SS-210 とある母親の苦悩
「ふぅ、遅くなっちゃった」
待ち合わせの時間を腕時計で確認した私は頬を伝う汗を拭ってもう少しだけ駆ける。普段運動とは無縁の生活をしている私にとって雲一つ無い真夏の空は日差しが強くて些か堪えるな。
やがて見えてきたそのお店の名前は「Lesezeichen」。私と娘、2人ともとてもお世話になっているお店だ。
「こんにちはー」
「あら、いらっしゃい。海月さん」
ドアベルを鳴らして店内に招き、快く私を出迎えてくれたのはお店の主人である言ノ葉さんだ。
言ノ葉さんは3人の子を育てている母親の先輩である。ただしその子ども達は少し。いや、結構個性的なお子さんばかりだけど。皆んな良い子なのは間違いないから。
「今日はママ会に誘ってくれてありがとうございます。これ差入れのお菓子です」
「ありがとう!でも別に感謝されることはないわ。琴音達は皆んなグランピングに行っちゃったから暇なだけ。というか私から誘っておいてアレなんだけど、ノアちゃんは大丈夫?」
「はい。今日は保育園でお泊まり会なんです」
「そうなの。あぁ、席はそっちに座って。飲み物は何が良いかしらねぇ」
「ではコーヒーを。できればミルクもあると」
促された席に座ろうとしたとき、私は思わず足を止める。
「んにゃぁ、えへへ。もう食べられない」
ボックス席の狭い隙間に体を収めて気持ち良さそうに眠っている女性。目を閉じていても美女だと分かるそのヒトは、それでいて子どものように無邪気な寝顔を無防備に晒していた。
「えへへ、へへ。あいてっ」
まるで寝相の悪い猫のような名状し難い体勢をしていたその女性は、遂にバランスを崩して頭をぶつける。虚な瞳で逆さまになった世界を見つめて、果たして彼女は何を思うのだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
「んー、白かぁ」
「ちょ!どこ見ているんですか!」
「海月ママのスカートの中」
「正直に言えば許されると思わないで下さい」
「あら、海月さん。猫宮さんのことを起こしてくれたのね。ありがとう」
そう、朝から他人の家で堂々と寝ているこの女性の名前は猫宮さん。こう見えてもお医者様で、世界的にとても有名な外科医なのだとか。
忙しく働きながらも高校生の娘を育てている素晴らしい母親である一方、子どもっぽいというか少し抜けているところがあるヒトだ。
だとしても今日は特にそれが顕著だと思うけれど。
「言ノ葉さん。猫宮さんってもっとしっかりしたヒトではありませんでしたか?」
「夜勤明けだからちょっと寝ぼけているのよ。猫宮さん、簡単な朝食とコーヒーを用意したので良かったら」
「食べるー」
「是非ともベストコンディションにして頂きたいですね。色んな意味で」
寝ぼけ眼でホットサンドを齧る猫宮さん。これからは是非ともベストコンディションを維持して頂きたい。色々な意味で。
彼女のついでに私もコーヒーを貰い一息つく。汗をかいた体に冷えた一杯が染み渡る。
そのとき再びお店のドアベルが鳴った。
「あら、皆んなもう揃ってはるんかいな」
「いらっしゃい飛鳥さん。暑い中大変だったでしょう」
「そうやなぁ。最近はほんまに暑くて堪らんわ。あとこれ、つまらまへんものやけど」
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
「お邪魔しますー」
現れたのは大人しくも艶やかな柄の着物に身を包んだ女性だった。花柄の和傘を閉じてお店に入ったそのヒトは言ノ葉さんに日傘を預けて、案内に従い私の斜め前のテーブル席に座る。
彼女の名前は飛鳥秧鶏さん。飛鳥家と言えばこの桜里浜町で古くから呉服屋を営んでいて、着物を買うにしても、借りるにしても必ずお世話になる。
かくいう私も乃亜が七五三を迎えたときにお世話になった1人だ。あのときの乃亜の楽しそうな表情は今でもよく覚えている。
「これで全員揃ったわね。それでは早速、女子会を始めましょうか」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「それで愛音ったらね、職場体験で詩音が居ないのを良いことに変な同好会を始めようとしていたの。もう困っちゃうわ」
