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中堅冒険者 レン・サトウ  作者: なみなみくん
第一章 
15/40

15 初恋1

 季節が変わり、春になった。冬の厳しい寒さも和らぎ、街には活気が戻ってきた。ギルドも市場も、どこもかしこも忙しそうで、俺自身もそろそろ本格的に冒険者としての仕事をしようと決めた。


 これまでの薬草採取の経験、知識、スキルには、自信がついていた。そこで、俺は昔お世話になったロイジャー商会に出向き、専属の薬草採取依頼をもらうことにした。


「おお、レン君か!」


 ロイジャー商会のセルギウスさんは、俺の顔を見るなり、笑顔で迎えてくれた。


「随分たくましくなったな。ちょうど良かった、今うちも薬草の供給を安定させたくてな。あのとき言った専属契約の話、乗る気はあるか?」


 ソロで薬草を採取して、この商会に売る。この誘いを断る理由は無かった。


「はい。ぜひお願いします」


 こうして、俺はロイジャー商会と薬草採取の専属契約を結ぶことになった。ただし、契約は独占ではなく、商会の依頼がない時は別の仕事も受けられるという条件だった。


 宿に戻り、ゲンシさんに商会との契約の話をすると、「俺とも契約しないか」と持ちかけられた。実は、ゲンシさんは希少な薬を取り扱う薬局も運営していた。

 そこで、薬の材料になる薬草採取を俺も一枚噛むことにしたのだ。そのため、商会の仕事がない時は、ゲンシさんから直接依頼を受ける形で薬草採取を続けることにした。


 ロイジャー商会の依頼は、基本的にかなり遠くの地域での採取が多かった。中には往復で二週間近くかかることもあり、荷馬車での移動も必須だった。

 その代わり、報酬はかなりいい。また、個人契約ではあるものの、商会の護衛や他のベテラン冒険者と行動を共にすることもあり、戦闘のリスクは比較的低かった。


 一方、ゲンシさんの依頼は、いつも決まった特定の場所で、決まった種類の薬草を採取するものだった。

 群生しているわけではなく、探すのが大変だったが、ゲンシさんが昔見つけた洞穴を拠点として利用できたため作業効率は悪くなかった。

 何度か通ううちに、俺は調理器具や保存食を持ち込んで、より快適に過ごせるようにした


 当然、薬草採取は森に入ることがほとんどであり、モンスターとの遭遇も避けられなかった。最初の頃は、森でモンスターに遭遇するたびに、緊張と恐怖でいっぱいだった。

 だが、回数を重ねるにつれ、俺は戦闘の中で「逃げる」立ち回りを習得した。


 無駄な戦いはしない。戦わずに済むなら、それが一番いい。しかし、どうしても逃げられない場面では、的確に弱点を狙うことも覚えた。


 こうして、着々と依頼をこなし、日々を積み重ねていった。採取の技術も、戦闘の立ち回りも向上し、気づけば一年が経っていた。体も以前よりガッチリとし、動きも洗練されていた。もちろん宿にいる合間にも、体づくりを欠かさなかった。

 そしてある日、ゲンシさんが俺をじっと見つめ、ポツリと言った。


「レン、お前はもう駆け出し冒険者じゃねぇな」

「え?」

「もう立派に仕事をこなしてるし、身体もがっしりしてきた。見た目も、もう駆け出しのヒョロヒョロじゃねぇ」


 そう言って、ゲンシさんはニヤリと笑った。


「よくやったな、レン」


 俺は、少し照れくさくなりながらも、嬉しかった。


 あの日、突然異世界に飛ばされ、何もできずに右往左往していた俺が今、ちゃんと自分の足で立っている。


「俺はこれからもっと強くなりますよ。ゲンシさん」


 ゲンシさんは「いい自信だ」と笑って言った。俺は、再び気を引き締め、次の依頼に向けて準備を始めた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夏の終わりが近づき、少し肌寒くなってきた頃、俺はいつものように、ゲンシさんの依頼で薬草採取に出ていた。この森はすっかり俺の庭のようなもので、どこにどんな薬草が生えているか、ある程度把握している。今日も淡々と採取を続けていると、ふと視界の端に人影が映った。


 ここは滅多に他の冒険者が来るような場所ではない。街や村への通り道でもなければ、金になるモンスターなどもいない。

 影は、俺から少し離れた木々の間にいた。フードを深く被っており、顔は見えない。背は低く、どこか華奢な、女性のような印象を受ける。


 しばらく観察していると、その人物は森の奥へと進んでいった。


 普通なら、こういう場面では声をかけるものだ。「ここで採取してるのか?」とか、

「このあたりは魔物が出るから気をつけろよ」とか。


 だが、俺は何も言わず、ただ自分の仕事を続けることにした。

 一人でいることが好きな冒険者は多い。余計なことを言って恨みを買うのも避けたい。だからあえて関わらないことにした。


 それから数日後、ギルドに行くと、こんな噂が飛び交っていた。


「なあ、知ってるか? ソロでモンスターを狩ってる女がいるらしいぜ」

「ソロで?女が?」

「そうらしい。しかも、結構強いらしいぜ」


 ギルドの一角では、興味津々に噂話をする冒険者たちが盛り上がっていた。

 俺はふと、あの森で見たフードの女を思い出す。まさか…。いや、偶然かもしれない。


 ソロの女冒険者は、珍しいが、いないわけではない。それとも、昔の俺みたいに身長が低いだけの男かもしれない。


 仮にあの人が女だったとしても、関わりを持つつもりはない。


 女の冒険者は何かしらの訳ありが多いとよく言われている。何らかの事情で家を出た貴族の娘。家族を魔物に殺され、復讐のために剣を握った者。過去に酷い目に遭い、他人を信用しなくなった者。


 基本的に、関わって得をすることはない。それが俺の結論だった。

 俺は深く考えないことにし、ギルドの掲示板に向かった。

 しかし、ここから俺の運命の歯車は激しく動き出すことになる。




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