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1-32.これからの道

 (僕がボス!?)


 『ええ。それが一番納まりが良いですわ』


 (そ、そんなこと…)


 『いや、一理ある』


 (あ、アミリアさん!?)


 『無意識か意識的かは分からないが、主の間に呼び出した時点で、三人の気持ちは決まっていたのだろう』


 (な、なんで…)


 『正体は明かしていない。だが、恐らく、昨夜の戦いに、ある、お、お前が関わっているのを薄っすらと気付いている』


 (だからって、なんで、ボス??)


 『どんなに言葉で飾ろうとも、薄皮一枚剥がせば、人とて獣。自分より強いモノは理屈無しで認めてしまいますわ。それが宿願を叶えてくれた存在なら尚のこと』


 (…ぼ、ボスって何すれば?)


 『…一つ、考えがある』

 アミリアが





 「…アカード様、お替りは如何ですか?」


 「い、いえ、なんか、もう色々とお腹一杯です」

 

 四人がコーヒーを飲み、落ち着いてきた所で、自然と話がこれからのことになり始める。


 「…アカード君のお陰で、アミリアおね…いや、恨石の脅威は去って、私達も解放された訳だけど…」

 先ほどとは違う、真剣な表情でアカードを見つめるレイ。


 「キミの使い魔なのか契約獣なのか何か分からないけど、あの強大な力を持った狐。そして、カーディとダンジョンで一か月修行しただけじゃ到底手に入らないあの強さ。…アカード君、君に一体何があったの?」


 「…それは…」

 至極当然な疑問であった。アカードの急激な成長、ミクズという巨大な力、それらをこの一ヶ月で成し得るなど、普通なら不可能なのだ。

 アカードは【魂魄術】というスキルの本来の使い方、コン石との出会い、そして、スキルの深化を経て、今、アミリアと交流が出来るということ、それらを全て話したい衝動に駆られる。


 (…でも、それは今では無いと思うんだよな…)

 この数百年続いて来た、負の連鎖。それが終わったばかりで、自身のスキル、ひいてはアミリアの存在を話すのは、気が引けてしまったのだ。


 「…え…と…」

 故に、アカードは黙る。

 部屋には沈黙が重なって、空気が重くなっていく。


 「……昔、この街に‘人の心を読める'なんていう奇術師が来たことがあったわ」

 その中、コーヒカップを置く音と共に、レミィが優しく、静かに沈黙を破り始めた。


 「彼は、魔術でも、スキルでもなく、その場に居た女性の名前や悩みを当てて見せたの。…とても不思議で、神秘的で、当時にしては珍しく、心を惹かれたわ」


 「そんな者も在りましたな」

 

 「…ええ。だけど、実はそれは奇跡でもなく、魔法でもなく、その女性とその奇術師がグルになって一芝居を打っていたってだけだったのよ。…冷静になって考えてみたら分かりそうなものなのに、ね」


 「あったねー、そんなことも」


 「不思議とね、種が分かってしまった途端、感じていた魅力や、興味は急激に色あせてしまったの。宝箱の中身を見てしまったみたいにね。…私のアカード君に対するこの気持ちは、例えアカード君の気持ちや隠し事全てが分かっても、永劫変わることはないわ。けれど、今のアカード君も…中身にどんな宝物を詰めてるか分からなくて、とても()()よ」

 そう言って、アカードを見つめる。

 

 「…まあ、確かに、良き戦士は奥の手は隠しておくものかもしれません」

  

 「…え?わ、私だって、話したくないなら、無理強はしないよ!いつまでも待つからよ!……でも、アカード君、一人で背負い込めなくなったらいつでも話してね。私達で良ければなんだったするから」

 負けじとレイもアカードに声をかけた。


 「…皆さん…ありがとうございます」

 話し辛そうなアカードを見て、三人は待つことを瞬時に決めたのだ。

 

 「…うん。…でもね、ただ、一つ。これだけは伝えとくね。もし、その力がスキルに関係するものなら、代償には気を付けて」

 

 「だ、代償?ですか?」

 

 「そう。実はスキルを使う際って、皆、何かしらの代償を払ってるんだよ。まぁ、並のスキルなら気にしないんで済む程度なんだけど…、スキルが強力になればなるほど、代償は大きくなっていくんだ。それこそ、寿命を縮めたりね」


