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中堅冒険者 レン・サトウ  作者: なみなみくん
第一章 
10/40

10 パーティー2

 目的地の街に向かって、俺たちはひたすら道を進んだ。

 最初のうちは景色の変化を楽しんでいたが、さすがに長旅となると、だんだんと退屈してくる。


 その間、シエスタが時折歌を口ずさみ、ロンが剣の手入れをしていた。デントは相変わらず、御者台で酒を飲みながら「まだ着かねぇのかよ」とぼやいていたが、それも旅の雰囲気の一つだった。


 夜になれば野営をし、焚き火を囲んで語らう時間もあった。


 ラザバが狩った獲物を俺が料理し、シエスタが興味津々に料理の手伝いを申し出たり、デントが「エル、お前も飲め」と酒を勧めてきたりする。

 荷馬車の揺れに疲れながらも、俺は少しずつ、このパーティーに馴染んでいくのを感じていた。


 そして、三日後の朝。俺たちはようやく、目的地の街へとたどり着いた。遠くに見えていた街の城壁が、徐々に大きくなってくる。


「ようやく着いたな」


 ラザバが腕を伸ばして大きく背伸びをする。


「久々の街か…さて、まずはどこに行くか」

「まずはギルドだろう」


 ロンが冷静に答える。


「うん、それがいいわね」


 シエスタも同意し、荷馬車は街の門へと近づいていく。

 城門の前では、いつものように兵士たちが通行証を確認している。


「通行証を見せろ」


 ラザバは慣れた手つきでギルドカードを差し出した。俺たちもそれに倣い、順番にギルドカードを見せる。

 門番がカードをじっと見つめていると、ラザバが一歩前に出て、はっきりと言った。


「この街の冒険者ギルドから呼ばれた。俺たちは『竜殺し』のパーティーだ」


 その言葉が響いた瞬間、門の近くにいた人々がざわめき始めた。


「えっ、竜殺しだって…?」

「まさか、あのパーティーがこの街に…?」

「すげぇ、本物だ…」


 周囲の視線が一気に俺たちに集まる。俺は思わず戸惑った。

 衛兵たちも一瞬、目を見開いたが、すぐに真剣な表情に戻り、ラザバのギルドカードを確認する。


「…確認できました。どうぞお通りください」


 門番が敬礼しながら道を開ける。

 俺は言いたいことが山ほどあったが、ひとまず黙ってついていくことにした。


 新たな街の喧騒の中、俺はこれから何が起こるのか、少しだけ不安と期待を感じながら門をくぐった。


 街に入った後、ラザバは冒険者ギルドへ向かい、残る三人と俺は宿を探すことになった。


「安くて、それなりにちゃんとした宿がいいな」


 ロンが静かに提案し、シエスタが「そうね」と頷く。

 デントは「酒がうまい宿ならどこでもいい」と言いながら、結局、町の中心部にある「銀狼亭」という宿に決まった。


 荷物を部屋に置いた後、市場へ向かい、食料の買い出しをすることになった。根菜やパン、保存のきく干し肉などを揃え、シエスタが果物を追加で購入。

 デントは当然のように酒を買い込んだ。夜になると、宿の酒場で食事を取ることになった。


「おいエル、せっかくだから酒飲んでみろ」


 デントにそそのかされ、グラスを受け取る。恐る恐る飲んでみた瞬間、喉が焼けるような熱さが走る。


「ごほっ、ごほっ!!」


 体が一気に熱くなり、むせる俺を見て、みんなが大笑いした。


「はははっ、初めての火酒はそんなもんだ!」

「意外とかわいい反応するじゃない」


 俺は涙目になりながら、水を飲んで必死に耐えた。


 しかし、その後、「じゃあ、果実酒なら大丈夫か?」とさらに勧められる。火酒ほどではないが、甘くて飲みやすい。そう思って飲んでいたら、いつの間にか酔いが回り、気持ち悪くなった。


