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2-6

 「兄さんら、見ない顔だね。ここに来たのは初めてかい?」

 馴れ馴れしく話しかけてくる小柄な人物。フードを目深く被っており、声質も中性的であり、男なのか、女なのか、判別がつかない。そして、後ろにもう一人、同じくフードを目深く被った長身の人物がボーと立っている。


(『…主様、ここは私が』)

ミクズの声が頭に響き、アカードとアミリアはミクズに道を譲る。


 『ええ、初めてですわ』

 

 「そうかい!この階層までくるなんて、見た目に依らず、かなり腕が立つんだね」

 ちらりと探るようにアカード達は、盗み見られる。


 『…いえ、たまたま運が良かっただけですわ。…ところで、あなたはこんな所で何をされているんですか?』

 

 「ああ、これは失礼失敬。僕らはここで探索者相手に商売しているしがない商人さ。以後、お見知りおきを」

 わざとらしく頭を下げる商人。


 『こんな所で商売なんて、逞しいですわね』


 「いやいやいやー、こんな所だからさ。ここは滅多にモンスターも出ない比較的安全な階層なんだよ。だから、探索者御一行様が休憩によく使うんだ。そして、休憩っていったら、ご飯やお水、切れてしまった回復薬等、色々と入り用だろ?そんな方々は、立派なお客様って訳さ」

 そう言って、背後に置いてあった大きな荷物を指差す。


 「なにか必要なものはあるかい?なんなら、魔石や魔道具の買い取りもしているよ」


 『…なるほど、道理ですわね。ただ、私達は運良くあまり消耗せずにここまで来れましたから、取り立てて必要無いですわ』


 「そうかい?いくら消耗が少ないとはいえ、大きな荷物もなければ、運び屋も連れてないみたいだけど?どうやってこれから過ごすんだい?そもそも集めた魔石はどうしたんだい?それに兄さんら武器はどうし」


 『…それは、言わなければならないことでしょうか?』

 笑顔から真顔になり、商人の問いを遮ってミクズが応答する。

 

 「…あー、これはこれは、また失礼失敬。どうも好奇心が強い質でね。ずけずけと聞いてしまって、すまない」

 地雷を踏んだことを悟り、商人はたじろぎ、両手を上げて後ずさる。


 『…分かって下されば構いませんわ』

 再び笑顔で応えるミクズ。


 「そ、そうかい。なんというか、本当に悪かったね。その、お詫びと言ってはなんだけど、ここが初めてという兄さんらに、少し情報をサービスしよう。いや、有益になるかどうかはわからないけど、腐る訳でも荷物になる訳でもなし、どうかな?」


 『…あら?では、参考までにお聞かせ頂けますか?』


 「あいよ。もし話を聞いて欲しいモノが出てきたら、言ってくれ」


 『…本当に商魂逞しいですわね』


 「ハハハ、まあね。…オホン!それではまず、我々がいるこの場所の説明なんだがね。ここはこのダンジョンの地下五層目にあたるんだ。ここの特徴にはもう気付いてると思うけど、魔物が侵入してくることが滅多にない場所…まあ、例外的に、探索者を追って魔物が侵入してくることもあるんだがね。それで、なんでここには魔物が入ってこないかって話しなんだけど、この先、見えるかい?あの扉?」

 商人が指さす方向に目をやると、大きな扉が存在している。


 「あの扉の先に番人がいるのさ」


 『番人?ですか?』

 

 「そう。倒さないと次の階層に進むことが出来ない存在、故に探索者達はそういう存在を番人って言っているんだけど…ともかく、そういう存在って他の魔物よりも強力でね、その気配を感じ取って魔物が寄ってこないって言われてるんだ」


 『そんな存在がいるのですね』


 「そうなんだよ。ちなみにここの番人はデュラハンって話さ」


 『デュラハン?あの首無し騎士のデュラハンですの?』


 「そうそう!物知りだねお姉さん!その首無し騎士のデュラハンさ。スケルトンやグールなんかと比べようもなく強力で、頭が付いてない癖に、知能もある厄介な魔物。だから、ここから先に進むには〔黄昏級〕じゃなきゃダメだよ」


