2-5
分かれ道を進み、三人が石廊のスロープを平坦になっている所まで下ると、両側の壁に篝火と共に規則的に格子が付いた部屋が並んでいる通路に出た。
「ここは、牢屋??」
『…失礼なことです。我々は城の地下に牢屋等作っておりませんでしたよ』
アミリアが不満気に文句を言う。
『まあ、ダンジョンですからね。それらしく構成されたのでしょう…それより、どうやら牢屋に新手が収監されているようですわね』
ミクズが敵の存在を感じ取る。
「新手?」
『どうやら…一体、お目見えですよ』
アミリアが虹色の剣を構える。
一番手前の格子の扉が開き、ぐちゃぐちゃと湿った不快な音を響かせながら、フラフラと何かが出てくる。
「…え?人?」
それはボロボロだが、服も来ているようであり、薄暗い闇の中に佇む姿は、遠目からは人の様に見えた。
『…いえ、あれは』
アミリアの声に反応し、それがフラフラとこちらに近づいて来た。そして、篝火にその姿が照らされる。
「…!」
息を飲むアカード。照らし出されたソレの肉は腐り、顔の半分は骨が露出していた。そして、左目は腐り落ちたのか、暗い眼窩のみがアカード達を見つめている。
『グールです』
「ぐ、グール?」
『スケルトンに肉が付いたようなものですわ。まあ、その分、耐久力があります。後、もし嚙まれたり傷を負わされたら麻痺したり等、あまり良くない状態になったりしますわ』
ミクズがグールについて補足する。
『まあ、アミリアと私がいる限り、主様がそのような事態になることは万が一つにもありませんが』
『不快だ』
アミリアが一閃すると、黒い影の衝撃波がグールの胴体を切断する。
「え…まだ動けるの?」
切断された上半身と下半身が、それぞれ別々にアカード達ににじり寄って来る。
アミリアが、右足で床を蹴る。
<ヴ…ばぁ>
グールの上半身と下半身が床から出現した黒い影に串刺しになり、黒い煙と魔石を残してアミリアに魔素を吸い上げられた。
『…ふむ。やはり、これぐらいのしぶとさになると魔石持ちの魔物もいるようですね』
アミリアは転がっている魔石をアカードに手渡す。
「ありがとう。スケルトンやゴブリンからは魔石出なかったもんね」
『そうですね。ようやく魔石採取が始められますね』
「うん。頑張って集めよう」
『あら?主様、どうやら前方より、騒ぎに反応したのか、三体程出てきますわ。ここは一人一体といきましょうか?』
ミクズが前方のまだ何も見えない暗闇を見つめ、提案する。
「う、うん。頑張る」
『…アカード様なら、問題なく対応出来るかと思います』
アミリアは通路の端に寄って、アカードに道を譲る。
『ええ、緊張感は持っていた方が良いかと思いますが、そう硬くならず。一体来ますわ』
ミクズの予告通り、フラフラとグールが歩いてくる。先ほどとは違い両目とも残っているようだが、酷く、白く濁っている。
一歩、また一歩、グールが迫ってくる。
「…スッ」
グールが間合いに入った刹那。鋭く息を吐き、左肩から袈裟斬りの一閃で、アカードはグール切断する。そして、斬り落とされた半身がぐらりと落下し始めると、返す刃でグールの首を斬り捨てた。
『見事』
湿った音を響かせ、グールの頭、上半身、下半身が崩れ落ち、ミクズとアミリアに魔素が吸収されると、一握りの魔石のみが残される。
『素晴らしい太刀筋ですわ。恐らく、その辺の探索者や冒険者では斬られたことすら気付けない程ですわ』
「いやいやいや、そんなことは無いよ。…でも、二人ともありがとう」
刀の血を払い、鞘に戻して、アカードはハニカミながら礼を述べる。
『いえ、本当のことを言ったのみです』
『ええ、その通りですわ』
そして、アミリアは自身の影を伸ばし、ミクズは炎の狐を作り上げて、残りのグールを瞬時に片付ける。