 「そ、そんなに…ですか」

 

 「だからね、もし、アカード君の【魂魄術】ってスキルが強力なスキルだったなら、その力には代償が伴うことを、忘れないで」


 「…ちなみに、その代償が何かは、私のスキルでも分からないわ。だから、気付いた時にボロボロになってた、なんてことにならないように気を付けて」

 レイの話に、レミィが付け加えた。


「…わかりました…心に、とめておきます」


(『十中八九、主様のスキルは二つとない強力な品物ですわ。…ですが、主様の身体に害が出ている様子は見受けられませんが…万が一も想定致しますわ』)


(『私が加わったことで、何かしら影響が出てしまうかもしれません…代償…私も注意して参ります』)


(「…二人ともありがとう」)

 アカードは軽くポケットのコン石を叩く。


 「…うん。まあ、それに気を付けてくれるっていうんなら、アカードの君の秘密はいつかに楽しみにしておくよ」

 そう言って、レイはコーヒーをグイっと飲み干した。


 「さて!それが決まれば…後は、これからどうするか、ということについてだね」


 「ええ、…アミリアお姉さまの影響が無くなり、どうやらモトアザや祖国以外にも、自由に動けるようになったみたいよ。でも、自由になったらなったで、どうしていくか迷ってしまうわね」


 「ハハハ、そうですね。ですが、とりあえず、私はこの街に色々と拠点を築いて参りましたし、復興に協力していこうと思っております」

 カーディが微笑みながら告げる。


 「まあ、私もそれで良いかなって思ってるよ。愛着もあるしね。なんだかんだで」


 「…あら、姉さんがそれで良いと言うなら、私もそうするわ。…幸い、アミリア姉様の放ったコウモリや結構な人数が避難してたお陰で、目撃者はいなかったみたいだし、何があったか事情を知ってる人間はいないようよ。まあ、仮に、見られたとしても、歪んで見えるだろうし、私に任せてくれれば上手くやるわ」

 そう言ってレミィは、ネクロギルドのメンバーの証としてアカードも渡された指輪を見せる。

 

「…ふむ。仮に知られていて、それを種に悪い花を咲かそうとするならば、私も()()()()()()()()()


 「ええ、私達はともかく、アカード君に牙を剥く輩には容赦しないわ」


 「え、あの、ちょ、ちょっと良いですか?」

 色々と不穏な話や気になる事実が出てきて、話に着いていけなくなったアカードが恐る恐る手を上げる。


 「ん?なに??」

 

 「あの、なんか、不穏な、言葉が聞こえたんですけど、でも、とりあえず、認識が歪むって、どういうことなんでしょうか??」


 「あー、言ってなかったよね。この指輪、アカード君にも渡してると思うんだけど、これ、魔道具の模倣品でね。装備している人と話したことが無い人は、装備している人の顔を見ても歪んで記憶されるんだ」

 そう言って、レイは右手の人差し指に着けている指輪を見せる。


 「え!?そんな効果があるんですか、これ」

 アカードは自分の人差し指にはめられた指輪を眺める。


 「そう、凄いでしょ。でも、一度でも話したことがあると、普通に認識されるから、注意してね。特にアカード君は[ペルソナ]っていうペーパーギルドで表舞台に立ってるんだから、目立つ時は今回みたいに、フードとか、マスクをしておいてね」


 「そうなんですね、…流石、裏ギルドですね。わかりました、気を付けて活動します」


 「うん、宜しい。後は大丈夫?何でも答えるけど」

 

 「あ、じゃあ、すみません。僕、気付いたらこちらに運ばれていて、分からないんですが、結局、被害状況というか、モトアザはどうなったんですか?」


 「…」

 「…」

 「…」

 『…』

 『…』

 途端に、皆、さっとアカードから目を逸らした。

 