「それはまた随分と大胆なことしはったなぁ」
「琴音が止めてくれなかったらどうなっていたことか」
「そないに心配せんでもええよ。それにしても相変わらず面白い子やなぁ。将来は大物になるかもしれへん」
「海月さん。その、先程はとんだご無礼をしてすみませんでした」
「良いんですよ。もう気にしてませんから」
「でも、寝ぼけていたとはいえ海月さんのパンツの色を言ってしまうなんて。うぅ」
「改めて言われる方が恥ずかしいです!」
4人でするお喋りはとても楽しくて話題に尽きることはない。
今日は都合が合わなかったママさん達も揃うとどうなってしまうのやら。全員が揃って集まれたことはまだ無いけれど、いつかは実現して欲しいなと思う。
「そうかぁ。琴音ちゃんもももう大学生になったんやなぁ。昔はちっちゃくて可愛かったのに立派な大人になって。将来の目標とかもう決めてるん?」
「えぇ。本人はもうやりたいことがあると言ってもう色々とやっていますよ。この前も何かの打ち合わせに行っていたし、この夏もイベントに参加するって。えっと、何て言っていたかしら」
「もう企業の説明会とかに参加しているんですか?凄いですね」
「将来かぁ。うーん、ウチの子は勉強は頑張っているし目標ははっきりしているけど、融通が効かないところがあるからなぁ。そういう意味では心配」
私以外の皆さんは高校2年生の子どもを持ち、更には同じ学校で同じクラスという共通点がある。そのため子どもの話題となれば盛り上がるのは必然だ。
「というか芽衣理は勉強はできるというか勉強しかできないというか。そういうのも含めて子ども達の中で一番バランスが良いのは誰だと思います?」
「それはやっぱウチの子や。と言いたいところやけど、贔屓目無しで見たらあの子やろなぁ」
「そうね。総合的にみたらあの子だと思う」
「へー、誰なんですか?」
「「鮫島棗君」」
「ですよねー」
口を揃えて言う2人の回答に強く頷き同調する猫宮さん。どうやら私だけ認識が違うみたい。
「鮫島君ですか。私はあまりその子のことを知らないのですが、そんなに良い子なんですか?」
「それはもうとんでもなく良い子よ」
「一言で言うたら主夫やな。それもかなりの練度や」
「主夫!?えっ、高校生なんですよね。その子」
「えぇ。でもただの高校生ではないの。この前偶然スーパーで会ったんだけど、挨拶してくれたと思ったら当たり前のように荷物を持ってくれたんだから」
「良い子だ」
「それに棗君は相当頭ええで。前にちょっと話したことあるけど、桜里浜町の中ならどこの店でいつ何を買うのが安いか、底値がいくらかも全部把握しとったんや。うちの者に使いをさせるよりずっと有意義やったわ」
「その情報は私も知りたい。でも以外ですね。私はてっきり詩音さんかと思いましたよ」
棗君という子が母親視点では評価が高いということは分かった。しかし私としてはやっぱり詩音さんだと思う。
何せ彼女は。いや、彼は何かと乃亜の面倒を見てくれるからだ。
私が忙しいときは保育園のお迎えに行ってくれたり、そのままこのお店でおやつをご馳走になることもある。時には私まで夕食をここで済ませてしまうこともある。
そして重要なのは乃亜がよく懐いているということ。実際家に帰ってもあの子は詩音さんの話しをよくするし、絵本よりも貸してもらった楽譜を見ていることが多いくらい。
そこまで夢中ならばと去年に安価な電子ピアノを買ってみたけれど、そのときの反応は凄まじいものだった。他のおもちゃで遊ぶのも程々に時間さえあればキーボードに向き合って練習をしているのだ。
「しおんねーねに褒められたい」という思いを原動力に取り憑かれたように弾き続ける我が愛娘。最近はアニメの歌やダンスも習得しようとして、その熱意は留まることを知らない。
今はまだ熱中している範囲だけど、これが食事やお風呂、睡眠時間を削るようになったら問題だ。そこだけは今度ちゃんと話し合わないといけない。
「あー、詩音かぁ。詩音は、そうねぇ」
「この前も順調に花嫁修行が進んでいるって喜んでいたじゃないですか」
