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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
208/212

EP-208 現世へ帰還

「おはよう詩音」

「おはようナツメ君。今日も早いね」


 朝の支度を終えてキッチンに向かうと既に鮫島君が朝ご飯の準備を始めていたので、昨日と同じようにお手伝いをする。

 昨日と言っても狭間の世界で過ごしたときのことではない。現世にいた時間の話しです。

 狭間の世界から現世に戻った私は森の中にある古くて小さな社にいた。ホタル観賞という名の肝試しで中継地点だった社だ。

 時間を確認したけど日付も時間も確かに肝試しの最中。音無(オトナシ)さん。いいや、もう1人の(紫音)が言っていた通り無事に戻ることができた。


 しかし安堵したもの束の間。先程まで元気だった狐鳴さんが何故かまた気絶する非常事態が発生。怪我はしていないし呼吸も落ち着いているから大丈夫だと思うけど起きる気配が無かった。

 声をかけても体を揺すっても、尻尾でもふもふしてみても反応は無し。仕方ないので眠り姫を背負って帰り道を歩いていた矢先、突然現れた鬼気迫る様相のお化け達と飛鳥さんに遭遇したのだ。

 何でも私達の所在が数分ほど行方不明になったということで慌てて捜索していたらしい。

 どうして森の中にいる私達が行方不明になったと判断できたのかは分からないけど、相当心配させてしまったのは申し訳ないことをしたと思う。でもこの肝試しで私が一番驚いたのは間違いなくこのときだったよ。


「うひょーい。ごはんだごはんだー」

「詩音君、なっちゃん。今日の朝ご飯はなーに?」

「昨夜に空を飛んだモッツァレラチーズのマルゲリータ」

「ネーミングだけ聞くと頼みたくなるメニューだな。それで?また猫宮がやらかしたのか」

「何もしてないわよ!」

稲穂(いなほ)。何か飲みたいものはある?」

「んー、今日は紅茶の気分!」

「はいはーい」

「んふふ。しーちゃんが朝ご飯を作ってくれるとか幸せ過ぎるなー」


 この数日で何となく決めた自分の定位置に座った狐鳴さんは上機嫌に身体を揺らして朝ご飯とお茶が出てくるのを待っている。早く食べたいのなら手伝ってくれても良いんだよ。

 さて、今朝の狐鳴さんを見ると分かるかも知れないけれど、狭間の世界で神様達が相手でも堂々と対等に立ち振る舞っていた彼女の面影はない。というか狐鳴さんは狭間の世界で起きた出来事を何一つとして覚えていなかったのだ。


 気を失った彼女はコテージに運んで少し横に寝かせると元気一杯に目を覚ました。怪我も無いようで何よりだけど、まるで別人かと思うくらい全く覚えていなかった。

 一応ちょっと踏み込んだ質問をしてみたものの、「もう怖い話しはやだぁ!」と布団を被って聞く耳を持たず。神様達と話していたときは友達みたいに親しいなと思ったけれど、私の勘違いだったのかな。

 他に考えられる事といえば鈴飾りの存在だ。私は竜神様から鈴の御守りを貰った。でも狐鳴さんはそういうお土産を持っていなかった。

 兎神様が急遽連れて来た軽音部の先輩達も狭間の世界の記憶は残らないと言っていたし。いや、でも先輩達はライブのお礼で衣装を貰っていたはず。うーん、やっぱりよく分からないや。


