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2-1.新しい事実と、新しい決意

 書き溜めたものが増えて来たので、また投稿してみます。誤字だったり、破綻だったり大目に見てください。

 どこまでも青い空が広がり、日に焼かれた石畳で視界が歪む、夏の午後。黒装束ではなく、カーディから貰ったラフな服を来たアカードと、スーツ姿のカーディが、モトアザの中心区画を歩いていた。


 「うむ。まだまだ復興には時間が掛かりそうですね」


 「…はい」

 中心区画にある崩れた神殿を二人で眺める。あちこちで労働者達が日に焼かれ、汗を垂らしながら、瓦礫を撤去している。


 アミリア騒動から二週間が経過した。中心区画が崩壊し、主要なギルド案内所が軒並み機能を停止したことで生じた混乱もだいぶ落ち着き、街も日常を取り戻し始めていた。

 瓦礫の周りを走り回る子供達、労働者に冷えた飲み物を売る可愛らしい売り子、怒鳴りうように指示を飛ばしあう職人達、皆、黒く日焼けしており、広場は活気に溢れていた。


 「さて、我々は我々でやるべきことをやりましょう。一日も早い復興のために」

 そう言って、カーディはアカードの肩を叩き歩き出す。アカードは少しでも復興を手伝おうと心に誓って、カーディの後を追いかけた。

 

 あの騒動を経て、ヴァンヘルム家の秘密を知ったアカードは、カーディ達がモトアザで活動するために、各方面にいくつかの拠点を築いてきたことを聞かされた。今日はその中でも、最も重要な拠点に案内するということで、カーディに付いてきていた。


 「もうすぐ着きますよ」


 「カーディさん、こんな中心区画にまで拠点を作っているんですか?」

 カーディが進む先は、治安維持の要であるモトアザ警備隊本部、街の方針を決める議会所、多数の書物を貯蔵する図書館とモトアザの重要な施設が存在するエリアだ。


 「ええ。長く住んでいる、それだけでも色々と出来るものなのですよ」 


 「そうなんですか…ひょっとして、警備隊本部も拠点だったりして?」

 アカードは冗談っぽく尋ねる。


 「ハハハ、全部ではないですがね」


 「…え?」


 「さて、着きますよ」

 カーディは驚いているアカードを尻目に、赤い雫が描かれた大きな建物を指差した。


 「…え、いや」


 「参りましょう」

 固まっているアカードを気にせず、カーディは入り口をくぐり、進んで行く。中は、表面が綺麗に磨かれた石の床が窓から入る光を反射しており明るく、天井も高いため、開放的な印象であった。そして、長い廊下が続き、壁には、規則的に椅子や扉が並んでいた。

 進んでいくカーディを見付けた受付とおぼしき女性が、頭を下げる。カーディは右手を挙げるのみでそれに応え進んでいく。


 「…カーディさん、ここは?」


 「治療院、という名前は、聞いたことはありませんか?」

 キョロキョロとするアカードに、カーディが尋ねる。


 「…はい、聞いたことないです。でも、名前から、何か治療する所なのかな?って思います」


 「ええ、その通りです。…では、アカード()、質問です。治癒や祝福系スキルを有している者もいる中で、なぜこのような所があるか分かりますか?」

 迷うことなく進んでいくカーディとはぐれないように、アカードは背中を追っていく。


 「ええと、スキルを持っている人が少ないから、ですか?」


 「ふむ。確かに、多い訳ではありません。ですが、十把一絡げにしてしまえば、少ないという訳でもありませんね」


 「…十把一絡げ…ってことは、その同系統のスキルでも、個人差があることと何か関係しているんですか?」

 カーディが階段を上りはじめる。


 「流石、ご明察です。治癒スキルを持ってる方はかなりの数いらっしゃいますが、その能力には個人差があります。擦り傷程度の治癒が限界の人もいれば、切断された部位を再生出来る方もいる、という具合に」