「それはそうなんだけど。あの子はちょっと優しすぎるというか。ヒトを疑うことを知らないから」
「「「あー」」」
確かに詩音さんは優しい。それはもう優し過ぎる。ノアにピアノを教えるときの教育方針もひたすら褒めて伸ばすタイプだ。
そしてどれくらい純粋かと言われると、高校二年生にしてサンタクロースの存在を信じているくらい純粋だ。言ノ葉さんが「あの子は天然記念物なのよ」と言うのも納得である。
ちなみに乃亜の夢はそんな詩音さんのお嫁さんになることらしい。前に保育園で将来はどんな大人になりたいか話し合う機会があり、さも当然のように「しおんねーねのお嫁さん」と言い放ったらしい。
尚、それを聞いた私の夫は「いつか娘に言われたい言葉ベスト10」上位にあるらしい「将来はパパのお嫁さんになる」が言われなかったため、ショックのあまり膝から崩れ落ちて翌日は有給休暇を取って一日寝込んでいた。
そんなに落ち込むならもう少し家族を大切にする時間を作れば良いのに。仕事が大変なのは分かるけれど。
「詩音ちゃんと鮫島君。どっちも芽衣理のお婿に欲しい」
「そしたら今度菓子折り持って、鮫島さん家にご挨拶に行かなあかんね」
「あ、そうだった!皆んながくれたお菓子を食べましょう。少し待っていて」
そう言って言ノ葉さんは席を立つと小走りでキッチンに向かい準備を始める。ついでにコーヒーと紅茶のお代わりを手際良く用意している辺りは流石だなと思ってしまう。
やがて飲み物と共にお菓子が盛り付けられたプレートが運ばれる。そこには私達がそれぞれ持ち寄ったお菓子と言ノ葉さんお手製のお菓子の4つが並んでいた。
「美味しそうやな。こうしてみると華やかで綺麗やね」
「わぁー、可愛いタンポポの練り切りですね」
「猫宮さん。それは菊やで。タンポポやあらへんで」
「あれ?」
「海月さんは飲み物どうする?」
「ではコーヒーを」
「はいはーい」
名は体を表すという言葉があるが、これらのお菓子はまさに私達を表していると思う。
飛鳥さんが持って来たのは先に言った通り菊の練り切り。大和撫子を体現している彼女らしいその一品は雅な美しさを備えていて、目と舌で食べるヒトを幸せにしてくれる。
対して猫宮さんが用意してきたのは見た目はシンプルなチーズケーキ。ただし超高級品という言葉が前に付くが。
少々下世話な話しになるが、一流の医者である彼女の収入は相当なもの。そんな彼女の世話になる人達は必然と物の価値を知るヒトばかりだ。
そんなやんごとなき人達から得た情報を元に、猫宮さんは「よく分からないけど良さそうなやつ」という理由だけで値段を見ないで購入するのである。これぞお金の暴力。
それでいて本人は悪意ゼロ。そこには純粋な善意のみしかないから憎めない。
言ノ葉さんは2人とは異なり、自作のお菓子をよく作る。以前は動画配信やメディアにも取り上げられたというだけのことはあり、その味は専門店にも引けを取らない仕上がりになっている。
尚、その傍らにデフォルメされた狼のキャラクターのマジパンが鎮座しているのはご愛嬌だ。心無しか詩音さんに似ているその子はつぶらな瞳で私のことを見上げている。
きっとまたこれを目当てに一部のファンがこのお店に通うことになるのだろう。一体どれだけ罪深いものを生み出せば気が済むのだろうか。
尚、私が用意したのはそれなりの大きさのスーパーに行けばどこにでもあるような菓子折りである。このヒト達のようなハイスペックママさんと比べないで下さい。
「今頃皆んなはキャンプかぁ。今夜辺りに満点の星空の下でバーベキューとかするのかしら」
「そうやなぁ。あそこの猪はそれなりに美味しいから、一回くらいは食べてもらいたいとは思うんやけど」
「ジビエ料理が有名なんですか。珍しいですね」
「バーベキューか。ウチの子かまた何かやらかさなければ良いんだけど」
「芽衣理ちゃん、そんなに料理が苦手なん?バーベキューなんて食材を焼くだけやろ?」
「あの子ができるのはバナナとみかんを皮を剥くことだけです。きっと今夜にでもモッツァレラチーズを夜空の彼方に飛ばしているに違いないです」
「あらー、それは大変ね」
「大変で済む事ですか?言葉だけ聞くと超常現象ですよ」
