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2-4

一夜明け、曇天の中、三人は王宮に繋がるメインストリートを進んでいた。


 「…大きいね」

 アカードが眼前に迫ってきた、現在はダンジョンとして機能している、かつての王宮を見て、呟く。


 『ええ、なかなか雰囲気のある装いですわ』

 所々、穴が空いたり、崩れたりしているが、堅牢な城壁はその威容を保持しており、聳え立つような塔が曇天を突いている。


 「…あの一番高い所が、王様とかが居た所?」

 

 『…いえ、あそこは礼拝堂だった場所です。私の記憶では、あそこまでの大きさはありませんでしたが…』


 「え?ってことは、ダンジョンになってから変わったってこと?」


 『恐らく。なので、内部も私が知っている構造とは異なっていると考えられます…どうやら、案内は出来そうにありません…申し訳ありません』


 「ううん、気にしないで。慎重に探索することには変わりないから」


 『ええ、それに、私もですが、アミリアも魔素の流れを読めますでしょ?恐らく、その力があれば、トラップや魔物の位置も把握可能でしょうし、なんとでもなりますわ』


 『…ありがとうございます。なら、微力ながら、全力をもって御供致します』


「うん。じゃあ、行こうか」

そして、三人は苔むした城門をくぐり、城内へと進んでいった。


===

 『あらあら』


 「うわぁー」

 城内にはいると、天井が崩れて曇天の空が覗いており、瓦礫の山が礼拝堂に繋がる奥への道を塞いでいた。


 『…ご丁寧に、分かりやすい所に穴があります』

 そして、瓦礫の山の手前に、地下へと続く大きな穴がぽっかりと開いているのを見つけて、アミリアが呟いた。


 『ここから進め、ということなんでしょう』


 『はい、そういうことかと。…ちなみに、私の記憶では、城の地下には何もありませんでした』

 地下へと続く穴には、石段が拵えられていた。


 「うーん、やっぱり構造が変わってるんだね」

 じっと石段、そして瓦礫の山を見て暫く考え込むアカード。


 『どうしました?主様』


 「うーん、正攻法なら、この階段を降りて行くんだろうけど、これぐらいの瓦礫、ミクズやアミリアさんなら吹き飛ばせるんじゃないかなって思って」

 ミクズやアミリアの一撃をまざまざと見せつけられてきたアカードだからこその提案だった。


 『…確かに、いけそうな気はしますね』


 『ええ、余裕ですわ。吹き飛ばしますか?』


 「やってみる?言っといてあれだけど、崩れたりしない?」


 『軽めにしますわ』

 言うが早いか、ミクズから風の刃が放たれる。


 その風刃は瓦礫のみを綺麗に削り取り、アカード達の目の前に、道が開かれる。


 「おお!凄い!!」


 『流石、ミクズ様。見事な力加減です』


 『これぐらい、当然ですわ。さぁ先に進みましょう』

 振り向き、自慢気に胸を張るミクズ。


 「うん、い」


 『ミクズ様!』

 ミクズの背後。瓦礫を削り取った空間を見つめ、固まる二人。


 『…やはり、そう上手くはいきませんか』

 吹き飛ばしたはずの瓦礫が音を発て集まり始める。そして、それは次第に大きくなり、曇天の空を隠し、三人に影を落とす程の大きさとなる。


 「な、なにこれ?」

 人型になった瓦礫の塊を観て、アカードが尋ねる。


 『…ゴーレムです』


 『はー…去ね』

 ミクズが振り返りながら、手を振るう。


 〈ガ、ガ、ガガガ〉

 ゴーレムに風刃が叩き付けられ、巨大な胴体に三本の傷が入った。だが、その傷は瞬時に修復され、ゴーレムは右腕をミクズへと振り下ろす。


 『アカード様、お怪我はありませんか?』

 飛散してきた瓦礫を、アミリアが弾き落とし、アカードを庇う。


 「っと、ありがとう。大丈夫!」

 振り下ろした先に何も無いことに気付き、ゴーレムはキョロキョロと周囲を見渡している。


