表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごめんね、ダーリン~ボツ1公女と訳あり求婚者たち~  作者: 朝比奈 呈
子猫のわたし
40/61

40話・白銀騎士の勝利

「そうそう。素直に剣を抜けばいいんだよ。だんな」

 デルリックはこれで片がつくと思ったようだ。騎士が腰に下げてる剣の鞘に手をかけた所で舌なめずりをしていた。まだ自分には勝機があると思っている様だった。散々マントで手こずらされてきただけに己の武器が振るわず面白くなかったのもあるに違いない。人間扱いされてなかったものね。そこだけは同情してあげてもいいような気がする。

 対する白銀の騎士は不敵に言い放ち、自分の腰から下げた件に手を伸ばした。

「そんなに俺の剣さばきが気になるなら見せてやる。しっかり踏ん張ってるんだな。いくぞっ」

「おおっ」

 デルリックが一歩、前に足を踏み出そうとした時ハンスが、

「そろそろ勝敗がつきますよ。姫さま。ちょっとの間、目を瞑っていて下さいね」

 と、囁きながら、何か口の中で呟き始めた。どうも防御魔法のようだ。わたしは何か起こりそうな予感に彼の懐の中で身を縮めた。

 周囲のざわめきの中、一瞬、辺りがパアッと明るくなったと思ったら静かになった。静か過ぎるのが気になってそろそろとハンスの懐から顔を出し、再び闘牛場へ視線を戻したらデルリックが金縛りにあったように固まり動けないでいた。

「う…うう…む」

 ばきっ。と、何か硬質なものがくだける音がした途端、デルリックの振りかぶった大斧がこっぱみじんに砕けて霧散した。デルリックはその場に膝から崩れ落ちた。地に両手と膝をつき顔を上げたところで騎士から容赦なく喉元に剣を突き付けられる。

「これで勝敗はついたな?」

「あんた神騎士か? こんなの聞いてねぇ…勝敗は初めからついてたってわけだ。神騎士相手に勝てっこねぇ。畜生。俺の負けだ」

 デルリックが吠えるように喚いて地を拳で叩く。

(神騎士ってあの?)

 聞こえて来た言葉にわたしはびっくりした。神騎士と言えば、プーリア教皇のお側近くに仕える十二星騎士団のことをさし、聖騎士の中でもトップに立つと言われている騎士だ。神騎士は聖騎士を超える力を持ち常人には及ばない神技と呼ばれる術を扱うそうで皆が恐れ敬っているとも聞く。そんな人がアイギスの代理騎士になって下さっていたとは思いもしなかった。

 ベルナンはアイギスを裁判で勝たせればいいと言っていたが、彼が手を回したのだろうか?

 わたしが思案していると、裁定者のリオン司教が声高に判定を下していた。

「勝者は白銀の騎士。よってここにブラバルト公国アイギス公子の無実は証明されたものとする」

「うわわわわわわわわわわわわわああああ!」

 周囲が歓声に沸く。

 これでアイギスは無罪だ。やった!

「騎士さまが勝った!」

「勝者は公子さまだ」

「やったぞ。やったあ!」

「これで公子さまの無実は晴らされたっ」

「無実だ。ばんざ~い」

「万歳。ばんざ~い」

「アイギス公子ばんざ~い!」

 決着がついたことで、周囲から拍手が巻き起こった。

「さあ。そろそろ参りましょうか。マリカさま」

 どこへと言うまでもなく、わたしはハンスに連れられて観客席から抜け出し柵の外へと出た時だった。

「ちょっとお待ち下さい。そこの御方」

 機械的な女性の声が背後からした。あれはナリッサの声だ。あっちゃあ。見つかっちゃった? 身を縮めるわたしをハンスは胸元に抱いたまま振り返った。

「なんでしょう? わたしに何か御用ですか?」

 ナリッサはハンスが腕に抱くわたしをじいっと見つめ、はあ。とため息をついて一礼した。

「我が主からお預かりしていたお猫さまに逃げられてしまいまして、お探しているのですがあなたさまが連れている猫に似てる様な気がしてお声を掛けさせていただきました。ですが違ったようです。足をお止めして申しわけありませんでした」

「どうぞお構いなく。御心配ですね。主君のお猫さまがいなくなられたとは。連れて歩かれていたのですか?」

「いいえ。馬車の中にいたのですが、私の不注意で逃がしてしまったようで…」

「そうでしたか。主さまのお猫様とはどのような容姿をしてるのでしょう? 見かけたらお知らせ致しますよ」

「それはわざわざありがとうございます。こういってはなんですが、その辺の猫とは全く違い…あ、すいません。あなたさまがつれている雑種の猫とは違うと見下してるわけじゃないですよ。我が主のお猫さまは夜の帳のように黒く美しい毛並みをされていて、瞳は星の輝きを宿した様なキラキラしたつぶらな瞳をしていて、鳴き声はガラスの鈴を鳴らしたように愛らしいのです」

 あらあら、なんだかナリッサ、子猫のわたしを美化しすぎてない? それに本人目の前にして雑種とはなんだよぉ。思い出してる顔がうっとりしていて、なんだかちょっと危ない人みたいだよ。なんだか怖い。

「さようですか。そんなに見目麗しい子猫さまでしたら、どこかの強欲商人に見つかったなら売り飛ばされてしまうやもしれませんね」

「売り飛ばされる?」

 ナリッサはハンスの言葉に反応し、キッと商人を探し始めた。

「それは考えても見ませんでした。でもその可能性もなきにしもあらずですわね。ありがとうございます。ちょっとそちらも探して参ります。では」

 ナリッサは律儀に深々と一礼し、立ち去った。ナリッサの姿が見えなくなってからハンスに囁く。

『わたしの外見をどうしたの? ハンスが誤魔化したのよね?』

「はい。魔法でちょいとあちらの猫と、姿を入れ替えさせて頂いたのですよ」

 ハンスが柵の裏で寝転んでいた野良猫を指さした。灰色の毛をした猫は背中を地面にこすり付けながら身を起こした。灰色の猫は関心なさそうに、わたしと目が合うと逸らした。毛づくろいの為にぺろぺろと肉球を舐めている。別にあの猫も愛らしい顔してると思うのになぁ。黒猫のわたしとそんなに変わんないと思うよ。

「さあて。姫さま。公子さまの危機を救ってくれた騎士さまに、ご褒美の一つもお願いしたいのですが?」

「褒美?」

 わたしは先ほどハンスと試合が始まる前に交わした言葉を思い出した。ちょっと待って。それってハインツはどこに行ったの?って話だったよね? 彼が命がけの仕事をしているって、ハンスは言ってたけどまさか…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