 「それは…大きな差ですね」


 「はい。ですが、それでは困るのですよ。もし、目の前で大怪我をされた方がいたとしても、その怪我を治療出来る能力を有する方を待たなければならない。そうすると、助かる者も助かりません」

 二階を越えても、まだカーディは登っていく。


 「それに、治癒スキルは外傷系には強いのですが、風邪、腫れ物、湿疹等、身体の内部に対してはあまり効力を発揮できません。祝福系スキルはそちらが得意なのですが、定期的に施す必要があり、一人で対応出来る人数は、かなり限られてしまいます」

 最上階である三階に着き、廊下を進んでいく。コツコツとカーディの靴音が規則ただしく響く。


 「故に、多くの人を助けるために、スキルに頼らない治療術が必要なのです。そこで作られたのがこういった治療院というわけです」

 そして、廊下の奥にあった、大きな木製の扉を開き、中にアカードを招く。


 「どうぞ」


 「あ、ありがとうございます」

 室内は、立派な木製の仕事机が置いてあり、その手前には来賓用のソファーが設けてあった。周囲の壁には本棚が設置されており、どの棚にも大量の本が詰め込まれていた。

 カーディはアカードをソファーに案内すると、部屋の片隅に置いてあったポッドから、紅茶を二人分準備する。


 「そして、モトアザにある最も大きな治療院が、このモトアザ中央治療院というわけです…温かくはありませんが、良ければどうぞ」

 アカードの前に紅茶が注がれたカップと、いくつかの茶菓子を運び、自分もティーカップを持ちながら、アカードの対面のソファーに腰かけるカーディ。


 「いただきます。治療院ってそういう所だったんですね…勉強になります…それで、カーディさんはこの治療院で働いているんですか?」

 

 「ええ。申し遅れましたが、当院で院長をしています」


 「…え?えええええ!?」

 固まるアカードを見て、カーディはニヤッと悪戯っぽく笑い、紅茶を優雅に飲んだ。


 「驚いてくれましたか?」


 「ええ、びっくりですよ!」


 「それは結構。ここまで言わずに我慢した甲斐がありました」

 悪戯っぽく笑うカーディ。


 「もう…本当に驚きましたよ。でも、院長なんてやって大丈夫なんですか?」


 「と、申しますと?」


 「いや、裏ギルドでカーディさんも活動されてる手前、あまり顔は知られない方が良いんじゃかなって」


 「ああ、その点は抜かりないですよ。各部からの報告も全て書面で上がるようにしていて、面と向かって話すということはありません。そのため、私が院長だと知っている人は信頼出来る数人だけです」


 「そうなんですか?でも、それだと不思議に思われるんじゃ?」


 「まあ、確かに、分からないから知りたくなるというのが人の性なのかもしれませんね…なので、もう一つ手を打って、こんな噂を流しているのですよ…曰く‘職員の中に人事権や予算権を有している院長が紛れ込んでいる。それを知ろうと探りを入れてはいけないし、知ったならば追放される’と」


 「…なんか、木を隠すなら森の中みたいですね…」


 「ハハハ、言い得て妙です。しかし、この噂は‘ひょっとしてこの人が院長では?’と相互監視という効果も発揮させます。故に院長である私が何かせずとも、職員の皆さんは下手なことをしなくなるのですよ…まあ、そんなことをせずともここの方々は優秀ですがね」

 そういって、目を瞑りながらカーディはゆっくりと紅茶を飲む。窓から差し込む逆光がカーディの影を浮きだたせている。


 「…なるほど、カーディさんが院長であることは理解出来ました。でも、なんでここが()()()()()()()なんですか?」


 「…それは、我々が、ヴァンヘルム家の生き残りが、吸血鬼であるからです」


 「…あ」

 赤い雫が描かれた治療院のマークを思い出すアカード。


 「…我々はおとぎ話の様に太陽の光やニンニクでは滅びません。流れのある川も跨げますし、棺桶で寝るよりフカフカの布団でゆっくり眠りたいです。…ですが、定期的に人の血の摂取は必要なのです…この街に移ってきた当初は、夜に住人を襲って血を貰っていたのですが、次第にそういうやり方に嫌気が差してきましてね。当時、身体から血を抜くと健康になるという民間医療が信じられていましたので、それを隠れ蓑にするようになったのですよ。そして、それがこの治療院の始まりなのです」