 結果、吐いた。吐き気が止まらなくなり、二度、三度と吐いてしまった。


「おいおい、もうダウンか?」


 デントが酒瓶を片手に笑いながら言うが、俺はそれどころじゃない。記憶が曖昧になりながら、いつの間にか意識を手放していた。


 目を覚ますと、頭が割れるように痛い。


「…うぅ…」


 ベッドの上で唸っていると、デントがにやにやしながら俺にコップを差し出した。


「ほら、迎え酒だ」

「え、酒…?」

「二日酔いには少しだけ果実酒を飲むのがいいんだよ」


 試しに一口飲むと、不思議と少しだけ気分が軽くなった。


「ほらな?」


 俺はぐったりしながらも、なんとか準備を整え、ラザバたちと合流。


「さて、出発するぞ!」


 まだ二日酔いが残る頭を抱えながら、俺たちは次の目的地へ向かった。

 荷馬車が揺れる中、ラザバが今回の依頼内容について説明を始めた。


「さて、今回の仕事の話をするか」


 俺たちは全員、自然とラザバのほうに意識を向ける。


「最近、中型の魔物が山から降りてくることが増えてるらしい。理由はまだはっきりしねぇが、どうやらワイバーンの数も増えていることに関係してるみたいだ」

「ワイバーン…?」


 俺はその名前を聞いたことはあったが、詳しくは知らなかった。


「ワイバーンは大型の翼竜だ。ドラゴンほどの知性や魔力はないが、強力な爪と鋭い牙を持ってる。飛行能力があるから、機動性も高いってわけだ」

「そのワイバーンが、大量発生してるんですか?」

「ああ、それが今回の問題だ。ワイバーンは群れで行動することが少ないんだが、最近は数が異常に増えてるらしい。だから、まずは調査だ。どうして増えたのか、何が原因なのかを突き止める」

「なるほど…」

「調査が終わったら、拠点、あの街に戻って装備を整えた上、討伐に向かう。だが、レン。お前はそこまで付き合う必要はない」


 ラザバが俺のほうを向いた。


「レン、お前は調査まで一緒に来てもらう。その後は自由だ」

「え、そうなんですか?」

「お前はまだ戦闘経験が少ねぇしな。無理にワイバーンと戦わせる気はねぇよ」


 そう言われると、少しホッとする反面、悔しさもあった。


「ま、まずは調査を無事に終わらせることが大事だな」


 そう締めくくると、ラザバは腕を組んで目を閉じた。


 荷馬車がしばらく進んでいると、ふと気づいたことがあった。

 デントさんが、酒を飲んでいない。

 いつもなら朝から酒瓶を傾けているはずなのに、今日はまったく手をつけていなかった。


「デントさん、どうして今日は酒を飲んでないんですか?」


 俺が素直に聞くと、デントさんは意外にも真剣な顔をして答えた。


「仕事は真剣にやらないとな。あの街までの行きは遊びみたいなもんだった。けどな、この森に入ってからは、いつ何が起こるかわからねぇんだからな。だから、酒は飲まねぇ」


 俺は思わずデントさんを見直した。普段は飲んだくれてるように見えても、やはりベテラン冒険者なんだなと実感した。


「だから、仕事が終わったらたくさん飲む。そのために、今は我慢するってわけだ」

「なるほど…」


 デントさんは普段の飄々とした態度とは裏腹に、芯のある人だった。

 昼になり、俺たちは簡単な昼食をとった。パンと干し肉、スープというシンプルな食事だったが、空腹だったので十分に満足できた。


 荷馬車が揺れながら進み続け、やがて目的地の手前で止まった。


「ここからは徒歩で行くぞ」


 ラザバの号令のもと、俺たちは荷物を背負い、山道へと足を踏み入れる。


 目指すは、ワイバーンの巣がある山頂。道は険しく、足元には大小の岩が転がっている。傾斜もきつく、歩くだけで息が上がった。


「これ、結構キツいですね…」

「これくらいで音を上げてたら、ワイバーンには勝てねぇぞ」


 ラザバが笑いながら言うが、彼はまったく息を乱していなかった。デントもシエスタもロンも、険しい山道を慣れた足取りで登っていく。


 やっぱり、ベテランの冒険者は違うな、と思いながら、俺も必死でついていく。そして、ある程度登ったところで、突然上空に大きな影が現れた。


「上だ!!」


 ラザバが叫ぶと同時に、俺は反射的に空を見上げた。


 あれがワイバーン。巨大な翼を広げた、それはまるで黒い影のようだった。鋭い爪を持ち、口には鋭い牙が並んでいる。

 そして、そのワイバーンが急降下してきた。


「くるぞ!!」


 デントがすぐに前へ出た。

 ワイバーンの初撃、その爪が俺たちを引き裂こうと迫る。


 ガンッ!!!