 「え?」

 なんとなく、アカードも地雷を踏んだことを悟る。


 「…あのね、アカード君。貴方が根石と一緒に一瞬消えた時があったの…そしたらね、あなたの狐さんがね、ずいぶん狼狽したみたいでね…」

 レミィが引きながら、何かを思い出し、青くなっていく。


 「あれは…恨石と同等か…それ以上の怖さだったよ。吠えて、飛び回って、瓦礫を吹き飛ばして、ボロボロの建物はなぎ倒して、まるで嵐のような…」

 レイも小声になっていく。


 「恨石との戦いの方が、まだ勝てる可能性を感じられましたね、正直」


 「壊れたのは…中心の神殿と、石畳と、一部の建物だけじゃ…?」

 だんだん、アカードも血の気が引いていく。


 「中心区画は、瓦礫の山だよ。しかも、そこから、富裕層エリアまで一本の長い道も出来ちゃってるし」


 「戦士ギルド、僧侶ギルド、商人ギルド、それらの本部も崩れて機能しなくなってるみたいよ」


 「…人的被害は無かったとはいえ、しばらく街の機能は停止するでしょうな」


 (「み、ミクズさん?」)


 (『…黙秘します』)


 「…僕も可能な限り、復興に尽力します」

 真っ青な顔をしたアカードは、出来る限りのことをしようと、心に誓ったのだった。


 こうして、ギルド[ネクロ]はボロボロになったモトアザを裏からも表からも支援する日々が続いていくことになった。その間、アカードは様々な人に会い、レイやレミィに夜這いをされかけたり、ミクズが暴れたり、様々な事件に巻き込まれていくのだが、それはまた、別の話となる。




=== ===

 「うひゃー、酷い有様だね。こりゃ」

 スーツを着た、ひょろりと長い男が、軽薄そうに、ニヤつきながら、モトアザの崩れた神殿の上に立っている。


 「…これでも、軽い方」

 傍にいる、スーツの上にコートを羽織り、フードを目深く被った小柄な女性がぼそりと返す。


 「予想じゃ、モトアザは壊滅だったもんねぇ」

 瓦礫を蹴っ飛ばしながら、紅い髪をした同じくスーツを着たスラッとした女性が笑う。


 「違いない…でもおっちゃん、これからどうすんの?目撃証言もないんでしょ?これだけの被害を受けても」

 ひょろりとした男が、一番年配の男性に振る。


 「ええ、全く。ですが、手掛かりがゼロという事でもないんですよ。…中心区間に隠しておいた、映像型記憶装置。ほとんど壊れておりましたが、一部、生き残っておりました」

 年輩な男性がポケットからボロボロになった丸い機会を取り出す。


 「おお、良いじゃん、何があったか確認出来んじゃん」

 赤髪の女性が装置を奪い取り、再生する。

 そこには、顔が歪んだ二人組と黒い兜の騎士、そして、黒いフードの人物が映っており、化物のような狐とオウマや黒い化物との戦闘が断片的に記録されていた。


 「…どいつもこいつも化物じゃん」

 赤い髪の女性が独り言ちる。


 「…無理」


 「…俺も、王都に出張になんねえかな…」

 

 「…皆さんの素直な所、私は好きですが、それはさておいて」

 空中に再生されていた映像が終わる。


 「…どうやら、このモトアザには、長年付きまとっていた恨石の脅威の他に、まだ我々が把握しきれていない勢力が存在するようです。今後の業務として、この勢力の監視も行っていくことになるのでしょう」

 綺麗に整えられた白髭を撫でながら、年輩の男性が告げた。


 「っていっても、何処のどいつかも分からないじゃな…」


 「…知りたくない…関わりたくない…」


 「同感。命がいくらあっても足りないじゃん」


 「ええ、私とて同感です。ですが、この勢力と関わらなくとも、王都で危険視されていた狂人グループ〔赤い林檎(ルべ・マルス)〕もアレクシアから逃亡するために、辺境都市であるこのモトアザに潜伏しているという情報もあります」


 「…滅びれば良かったのに」

 ぼそりとフードの娘が呟く。


 「「「確かに」」」

 そして三人は空を仰ぎ見て、自分らの不遇を呪うのであった。

 ひとまずこれにて一章が完結です。ここまでお付き合いしてくださりありがとうございます。

 

 誤字や文章の破綻等、お見苦しいところが山のごとしだったと思いますが、本当にここまで来てくださりありがとうございます。


 今後はダンジョン編などを書いていこうかと思いますが、正直、未定です。ひょっとしたらここで完結となるかもしれません…m(__)m


 もし、感想やお気づきの点ありましたら、今後のためにも、なんでも良いですので頂けたらと思います。


 では、ご縁があれば、またいつかお目にかかれることを祈って…ノノノ

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