45話・あなたの本当の姿は…
だてに十一年も思い続けてないから。ナイルを想う気持ちは誰にも負けないつもりだ。だから気が付いてしまった。司教の言葉に仕種に。
皆はわたしの名を「マリカ」と発音するのに、司教はわたしの名前をナイルと同じように「まりか」と、呼んでることにも。この世界でわたしの名前を正しく発音出来るのはただ一人だけ。
リアン司教の柔らかな眼差しに見覚えがあったのも当然なのだ。だって彼は…
「あなたナイルよね?」
「気がつかれてしまいましたか? 私の目くらましの術ではあなたの目は欺けなかったらしい」
司教は眼鏡を外した。瞬時にわたしの知る姿に切り替わる。見目麗しい容姿の司教が現れた。銀髪に青い瞳。私の大好きな天空の色だ。
「ナイル。ナイルぅ…!」
「まりか。ごめん。心配かけたね」
わたしは両手を広げたナイルの胸のなかに思いきり飛び込んだ。目くらましの術を解いたナイルは、口調もわたしの知ったものに変えた。
「ひどいわ。ナイル。どうして他の人をけしかけたりするの? わたしを愛してくれてないの?」
「愛してるよ。きみを誰にも渡したくない。ヘリオスやベルナン、それにハインツに求婚されてると聞いた時には平静でいられなかったくらいだ」
「それならどうしてなの?」
「いまの私はきみを公に妻として傍におけなくなったからなんだ」
わたしを抱きしめるナイルは、悔しそうな表情を浮かべていた。彼にも思いがけない不測の事態が起きてたらしい。
「まさか誰か他に気になる女性でも?」
「きみ以外に、異性に関心なんてもったことないよ」
恐る恐る訊ねればそれは違うと言われる。
「ここで話すのもなんだから、私の部屋に行こう」
聖堂から連れ出されわたしはナイルの後に続いた。ナイルは客人としてスワンヘルデ城の右棟の一角に部屋をもらっていた。途中幸いにも使用人達には会わず彼の部屋まで来ることが出来た。もし見つかったなら色々詮索された所だろう。
「まりか。おいで」
客間の三人掛けのソファーに座ったナイルが、わたしを自分の膝へと座らせた。結婚してからも彼はわたしをよくこうして膝の上に座らせていた。わたしは新婚生活が戻って来たようで彼の首に腕を回した。
「ああ。久しぶりだなぁ。まりか。こうしてきみに触れたかった。しばらく会わないうちにきみはまた綺麗になった」
「ナイルも神々しさが増したように感じるわ」
ナイルの大きな手に髪を梳かれくすぐったく思う。
「それはちょっと困るな。きみとしようとしてることに罪悪を感じてしまうから」
「ナイル?」
ナイルがわたしの身体をソファーの上に倒し、唇を重ねて来た。
「まりか…会いたかった」
「ナイル。生きててくれて良かった。もう会えないかと思ってた」
ナイルの頬を両手で挟む様に触れれば、その手を取られ口付けを落された。
「まりか。きみに触れたい」
今まで会えなかった日々の想いを取り戻すかのように、早急にナイルの手がわたしのガウンを脱がせて寝巻きの上から身体を撫でまわした。唇が首筋から胸もとへと降りて来てるのに気がついてわたしはそれを制した。
「ナイル。ちょっと待って。ここじゃいや。お願い。ベットに連れて行って」
「分かったよ。奥さま」
くすりと笑ったナイルは、わたしを抱えてベットまで運び優しく唇を重ねて来た。