 「…そ、そうだったんですか…なんか、なんというか…」

歴史の真実を知り、言葉に詰まる。


 「吸われる方は治療行為として健康のために血を差し出し、我々は治療行為のついでに血を頂く。どちらにも得しかないシステムではないですか?」


 「た、確かに」

 

 「まあ、今は、輸血のために血液を採取してその一部を頂いているのですがね」


 「…それで、一番大切な拠点、と」


 「ええ。ヴァンヘルム家の恩人であるアカード様には知っていただきたかったのですよ。そして、アカード様が望むなら、深く根を張ったこの街を、簡単に献上できるという事を知らせておきたかったのです」


 「いや、いやいやいや、いらないです!!街、いらないです!!」

 首をちぎれるほどに横に振る。


 「…ふむ。残念です。ですが、気が変わったらいつでもお声がけください」

 まるで、喫茶店の注文の如き軽さで、カーディが伝える。

 アカードは冷たい汗を感じながら、胸のドキドキと混乱を紅茶で流し込む。


 「ああ、所で、アカード様はこれからまたダンジョンに魔石を採取しに伺うとお聞きしております」


「あ、はい。少しでも復興の力になりたくて」

嘘ではないが、ミクズやアミリアの魔素の補充も兼ね、アカードはレイに相談していたのだ。


「なるほど、確かに、そうですね。何を動かすにも魔石が使われてますからね。でしたら、アカード様、これを」

カーディが懐から、見覚えのある鍵を取り出す。


「これって」


「ダンジョンにある、隠れ家の鍵です。そこらの魔物は難なく倒せると思いますが、ゆっくり休める拠点もあった方が宜しいでしょう。中の物資も自由に使って頂いて構いません」


「ありがとうございます!ちゃんと掃除もします!!」

アカードの返事にカーディは笑いだす。


「ハハハ、真面目ですね。いえ、出来る所までで構いませんからね。それと、もし、よろしければ馬車もお貸ししますが?」


「あー、それは、、、」


(『不要ですわ。私がいれば事足りますわ』)

ミクズの声が頭に響き、アカードは返事に詰まる。


「、、、ああ、あの金色の従魔がいらっしゃいましたね」


「はい。彼女が助けてくれるかと思います。せっかくのご提案、すみません」


「いえ、アカード様のご都合に合わせます。我々としては、無事に帰って来てくだされば、それで充分ですので」

ガーディが微笑む。


「、、、ありがとうございます」

アカードは胸が温かくなるのを感じながら、礼を述べる。


「礼には及びませんよ。ただ、一つ気になることが御座います」


「気になること?」


「ええ。最近、この治療院に同じような症状を発症されてる患者様が増えているのです。具体的に言えば、精神を病まれた方が担ぎ込まれてくることが多いのです」


「精神を?」


「はい。分かりやすく申せば、発狂されているのです。アルコールの過剰摂取や過酷な環境での生活等で、以前より、そういう患者様は一定数いらっしゃいました。ですが、ここ最近は異常に多いのです。しかも、つい数日前はバリバリと働いていたという方々がほとんどなのです」


「それは、、、確かに、気になりますけど」


「ええ、そして、そのほとんどの方が戦士ギルドに所属し、ダンジョン探索に出向かれた後に発狂している、という共通点があるのです」


「!!」


「何かが起きているのか、ただの偶然なのか、まだはっきり致しません。ですが、繰り返しますが、我々はアカード様が無事に帰って来ることを、日々を幸せに生きてくださることを、何よりも願っております。どうか、くれぐれも、無茶は致しませんように」

カーディがアカードを真っ直ぐと、見つめる。


「、、、心します」

そう言って、アカードは、冷たい重さを感じさせる銀色の鍵を受け取った。


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