「あれ?狐鳴ちゃん何か目が赤くない?」

「えっ、本当ですか?肝試しのせいで寝るのが遅かったからかな」

「いや、充血しているとかではなくて。何かこう、瞳そのものが緋色になっているというか」

「そうか。遂に邪眼に目覚めたのか」

「誰が厨二病じゃい!柚葉(ゆずは)さんも冗談はやめて下さいよ。そういうのは昨日の肝試しだけで充分ですって」

「いやそういう訳では。あれ、元に戻ってる。あれぇ?」

「はしゃぎ過ぎて疲れているんですよ。出発の時間までのんびりして下さい。あ、でも鼻毛が出ているな」

「ぎゃーす!」


 良介の気配り皆無な発言に慌てて部屋を出て行く狐鳴さん。よく正直に指摘できるな。他の全員はどうすればさり気なく気付かせることができるか思案していたというのに。

 その後、少しだけ顔を赤らめて戻ってきた狐鳴さんと一緒に皆んなで朝ご飯を頂く。是非とも残さず食べ切ってくれたまえ。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「それじゃあ先輩方。お疲れ様でしたー」

「愛音ちゃんもバイバーイ!」

「しーちゃん愛してるー!」

「さようならー」


 出発のときと同様にパパが運転する車に揺られることしばらく。無事に家に着いた私達言ノ葉一家は他の皆んなが乗る飛鳥さんパパの車に別れを告げた。

 そういえば帰りのときも途中で眠くなってしまい、結局どこでグランピングをしたのかは分からないままだ。まぁ、後で飛鳥さんに聞けば良いだけなんだけど。


 それよりも私にはある重要な問題があった。荷物から洗濯物を出してママに預けた私は直ぐに他の荷物の整理をする。という(てい)で自室に戻り自分のスマホを取り出す。

 当たり前だけどこれは何の変哲もないごく普通のスマホだ。少しバッテリーの残量が心許なくなったけれど、目立った傷や汚れはない。問題はその中身だ。


「何か知らない連絡先がある」


 狭間の世界でライブの後、その場の流れで少しだけ神様達に貸していた私のスマホ。そういえばちゃんと返してもらったのか記憶が曖昧なんだけど、あのときは気絶した狐鳴さんのかいほうでそれどころではなかったんだよね。

 ふとその事に気付いたのが今朝起きたとき。でもベッドの近くでしっかり充電されていたから、このときは杞憂だったと気にしなかった。

 異変に気が付いたのはつい先程。自動車の中で目を覚まして時間を確認しようとスマホを起動したとき、見知らぬ連絡先が登録されていたのである。


「わふ、こういうときはまずパパに相談する約束なのだ」


 分からないときはまず相談。ということで現在リビングで絶賛荷解き中のパパの手を煩わせに向かうことにした。

 しかしその瞬間、まるで狙い澄ましたかのようなタイミングでスマホに着信がきた。


「もしもし」

『どうもー。馬の神様ですー』

「馬神様!?」

『おぉ、本当に詩音さんの声が聞こえる。流石だよ犬さん』

『本当?良かったぁ』


 通話をしてきた声の主は昨日までお世話になっていた神様の一人。馬神様だった。それもどうやら1人だけではなく、他の神様も近くにいるらしい。遠くで安堵している犬神様の声が聞こえたし、その他の賑やかな音にも聞き覚えのある声が混ざっている。


