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1-24.老兵の日記

 様変わりした室内は、先ほどよりも二周りは広くなっているように見える。床に散らばっていた、朽ち果てた家具や落ち葉は無くなり、壁には背の高い本棚が並び、規則正しく本が詰められている。そして、天井の窓から差し込んでくる光がキラキラと、室内の埃を照らしていた。


『ここは、図書館でしょうか…?』


「うん、凄い量の本だよね」

 二人は室内に入っていく。室内は少し埃の匂いもしたが、それ以上に乾いたインクや乾燥した紙の匂いに包まれていた。


『主様、あれを』

 そんな部屋の真ん中には一台の机があり、その上に一冊の本が置かれていた。

 アカードは慎重に部屋を進み、そっとその本に触れる。

 表紙の皮は日に焼けているが、長年室内に放置されていたとは思えない程、滑らかであり、埃も積もってはいなかった。手に取ってみると、程よい重さを感じる。見た所、表紙や背表紙にタイトルは書かれていない。


『特に怪しい感じは致しません。只の本かと』


「そうみたいだね」

 そう応えつつ、アカードは表紙をめくる。

 そこには、綺麗な文字で数字と、文章のまとまりが並んでいる。


『日記、でございましょうか?』


「かな?えーと、ソイ歴って読むのかな?」


『…もし宜しければ、お読みしても宜しいでしょうか?私もこちらの言語を勉強致しましたので、勉強の成果の発表がてらに、如何でしょうか?』


「本当に?読んでくれるなら嬉しいよ。お願い」

 アカードも文字や数字は読むことが出来るが、そこまで分厚くないとはいえ、本一冊を読み上げることに身構えてもいたため、ミクズの提案はありがたかった。


『かしこまりました。ですが、文量も多いので、飛ばし飛ばし読ませていただくこと、ご了承下さいませ』


「うん、勿論」

 アカードの返答を受け、ミクズが表紙をめくり、朗々と日記を読み始めた。


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ソイ歴156、ムーリス、2

 部隊の活動を記したこの日記も、これで二冊目になる。私が、部隊長となって、もう六年か。時間とは早いものだ。…ここまで、誰一人として部下は命を落とさず、生き残り、ソイ国の部隊の中でも最強と言えるほど育って来てくれた。部隊長として、これほど誇らしいことは無い。案外、スキル無しの私が一番早く倒れるのかもしれないな。…精進せねば。


ソイ歴156年、ムーリス、30

 【竜の大口】から来た魔物との戦いも一段落着いて来た。毒沼の魔物故に肉は食えず、魔石ばかりが溜まっていく。何か、魔石が有効に活用出来れば良いのだがな。


ソイ歴156、ボース、20

部下のランベルトが、単身、盗賊団の拠点を潰して来たとの報告が入った。しかも、「洞窟で大剣は振り回せなかったから、ぶん殴った」と盗賊側は全員殴り飛ばされたのみで、死者はいないとのこと……喧嘩好きというのか、たまにバカなのが、困り者だ。


ソイ歴156、ボース、31

 ナンパ好きのアランが、カッツ商会の地位ある商人の娘に手を出したらしい。「純愛だ」だと。昨年の日記にも同じことが記述されていたぞ。腕が立つうえ、顔も悪くない…それがコイツの問題だな。とりあえず、カッツ商会の使者の訪問に対しては、暫く居留守を使うことを隊の方針とした。


ソイ歴156、ティグリス、15

 冬が終わり、春が近づいて来た。先日、王妃のご懐妊が発表された。ソイ国待望のご子息だ。まだ、発表されただけなのに、町中で男どもがお祭り騒ぎだ。…今からこれでは、どうなるのか心配にもなったが、男どもの奥方が鉄拳で各個撃破しているとの報告が入り始めた。大丈夫そうだ。

 私の姪も結婚をしても良い年頃なのだがな…女性で騎士として活躍するのも良いが、家庭に入るという幸せもあっても良いのではないだろうか…まあ、私も結婚は遅かったから、人の事は言えぬか。


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『部下に対する愚痴、姪の将来についての不安。そして、時折、魔物と戦闘についての記録が続きますわね…』

 パラパラとページをめくっていくミクズ。


「でも、なんか平和な国だったんだね」


『…ええ、まるで、国一つが大きな家族のようですわね』

 ミクズがいつかのカーディの言葉を引用する。


「…うん」


『あら、王子様の記述が出てきますわね』


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ソイ歴156、カニス、10

 冬の寒さが迫ってきている。だが、そんな寒さは関係ない。遂に、ご無事に、ソイ国の王子が生誕されたのだ!王妃もご無事とのこと。街は昼間からお祭り騒ぎだ。今夜ばかりは私も飲もう。妻と息子も連れて旨い物を食べに行こう。


ソイ歴157、ムーリス、18

 また、年が明けた。王子の生誕祭で食べたプリンを息子のロイが気に入ったため、ちょくちょく私が作るようになった。妻のアナからは「貴重な卵を使いすぎ」と注意を受けるが、美味しそうに食べる息子の顔を見たくてついつい作ってしまう。

 部下達も変わらず任務に励んでおり、ソイ国近郊は平和だ。そういえば、アレクシアで魔石を使った技術が開発されたとの噂を聞いた。それが本当ならば、ダンジョンに近く、魔物の討伐に追われるソイ国も少しは豊かになるかもしれない。


ソイ歴159、カニス、20

…信じられん。姪のアミリアがソイ国王子であらせられるカンナ・ソイ様の近衛兵、兼、指南役の一人に抜擢された。確かに、アミリアは女の身でありながら、剣技の冴えはソイ国で最も優れている。まだ十七という若さでだ。…叔父としても誇らしいことこの上ない。だが、だが、アミリアの婚期を考えると、複雑な心境にもなる。

