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56話・語られなかった事の真相

 ナイルは自分の腕の中で無防備な姿をさらして寝入る愛しい娘に何度目かのキスを送っていた。

「茉莉花。きみには話せないこともあるんだ。きみはこんな私のこと知ったなら軽蔑するだろうか?」

 自分が恋して止まない娘は異世界から来た娘。彼女は初めて出会った時から彼を魅了してやまなかった。

 幼い少女が自分の知らぬ世界に来て戸惑いながらも、救いの手をナイルに求めて来た時に、彼の中の誰にも見せることのなかった嗜虐性が刺激されたのだ。

『あの。ナイル。わたしいつお家に帰れるのかな? パパやママに会いたい』

 彼女が自分にすがって投げかけて来たその言葉に羨ましいものと、彼女が帰れる場所を奪ってしまいたい思いに駆られた。

 自分には家族とは名ばかりのもので彼女のようにこいねがう気持ちが分からない。自分にはない感情だ。

 ナイルにとって家族とは名ばかりのもので実感は湧かなかった。両親は彼が双子の王子としてこの世に生を受けた時に大きな魔力を秘めていると知り、修道院に預けたきりで国王は彼にはあまり関心がなく、たまに母親の王妃が公務の合間に顔を出しに来ても、物ごころ付いた時から清貧な聖職者に囲まれて暮らして来た彼には肉親としての情が感じられなかった。それを感じとったのか母親は彼を前にすると、常にため息をついていたような気がする。彼らに代わってその内、自分に良く似た兄が会いに来るようになった。彼は自分と同じ容姿のナイルを面白がり、ごくたまに自分との入れ替わりを要求して来た。彼曰く王宮の生活はつまらない。一度は修道院生活を体験してみたいと言うので、入れ替わってみたが彼は我慢を知らず一時間と持たなかった。

 ナイルに会いに来る度に、

「こんな辺鄙な所、二度と来るか!」

 と、言いながら帰って行くくせに、その数週間後には自分が言った言葉など忘れたようにケロリとして会いにやってくる。嫌なら来なければいいのに。ヘリオスはなんだかんだと理由をつけて会いに来た。猫のように気まぐれで非常に勝手な奴と思いながらも拒みきれなかったのは、自分と同じ顔した存在だからだろう。彼は良くも悪くももう一人の自分だったから。

 そんなある日、ヘリオスに面白半分に誘われて召喚に応じたのはそんなことやっても意味がないと分かっていたからであり、異世界から誰か呼ぶなんてできっこないと、ナイルは考えていたからだった。適当にいなしてその場から帰ろうとしていた時に奇跡が起こった。彼が召喚の呪文を唱えてすぐに周囲が明るい光に満ちあふれ、そのなかから一人の少女が現れたのだ。

 少女は天界から遣わされた天使のように愛らしい容姿をしていて、一点の穢れもない清らかな光を纏って現れた。この渾沌とした世界に現れた救世主のように。

 ナイルは彼女に触れることすら躊躇われ、彼女を観察し続けた。尋常でない純真な魂の輝きを持つ少女茉莉花。彼女はなにか意味があってこの世界に現われたとしか思えない。

 ヘリオスは彼女の輝きに気が付かず自分が望んだ豊満の美女を呼び出せなかったナイルに当たり散らし、異世界から呼び出した天使を元の世界に返せと言い他の女を呼び出せとナイルに無茶ぶりをした。

 ナイルはそんなヘリオスの態度に呆れ彼とは縁を切ることにしたのだが、その反面ヘリオスが茉莉花に関心を持たなかったことに感謝した。純真な少女茉莉(まり)()が、この頼りない世界でナイルに救いを求めるように無垢な瞳を向けて来た時に、ナイルの頭に天啓めいたものが降りたのだ。この少女はきっと自分にとって手放せない存在になるだろうと予感めいたものがあった。

 だから彼女を保護してくれる先として母の弟を頼った。叔父は時々修道院に面会に来てくれて両親たちよりもナイルを気遣ってくれていた。その叔父なら茉莉花のことを話しても悪い様にはしない気がしたから、彼に茉莉花を託すことにしたというのにそれは間違いのもとだった。

 

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