正室が行きたい理由は複数あるが実際は
「「いま」、幸鶴丸にも言ったが遊びに行くわけではないのじゃぞ?それを分かっておるのか?」
「ええ、それは当然承知しております。ですが、安芸乃の嫁入りの話なのに、名代しか行かないと言うのは失礼でしょうから、
羽柴様と柴田様に毛利家が本気であると示す為、私も同行すると言っているだけです」
「いま」は、如何にもな理由を口に出して輝元を納得させようとする。しかし輝元は
「「いま」、お主の事じゃ。それが本来の目的であっても、他の目的もあるのじゃろう?」
「他にも目的があるんだろ?」と指摘する。輝元の指摘に「いま」は
「流石、殿ですね。その通りです。私が次郎叔父上や幸鶴丸殿と共に羽柴家と柴田家に行く理由は、他にも目的があります
その目的ですが、私の甥達の嫁探しです!殿も知っておられると思いますが、私の実家の宍戸家の領地はそれ程大きくなく、更には、他の家臣の方々の領地とも
微妙に離れております。私の兄で宍戸家当主の弥三郎兄上は、「粟屋家に養子に行った次郎右衛門尉以外の息子達の嫁が見つからない。何処か宛はないか?
娘を持つ家臣が何人居るのかすら分からぬので、「いま」に頼って申し訳ないが、殿や吉川様や小早川様と言った面々に聞いてみてくれ」と頼まれました
なので、羽柴家か柴田家の家臣の方の中で、娘を嫁がせても良い方を探したいと思っております。何なら幸鶴丸殿の嫁探しもやろうと思っておりますよ」
堂々と他の目的も宣言した。「いま」の宣言を聞いた輝元は
「その様な目的が有るのであれば、尚更行かせるわけにはいかぬ!そもそも、現時点では戦も無いのじゃ、義兄上には倅達の嫁探しをする暇など、いくらでも有るではないか!」
「そんな理由なら行かせられない!」と明言するが、「いま」は
「殿。殿は、宍戸家の領地の事を知らないから、そう言えるのです。はっきりと申しますが、宍戸家の領地は山の中なので、人の往来も少ないだけでなく
税収も少ないので、他の家臣の方から「娘を嫁がせても良い家」と思われていないのです!十年前の織田との戦で領地を削られても、宍戸家は毛利家に仕える道を選びました
殿、そんな宍戸家に領地の加増が無いのですから、嫁探しくらいはお許しいただいて、宜しいですよね?」
「宍戸家の領地は人も少なく領地が増える事も無い、税収の低い貧乏なんだから、これくらい許せ!」と、輝元の痛い所を突く
「いま」の言葉に輝元は
「ええい!仕方ない!次郎叔父上!幸鶴丸!済まぬ、「いま」を同行させてやってくれ!出過ぎた真似をしたのであれば、即座に城へ戻して構わぬ!」
最終的に折れる事になった。こうして、「毛利家当主の側室が産んだ娘の嫁ぎ先候補を正室が吟味する為、使者の1人になる」という、何とも不思議な展開で、
今回の話し合いは決着した。この事を輝元は急いで文に書いて、秀吉の元へ家臣を走らせた
翌日
「それでは、殿。行って参ります」
「父上!行って参ります」
「うむ。次郎叔父上、お気をつけて!幸鶴丸、しっかりと学んで来い!「いま」の事も、よろしく頼むぞ」
「「ははっ!」」
輝元に挨拶を済ませた元春と幸鶴丸は、吉田郡山城を出立した。出立して、城が見えなくなった頃、元春が「いま」へ
「御方様」
そう声をかけようとすると
「次郎叔父上。私は、次郎叔父上の姪ですよ。殿が居ない場では、正室ではなく姪として接してください」
と、言われたので元春は
「それでは、「いま」よ。流石に太郎へのあの態度はどうかと思う。あれで太郎が短慮な男であったら、お主は離縁されていたかもしれぬぞ?」
叔父としての立場から、「いま」をたしなめた。しかし「いま」は
「あら、次郎叔父上?殿が短慮な殿方ではない事は、次郎叔父上が一番知っておられるではありませぬか。それに、実は私が此度同行する理由に、殿には内緒の理由があったのです」
輝元に話してない同行の理由があると元春に伝える。それを聞いた元春は
「どう言う理由なのか、聞かせてもらおう」
続きを促すと
「はい。それは、殿の新たな側室探しです。私の産んだ子達は早世してしまいましたし、私自身は三十代後半で、もう子を産めないと思っております
ですが、毛利家の血脈を繋ぐ男子が少ない事は不安です。なので、殿に新たな側室を持ってもらい、
子作りに励んでもらう為に、私はあえて「強くて面倒な嫁」を演じたのです。私は正室という立場でも充分ではありますが、
殿の跡を継げる男子が幸鶴丸殿一人では、万が一の事が起きた場合、毛利家中が家督を巡って争ってしまう可能性が高いでしょうから
そうならない為にも、私は殿の側室を探し出して、連れて帰りたいと思っております。それに、出来れば幸鶴丸殿の嫁も
それが、殿の子を産み育てられなかった私が毛利家に出来る貢献だと思っております。改めてですが次郎叔父上、この事は殿や幸鶴丸殿には内緒でお願いいたします」
「いま」ば、同行の本来の目的を元春に伝えた。「いま」の自身を責めている言葉と、断固たる決意を聞いた元春は
「それ程の覚悟で臨んでおるのであれは、とやかく言うのも野暮じゃな。分かった、儂もそれとなく羽柴殿にでも聞いてみよう」
「いま」に対して、協力する事を伝える。こうして、姫の嫁ぎ先の吟味だけでなく、当主の側室探しもスタートする事になった。