「…うん、充分に二人とも凄いよ」
『主様の従僕ですから、これぐらい当然ですわ』
『…恐縮です』
そのまま三人は順調にダンジョンを進んで行く。途中で十体程のグールの集団に囲まれたり、踏まなくても良いトラップを踏み抜き破壊したり、新手である蛇のような魔物や蜘蛛のような魔物を撃破しながら、分かれ道も迷うことなく、階段やスロープを下って深部に潜っていく。
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「…よ!っと」
アカードが巨大な蛇のような魔物の首を断ち切る。前方では、アミリアが影を黒い槍のように伸ばし、グールを串刺しにしいる。振り返れば、ミクズが後方の天井から迫って来ていた巨大なクモの魔物を焼き落としていた。
戦闘が終わると、魔物の死体は残さずアミリアとミクズに吸収され、床にコロコロと魔石のみが転がっていた。
「ふー…だいぶ進んで来たね」
『そうですね。階段やスロープを四回は下りましたから、今、地下四階層っといった所でしょうか?』
ミクズが下りてきた回数を指で数えながら応える。
『はい。魔物もスケルトンからグール、蛇のようなボアや、巨大蜘蛛のタラン等、種類が増えてきました。それと…』
アミリアが影でナイフを形作り、投げ飛ばす。それを追って壁から弓矢が射出されていく。
『トラップも中々、凝ってきました』
そして、脚で床を蹴り、影を伸ばして、そのトラップを破壊していく。
『ええ、ですが、まだまだ余裕ですわ。というより進めば進む程に魔素を蓄えられますので、アミリアや私はどんどん楽になっていきますわ』
「そっか。うん。僕は蓄えるとかではないけど、まだまだ余裕かな」
『ええ、アカード様の動きは予想以上でした。恐らく、難なくこのまま進んでいけるかと思います』
『当然ですわ。主様ならこんなダンジョン軽く踏破出来てしまいますわ』
「そんなこと無いと思うんだけどな…」
刀の血を払い、鞘に納めて、魔石を集めるアカード。
『まあ、その内自覚されていくと思いますわ』
魔石の回収を終えると、談笑しながら一行は更に進んで行く、そして、格子とは違う、木製の扉が通路の途中にあることに気付いた。
『…中からかなりの数の魔物の気配を感じます。魔物の巣の中に突っ込ませる罠でしょう』
『如何なさいますか、主様?』
「うーん…危険なら避けたいけど…」
アミリア、ミクズに視線を送る。
『余裕ですわ』
『なんなら、殲滅して参りましょうか?』
余裕そうな返事が返ってくる。
「…魔石も欲しいし、行ってみようか」
問題ないと判断し、アカードは突入することを決める。
『では』
アミリアが扉を蹴破る。
部屋はがらんとしており、その中央に宝箱がポツンと安置してあった。
『いかにもな餌ですね』
『隠す気あるのか疑ってしまう程、センスが無いですわ』
「分かってはいるけど、魔物が出そうな雰囲気が満々だね」
先頭のアミリアが一歩部屋に踏み込むと、天井から蜘蛛の魔物であるタランがボトボトと落ちてくる。そして、部屋の中央に向っていくアミリアに、次から次に飛び掛かっていく。
『つまらん』
アミリアの一太刀でタランは緑色の血と肉塊を散らして、叩き落とされる。
そのまま部屋の中央まで辿り着くと、宝箱を蹴り開ける。
『ほら、出てこい』
宝箱が開くと、部屋の壁が崩れ、四方からグールや蛇型の魔物であるボアがアミリアへと雪崩れ込んでくる。部屋を埋め尽くす程の夥しい数であったが、部屋が明るく照らされたかと思うと、部屋の右半分の魔物が焼き尽くされ、消し炭に姿を変えた。
『むさくるしいですわ』
ミクズが燃え盛る狐を数匹召喚していた。
「…っと」
