59話・お邪魔虫ですか?
一年後。パルシュ国では王子が誕生し父親となったヘリオスは、いまだに猫の姿でベルナンに調教されているらしく、病気を理由に公の場に姿を見せなくなった国王を訝って社交界では国王死亡説や、神隠し説が取り沙汰されているらしい。
わたしの方はアイギスの婚礼が済んでからナイルと共に暮らし始め、まだ正式に妻として認知はされていないもののプーリアの宮殿では実婚状態になっていた。
そして久しぶりにスワンヘルデ城に顔を出した所だったのに、わたしの顔を見たアイギスは歓迎するどころか困惑した顔を向けて来た。
「姉さま。いいんですか? またこちらに戻ってきたりして。義兄上に黙って来たんですか? 今頃心配して捜してますよ」
「いいのよ。少し心配させた方が。だってナイルたら最近、ぜんぜん構ってくれないんだもの。つまらないわ」
「何言ってるんですか? 義兄上は姉さまの為に毎日奔走されているというのに」
プーリア教皇国から帰ってきちゃった。と、執務室に顔を出したわたしに、アイギスは呆れた声を上げたのだ。
「わたしは今までの関係のままでも構わないって言ったのに。ナイルったらお披露目だなんて」
「義兄上は姉さまが大切だからですよ。姉さまを愛人だなんて言わせたくないんですよ」
「言いたい人には言わせておけばいいわ。わたし達が愛しあってるのは本当のことなんだから」
わたしはナイルが聖職者の婚姻を認める声明を出し、わたしを妻として公に表明したことでロマ教信者たちから賛否要論出たものの、聖職者たちには賛同をもらって半年後には大聖堂で教皇とその妻として成婚式を上げることが決まっていた。
すでにプーリア教皇の住まう宮殿で共に暮らしてはいたが、成婚式の支度に追われナイルとはすれ違いの生活を送っていた。
わたしにはナイルと一緒にいられる時間が大切なのに。呼び名が変わるぐらいで、わたし達の関係が壊れるなら必要ないと思う。
「僕は嫌ですよ。姉さまは僕の自慢の姉さまなんですから、教皇さまの隣に凛として立っていて欲しい。それを口さがない者たちに教皇さまの愛人だなんて言わせたくありません」
「アイギス」
久しぶりに会ったアイギスは、淡い色合いの金髪に新緑の瞳の色をした愛らしい天使のような容姿をしていたが、柔和な顔立ちにきりりとした部分が加わって凛々しい若者になっていた。
「あなたもお嫁さんをもらったらずい分と頼もしい顔付きになってきたわね」
「からかわないで下さい。姉さま。僕も新婚なので、いきなりの訪問は勘弁して欲しいですよ」
「まあ。アイギスも言うようになったわね」
アイギスは昨年、ナイルの勧めでココトール国王の愛娘で、美少女として名の知られる第三王女のリリアンナ姫とお見合いをし、互いに惹かれあった二人はすぐに婚礼の運びとなり三カ月ほど前にアイギスの即位式に合わせて結婚したばかりだ。そこにわたしが突然、押し掛けてきたのだからお邪魔虫なのは自覚してるけどそれをアイギスの口から言われるとは思わなかったな。




