51話・マリカは我のもの
ヘリオスがひげた笑みを浮かべる。
「なんと思われようと構わない。私はふたりを死が別つまでまりかを愛し抜くつもりだ」
「教皇さま」
皆の前で力強くナイルが宣言するとハインツがなぜですか?と、非難した目を向けていた。
「マリカは未亡人だと聞きました。それをあなたさまはお手付きされたというのですか?」
「まりかは私の愛する妻です」
それが何か? と、言うような態度でナイルが言えば、プーリア教皇ともあろう御方がそのようなことをしていいのかとハインツは納得してなかった。そこへハンスが事情があるのですよ。と、ハインツを諭すように言う。
「ハインツ。教皇さまは一度還俗されていたのです。あなたは知らないことですが、マリカさまと結婚する為にね」
「どういうことだ?」
事情が良く呑み込めてないハインツにハンスがナイルを非難するいわれはないのだと説明しようとしていた。
「我々の都合で、教皇さまとマリカさまを、引き放したようなものなのですから。非難されるとしたら我々の方です。先代教皇さまは次代の教皇にナイルセルリアンさまを決めていらっしゃいました。それで還俗願いをされていたナイルセルリアンさまを一度は受け入れたように見せかけていて、書類は破棄されたのです」
「そんなこと許されるのか?」
曲ったことは嫌いなハインツが眉根を顰める。
「本来ならあり得ないことでしょうね。しかし、先代さまはお身体が病魔に侵されていて魔力も安定してなかったのです。余命を悟られた時にはナイルセルリアンさまを迎えに行くようにと先の十二星騎士団に命じられたのです」
「それで教皇さまはマリカと引き放されて、プーリアへ?」
「そうです。ナイルセルリアンさまは、マリカさまを娶られて一週間もしないうちに我々の手で教皇さまとして迎えられました」
「ひどい話だな」
ぽつりとハインツが言う。そんなことがあっただなんて。と。事情を打ち明けたハンスも辛そうな顔をしていた。
「私はまりかと別れる気はない。きみらが私をどう思おうとも構わない。例え世界を敵に回してもまりかは誰にも渡さない」
矢面に立とうとするナイルの覚悟を決めた態度に、わたしはハンスとハインツに謝った。
「ごめんなさい。わたしが悪いの。わたしが十一年前、ナイルを思いきれなかったばかりに、このような状態を招いてしまった。あなた方には許せないことかも知れないけどわたしはナイルを手放せないから。ごめんなさい」
そこへ苛立った声が横から入って来た。
「許さぬ。ナイル。許さないぞ。マリカは我の女だ。お前になんか渡すものかっ」
何を思ったのかわたしに突進してきたヘリオスは、ナイルの手の中からわたしを無理無理引き放そうとする。
「止めて。ヘリオス」
「こっちへ来い! マリカ」
「いやあ。放してっ」
「ヘリオス。止めろ」
ヘリオスに引っ張られて嫌がるわたしをナイルが自分の方へ引き寄せようとする。
「マリカ。マリカ。放すものか。ナイルよりも我の方がお前を想ってるんだ!」
「痛い。いたああああい!」
わたしの悲鳴にうっかり手を放したナイルにヘリオスはわたしを腕の中に囲いこんで勝ち誇ったように言う。
「マリカは我のものなのだ。お前の痕跡など今夜にでもすぐに消し去って見せる」
子供のような無神経さにわたしは腹が立ち、ヘリオスの頬を往復で平手打ちしていた。彼はわたしの攻撃にふら付いて後ろからベルナンに体を支えられる。