 『まったく、再生ですか。面倒くさい特性ですわね』

 いつの間にか、ゴーレムの頭上に飛び上がっているミクズは、そう毒づき、右手に魔素を集め始める。


 『主様!アミリア!次は()()()()威力を上げます。少し下がっていてください』


 『承知!』


 「わかった!」

 二人が安全と思える距離まで飛び退くと、ミクズから熱線が放たれ、ゴーレムに直撃する。


 「アッつ!え?ちょ、()()()()!?」

充分に離れたにも関わらず、吹き付ける熱波が、アカードの肌を焼く。


 『凄まじい破壊力ですね。瓦礫とはいえ、石材で構成されたゴーレムを溶かしています』

 アミリアも、腕で顔を覆い、目を細めて、焼き尽くされるゴーレムを見つめる



 〈ギガガガギギガ…ガ、ギ〉

 頭上から熱線の直撃を受けて、悲鳴のような機械音をあげながら、ゴーレムの上半身が溶け落ちていく。


 『こんなものでしょうか』

 ゴーレムを左脚の爪先がかろうじて残っているのみまで溶かし尽くすと、ミクズがアカード達の側に降り立つ。


 「凄い威力だったね」


 『ええ、感服致しました』


 『ありがとうございます。主様に仕えるモノとして、これぐらい当然ですわ』

 二人に褒められ、胸を張るミクズ。


 『それにしても、ミクズ様だから対処出来たものの、並の探索者がこのゴーレムを突破するのは、難しそうですね』


 「…うん。やっぱりズルはしちゃダメってことなのかな」


 『まぁ、それでも突破出来るなら、それが正攻法ですわ』


 『そうかもしれませんね』


 「うーん、そんなものなのかな?」

 戦闘が終わり、気を抜いて談笑しながら、三人は開けた道へと歩き出す。

 だが、一歩踏み出そうとした、その瞬間、前方より粘度の高い液体が蠢く、不快な音が聞こえてくる。


 『…』


 『…』


 「…」


 〈ガ、キキ、ガガガ〉

 赤くどろどろと溶けた石材をまとったゴーレムが、ぐにゃぐにゃと揺れながら三人の前に立ち塞がる。


 『…どうやら、このダンジョンはそれを正攻法として認めてくれないようですわね』


 『はい。全く融通の効かない所です』


 「えっと…どうしようか」

 

 三人に見つめられながらゴーレムが両腕を高く上げる。赤く溶けた石材がぼとぼとと、床に落ちている。


 <ギ…!>

 だが、振り下ろそうとした掲げたその両腕は、赤く溶けている頭と共に、落下した。


 『しつこいですわ』

 ミクズが右手を軽く振るい、風の刃でゴーレムを切り捨てていた。

 そして、更に風刃をもう一撃、胴体に叩き込むと、切り裂かれた胴体から赤い大きな石が覗く。


 「ミクズ!あれって」

 

 『あれが、核ですわ!』

 更に、風刃を叩き込むミクズ。

 その一撃は正確に、ゴーレムの核を砕いた。

 

 <ぎぎぎぎぎぎぎ…がががが…ぎぎ…>

 ゴーレムの動きが止まり、溶けていた身体が、ボロボロと崩れていく。


 <…ぎぎ…ぎ…ぎ>

 途切れ途切れに機械音が続き、次第にその間隔が長くなり、遂に、ゴーレムは赤い溶鋼(ようこう)へと変わり果てた。


 「…終わっ」

 アカードが呟こうとしたした瞬間。溶鋼が虹色に発光する。そして、乾いた音を響かせて、瓦礫片となって飛び散り、再び奥の道を塞いだ。


 「ええええーー」

 元通りに塞がれた通路を見て、アカードが叫ぶ。


 『…働き者ですわね…』


 『ここまで徹底されると、本当に感心してしまいますね』

 

 『はー…仕方ありません。埒があきませんし、正攻法で行きましょう』

 長くため息をついて、ミクズが石段を指さす。


 「…うん。まさか、ここまでとは思わなかったね。魔素も集めないといけないし、切り替えて、ここは素直に行こう」

 アミリアも頷いて、三人は石段を下っていく。

 石段はすぐに下の階に繋がっており、下の階は長く暗い石廊が続いていた。だが、壁には規則的にかがり火が設置されており、薄暗いながらも石で組まれた回廊が続いていることが見て取れた。


