宗六郎は六三郎のアレも受け継いでいた
天正二十三年(1595年)十一月十四日
三河国 長篠城
「九八郎!久々に顔を見たが、変わらず壮健の様じゃな!婿殿もより逞しくなって!」
「殿、ありがたきお言葉にございます。二十年前の武田との戦で、この奥平家は存亡の危機に陥っておりましたが
殿の織田様の軍勢が武田を撃退してくださった事で、現在も奥平家が続いております事、誠に!」
「義父上!ありがたきお言葉にございます!拙者も亀も子供達も、壮健にございます」
家康が長篠城へ行きたいと提案してから4日後、家康と信長一行は長篠城へ到着していた
2人が到着すると、城主である奥平貞能は20年前の長篠設楽が原の戦の事も含めて挨拶して、貞能の嫡男で家康の長女の亀姫の夫である信昌も挨拶していた
貞能親子の挨拶が終わると、信長から
「奥平殿!二十年前の戦にて、命懸けの伝令をした鳥居強右衛門は今も奥平家に仕えておるか?
仕えておるのであれば、久しぶりに顔を見たいのじゃが」
「はい。今でも強右衛門は奥平家の家臣として、仕えております!あの頃よりも出世しております!それでは連れて来ます」
二十年前、武田家に包囲されていた長篠城から岡崎城までの距離60キロを1日半かけて泳ぎと走りで掻い潜り、
信長と家康に攻撃を受けている事を命懸けで報告しに来た、鳥居強右衛門に会いたいとリクエストされた貞能は、家臣に強右衛門を連れて来る様に命令する
命令を受けた家臣が強右衛門を連れて来ると
「殿、お呼び、、、」
強右衛門は信長と家康を見て、一瞬固まった。それでも元に戻ると
「大殿!織田様!」
家康と信長に声をかける。そんな強右衛門に2人も
「強右衛門よ!変わらず壮健か!」
「二十年前と比べて、逞しくなったのう」
それぞれ、懐かしさが出ていた。会話が始まると信長は
「強右衛門よ、命懸けの働きの結果、出世したと奥平殿から聞いておるぞ!領地は如何程で、何人くらいの家臣が居るのか、教えてくれ」
「は、はい。領地は百石を賜り、家臣は五人居ります」
強右衛門の石高と家臣の数を聞いて、強右衛門も答えた。強右衛門の答えを聞いた信長は
「おお!あの時は一介の足軽だったのに、見事に出世したのう!やはり、命懸けの働きをした者が居たならば、働きに報いるへきじゃな!奥平殿、見事な沙汰じゃ!」
強右衛門と貞能を褒めていた。信長の後に強右衛門は
「織田様。実は二十年前、長篠城の手前で武田の足軽達に見つかったのですが、
岡崎城を出立する直前に柴田様が拙者にくださいました武器のおかげで、こうして生きております
その事から、柴田様には感謝しかありませぬ。そう言えば織田様。柴田様は二十年前の戦が元服後の初陣と教えていただきましたが、
その後の戦では、どの様な武功を挙げられたのか、無礼を承知で教えていただきたく存じます」
「あの後、六三郎はどんな事をやったのか教えてください」とリクエストした
強右衛門のリクエストに信長は
「強右衛門、そして奥平殿。六三郎の武田との戦の後に出陣した話を聞くと、笑うか言葉が出なくなるぞ。しっかりと聞いてもらいたい」
ドヤ顔でそう言いながら、穴山との戦、上杉との戦、毛利との戦、松田との戦の話を2人に話した。全ての戦の話を聞き終えると2人は
「正しく八面六臂の働きですな!」
「戦の本番だけでなく、調略でも見事な働きを見せているとは、やはり柴田様はとてつもない武将だったのですな!」
信長の予想通り笑っていたが、それ以上に興奮していた。そんな和気藹々としている空気の中
「ちょ、ちょっと!奥方様!」
女性を止めているかの様な高代の声が聞こえて来た。声を聞いた信長は
「お蘭。見てまいれ」
「ははっ!」
側に控えていた蘭丸を高代の元へ行かせて状況確認を急がせた。蘭丸が高代の元へ行くと、そこでは
「高代殿!宗六郎殿の嫁、いいえ許嫁でも構いませぬ!私の娘の昌美はどうでしょうか?宗六郎殿は今年で三歳、
昌美は今年で八歳ですが、元服したら多少の歳の差なんて関係ありません!是非とも御決断をお願いします!」
家康の長女の亀姫が高代に「宗六郎の嫁にウチの娘を!」と、猛アピールしていた
それを見て蘭丸は、
「亀姫様、高代殿。その様な重要なお話なのであれば、大広間で皆様が揃っている中で、話してみてはどうでしょうか?」
冷静に「重要な話みたいだから、大広間で話し合いましよう」と、提案する。蘭丸の提案を聞いた亀姫は
「それもそうですね!織田家家臣の中でも徳川家と奥平家に関わりの深い柴田家との縁組ですから、殿も義父上は勿論、父上も納得してくれるでしょう!
高代殿!是非とも、宗六郎殿と昌美の縁組について話し合いましょう!」
一旦、冷静になった。それでもテンションは高かったので、高代の手を引いて大広間に向かった
強引に連れて行かれた母を見て宗六郎は蘭丸に
「森様。母上は大丈夫ですか?」
高代を心配する言葉を伝える。母を心配する宗六郎に蘭丸は
「宗六郎殿、母君は少しばかりお話合いをするだけですから、大丈夫ですぞ。なので今は、拙者の妹のうめの側で、母君のお帰りを待っていてくだされ」
宗六郎を落ち着かせる言葉を使って、うめの元に行かせた。宗六郎がうめの元へ行った事を確認した蘭丸は
「六三郎殿の嫁取りの時も、似た様な感じだったと聞いておるが、まさか息子の宗六郎殿も嫁取りで大変な思いをするとは」
「六三郎の時もこんな感じだったなあ」と思い返して、大広間に向かった。これから北条家に嫁いだ督姫以上の強い姫を見る事になるとは、この時はまだ知らなかった。




