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中堅冒険者 レン・サトウ  作者: なみなみくん
第一章 
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4 お使い

 次の日の朝、俺はゲンシさんにお使いを頼まれた。

 どうやら、昨日雨の降る中作業を強行していた人たちの中で負傷者が発生してしまい、今日の作業も中止となったようだ。


「おう、エル。今日は市場で買い物をしてきてくれ。リノを連れて行くから、しっかり守ってやれよ」

「えっ、俺がですか?」


 まだこの街に来て間もないのに、俺が買い物を任されるとは思わなかった。


「ま、リノは市場には慣れてるからな。お前は荷物持ちだと思っておけ」

「レンくん、あたしにまかせて!」


 自信たっぷりなリノに少し不安を覚えつつも、俺たちは市場へと向かった。


 市場に着くと、そこは朝から活気に満ちていた。道端には露店がずらりと並び、威勢のいい声が飛び交っている。

 新鮮な野菜や果物、肉や魚、香ばしいパン、さらには衣類や道具まで何でも揃っているようだった。


「いらっしゃい! 今日は採れたての野菜が安いよ!」

「魚はどうだい? 川で獲れたばかりの新鮮なやつだよ!」

「おい、そこの兄ちゃん! 上等な革の袋だぜ! 旅に便利だぞ!」


 売り手たちの声があちこちから飛んでくる。リノは慣れた様子でスタスタと歩き、目的の店へと向かっていく。


「ここのおじちゃんのおやさいがいちばんおいしいの! おじちゃん、おはよー!」

「おっ、リノちゃんか!今日もお使いか?」

「うん! 今日はレンくんといっしょ!」

「おぉ、にいちゃん。あまり見ない顔だな。黒い髪…東洋人か?ま、よろしくな」


 リノが注文すると、店の主人は慣れた手つきで野菜を計り、渡してくれる。俺はそれを背負っていたカゴに詰めていった。


 しかし、野菜の値段を見ているうちに、あることに気づいた。この値段、やっぱり俺が持ってた大金貨って、とんでもない額なのではないか。小銀貨数枚で大量の野菜が買える。となると、あの時ギルドで出した大金貨は…。


 妙な汗がにじむ。俺は今まで、どれほどの財産を持っている貴族かと勘違いされていたのだろうか。そんなことを考えていると、リノがふいに俺の袖を引っ張った。


「ねえねえ、レンくん」

「ん?」

「なんかね、レンくん、お兄ちゃんみたいだね」


 俺の心臓が、一瞬ドクンと跳ねた。


「お、お兄ちゃん?」

「うん! だからさ、レンくんのこと、お兄ちゃんって呼んでいい?」


 無邪気にそう言うリノ。俺は思わず口を開きかけて、言葉が出てこなかった。

 お兄ちゃん。

 そんなふうに誰かに呼ばれたことなんて、今まで一度もなかった。

 施設では名字でしか呼ばれなかったし、家族もいなかった。誰かに「お兄ちゃん」と慕われることなんて、俺には縁のないことだと思っていた。


 でも今、リノがそんなふうに呼んでくれることが、なんだかたまらなく嬉しかった。


「お、おう…。いいんじゃないかな?」


 俺がそう答えると、リノはパッと笑顔を輝かせた。


「ほんと!? じゃあ、これからレンお兄ちゃんって呼ぶね!」

「お、おう…」


 嬉しさと照れくささで、俺はなんとも言えない気持ちになった。

 お使いが終わり、余ったお金が少しあった。


「レンお兄ちゃん、余ったお金でお菓子買ってもいい?」

「え? ああ、いいんじゃない?」

「パパとママには内緒ね!」


 リノは嬉しそうに駆け寄り、小さな屋台で焼き菓子を選び始めた。


「これください!」


 店主が焼き菓子を袋に詰める。リノは得意げにお金を差し出したが。


「あっ、おかねがたりない…」

「あらら、少し足りないねえ」


 リノはしょんぼりと肩を落とす。だが、よく考えろ。俺はお兄ちゃんだ。ここでらしいことをするべきではないのか?

 俺は少し考えたあと、調子に乗ってポケットから銅貨を数枚を出した。


「これで…お願いします」

「えっ!? レンお兄ちゃん、いいの!?」

「まぁ、な…」


 俺がちょっと格好をつけて言うと、リノは満面の笑みで飛び跳ねた。


「わーい! ありがとう、レンお兄ちゃん!」


 その言葉が、なんだかくすぐったくて、嬉しくて。俺は少し目を逸らした。


 宿に戻ると、すぐにまた仕事が待っていた。


「エルくん、掃除お願いね!」

「はい!」


 俺はもう慣れた手つきで窓を拭いたり、床を掃いたりした。その後、再び野菜を切る作業に挑戦することになったが。


「うーん…まだまだねぇ」


 相変わらず、上手く切れない。皮を厚く剥きすぎたり、ナイフが滑ってしまったり。


「レンお兄ちゃん、がんばって!」


 リノに応援されながら、俺は今日も不器用に野菜と格闘した。


 それから晴れの日は城壁の修理、天候が悪い日は店の手伝いを続け、二週間が経った頃、城壁の修理がようやく終わった。


 俺は毎日、石を運び、瓦礫を片付け、城壁の補修作業に励んだ。最初は何もできず、ただ言われたことをこなすだけだったが、それでも黙々と働いているうちに、少しずつ体が慣れてきた。


 そして、作業最終日。現場の職人たちと一緒に、修復が完成した城壁を見上げていた。


「…よし、これで終わりだな」


 責任者の男が満足げに頷くと、近くにいた一緒に石材を運んだ職人が俺に声をかけてきた。


「新入り、お前は最初、何もできないクソガキかと思った」

「…」


 俺は言葉に詰まる。正直、最初はあまり良い扱いを受けていなかったし、何度も怒鳴られ叩かれたこともあった。

 でも、こうして最後までやり遂げたことで、少しは認めてもらえたのだろうか。


「けどな、文句も言わずに仕事する姿勢は気に入った。…またどこかで会うことがあったら、その時は声をかけろよ」


 そう言うと、男は不器用に手を差し出した。俺は驚きつつも、その手をしっかりと握り返す。


「はい、ありがとうございました」


 男は無言で頷き、俺の手を離すと、仲間の職人たちと共に去っていった。


 宿に戻ると、玄関でゲンシさんが出迎えてくれた。


「おう、エル。ご苦労だったな」

「ただいま戻りました」


 そう言いながら、俺は思わず肩を回す。二週間、慣れない力仕事を続けたことで、体は確かに疲れていた。すると、ゲンシさんがニヤリと笑いながら、俺の腕を軽く叩いた。


「おいおい、ちょっと筋肉ついたんじゃないか? ほら、腕とか前よりしっかりしてるぞ」

「え、そうですか?」


 思わず自分の腕を見下ろす。確かに、最初の頃より少しだけ引き締まったような気がする。


「それに、ちょっと男前になったな」


 不意打ちの言葉に、俺は思わず顔が熱くなった。


「ははは!お前みたいな若者は成長が早いからな。まあ、しっかり食って、しっかり寝ろよ。明日からまた働いてもらうからな」


 ゲンシさんは豪快に笑いながら、俺の背中を叩く。その力強さに、俺は思わずバランスを崩しそうになった。


 城壁修理の仕事を終え、少しは自分に自信がついた気がする。そして、ここでの生活にも、少しずつ馴染んできたのかもしれない。






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