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中堅冒険者 レン・サトウ  作者: なみなみくん
第一章 
17/41

17 想い人と

 その日から、俺は頻繁にギルドに通うようになった。


 本来なら、俺がギルドに行く必要はない。俺は個人依頼を主にこなしており、すでに仕事の受注はゲンシさんや商会経由がほとんどだった。けれど、それでも俺は毎日のようにギルドに足を運んだ。


 彼女がいるかもしれない。毎日、期待しながらギルドの扉を開く。

 彼女がいたときは、胸が高鳴り、自然と顔がほころんだ。彼女がいなかったときは、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。


 俺の心は、すでに彼女中心に動いていた。


 そんなある日、ギルドのカウンター近くで彼女と顔を合わせた。


「レンさん、一緒にパーティーを組みませんか?」


 その一言に、俺は驚いた。


「え…?」


 彼女は恥ずかしそうに少し視線をそらしながら、言葉を続ける。


「西の森でモンスターの素材集めをしようと思っていて…。」


 モンスター討伐か。正直、戦闘に関して、俺はそこまで得意じゃない。彼女一人でも十分にこなせるだろう。でも、西の森なら珍しい薬草が採取できるかもしれない。


 そう言い訳じみた結論に至った俺は、迷わず答えた。


「行きます! ぜひ一緒に!」


 翌日、俺たちは荷馬車に乗り、西の森へと向かった。驚いたことに、俺たち以外に誰も乗っていなかった。


「意外と空いてますね」

「そうですね。ちょうどいいかも」


 彼女はフードを深く被りながら、静かに微笑んだ。荷馬車が動き出し、ガタゴトと揺れる。最初は少し緊張していたが、いつの間にか俺たちは自然に話し始めていた。


 彼女が冒険者になったばかりのこと。俺が初めてモンスターを倒した日のこと。そして、あの日、初めて出会った時のこと。


 話せば話すほど、俺たちはお互いを知ることができた。そして、ふと俺は思った。「このままずっと、この時間が続けばいいのに」


 穏やかに時間が流れていった。


 街につくと、俺たちは宿を取った。もちろん、別々の部屋だ。それでも、同じ宿に泊まっているというだけで、妙に嬉しくなる自分がいた。そして夜、宿の一階にある酒場で食事をとることにした。


 俺たちは肉料理とスープを頼み、少しだけ酒を飲んだ。酒はそこまで得意ではないが、彼女と一緒に飲むと、なぜか楽しかった。


「お酒、あまり強くないんですね」

「そうなんだよね…すぐ顔が熱くなってしまいまって…」

「ふふ、かわいいですね」


 そう言われて、思わず俺はむせそうになった。俺は照れをごまかすように、スープを口に運んだ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、明日に備えてそれぞれの部屋に戻った。


 翌朝、俺たちは森へと向かった。西の森は、昼間でも薄暗く、湿気が多い場所だった。途中で野営をすることになり、俺はいつものように料理を作った。


「料理は任せてください」


 持ってきた食材を使い、スープと焼いた干し肉を作る。彼女は静かにスプーンを口に運び、目を輝かせた。


「…おいしい」


 その言葉を聞いただけで、俺は胸がじんわりと温かくなった。料理を覚えてよかった。ありがとうゲンシさん。そう思いながら、自分の分も食べた。


 次の日から、本格的にモンスターの素材集めを始めることになった。今回狙うのは、一角狼ユニホーン・ウルフのツノ。一角狼は、名前の通り一本の角が生えた狼のようなモンスター。

 レントウルフよりも体格が大きく、群れることもあるが、一年の大半は単独で行動する。と、彼女は一角狼の生態について説明してくれた。


「群れになっていたら厄介だけど、単独なら油断しなければ倒せます」


 彼女は剣の腕は確かだ。これまでの話や戦い方を見る限り、相当な実力を持っているのがわかる。多分、俺よりずっと強いのだろう。なので俺は戦闘には加わらず、彼女が一角狼を探している間に珍しい薬草を採取することにした。


 森の中を歩きながら、手慣れた動きで薬草を摘む。薬草採取に集中していると、ふと遠くから彼女の声が聞こえた。


「レンさん! 見つけました!」


 俺は急いで立ち上がり、彼女のもとへと向かった。彼女のいる方へ進むと、ようやく一角狼の姿を捉えた。灰色の毛並みに、額から鋭く伸びる一本の角。筋肉質な体躯は、レントウルフよりもひと回り大きい。それが一匹、獲物を求めるように森の中をゆっくりと歩いていた。


