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55話・わたしの大切な家族

「やっぱりリアン司教は義兄上(あにうえ)だったのですね?」

 ベルナンが出て行ったドアとは反対側のドアから、部屋のなかにアイギスが入って来た。

「アイギス。いつからそこに?」

「姉さまがリアン司教のお部屋から出て来るのを目撃して後を追って来ました。姉さまと一緒にいる男性の姿が気になったので。お話は全て聞かせてもらいました」

 アイギスはわたしがリアン司教の部屋から出て来たのを目撃して、後を付けて来て今までの経緯を盗み聞きしていたらしい。

義兄上(あにうえ)…!」

「アイギス」

 アイギスがナイルに抱きついた。わたしはそれを見守る母のような気持ちで二人の抱擁を見ていた。

「きみにも心配かけたね。でももう心配いらないよ。これからは私がまりかときみを守るからね」

「僕は義兄上が死んだなんて信じられませんでした。きっとどこかで生きてるって思ってたんです。お帰りになる日が来るまで、姉さまをお守りしようと思っていました」

「きみは今までよく頑張ってくれたね。まりかを守ってくれてありがとう。感謝してるよ」

「姉さまは僕のただ一人の姉さまですから。姉さまが大事に思われる義兄さまも、僕にとって姉さまと同じくらい大切な人です」

「アイギス」 

「姉さま。良かったですね。義兄さまが帰って来てくれて」

 無邪気に喜ぶアイギスが、わたしを見て言う。

「正確には一緒に住むわけじゃないから通い婚になるのよね? ナイル?」

「うん。初めのうちだけだよ。そのうちきみと共にいることになる」

 なんだか分からないけど一緒に暮らせる日が来るということかな? わたしが不信に思っているとアイギスが呟いた。

「お父さまが生きてらしたら、義兄上が存命だったことを知ってどんなに喜ばれたことでしょうね」

 その言葉にはわたしは思わずナイルを見上げた。ナイルは首をふる。アイギスには言わないでおこうということらしい。ナイルの話では養父(ちち)はナイルがプーリア教皇の座についたことまで付き止めていた。ナイルが口止めした為、生きていた事をわたしたちには隠していたのだ。今さらそのことをアイギスに告げるまでもないと言いたいのだろう。わたしもそう思ったから頷いた。

「先代ブラバルト大公さまは、どうしてお亡くなられに? 病気で?」

 ハインツが聞いて来て、わたしは良くは分からないと応えた。

「病気ではないわ。なにがあったのかは分からないの。ナイルについて何かパルシュ国に聞きに行った所でヘリオスを殺害しようとした者から身を庇って、亡くなられたとしか」

「潔い御方だったんだろうな。アイギス公子は真っ直ぐに育っているし、異世界からきたきみを養女に迎えて育ててくれたくらいのお人だから」

「ええ。お養父さまには感謝してもしきれないわ。六歳の頃、アイギスに兄弟を与えてやりたいからと言って、わたしを引きとって下さった。ナイルへの想いを知ってお養父さまはナイルと添わせてくれようとしたわ。この世界にわたしの居場所を作ろうとして下さった。だからわたしブラバルトに来てから、元の世界に戻ろうなんてこれっぽっちも思うことはなかったの。この世界の愛する人たちと、いつまでも一緒にいたいと思えるようになっていた」

「その想いは今も変わらない?」

 確認する様にナイルに問われて、わたしは言った。

「当然よ。ナイル。あなたがいる所が、わたしのいる場所だもの」

「嬉しいよ。まりか。きみがわたしのいる世界に留まってくれる気でいるのが。ひょっとしたらまりかは今でも元の世界が恋しいんじゃないかと思っていたんだ」

「そりゃあ、元の世界の両親とかどうしてるのか気になるけど、こっちに来てから十年過ぎたしわたしにはナイルやアイギスもいるから、あなた達を置いてまで、向こうの世界に帰りたいとは思わないしね」

「まりか」

「姉さま」

 ナイルとアイギスがひしっと、わたしを抱きしめて来た。

「これからは三人で仲よく暮らしていこう」

 二人ともわたしにとってかけがえのない大事な家族だ。もう二度とこの腕を離すまい。と、わたしは思っていた。




「ねぇ。ナイルは、お養父さまはどうして亡くなったのか知ってたのでしょう?」

 深夜、ドレッサーの前の椅子に腰かけた、わたしの髪をブラシで()いてくれているナイルに、鏡ごしに訊ねれば彼の手が止まった。

「お養父さまは本当にヘリオスを庇って亡くなられたの? だとしたらお養父さまを殺したのは誰なの?」

「知りたいのかい?」

「ええ。知らないままでいるのは気がひけるわ。知ってるなら教えて。ナイル」

 ナイルがわたしの肩を両手で掴んだ。

「私もよくは知らないんだ。今夜はもう遅い。そろそろベットに入ろう。まりか」

 背後から抱きしめられて、唇を奪われてしまうとわたしには何も言えなくなる。気がつけばわたしはベットのなかにいて、ナイルと深く抱擁しあっていた。



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