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ごめんね、ダーリン~ボツ1公女と訳あり求婚者たち~  作者: 朝比奈 呈
子猫のわたし
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41話・ご褒美のキス

 柵裏に白銀の騎士がつかつかとやって来た。

「ハンス。見つかったんだな。良かった。ヒメ~」

 甲冑を着たまま両手を広げて寄って来るから、わたしはハンスの懐の中に隠れた。

「どうしたんだ。ヒメ。俺だよ。もう忘れたのか?」

 声音からしてやっぱりハインツだった。あの騎士がハインツだったなんて知らなかった。凄いのは分かったけどその甲冑が怖いんです。あなた力の加減を知らないからその手で捕まれたらわたし圧死させられそうです。

「ハインツ。姫さまはあなたのその甲冑姿を恐れてるようですよ。抱擁はせめて外してからにしてくれませんか?」

「そうか。分かった」

 単純にもこの場ですぐ脱ごうとする。

『きゃあ。止めてよね』

「ハインツ。あなたねぇ、別にここで今すぐ脱がなくても。公子さまや司教にもご挨拶にいかなくてはいけないのに」

「挨拶なんて面倒だ。別に勝ったんだからいいじゃないか? それに今の俺にはヒメが最優先さ」

『なに言ってんの。ハインツ』

「おお。ありがとな。ヒメも応援してくれてたんだ」

 わたしが説教をしようとしても、聞いちゃいないんだな。これが。都合良く解釈してるよ。全く。

 取りあえず冑だけ脱いだハインツが、笑顔で振り返った。

「さあ。ヒメ。ご褒美の一つもくれないかな? ここでいいからさ」

 ハインツが身をかがめて自分の頬を指で指す。もお。仕方ないな。確かにあなたのおかげでアイギスは助かったんだし。わたしはそろそろとハンスの懐から顔を出した。前足を彼の腕にかけると抱きあげられ彼の顔が近付いた。良く見れば見るほどハインツってさあ、精悍な顔立ちしてるよね。ほんと。

(でもありがとうね。感謝してる)

 御苦労さまの意味を込めて、わたしはハインツの頬をぺろぺろと舐めた。

「はい。その辺でもう宜しいですよ。ヒメさま」

 そのわたしをハンスがハインツから取り上げた。

「喉が渇きませんか? このお水をどうぞ」

 ハンスはどこからか取りだした小皿に瓶に入った水を注ぎ入れた。わたしは躊躇なくその水を舐めほし…

 どくうん。どくん。体を貫くような衝撃が走ったと思ったら、目眩に襲われてふら付いた。

「姫さま」

 手を差し出すハンスに捕まると、感覚が戻って来た。

「さあ。姫さま。具合は如何ですか?」

「大丈夫。なんだったのかしら? いまの?」

 そこへ聞き覚えのある声が降って来た。

「ねえさま? 姉さまっ」

「アイギス?」

 振り返るとアイギスがいた。呼びかけるとまっすぐにわたしのもとに、飛び込んで来る。

「姉さま。生きていたんだね。今までどこにいたの?」

 わたしは人の姿に戻っていて、アイギスを受け止めていた。

「ごめんね。アイギス。心配かけて」

「良かった。生きててくれて。ありがとう。姉さま」

「姫さま。どうぞその姿を皆の前に」

 ハンスが声をかけて来る。わたしはハンスの声に押され、壇上へと上がった。

「あれは公女さまじゃないか!」

「死んでなんかいなかったんだっ」

「これはどういうことだ?」 

「マリカさま!」

 死んだとされていたわたしが登場したことで、民衆が騒ぎ出す。わたしは皆の前に姿を現わした。

「そなたはマリカ…! どうして?」

 壇上に残って敗訴に落ち込んでいたらしいヘリオスは、驚きの表情を浮かべ、わたしを見て指さして来た。

(あなたね。学習能力皆無でしょ?)

 不愉快だわ。わたしは壇上でヘリオスを罵倒した。

「指さすなって言ってんでしょうがっ。この馬鹿国王が!」

「おおっ。その口の悪さ。やっぱり我の知るマリカだ。生きてたのか。良かったぁ!」

 ヘリオスが明るい声を上げた。悪かったわね。そうよ。わたしは口が悪いわよ。あなた限定でね。でもなんでそう嬉しそうな顔してるの? ヘリオス。

「姉さま」

 傍のアイギスにドレスの肘を引かれ、わたしはそのやり取りを民衆に注目されていたのだと知る。うわあ。やらかした。周囲は啞然としていた。もう見られたからには仕方ないわね、取り繕っていても仕方ない。この場を上手く収める為にも潔い謝罪しかないだろう。こんなに皆を心配させておいて申しわけないけど。

「ヘリオス。あなたなにか言う事あるでしょう?」

「なにをだ? マリカ」

 本当に気がついてないの? それとも民衆の前で謝るだなんて国王として格好悪いとか余計なこと考えてんじゃないでしょうね?

 わたしは平然としているヘリオスに近付き、耳を思いっきり引っ張った。

「ちょっと来なさい」

「痛てててててぇ」

 騒ぐヘリオスを壇上の中央まで連れて来る。ようやく離すとヘリオスは涙目になりながら「マリカ~怒んないでよぉ」と、すがりついて来る。ええい。うっとおしい。

 わたしは大きく深呼吸をしてから民衆に向き合った。

「皆さん。わたしは死んでおりません。この通りピンピンしております。この裁判はパルシュ国王の思い込みのせいでわたしが死んだことにされ、引っ込みのつかなくなった国王が裁判を起こしてしまいました。皆さまには大変お騒がせして申し訳なかったと思っております。本当に本当にすいませんでした!」

 わたしはヘリオスの頭を押さえて下げた。ふたりで深々と謝罪する。周囲は静まり返っていた。言葉が出ないようだ。どんなに非難されても仕方のない立場にわたし達はいた。こんな騒ぎを起こしてしまったのだから。

「じゃあ、この裁判は無効ですね。死んだとされていたまりか公女さまも生きてらっしゃったのですから。ただしこの騒ぎを起こしたお二人には、教皇さまにご相談申し上げてそれなりの処遇を受けて頂きましょう」

 リアン司教の言葉で裁判は閉廷した。リアン司教はにっこりとほほ笑んでいたがその目は笑ってなくて逆に怖かった。

 民衆はわたしが生きていた事を素直に喜んでくれたが、妙な視線を残しつつ帰って行った。後日、マリカさまは、パルシュ国王と仲がいいのかね? と、妙な噂が立つまで彼らが誤解していたことには気がつかないでいた。





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