 デントが持っていた巨大な盾が、その一撃を真正面から受け止めた。


「ぐっ…!!」


 衝撃で地面が震える。だが、デントは一歩も引かずに耐えている。


「今だ!!」


 デントが叫ぶと、シエスタが素早く弓を構え、ワイバーンの頭部を狙って矢を放つ。矢は風を割きながら一直線に飛び、見事にワイバーンの目をえぐった。


「チッ、少しズレたよ!」


 ワイバーンが咆哮を上げ、次の攻撃を仕掛けようとした瞬間、ロンが一瞬で距離を詰め、その鋭い刀でワイバーンに一太刀浴びせた。

 肉と骨がえぐれる音がし、ワイバーンの翼の付け根に深い傷が刻まれる。


「グオォォオオ!!!」


 ワイバーンが苦しそうに吠える。だが、まだ倒れない。


「仕留めるぞ!!」


 ラザバが大剣を振りかざし、一気に突進する。

 ワイバーンは反撃しようとするが、ラザバはそれを避け、振り上げた大剣を振り下ろした。


 岩が砕けるような音がし、ワイバーンの首に大剣がめり込み完全に動きを止めた。


「やった…」


 俺はただ呆然と、それを見ていた。

 俺はこの場にいるだけだったが、彼らの連携と戦闘技術に圧倒されていた。


「ふぅ…さて」


 ラザバは倒れたワイバーンの目をじっと覗き込んだ。


「やっぱりな…」

「何か分かったの?」


 シエスタが近寄ると、ラザバは静かに言った。


「目が赤い。魔力が暴走してる」

「魔力暴走…?」

「何らかの理由で、ワイバーン全体の魔力が暴走し、生命力が活発化してる。だから普段より攻撃的になり、繁殖も異常な速度で進んでるんだ」

「じゃあ、中型の魔物が山を降りたのは…?」

「捕食されないように逃げてきた、ってわけだな」


 ラザバの名推理に感心してると、彼は声を低くして言った。


「ワイバーンを間引くしかねぇってことだ」


 ラザバが大剣を肩に担ぎながら、そう結論を出した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 調査を終えた俺たちは、街へ戻ることになった。その夜は、ラザバたちと一緒に酒を飲んだ。もちろん、デントの指導のもとで、俺は火酒ではなく果実酒を少しずつ口にするようにした。


 ワイバーンとの戦いを振り返りながら、みんなで語り合い、笑い合う時間は、俺にとってかけがえのないものになった。


 そして、俺はここでラザバたちと別れることになる。それが今回の仕事だ。


「レン、今回の仕事、お疲れさん」


 ラザバが俺の肩を軽く叩いた。


「お前のためにレンバス行きの荷馬車を用意しといた。明日の朝、宿の前に待たせてある」

「ありがとうございます」

「それと、飯、うまかったぞ」


 俺は思わず笑ってしまった。


「こちらこそ、ありがとうございました!」


 シエスタ、ロン、デントもそれぞれ別れの言葉をかけてくれた。


「またな!」

「次は、もっと強くなって帰ってこい」

「お前、酒はもう少し鍛えたほうがいいぞ」


 最後のデントの言葉には苦笑したが、それでも嬉しかった。


 こうして、俺の仕事ははひとまずの区切りを迎えた。翌朝、俺は荷馬車に乗り込み、レンバスへと向かう。俺の心のなかでは、ベテラン冒険者への憧れと、自分もその域に至ることができるのでは無いかという希望があった。

 この経験は、きっと俺を強くしてくれる。そう思いながら、俺は静かに出発した。




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