 彼女は俺を振り返り、ニッと笑った。


「見ててください」


 そう言うと、背負っていた荷物を地面に置き、剣を抜く。そして、静かに歩を進める。それに気づいた一角狼は、すぐに彼女を認識し、低く唸り声をあげた。


「グルルル…」


 一瞬の静寂。次の瞬間、一角狼が飛びかかった。


「ハッ!」

 彼女は一歩下がり、モンスターの爪を紙一重で避ける。爪が空を切る音が響く。その隙を見逃さず、彼女は地面を蹴って踏み込み、剣を振るった。


 シュッ――!


 刃が鋭く一角狼の前足を裂く。


「ギャウッ!!」


 傷を負ったモンスターは怒り狂い、鋭い牙を剥き出しにして突進してくる。彼女はすぐにステップを踏み、回避。そのまま低く構え、敵の動きを見極める。


 俺がこの戦いに参戦すれば、間違いなく足手まといになる未来が見えた。俺はただ、彼女の戦いを見守ることしかできなかった。


 剣の腕だけでなく、動きの無駄がまったくない。焦ることなく、確実に敵の攻撃を避け、カウンターを狙っている。まるで舞うように戦っている。

 だが、一角狼もただの獲物ではない。角を振り回し、鋭い一撃を放つ。


「危ない…!」


 俺が思わず息を呑んだその瞬間、彼女は一角狼の角が動く軌道を正確に見極め、わずかな隙を突いて懐に潜り込んだ。そして。


 ズバッ!!


 剣がモンスターの首筋を鋭く斬り裂いた。


「ギャウウウウ――ッ!」


 一角狼は苦しげにのけ反り、数歩後ずさる。次の瞬間、ドサリと地面に倒れ込んだ。

 彼女は、剣をゆっくりと鞘に収め、振り返った。


「私、強いでしょ?」


 満面の笑みを浮かべる彼女が、今までで一番眩しく見えた。


「…ああ、すごい強いですね…」


 本音だった。戦い方、立ち回り、すべてが洗練されていた。俺があのモンスターを相手にしていたら、まず勝てなかっただろう。そんなことを考えているうちに、彼女は一角狼の死体のもとへと歩み寄り、鋸を取り出した。


 彼女が手際よく角を切り落とし、それを俺が背負っていた籠に入れる。


 この日、俺たちは二体の一角狼を倒すことに成功した。


 夜になると、野営の準備をする。焚き火を囲み、いつものように俺が料理を作る。


「今日も美味しい。レンさん料理上手ですね」


 彼女が微笑みながらスープを飲むたびに、俺の胸はほんのりと温かくなる。

 この時間が、俺は好きだった。


 次の日も、一角狼を探して森を歩き回った。そして、三日目には、八本のツノを集めることができた。


「これで帰れますね」


 彼女が少し寂しそうに言った。俺も、同じ気持ちだった。楽しい時間だった。そして、この旅が終わるのが切なかった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 街に戻ると、俺はすぐにゲンシさんのもとへ向かった。


「こんな感じで採ってきました」


 ゲンシさんは俺が採取した薬草をじっくりと観察し、頷く。


「ほう、いい出来だな。半分は買い取ろう」


 渡した薬草の半分が売れた。思っていたよりもいい値段がついたので、満足だ。


 残りの薬草は、ギルドへ持ち込むことにした。だが、想像よりも安く買い取られた。しかし、他に買い取ってくれる場所も無いので、渋々報酬を受け取った。

 ギルドの買取価格は、やはり買い叩かれている感がある。商会や個人取引と比べて、何でも買取してくれる分報酬が大きく下がるのは仕方ないことだ。


 やっぱり、もっと直接取引できる相手を増やしたほうがいいのかもな。そんなことを考えながら、俺はギルドを後にした。


 旅が終わり、日常に戻ったはずなのに、どこか寂しかった。焚き火を囲んでいた時間、二人で並んで歩いた森の道、荷馬車の中で話したこと。思い出せば思い出すほど、心がざわつく。

 また一緒に行けるだろうか。俺は、次の機会を心のどこかで待っていた。




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