 『ここからは、私が先に行きます』

 アミリアがアカードとミクズの前に立つ。


 『ええ、では私が殿を。主様は真ん中でアミリアと私のフォローをお願いします』

 

 「分かった」

 一列に並び、じめじめとした廊下を歩いて行く。かがり火があるとは言え、床の凹凸は激しく、気を付けないと躓きそうになる。


 『どうやら、モンスターもいるようですが、これは何でしょうか、上の階とこの階の間の空間に詰め込まれているようで、…罠か何か有るんでしょうか』


 『こういう時は、特定の床を踏むと発動するというのが相場ですわね』


 「あ、あそこの床とか、なんか出っ張ってるよ」

 アカードが指差した床は、確かに、周囲より突き出ていた。


 『ああ、本当ですね。では』


 『ええ。後方は私がやりますわ』


 「いやいやいやいやいや、ちょっと待ってよ!」

 流れるようにリスクを踏みに行く二人に、アカードの突っ込みが追い付かない。


 『あ、アカード様が踏みたかったですか?』

 申し訳無さそうに、周りより突き出た石畳を踏み込んだアミリアが謝る。


 「違うよ、違うんだよ…!」

 

 『主様も欲しがりですわね。大丈夫ですわ。次が有りましたら、ちゃんと主様に踏んでいただきますから』


 「そういうのは欲しくないんだよ…強いて言えば、安全が欲しいんだよ」

 アカードの嘆きは、前方と後方の石廊から響いてきた落下音に掻き消される。

 そして、金属音と共に、ガチャガチャと乾いたモノがぶつかり合う音が前から後ろから響いてくる。


 「もう、やるしかないんだね!」

 諦めて刀を抜き放つアカード。


 『アカード様、一番槍は頂きます』

 アミリアが頭上へと掲げた虹色の剣を振り下ろすと、闇よりも黒い影が前方へと放たれる。

 黒い影が乾いた音の主に届くと、砕ける音や潰れる音が反響してくる。

 そして、次第に静まり返り、静かになった前方の暗闇から、コロコロとアミリアの足下に何かが転がってくる。


 『…やはり、スケルトンでしたね』

 アミリアは、転がってきた頭蓋骨を右脚で踏み潰した。


 「う、うん」


 『あら、先を越されてしまいましたか…なら、こちらもさっさと片付けてしまいましょう』

 後方の闇に向けられたミクズの右手の前に、いくつかの火の玉が浮き出る。それは次第に狐の形を成し、獰猛な唸り声をあげて、未だ姿が見えない闇の中の敵へと襲い掛かっていく。


 <…カッカカかか…>

 燃え盛る狐に噛みつかれたスケルトンは、轟々と燃え上がり、後方の通路が赤く照らされ出す。

 

 『終わりましたわ』

 ミクズの発言と共に、煙も残さず、狐火が消えた。後には黒炭になった骨片が落ちているのみであった。


 「…うん」

 せっかく、気持ちを切り替えたにも関わらず、何もやることが無くなったアカードは刀をそっと鞘に戻した。 

 

 『…あれしきの存在に、主様が手を煩わす必要はありませんわ』


 『ええ、露払いは我々にお任せを』


 「…うん、露払い?とかは任せるよ。でも、あんまり危ないことはしないでね」

 

 『ええ、主様を危険に晒すようなことは決してありませんわ』


 『もちろんです。守り抜いてみせます』

 

 「…うん、宜しくお願い、します」

 二人の美人に守ると言われ、男としてこれで良いのかと思いながらも、アカードは只、頷いた。


===

 スケルトンのトラップを抜けて、石廊の突き当りを曲がると、道が二手に分かれていた。


 「どっちかな」


 『これは…進むならば左の道です。右の道は…なんでしょうか、なにか遮断されているような、先を伺いしれません』


 『…そうですわね。進むなら左ですわね。右は何かあるようですが、確かに、はっきりと分かりませんわ。如何致しますか、主様?』


 「なら、左で。右は帰りに余裕があったら、ね」

 今度こそ、安全第一の選択をするアカード。


 『承知です。では左側の通路を進みましょう』

 アミリアが頷き、一行は左側の通路を進む。

 石廊はスロープのようになっているようで、一行は暗いダンジョンの深部の、更に闇が深い方へと徐々に下っていった。


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