『というかお前が作った絡繰だろう。何故馬神に応答させるのだ』

『だ、だっていきなり電話するのって緊張するんだもん』

『ヒトの子。無事に現世戻ることができましたか?あの狐がまたご迷惑をかけていませんか?』

「大丈夫ですよ羊神様。今ちょうど家に着いたところです」

『なぁ、その絡繰を貸してくれ。俺だって詩音と話したいのだ』

『駄目です。また壊されては堪りませんからね』

『詩音さーん。お元気ですかぁ?私は元気ですよぅ』


 どうやらスマホの向こう側では神様達が大集合しているらしい。各々が好き勝手に話しているため、誰に何をどう返せば良いのか分からず適当に相槌を打つしかできない。

 そんなとき、別の連絡先から通知が来てグループ通話が開始された。


『おー、何やら賑わっているじゃないの』

「わふ!その声は兎神様」

『如何にも。いつでもどこでもあなたの側に這い寄るウサギ。月兎(つきうさぎ)イナバだよー』

「すみません。ヒト違いでした」

『いや違くないよ。合っているよ!今のは動画配信するときに最初にやる挨拶みたいなもので。月兎イナバって知らない?私の活動名なんだけど』

「私はあまりそういうの見ないので」

『ふぐぅ、現実は世知辛いぜ。チャンネルのリンク送るから時間があるときに是非見てね。ついでに学校で拡散してね。あっ、本物の神様だってことは内緒でヨロシク』

『兎さん。そろそろ本題に入って良い?』

『あいあーい』


 犬神様の声に適当に返事をする兎神様。それでもしっかり私のスマホに兎神様からのリンクとやらが届いた。

 それで一体これをどうすれば良いのだろう?よし、後でパパに聞いてみよう。


『昨日詩音さんは無事に現世に帰還したときにスマホを粉々に、いや返すのを忘れていたからさ。修理、ではなくてアップデートをして昨晩の間に現世にお届けしたんだ』

「あ、やっぱり忘れていたんですね。わざわざありがとうございます」

『成程ねー。で、修理って何のこと?』

『別に大したことはないよ。現世にいない私達神様ともこうしてお話しができるっていうだけ。今は私の連絡先しかないけれど、そのうち神様全員のスマホを用意するから』

「おぉ、それは凄いですね」

『ねぇ、修理って何のこと?ねぇねぇ、何のことー?』

『ポチッとな』

『うわぁー!?私のPCがー!まだデータ保存してないのにー!え、このエラーなに?あ、ちょ、ヤバイ。あー!?』


 その謎の断末魔の最後に兎神様からの通話は途切れた。何か大変そうだったけど大丈夫なのだろうか。


『そういうことだから気が向いたらお話ししようね。そのうち音無(オトナシ)さんとも話せるようになるだろうし、皆んなも現世のお話しとか聞きたいからさ』

『俺達は今日中には各々の住処に帰る。その絡繰があればまた自由に話しができるというわけだ』

「はい。よろしくお願いします」

『帰って早々に悪かったね。今日は早くやっぱり休むと良いよ。それじゃあね』

「はい。失礼します」


 馬神様の言葉を最後に通話が切れたスマホを見つめる。まさか神様とお話しができるようになってしまうとは。何かご利益とか凄くありそうだけど、スマホを新調するときとかどうなるんだろう。データの引き継ぎとかできるのかな。


 そんなことを考えていると犬神様から狭間の世界で撮った写真が送られてきた。これはある意味では心霊写真になるのかな。悪いことが起きるどころか御利益あり過ぎるくらいだと思うけど。

 御利益といえば竜神様がくれた鈴飾りがある。これは無くすわけにはいかないから我が部屋の主人こと、ふぇんりるぬいぐるみに預かってもらおう。首に下げるようにすれば紐の長さもちょうど良いね。


 さて、気になっていたことも無事に解決したことだしパパにスマホの使い方を聞きにいかないと。

 神様達のことは秘密にしながらね。

父「成程。このURLを他のクラスの皆んなに共有したいと」


詩「うん。どうやるの?」


父「別に難しくはないぞ。しかし詩音。何やら見覚えのない連絡先がいくつかあるな。これは何だ」


詩「えっ」


父「それについ先程そいつらと電話しているな。どういうことだ?」


詩「し、詩音は知らないよ」


父「なに?」


詩「詩音はなんにも知らないんだよ」


琴「嘘のつき方が絶望的に下手くそだ」


父「詩音。パパはお前が心配だから言っているんだ。正直に言いなさい」


詩「うー、こうなったら最後の手段」


父「何をするつもりだ詩音」


詩「パパなんて嫌い。もう未月ちゃんに聞くからいい」


父「ぐはぁ!」


愛「あーあ。嫌われちゃった」


母「年頃の女の子には言いたくないことの1つや2つはあるものよ。それを無理に問いただすなんて馬鹿なヒトね」


父「 」


愛「返事が無い。ただの屍のようだ」

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