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ごめんね、ダーリン~ボツ1公女と訳あり求婚者たち~  作者: 朝比奈 呈
子猫のわたし
39/61

39話・ゴリラ男VS白銀の騎士

 デルリックは向かい合った白銀の騎士に、へらへらと笑いかける。

「だんな。お手柔らかにお願いしますよ」

 初対面の相手に対し馴れ馴れしい態度を取りながらも、相手に友好的でないのは明らかだった。

 デルリックはにやりと口許を歪ませると身体に見合った大斧を振り上げ、白銀の騎士に向けて力任せに振るった。

(ちょっと危ないでしょうが!)

 わたしは自分のことのように白銀の騎士に肩入れをしていた。騎士が後方に飛んでやり過ごしたことで安心したが、デルリックが大斧を振るうたびに空気がブルンと鳴るので、あんなのに当たったらいかに騎士でも軽症じゃ済まない気がしてハラハラする。

 興奮しているデルリックは胸を叩いて挑発した。

「おい。おい。だんな。その腰に下がっている御大層な剣はお飾りかい?」

 デルリックは憎たらしい顔でほほ笑む。騎士を相手に楽勝といった様子の態度が見ててムカつく。周囲も同じように思ってる様で、「なんなんだ。あいつ」と、不快な声が上がっていた。

 デルリックが目の前の騎士にじりじりとにじりよってゆく中、騎士の方は落ち着いたもので思いがけない行動に出た。騎士は自分の羽織っていた赤いマントを外し、両手で構えたのだ。

(あれって…マタドール?)

 わたしが元いた世界の、ある国で行われていた猛牛と戦う闘牛士のように、騎士はマントをデルリックの前に突き出していた。この国をはじめこの世界にはそんなものは存在しないはずだから、周囲では騎士の行動になんだ?と、いう不審な顔をしながらも目が離せないでいるようだ。騎士が冷淡に言い放つ。

「貴殿には私の剣を振るうまでもない。力任せにその斧を振るうだけでは私の相手にもならんな」

「あんた。オレを馬鹿にしてるのか?」

「いいや。そんなつもりはない。貴殿のレベルに合わせただけだが?」

 思わず動きを止めたデルリックに、観客も不安そうに二人を見つめた。

「なんだと? そのマント一枚でどう俺と戦うってんだ? なめんなぁ!」

 デルリックは斧を持ち直し凄まじい勢いで振りかぶった。騎士に向かって行くさまは一匹の野獣のようだ。それをなんなく騎士はマント一枚で迎え討つ。勢い余ってするっとマントから抜け出したデルリックは歯噛みして悔しがった。足を地面にこすりつけて悔しがっている。わお。闘牛のようだ。

「くそお」

 何度も騎士に向かって行ってはマントで軽くあしらわれる。騎士に一撃も与えることが出来なくてデルリックは悔しがった。

「卑怯だぞ。あんた。剣を抜けっ」

 デルリックは抗議の声を上げたが、それを周囲の民衆の声が打ち消した。

「おおっ」

「あの騎士さま。なかなかやるなあ」

「騎士さま。最高!」

「頑張ってぇ。騎士さまぁ」

 猛勇な男が白銀の騎士にマント一枚で振り回されているのだ。わたしは見ていてわくわくして来た。白銀の騎士。なかなかやるじゃない。素敵…ヒーローだわ。

 どう見ても力ではデルリックに劣りそうな白銀の騎士が、マントをひらひらと振り回し闘牛士よろしく華麗にデルリックの攻撃をいとも簡単にかわしているのだ。うわああ。凄い。

 デルリックの方は白銀の騎士に誘導されるように、猛牛のようにやみくもに突進してゆき早くも息が上がり始めていた。ぶるるっると、鼻息が荒くなって、頭から湯気のようなものがしゅわしゅわ立ってきてるような気がする。なんか猛牛に見えて来た。

「何をやってる。デルリックっ。早く片付けよ!」

 ヘリオスが怒鳴り声を上げる。デルリックの一方的な勝利を確信していたのに、あてが外れたような顔をしているから焦りが出て来たのかも。

 白銀の騎士がまったく剣を抜く様子がないので、デルリックは騎士に向かって行っては近付く事も出来ずにマントで払われる。なんだかそれが猛牛と戯れている様に見えて騎士に遊ばれてるようにしか見えない。

「いいぞぉ。騎士さまっ」

「きゃあ。すてきぃ~」

「そんなのやっつけちゃってぇ」

「負けるなっ。騎士さま!」

「そんな奴串ざしにしてやれっ!」

 歓喜する民衆の声の前にデルリックは顔を真っ赤にさせ、白銀の騎士に対して憤りの声をぶつけた。ああ。あれはきてるよデルリック。相当お怒りだな。

「このおっ。派手なパフォーマンスで皆の気を惹きやがって。やり方がずるいぞ。腰抜け騎士が! 剣も抜かずしてどう決着つける気だ? さては剣術の方はさっぱりなのか?」

「何を言ってるのか分からんな。俺には貴殿の言ってることが負け犬の遠吠えにしか聞こえぬが? まあ良かろう」

 大斧を構えるデルリックの前で白銀の騎士はあっさりとマントを投げ出した。デルリックに応える気になったらしい。わたしもどんな手で騎士が戦うのか気になっていた。


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