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58話(最終話)・ごめんね。ダーリン

「許さないっ。ヘリオスさま。あの公女を妻に迎えるだなんて。聞いてませんわ。そんなお話」

「アデリア。どうしたのだ? そんなに血相を変えて?」

 ヘリオスが叔父のブラバルト大公と謁見の場で向き合っていた時だった。突如、謁見の場に姿を見せたライデル侯爵令嬢アデリアは、ヘリオスを憎々しげに睨みつけた。

「聞きましたわ。ヘリオスさまはブラバルドの公女さまを側室として迎えられるおつもりだとか? そんなの許せませんわ。わたくしを寵愛してるとは嘘だったのですか? 王妃さまの手前、わたくしには側室には我慢してくれとおっしゃられたではないですか?」

「誰がそんなことをお前に言ったのだ。それになぜこの場に勝手に入って来た? 誰がお前を通した?」

 アデリアはヘリオスが最近、寵愛している娘だ。彼女にこんな風に糾弾される覚えはなかった。

 ヘリオスにしてみればこれからマリカのことは叔父に打診しようと思っていた所なのだ。それを出鼻をくじかれた思いがして面白くはないが、勝手に謁見室に入って来た彼女を見咎めた。

「やっぱりそうなのですね? ブラバルト大公さまとそのお話を?」

「ヘリオス。この女性はきみの彼女なのかな? それならもう少しちゃんと躾けておくんだね。私の可愛いマリカはきみにはやれないよ」

 ヘリオスと乱入して来たアデリアを見て、大公はくすりと笑った。

「そんな叔父上。くそ。アデリア。こちらに来い」

 この場からアデリアと連れ出そうとしたヘリオスは、彼女の手に何か握られているのを見た。

「お前…!」

「ヘリオスさま。あなたさまがわたくしのものにならないのならいっそのこと…」

「お‥お前。待て。待て。そのちゃんと話をすれば分かる」

「どう分かるとおっしゃるの? あなたがおっしゃることは嘘ばかり。どうかわたくしと共に死んでください。ヘリオスさまっ」

「アデリア!」

 もつれあう二人にブラバルト大公は近付いた。甥と刃物を取り合っている女性に近付いてそれを取り上げようとすると、女性が思いきり大公めがけて小刀を突きつけた。

「…!」

「お…叔父上? 誰か! 衛兵っ。この女を捕えよっ」

 アデリアはゆらりと立ち上がった。我に返ったヘリオスが大声を張りあげ謁見室に駆け付けて来た兵の手で彼女は拘束された。刀には猛毒が塗ってあり大公は即死した。

 嘆くヘリオスに、

「ブラバルト大公さまはあなたさまの命を狙った者から見事あなたさまをお救いなされました。大公さまに名誉の死を」

 と、囁いてスワンヘルデ城に、棺を運び出すように指示したのはベルナンだ。よく考えれば心配性のベルナンがヘリオスが襲われてるのを見て、そのままにしてるはずがないのにヘリオスはそのことに気付きもしなかった。

 アデリアもすでに他国に嫁いでいる身なので王宮に訪ねてくる訳もないのに、ヘリオスはベルナンが言うがままに葬儀のことで頭がいっぱいになり他の事に気を回す余裕がなかったのだ。

 ヘリオスが謁見室を退出してしまうとベルナンは他の者たちを労った。

「ご苦労様でした。みな後は元の配置に戻って下さい。ナリッサもお見事でしたよ」

 衛兵たちは皆変装をとき黒い装束姿に変わった。アデリアはナリッサへと変わる。みな仕込みでベルナン配下の忍びの者だ。

「さすがですよ。これで目の前の障害が一つ減りました。これで宜しかったでしょうか? 教皇さま?」

「ああ。見事だったよ。感謝する」

 ベルナンは満足そうに物影から一部始終を覗いていたナイルに確認した。二人の共通の敵がこれで目の前から失せた。しかし叔父の死にナイルの心は動かされなかった。これで茉莉花を手に入れられるという喜びの方が勝っていた。

 ナイルは感情が欠落してるのを自覚した。自分はどこかおかしいのだろう。信じていた者に裏切られて心が死んでしまったのか? 叔父の死に対して、涙一つ出なかった。叔父の死を悼むヘリオスが羨ましかった。自分はどうしてしまったのか。

 突然、心のなかが悪に支配されたような気がして、後の事はベルナンに任せプーリアへ舞い戻った。

 教皇の座についていても心の中を占めるのは、叔父の死と取り残された茉莉花とアイギスのことばかりで聖職者としての立場に縛られ身動きとれない自分に苛立った。間者を飛ばしてスワンヘルデ城の様子を探ろうにも、ベルナンは隙を見せず茉莉花たちの様子は伺い知れない。

 ブラバルト大公という共通の敵を倒した後、ベルナンは今度は自分に歯を向けてきたのだ。仕方なくナイルは自分と前教皇との事情を知る諜報にたけた神騎士で魔導師のハンスを送ることにし、国許に帰るハインツに同行させブラバルト公国に立ち寄るように仕向けさせた。

 彼はうまくハインツを誘導してくれて、猫の姿になって城から逃げ出した茉莉花を上手く保護してくれた。ハンスには大変感謝している。彼は前教皇の最も信頼する部下で教皇からナイルとの関係を知らされて、ナイルのことを頼まれていたらしい。

 前教皇の遺言もありナイルが教皇の座に着くと神騎士達の長となって、現在は色々と補佐してくれている。おかげで今、ナイルは茉莉花を再び手にすることが出来たのだ。こんなに喜ばしい事はない。

「茉莉花」

 耳元で囁けば、ううん。と、声が返って来る。十一年前、自分の前に舞い降りた天使。きみは私の運命の女性だ。

「ごめんね。茉莉花。こんな私でも信じてくれるかい?」

 起きてる時には言えない一言を呟く。けしてきみには教えられない真相だ。私はどこか壊れている。でもきみへの想いだけは揺るがないんだ。そのことだけは信じて欲しい。ねぇ。茉莉花。



本編としてはここで最終話となります。後はナイルとマリカのその後のお話しが続きます。

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