出発する信長と慶事に湧く徳川家と動く伊達家
天正二十三年(1595年)九月一日
相模国 小田原城
「それでは、北条家の皆!大変世話になった!五郎の娘の鈴と仙!お主達の夫は良き若武者じゃが、若いが故に選択を間違える事もあるじゃろう!
その時は、尻を叩いて「しっかりしろ」と言ってやれば良い!達者で暮らせ!それでは勝四郎!しばらく甲斐国で世話になる!案内を頼むぞ!」
「ははっ!それでは出立します!」
合同祝言の翌日、信長達は相模国から甲斐国へ向けて出立した。信長は最初、伊豆国からのルートで行こうと考えていたが、丹羽長重や森蘭丸に止められて、
安全なルートを考えた結果、甲斐国から信濃国を抜けて遠江国へ入るルートで進む事に決めたので、
一旦、武田家の躑躅ヶ崎館に行く事になった。なので勝四郎や五郎が先導する事になって、今に至る
そんな信長達が通行許可を取りたい信濃国は家康の次男の勝之尉が治めており、不穏な気配も無く、平和に過ごしていたが、
信長達が移動を開始してから2週間後、居城にしている高遠城内はとても慌ただしかった、その理由は
天正二十三年(1595年)九月十五日
信濃国 高遠城
「奈和殿!!ヒッで息を吸って、フーで吐くのです!ヒッヒッフーです!やってみてください!」
「は、はい!ヒッ、ヒッ、フー!ヒッ、ヒッ、フー!」
勝之尉の側室で、本多作作左衛門重次の親類の奈和姫の陣痛が始まっていたからであった。しかも、産婆として側に居るのは自分も前年に出産して幼子が居る高代達だった
今年の睦月の中頃に正室の竹姫が嫡男の勝千代を出産した事は勝之尉も家康に文で報告していた。しかし家康は
「もっと子を持つ為に、側室を持て!」と返事の文で命令されていた。それを家老として一緒に信濃国に来ていた重次に相談していた勝之尉は
「それならば、拙者の倅の嫁の妹などはどうでしょうか?今年で二十一歳との事なので、勝之尉様の側室に適した年齢ですし」
そう言われた事で、正室の竹姫に相談して了承を得た事で、重次の嫡男の本多次郎成重の正室の奈々の妹の奈和を側室に迎えたのだが
徳川家の男は子種が強いのか、側室になってすぐに致した子作りで見事に奈和姫が妊娠したのである。これを知った家康はとても喜んだ
そして、この話を聞いた高代が、「武蔵国で勝之尉様に助けてもらった恩返しとして、出産の手助けをしたい」と家康へ希望した為、家康もこれを了承した事により、高代達が信濃国へ移動して、
現在に至るわけである。陣痛が始まってから、およそ2時間後
「オギャー!オギャー!オギャー!」
無事、奈和姫が出産を終えた。声を聞いた勝之尉は急いで出産用の部屋へ行くと、高代から
「勝之尉様。姫君でございます」
娘が産まれたと教えてもらうと、勝之尉は
「高代様。ご自身も幼子が居て大変な中、奈和の出産を助けていただき、忝うございます!」
高代に感謝を述べながら、頭を下げていた。高代は
「勝之尉様。私は勝之尉様に助けてもらった恩返しをしたかったのです。なので、気にしないでください。
それに、感謝を述べるのであれば私よりも奈和殿にしてください。出産予定日より早めに産まれた事で体力的に大変な状況だったのです
それに早産だった事もあって、姫君は少し小さく産まれました。乳母の方がより多く乳が出る様、食事に気をつけてください。勿論、奈和殿の体調にも気をつけてください。よろしいですね?」
勝之尉にこれから気をつける事を教える。教えてもらった勝之尉は
「は、はい!とても細かい部分まで教えていただき、誠に忝うございます!」
再び、高代に感謝を述べていた。こうして、勝之尉は結婚して3年目で早くも子供が2人になり、守るべき存在感が増えて、内政に力を注ぐ様になる
そして、しばらく高代達も奈和姫の身体のケアの為、高遠城に残る事になった
その様に慶事が関東南部から東海道沿いで連発している頃、伊達家にも田村家から慶事を知らせる文から届いた
天正二十三年(1595年)九月二十日
陸奥国 伊達家屋敷
「殿!愛姫様!田村家からの文でございます!何やら二通届けられました!」
「ほう。この時期に田村家からの文とは、愛よ、これは期待して良いかもしれぬな」
「藤次郎様!早く読んでください!」
愛姫に促された政宗は、文を読み出す
「では、一つ目の文からじゃ。「伊達家当主の藤次郎様と姉上へ、田村家当主の次郎にございます。いきなりの文、申し訳ありませぬ
ですが、田村家にて慶事が起きましたので、お伝えしたいので、文を書いた次第にございます!それでは本題に入らせていただきます
実は、拙者の正室の清がやや子を授かりました。それもこれも、藤次郎様と姉上が柴田様を派遣していただき、拙者の身体を鍛えてくれてからに他なりませぬ!
それだけでなく、拙者の家臣も柴田様の家臣の赤備えの方々と共に身体を鍛えた結果、以前とは見違える程の屈強な体躯になりました!
柴田様が田村家に来ていただいてから、良き事ばかりです!改めてですが、藤次郎様と姉上に御礼申し上げます!」との事じゃが、愛よ。顔が崩れる程の笑顔じゃな」
一つ目の文を読み終えた政宗は、愛姫の化粧が涙でボロボロになっている事を軽くイジる。しかし愛姫も
「そう言う藤次郎様こそ、嬉し涙らしき物が流れている様に見えるのは、私の気のせいですか?」
政宗の嬉し涙を見逃さずに、イジリ返していた。言われた政宗は
「き、気のせいじゃ。二つ目の文を読むぞ」
強引に次の話題に切り替えて、二つ目の文を読み出す
「どれ。「伊達殿へ。田村家にて世話になっております柴田播磨守六三郎です。田村家当主の次郎殿の文を先に読んでおるのであれば、分かっておられるとは思うが、次郎殿の正室の清姫殿が子を授かりましたぞ
とても喜ばしい事なので、拙者からも伝えたいと思ったので、文を書いたのじゃが、
拙者としては次郎殿が喜びのあまり、清姫殿の出産を助ける産婆を要請する事を忘れているのではないかと思い、文を書いた次第じゃ。なので、念の為に産婆を田村家まで派遣していただきたい!
それから、伊達殿と愛姫殿、もしくはお二人が余裕があるのであれば、逞しくなった次郎殿を一度見に来ては如何ですかな?間違いなく驚きますぞ?」と、
柴田殿は言っておるな!よし!愛よ、義弟がどれだけ逞しくなったか見に行こうではないか!」
六三郎からの文を読み終えた政宗は、田村家に行く事を即決した。愛姫も、そんな政宗の為人を理解しているので
「分かりました。それでは、準備に取り掛かりましょう!」
田村家に行く事を即決した。こうして、六三郎が楽をしたいが為のフラグが徐々に増えている事を六三郎本人は当然、知らない。