「そんなこと無いわよ海月さん。世の中は不思議で溢れているの。ある日を境に息子が娘になるんだから、チーズの1つや2つが流れ星になってもおかしくないわ」
「うぅん。どうしてこの話題で私の方が武が悪いのかなぁ」
ある日突然自分の子どもの性別が変わる。ついでに狼の耳と尻尾付きで。俄には信じられないけれど、紛うことなき事実であるということは私もよく存じている。
ちなみに私は詩音さんが紫音君だったときの姿を知っている。それこそずっと前に今日のようなお茶会をしてその話題になったとき、言ノ葉さんがアルバムの写真や母子手帳写真を見せてくれたからだ。
尚、その後に出した女の子になった詩音さんのアルバムの方が数が多かったのは余談である。でもカメラの画角が隠し撮りのようなものばかりだった気もする。
いや、きっと私の記憶違いだ。そうに違いない。
「そうやった。それで言うたら私、海月さんに謝らなあかんことがあるんや」
「何がですか?」
「お宅のお子さんのノアちゃん。キャンプに誘えへんかったん、申し訳ない思てたんや。本当すんませんなぁ」
「そんなこと気にしなくて良いんですよ。むしろ最近のあの子は詩音さんに依存しかけているから良い機会だったというか」
そこでふと私は先日に起きたある出来事を思い出す。あのときはその場の雰囲気に流されてしまったけれど、改めて落ち着いて第三者の意見を聞いた方が良いと思っていたのだ。
「ところで皆さん。実は折り入ってご相談がありまして。これは前、ノアと公園で遊んでいたときの事なのですが」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
その日、私とノアはいつものようにウルピュアごっこに興じていた。
私の役はそのときに応じて色々と変わるけど、ノアの役はいつも決まってピュアウルフ。詩音さんにそっくりでノアが大好きな魔法少女である。
「今よ、ピュアウルフ!」
「んっ!ひっさつ、凍てつく神獣姫の奇跡!」
「うーん、ちょっと違うかな。腕はもう少し上げて指先はこう。視線は正面より少し右ね。足は気持ち内股。もうちょっと、もうちょっと、もうちょ、はいそこ!その体勢完璧」
「うみゅぅ。ママのあくへきが出ちゃったの」
「あっ、ごめんねノア。でもほらお陰でとても良い写真が撮れたよ」
「おぉー」
「失礼そこのお二方。少し時間を頂いても良いでしょうか」
親子2人で楽しい時間を過ごしている最中に声をかけてきたのは黒いスーツを着た男性だった。
休日の昼間にスーツを着ていて初対面なのに話しかけてくるなんて、怪しさと胡散臭さを合わせて煮詰めて抽出したようなもの。その腹の内側はブラックコーヒーよりも真っ黒に違いない。
「ちょ、ちょっと待って!私は決して怪しい者ではありません。これ名刺です」
怪しい不審者の模範解答のような事を言うその男性。私はノアに持たせた防犯ブザーを手にしたまま名刺を受け取り、名前と会社名を確認する。
「えっと、芸能事務所?」
「はい。単刀直入にいいます。あなたのお嬢様を、どうか私達の手でプロデュースさせて頂けませんか!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「「芸能界にスカウトされたぁ!?」」
「はい。これがそのとき貰った名刺なのですが」
名刺を受け取った言ノ葉さんは裏に表にひっくり返して食い入るように書かれた文字を読んでいる。猫宮さんは社名と名前を確認すると直ぐにスマホで調べ始めた。
「今どきこんな怪しい勧誘するヒトがいるのね」
「何でもこのヒト、何度かこのお店に来たことがあるそうで。ノアが楽しそうにピアノのを教わる姿を見てスカウトを決断したそうです」
「え、もしかして詩音のせい?詩音のせいだったりするの?」
「そういうわけではありませんから」
「楽しそうに笑うノアちゃんを何度も見に来る。つまり名も知らぬ幼女に会いに何度も訪れている。それ即ち」
「まさか、ストーカー!?」
「キャー!」
「それもロリコンのペド野郎ということ!?」
「イヤー!」
「あはは。まぁ冗談はそれくらいにしておいて、この事務所自体はちゃんとあるみたいだよ。ほら」