 『…黄昏級…?』


 「…あれ?姉さんらモグリかい?自分自身の錬魔を知らないってことは」


 『…』

 冷たく、ミクズが睨む。


 「わ、悪かったよ。詮索はなしだったね。えっと、錬魔ってのは、探索者や傭兵とか、とりあえず戦士系ギルドに所属する奴らが大事にする強さの証明みたいなもんさ。下から〔白紙級〕〔黒布級〕〔黄昏級〕〔赤燐級〕〔青嵐級〕〔紫煙級〕あー、その上になんかあった気がするが…なんだったかな…まあ、その上にいける奴なんて伝説級の化物だけだし関係ないか、とりあえず、そんな順で強さに色がついてるんだよ」


 『そうでしたの…勉強になりますわ。でも、その色はどうやって決まるのですか?』


 「詳しいことは分かってないらしいんだけどね。何でも、戦闘とか死ぬかもっていう強烈な経験を乗り越えたりしてると、人間は魔素を吸収していけるらしいんだ。…ええと、確かこの辺に…それで、その蓄えられた魔素で色が変わる紙があるんだけど…」

 商人がごそごそと鞄を漁り、一枚の白い紙を取り出す。


 「あったあった。これこれ、魔素反応紙っていうんだけどね。これを力強く握ると、その人が持ってる魔素の量に応じて色が変わるんだ。駆け出しは色を変えることも出来ないから〔白紙級〕んで少し慣れてくると黒く色を変えられるようになるから〔黒衣級〕、そしてベテランの域に達し始めたら紙が黄色になって〔黄昏級〕って訳さ」


 『ということは、この先はベテランの探索者じゃないと危険な領域ということですの?』


 「そういうことだろうね。兄さんらも一つ測ってみるかい?安くしとくよ」


 『…そうですわね。あいにく持ち合わせが無くて、宜しければ、鉄のインゴットと交換してくださいません?』


 「鉄のインゴットか、そうするとこの紙だけじゃ割に合わないね。他に何か欲しいものとかあるかい?」


『では、他に情報等ありますか?』


 「うーん、他の情報か…そうだな。僕が知ってる所だと、番人とかを倒すと鍵を落とすらしいんだ。で、ダンジョンを進むと、その鍵を使って、入り口まで戻れたり、入り口からそこまでショートカット出来るようになるらしいよ…うーん、他、他は…ああ、噂話程度の信憑性だから、眉唾モノだけど、このダンジョンだけでなく、全てのダンジョンには主がいるんだけど、その主とは別に、隠された本当の主がいるらしいんだ。どこにいるのか、どうやったら行けるのか情報は無いんだけどね。あー、ごめん、これぐらいしかないかな」


 『…いえ、充分ですわ。参考になりました。ちなみに、赤燐級、青嵐級、紫煙級はどんな存在かお聞きしても?』


 「うん?ああ、気になるよね。赤燐級の人達はベテランの上、それこそ、ダンジョンを踏破こそしてないけど熟知している、有数の実力者って所じゃないかな。青嵐級はその上だから、戦士系ギルドのマスタークラスって所じゃない?英雄とかそういう存在かな?会ったことないから分からないけどね」


 『では、紫煙級は?』


 「そこまで行くと、人間かどうか怪しいね。一国と同等の戦力ぐらいあるんじゃない?あー、確か、青嵐級以上は国がその所在を把握してるって話だよ。それぐらい、脅威的な存在なんだろうね。ま、お目にかかったことは無いけどね」