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 そこからしばらくは姪のアミリアという女性と王子カンナ・ソイとの交流の報告を受けての誇らしさ、そして、アミリアが「カンナ様に尽くす」と息込んでおり、婚期を逃してしまうという嘆き、部下の成長や失敗の記録等が並んでいる。

 その辺りをミクズが読んだり、飛ばしたりして、日記のページ数がだいぶ薄くなってきた。


『ああ、どうやら、ここから雰囲気が変わってきますわね』


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ソイ歴163、ドラコ―、5

 …国中が騒がしい。アレクシアから宣戦布告の通知が届いたからだ。宣戦布告の理由として、アレクシアから来た盗賊が暴れ、警備隊に斬り殺された件を、〔自国の民の保護のため〕と、大義名分にしてのたまった。

 ふざけるな。ソイ国の有する魔石、そして、所有地にあるダンジョンが目的であろうに。

 奴ら、魔石の利用価値に気付いてから、ソイ国にちょくちょく吹っ掛けてきていたが、ついに強行手段に出たな…怒りで狂いそうだ。だが、理不尽この上ないこの戦、わが国の戦力では勝てないということも分かっている。

 …だが、少しでも多くの民を避難させなければ…北に進めば、人間だけでなく、亜人や獣人が共存しているゴアがある。そこまで逃げてくれれば、生きていける者達もいるだろう…


ソイ歴163、ドラコ―、11

 恐らく、明日、この国は陥ちる。王や王女、そして一部の民は、まだ避難出来ていないようだ…。我が部隊のほとんども前線に配置されることになった。敗戦は避けられないというのに、部下は誰一人として、この国から逃げなかった。

 家族も最後まで抵抗したが、カンナ様の世話役として、アミリアと共に北に逃げてもらうことにした…彼らが逃げ切れるよう、少しでも時間を稼ごう。


ソイ歴163、ドラコー、21

 カッツもハイランドも レノもシモンも みんな 死んでしまった。 魔銃…あんな遠距離からの攻撃、どう防げと言うのだ。皮肉にもスキルが発現したが、糞の役にもたちはしない。

 命からがら逃げ帰ってきたが、王や王妃は自決したと聞いた。なぜ、私は生き残ってしまったのだろうか。


ソイ歴163、ドラコ―、23

 街にアミリアと共にカンナ様や私の家族の護送に出したランベルトや一部の住民が帰ってきた。皆、ボロボロだった。特にランベルトの傷は深く…長くはもたないだろう。北方に移動中、アレクシア軍の奇襲に遇い、応戦。カンナ様含め、壊滅したとのこと


ソイ歴163、 ドラコ―、24

 ランベルトが逝った。最後まで私に、朦朧としながら、守り切れなかったことを、詫び続けていた。私も、疲れた。無様に生きていくぐらいなら、ランベルトと共に、皆の下へ逝こう。


ソイ歴163、ドラコ―、25

 なぜだ、死のうと剣を突き立てたが、刺さらない。そして、血が吸いたくて仕方がない。アミリア?

 何故か分からないが、アミリアによって生かされた気がする。 だが、もうどうでも良い、どうせ死ねぬのなら、この国を汚らしく荒らすアレクシアの糞どもを、肉の塊に変えて、喰らいつくしてやる。殺して、まき散らしてやる


ソイ歴163、アングイス、15

 雨の季節になった。国を荒らしていたアレクシアの兵は、一人残らず殺してやった。その中で、アミリアの幼い妹達が隠れ家に隠れているの見つけた。二人とも、私と同じく、既に人ではなくなっていた。

 …恐らく、遠い先祖にいたという吸血鬼の血が、目覚めたのだろう。そして、目覚めさせたのはアミリア、お前なのだろう?


ソイ歴163、アングイス、20

 夢を見た。私はアミリアで、アレクシアの軍を蹂躙していた。血で大地を染め、肉塊を踏みつぶし、血潮を浴び、突き進んでいた。どれほど葬ったか、もはや分からない。そして、遂にアレクシアの将軍を視界に捉え、狂ったような笑い声をあげて、突き進んだ。後一歩、後少しで喉元に届く、そんな所で、胸を一撃でえぐられ、吹き飛んだ。ぼやける視界に、アミリアからえぐり取った魔石を握るフードの男がいた。それを最後にアミリアの意識は沈んでいった。 我々もここまでなのだろう…


ソイ歴180、ムーリス、25

 アミリアが死んでから、どれくらい経ったのだろうか?我々は、未だに逝けてない。それどころか、アミリアと未だに繋がり続けている。この敵国の都市であるモトアザにアミリアが、いやアミリアの魔石がある。そこから我々は離れられない。死ぬことも、出来ず、荒廃しダンジョンと化していく王国を見つめながら、敵国で暮らす。これは、呪いなのか


ソイ歴190、ドラコ、15

 モトアザで、アミリアらしき影を見た。アレは、なんだ??血脈に連なる我々の力を吸い取り、疫病に変え、モトアザを荒らしまわった。


ソイ歴300、ドラコ、18

 数十年周期で、アミリアの影がモトアザに災いをバラまき続けている。我々の力を吸い取り、呪い続けるのか、アミリアよ。


ソイ歴302、ムーリス、1

 どうやら、アミリアは長き時間を掛けて、完全に魔物となったようだ。

 恐らく、次に現れた時にモトアザは滅びるのだろう。アミリアよ、モトアザを滅ぼして、どこに進むのだ?妹であるレイやレミィ、そして私を連れてどこに進むのだ?

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 日記を読み終えたミクズは、本を閉じて、アカードの顔を見つめる。

 『…吸血鬼、でしたか…』


 「ミクズ、カーディさんに会いに行こう!」

 

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