若君は秀吉と六三郎の戦を知りたい
天正二十三年(1595年)六月十二日
備中国 備中高松城
「殿!毛利様からの文でございます!」
輝元が前月末に書いた文が、およそ2週間で秀吉に届いた。文を受け取った秀吉は
「ほう、今頃に届くと言う事は先触れと見てよいか」
そう言って、文を開いて読み出す
「どれ。「羽柴殿、返事が遅くなって申し訳ない。毛利安芸守にござる。五月の末に羽柴殿が提案してくれた播磨国の柴田家に行く話ですが、ご厚意に甘えさせていただきたく
そこで羽柴殿へ伝えておかねばならぬ事が、毛利家で起きましたので、文で伝えておきます。実は、拙者の正室が羽柴殿と柴田殿の元へ向かう使者一行の中に入っております
曰く、「名代だけでは本気度が伝わらないから、拙者の代わりに同行する」との事です。少々、いえ、かなり口が達者でうるさく感じるかもしれませぬ
その際は、次郎叔父上に言ってくだされ。嫁にも「出過ぎた真似をしたら城へ戻す」と伝えておりますので、遠慮なく言ってくだされ
ちなみにですが、次郎叔父上が柴田越前守殿にとても興味が湧いております。何でも、「六三郎殿という傑物を育て上げた御仁を見てみたい」との事です
少しばかり話はそれましたが、改めて羽柴殿。叔父上達の事、よろしくお願いします」と書いてあるが、何やら毛利殿の正室は大変な女子の様じゃな
まあ、儂のやる事は一行を親父殿の元へ連れて行き、少しばかり三十郎様の事をお話するくらいじゃから、気楽ではあるが、よし!吉川殿一行を迎えに備後国まで出立じゃ!
小一郎!虎之助達に準備させよ!盛大に出迎えようではないか!」
「ははっ!」
文を読み終えた秀吉は、「いま」のクセ強が気になった様だったが、気を取り直して清正達と共に元春一行を迎えに行く決断をくだした
天正二十三年(1595年)六月二十二日
備後国 某所
「次郎叔父上。備中国は中々に遠いですねえ」
「「いま」よ、こればかりは仕方あるまい。安芸国と備後国は山陽道でも特に大きい国なのじゃからのう。まあ、備後国の中央は超えたと見て間違いない」
秀吉が文を受け取り、一行を迎えに行く決断をくだしてから10日後、一行は備後国の東側を進んでいた
そんな一行の中でも、安芸国以外の国を初めて見た幸鶴丸は
「次郎叔父上!安芸国も人が多いと思いますが、備後国は安芸国以上に人が多い様に思います!」
備後国の発展ぶりにとても興奮していた。そんな幸鶴丸に元春は
「若君、備後国も栄えておりますが、織田家の本拠地である安土城周辺は、備後国とは比べ物にならない程に栄えておりますぞ」
「誠ですか!いつか、行ってみたいです!」
「安土城周辺はもっと凄いぞ」と期待させる言葉で伝える。それを聞いた幸鶴丸は、更に興奮していた
「此処で少しばかり休息としましょう」
そんな一行だったが、元春の提案で少しばかり休息を取る事にした。その休息中に幸鶴丸は元春へ
「次郎叔父上!次郎叔父上は、十年前の戦で羽柴様と柴田六三郎様の両者の軍勢と合間見えたのですよね?お二方の戦い方には、どの様な違いがあったのか、教えていただけませぬか?」
十年前の戦の事について質問していた。幸鶴丸の質問に元春は
「そうですなあ。羽柴殿の戦は簡潔に言うとなると、「硬軟一体」とでも言いましょうか。力攻めをする決断と、撤退する敵を追わない決断、どちらも戦経験豊富でないと出来ぬ事です
羽柴殿は織田家の古参家臣の中でも戦上手と見て良いでしょう。じわじわと戦力を削られていく事は、敵からしたら恐怖でしたな」
最初に秀吉の武将としての評価を話す。秀吉の評価を聞いた幸鶴丸は
「柴田六三郎様は、どの様な武将なのですか?」
次に六三郎の事を聞きたいと促す。促された元春は六三郎の事を話しだす
「そうですなあ。六三郎殿に関して言うのであれば、「戦の勝利の為ならば無茶をする」武将であり、敵の思考の遥か彼方の策を実行する武将ですな
拙者と又四郎が停戦の交渉の為、織田家の本陣に行った際、六三郎殿から教えてもらった奇想天外とも言える策が、「百里を十日で走り抜く」でした
その策を成した結果、又四郎以外の軍勢を吉田郡山城に集結させていた拙者達は見事に出し抜かれ、
六三郎殿の軍勢が又四郎の軍勢と睨み合っていた羽柴殿の軍勢と合流し、その結果、戦に敗れたのです
それらを鑑みるに六三郎殿は「何をしてくるのか分からない武将」とでも言えば良いでしょうな
それこそ、拙者達の末の弟である藤四郎が、六三郎殿の家臣の真田喜兵衛殿と当主になった場合の話をしたそうですが、
真田殿曰く「殿の真似をする事はお勧め出来ません」と言っていたそうです
まあ、こればかりは若君も何処かで経験するでしょうから慌てず、色々と経験して、じっくりと考えながら殿の跡を継いでいけばよろしいでしょう」
話し終えた元春は最終的に、幸鶴丸へ「慌てなくて良い」と年長者らしい言葉をかけて、話を終える
元春が話し終えた、ちょうどその頃
「吉川様!!」
「羽柴家家臣の加藤虎之助にございます!お迎えにあがりました!主君の羽柴弾正様もご一緒です!」
「吉川殿!旗印が見えたので、迎えに来ましたぞ!」
秀吉達が元春一行の旗印を見つけて、休息所に集合した。秀吉達の到着に元春は
「羽柴殿!手間を取らせて忝い!」
秀吉の手を握り感謝を述べる。そんな元春に秀吉は、
「何、気にせんでくだされ!羽柴家と毛利家の中ですぞ。これくらいは何という事はありませぬ
ささっ、とりあえず数日は備中国にて休息を取り、そこから播磨国を目指します。とりあえず出立しましょう」
これからの予定を言って、元春一行と共に備中高松城へ向けて出立した。