 『そうですか。参考になりましたわ』


 「いえいえ、今後とも御贔屓に」

 商人はお辞儀をすると、ちらりと視線を階層の奥へと逸らす。


 「…それと、最後に老婆心ながら…お姉さん、ダンジョンでその艶やかな衣装は不味いよ」


 『…何故ですか?』


 「魔素に寄って来る魔物が如く、姉さんの美貌とその色気は、ダンジョンに潜っている血気盛んな野郎共を引き付けちまう」

 見れば、階層の奥で休んでいた三人組の探索者がこちらに近づいてきている。


 『ご忠告、痛み入りますわ。…ですが、羽虫程度、払えば済む話ですわ』

 ミクズは、アミリアがいつの間にか自身の影から取り出した鉄のインゴットを商人に渡し、白い紙を受け取る。


 「毎度…ああ、綺麗なインゴットだ。これはサービスしないとだね。…あちらさんは黄昏級の探索者だと思うよ…もし、ご入用なら、魔素を強化出来る特効薬もありますが??」

 商人はポケットから虹色の飴玉のようなものをミクズに見せる。


 『結構ですわ』

 ミクズはそれを一瞥すると、即時に断った。


 「そうですか…では、ご武運を」

 商人らは荷物をまとめてアカード達から離れていく。


 『…お疲れ様です。今度は私にお任せ下さい』

 兜で顔を隠しているアミリアが、歩いてくる探索者の前に立つ。


 「…こりゃ上物だな、おい」

 無精髭を生やした中肉中背の探索者が声を掛けてくる。鉄の胸当てや籠手には点々と返り血が付着しており、腰には短剣がぶら下がっている。


 「…ああ、しかもそんな恰好で、誘ってんだろ?姉ちゃん?いくらだ」

 その後ろにいる男がミクズを見つめる。短剣の男よりは軽装であり、腰の両側にフォルスターが装着されており、魔銃の柄がのぞいている。


 「…兄ちゃん、悪いな。こちとら昂ってんだ。ちょっと()()()ぜ」

 そして、もう一人、長筒の魔銃を装着した赤ら顔の男が荒い息をしながら、アカードに一方的に告げる。


 「…」

 アカードは無言で刀の柄に手を掛ける。


 「やめとけよ。こっちは三人、黄昏級だぜ?金は払うってんだ。ここはお互い平和的に行こうぜ。姉ちゃんもそんな恰好でダンジョンに潜っちゃいけないって勉強代だと思って、我慢しな」

 二丁の魔銃をいつでも抜ける様に構えながら、軽装の男が言う。


 『…』

 アミリアは何も言わずに、手を前に出す。


 「…お?なんだよ。お前も女か。なら、ほら、こっちこいよ」

 鎧の胸の部分が膨らんでいるのを見て取り、短剣の男がアミリアに手を伸ばす。


 『言葉が上手い獣め』

 

 「…は?」

 アミリアに触れようとした男の右腕が地面に落ちる。


 「う、うああああああああああああああ!!!いてええええええええええ!!」

 騒ぎだす短剣の男。


 「あ?何騒いでんだ。興奮しすぎて狂ったか?」

 

 「ばっか!!!腕斬られ…あれ?」

 だが、斬られと思った腕はまだ、付いていた。


 「…な、なんで?」

 

 「どけ!もう俺は我慢出来ねえぜ」

 今度は二丁魔銃の男がアミリアに迫って来る。


 『…跪け。猿ども』

 どこまでも冷たく、頭の芯まで冷やすような言葉が吐かれる。

 

 「…あ、あああ」

途端、二丁魔銃の男が腰砕けになり、崩れる様に座り込んだ。


 「…ひ」

 

 「…な、なんだよ、この寒さ」

 そして、残りの二人もその場で座り込む。まるで、化物と対峙したかの如く、身体中の力が入らなくなり、歯がカチカチと鳴り止まない。


 『…』

 アミリアが軽く手を振ると、三人の首が斬り落とされて、地面に転がっていった。


 「あああああああああ」


 「…うぇええ」


 「…」

 そんな光景が頭によぎった三人は口から泡を吹いて、気絶した。


 『たわいもない。気を当てただけだというのに』

 アミリアが呆れながら、倒れている三人を見下す。


 『まあ、滾っていたらしいですからね、頭が冷えて丁度良いのではないですか?』

 ミクズはクスクスと笑っている。


 「…これで黄昏級なのか…」

 アカードは三人の動きのあまりの遅さ、不甲斐なさに驚愕していた。


 『ええ、すでに主様はそこら辺の探索者より上位にいらっしゃるんですよ』

 ミクズがアカードに魔素反応紙を手渡す。

 

 『強く握ってみてください』

 

 「う、うん」

 アカードは白い紙を強く握る。


 『…やはり、というか、凄まじいですね』

 アミリアが紫に近い濃い青に変わった紙を見つめる。


 『今はまだ紫煙級に近い青嵐級…ですが、まだまだ主様は伸びていきますわ』


 「えっと…なんで、こんなに蓄えてるの…僕?」

 

 『…まあ、色々な経験もされてきましたし、きっと何か、良い事もあったのですよ。さ、早く先に行きましょう』

 ミクズは固まるアカードの腕を掴み、奥の扉へと向かっていく。


 「え、ちょ、ちょっと、待ってよ、ミクズ」

 

 『…アカード様、頑張ってください』

 引きずられて行くアカードに聴こえないように呟いて、アカードの落とした紙をそっと自分の影に仕舞うと、アミリアも奥の扉へと歩き出した。 

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