亀姫の納得せざるを得ない反論に、家康も言葉に詰まってしまった
3人が何も言えなくなった事で亀姫は信長に話を振る
「右府様!右府様も姫君達には嫁ぎ先で苦労して欲しくない親としての思い、分かっていただけますか!?
私も、家臣達の働きを否定するわけではありませぬ!ですが、右府様と父上、そして妹が嫁いだ北条家により戦無き日の本になった際、
戦しか出来ない武士は、やがて食う物にも困るでしょう!なので右府様!」
亀姫が信長に協力してもらおうとしたところで、家康が口を挟む
「亀よ、宗六郎殿の嫁や許嫁に関しては、お主の弟の勝之尉も娘を推挙しておる。それも、本人としては昔の罪滅ぼしも込めてなのじゃ。良く聞け!」
そう言いながら家康は、勝之尉が幼かった頃と現在を交えた話を亀姫に話す。話を聞き終えた亀姫は
「父上。仰りたい事は分かりました!ですが、それなら尚の事、勝之尉の娘ではなく昌美を宗六郎殿に嫁がせるべきです!
勝之尉の治める信濃国は、国内は勿論、周辺の国、それこそ甲斐武田家と、越後上杉家にも娘を嫁がせる事が出来るではありませぬか!
勝之尉の松平家と、この奥平家では家格も領地も差があり過ぎます!勝之尉は、それこそ娘の嫁ぎ先は引く手数多でしょう
ですが、このままでは昌美は十万石どころか、一万石もあるかどうかの家に嫁ぐ事が関の山です!だからこそ父上!
私は、宗六郎殿が嫡男ではなくとも、宗六郎殿を昌美の嫁ぎ先として、縁を結びたいのです!
柴田家以上でなくとも、柴田家と同等の領地を持っている大名がどれだけ居ますか?
右府様の織田家、父上の徳川家は兄上と勝之尉の松平家を合わせて、そして督の嫁ぎ先の北条家、
三家とも百万石の領地を持っておりますが柴田家以外に百万石と同等の大領を持っていて、
昌美を嫁がせても問題なく暮らしていける家があるのであれば、教えてください!父上!義父上!九之助様!右府様!」
亀姫の母親としての切実な思いを聞いて、信長以外の3人は何も言えなくなった
領地の大きさは勿論だが、他家の領地と比較されると、自分達ではどうしようもなくなってしまった
だが、信長だけは違った。亀姫の胸の内を聞いた上で信長は
「亀姫殿。亀姫殿の胸の内を聞くに、昌美姫の嫁ぎ先は絶対に宗六郎の柴田家でなければならないわけではない様に聞こえたのじゃが、どうなのじゃ?」
「絶対に柴田家でなければダメなのか?」と質問する。信長の質問に亀姫は
「高代殿が居る場で失礼を承知で言わせていただきますが、私は、母親としての胸の内を正直に言いますと
昌美が嫁ぎ先で貧しい暮らしをしないのであれば、あまり嫁ぎ先に拘るつもりはありませぬが、
この東海道沿いの国では、それを望む事は無理だと分かっているのです!東海道沿いの暮らしが貧しくない家は親類が殆どなのですから、嫁がせる事は出来ませぬ!
なので、柴田家以外で昌美を嫁がせても貧しい暮らしをしないであろう、私が納得出来る家があるのであれば、右府様に教えていただきたく!」
亀姫の本音を聞き出した信長は
「何処の家の母親も、我が子の将来の為なら、強くなるのう」
と、呟いてから亀姫へ
「亀姫殿、母親としての思い、儂の家臣の母親も同じ事を言っておった!だからこそ儂から昌美姫の嫁ぎ先候補として、お勧めの家を紹介しよう
それこそ領地も柴田家とほぼ同じじゃ!当主は織田家に仕えて、およそ四十年じゃ!そして、その倅は今年で十五歳と、元服も近い!
その家は現在、中国地方の備中国を中心に領地を持っておる羽柴家じゃ。羽柴家ならば、
今すぐ嫁入りするわけでなくとも、先ずは嫡男の為人を見たり聞いたりするだけで良いと儂は思うが、それに伊勢国と伊賀国を治めておる、儂の三男の三七も嫡男が産まれておるはずじゃが、どうじゃ?」
羽柴家と神戸家を推薦した。信長の言葉を聞いた亀姫は
「まあ!柴田家とほぼ同じ石高と言う事は十万石を優に超える五十万石は間違いなくある大大名ではありませぬか!
右府様!宗六郎殿以外にも昌美の嫁ぎ先候補として羽柴家の嫡男殿に会ってみたいのですが、羽柴殿は三河国に来る事は有りますでしょうか?
ああ、でも近くの伊勢国と伊賀国を治める右府様の孫も良いです!」
まさかの柴田家と羽柴家を天秤にかけながらも、羽柴家が三河国を通らないか?や信孝の息子を気にかけるそぶりを見せていた
そんな亀姫に信長が
「亀姫殿、それ程気になるのであれば、儂や二郎三郎と共に安土城へ行ってみてはどうじゃ?
安土城へ行く途中で、伊勢国の三七にも会う予定じゃからな。何とか亀姫殿の目的は果たせるかもしれぬぞ?」
まさかの安土城への同行を提案した。これには家康も
「三郎殿、亀の我儘の為にそこまでせずとも」
「我儘を聞かなくて良いのに」と、止めようとしたが、信長は
「二郎三郎よ、今すぐに昌美姫の嫁ぎ先が決まるわけではないのじゃから、それに何も亀姫殿だけが同行するのではなく
奥平家の子供達も連れて行って、畿内の発展を見せるのも良いと考えての事じゃ」
「亀姫だけを連れて行くわけじゃないよ」と家康に伝える。それを聞いて家康は
「亀だけだと心配でしたが、孫達も一緒ならば、亀も流石に親として動いてくれるでしょうから、、、分かりました
亀、そう言う事になった。なので、早く出立準備をせよ!遅ければ置いていくぞ!」
亀姫と孫達の同行を了承した。こうして、まるで六三郎が昔やった事のある、「移動すればする程、人数が増えていく」を信長達もやっていく事になった。