とんでもない方向に話しが転がっていくなか、事の張本人である猫宮さんが自身のスマホを見せて調べた情報を教えてくれた。
どうやら芸能事務所のマネージャーというのは事実のようで、あからさまな詐欺ということは無さそうだ。
だとしても、芸能界という特殊な環境にノアを関わらせるのは少し抵抗がある。詐欺ではなくともその働き方は一般の感覚とは違うだろうし、闇深いドラマやニュースを見ると心配は尽きない。
何よりまだ物心が付いていないノアの将来を左右するようなことを決めてしまって良いのだろうか。
あの子がそれを望むならこれはむしろ一世一代のチャンス。そうでないならまだ幼い我が子に大きな負担を強いることになる。
「そんなに悩むんやったら、とりあえずやってみたらええんちゃう?その子に合わへんかったら、すぐに辞めたらええだけの話やんか」
あれこれと悩む私に一筋の光を指し示したのは飛鳥さんだ。
スカウトの話をしても特に変わらない様子で私が買ったお菓子を食べてお茶を飲んでいた彼女の一言は極めてシンプルなものだ。
何事も経験することは大切。機会があるならそれを逃す手は無い。嫌ならそのとき辞めれば良いのだ。
「確かに。でも人間関係とかノアは大丈夫かしら。あの子詩音さんとそのお友達以外には本当に人見知りするし」
「それは海月さんのお子さん次第やけど。でも前にウチの店にその事務所におる子が来たことがあってなぁ。稲穂ちゃんとも仲良う話しとってめっちゃええ子やったわ。悪いようにはせえへんはずやで」
「ほぇー。いじめとかの心配がないのは朗報だね」
「それにあの事務所は前にきっちり調べたことあんねん。数年前にできたばかりの小さいとこやけど、悪いシノギに手ぇ出してへんのは間違いないわ。所属する人を第一に考えてくれる、誠実でええ事務所やで」
「さすが飛鳥さん。何でもご存ね」
「本当にこの町のことは詳しいですよね。飛鳥さんって」
「それは飛鳥さんの呉服屋はこの桜里浜の町で1番の老舗だもの。きっと色んな情報が入ってくるのよ」
「ん、まぁ、そないなとこやな」
動じる事も無く変わらない優雅な手つきでお茶を注ぐ飛鳥さん。私もいつかこのヒトのような余裕のある母親になりたいものだ。
「分かりました。先ずはもう一度ノアに話しをしてみます。あの子にやってみたいという思いがあるのなら、私も頑張ってみようと思います」
「一世一代の決断ね。私も応援するわ!」
「ありがとうございます言ノ葉さん。とても頼もしいです」
「んむっ。私も顔の広さには自信がある。色んな職業の患者さん知っているし」
「ありがとうございます猫宮さん。でも食べるか話すかコーヒーを飲むのか。どれか1つずつにしましょう」
「安心しとき海月さん。ウチの者にも言うておくさかい。この町のヒトを害する奴は絶対に許さへん。地の果てまで追い詰めて粛清したるからな」
「ありがとうございます飛鳥さん。でも物騒だからやめて下さい」
こうして三者三様の激励を受けたところで今日のお茶会はお開きとなった。
果たしてこの決断が今後どのような出来事を巻き起こすのか。その未来は神のみぞ知る、というやつだ。
乃亜「しおんねーねの意見を聞きたいの」
乃亜母「いやでもこれはノアの将来のことだから」
乃亜「しおんねーねに相談したいの」
乃亜母「わ、分かったから。今日はもうキャンプから帰って来たはずだから電話してみるね」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
詩音『ノアちゃんが芸能人デビュー!?はわわ』
乃亜母「それで詩音さんはどう思う?」
詩音『わぅ、どうと言われても。ノアちゃんがどうしたいかが大事だと思うから』
乃亜母「そうよね!ありがとう。時間を取らせてごめんなさいね」
詩音『いえいえ。でもノアちゃんが芸能人かぁ。もしも本当にそうなったら』
乃亜母「そうなったら?」
詩音『私がノアちゃんのファン第一号だねっ』
乃亜「やるの」
乃亜母「えっ」
乃亜「ノア、オーディション受けて芸能人になるの。そして詩音ねーねの凄さを全世界に知らしめてやるの」
乃亜母「何その動機!?」