迫ってきた数体のグールとボアを居合の一閃で横一文字に切断するアカード。そして、返す刃の二の太刀で首を切断し、絶命させる。そのまま前進し、飛び掛かって来るタランやボアを斬り落とし、グールの首を撥ね、死体の道を作っていく。
『…相手が悪かったな』
アミリアが若干の憐みを込めて、残りの魔物の前に右手をかざす。影が伸び、魔物の残党の足元を塗り潰していく。
『消えろ』
その一声で、影から無数の黒い槍が突き出て、魔物を一匹残さず、串刺しにした。
あっという間に制圧し、部屋中に舞っている魔素をアミリアとミクズが吸収し、アカードは大量に転がった魔石を拾い集めていく。
「…これ以上、魔石持てないかも…」
魔石収納用の袋がパンパンになっている。
『あら?だいぶ集めましたものね。ですが、困りましたわね。また戻るの面倒ですし…』
『…アカード様。ひょっとしたなんとか出来るかもしれません』
「え?本当?」
『はい。確証はありませんが…どうやら、魔素を吸収したおかげで、私が使える能力が増えたようなのです』
「増える??能力が増えたりするの?」
『ええ、私達コン石は魔素を吸収すればするほど力が増していくということは以前お話したと思いますが、使える技や能力も増えていくようなのです』
ミクズがアミリアに頷きながら話す。
「ってことはミクズも増えてたの?」
『はい。私は、火や風を自在に扱えるようになったり、料理の味付け等ですわ』
「ああ!!だから、あんな美味しく出来たんだ!!」
合点がいったアカード。
『…はい、私は味付けではありませんが、影を自在に操れるようになってきました』
確かに、アミリアは始め剣の衝撃波として使っていた黒い影を、剣を出さずとも自在に操れるようになっている。
『アカード様、そちらの荷物を預かっても?』
アミリアに促され、アカードは魔石がパンパンに詰まった袋を渡す。荷物を受け取ったアミリアは自分の影にその袋を落とす。すると、袋は床にぶつかることなく、アミリアの影に沈んでいった。
「え?袋は?」
『私の影の中に仕舞いました。必要なら、このように』
アミリアが自分の影に触れると袋が出てくる。
「すごい!!」
『流石ですわ!』
『恐縮です。どうやら、私の影は、まだまだ収納出来るようですので、荷物の心配はせずに先を進めると思います』
「分かった。なら、このまま先を進もうか」
『承知』
『仰せのままに』
「…とその前に、宝箱の中って何か入ってる?」
魔素や魔石の回収という目的を達成し、忘れていた宝箱を覗き込むアカード。魔道具等を期待したが、中には鉄のインゴットが入っているのみであった。
『まあ、そういうものですわ』
『はい、充分魔素と魔石も回収出来ましたからね』
「うん。…まあ、そんなうまくいかないよね」
鉄のインゴットもアミリアの影に収納し、一行は、再び、薄暗い石廊の通路に出る。
そして、暫く進んで行くと、下の階層に通じる階段があり、更に暗いダンジョンの深部に降りていく。
『…どうやら、今までの階層とは違うようですね』
アミリアが影で顔を覆い、兜へと変えて顔を隠す。
「凄い広いね」
『魔物の気配もありませんし、安全な場所なんでしょう』
階段を下ると、そこは広いぽかんと開けた空間が広がっていた。天井は高く、光るコケがあちこちに自生しており、今までの通路よりも明るかった。そして、安全地帯ということなのか、何組かの探索者グループが休憩していた。
「…人がいるね」
用心のため、アカードはフードとマスクを少し締める。
『ええ、休憩するには丁度良い所なのでしょう』
「おや?いらっしゃい」
そして、周囲を見渡している三人に、目深くフードを被った小柄な人物が話しかけてきた。




