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1-23.骨の意地

 アカードがスケルトンの大剣の間合いに入った途端、スケルトンが大きく踏み込み、担いだ大剣を振り下ろす。


「…ッ」

 叩きつけられた大剣が石畳を割るも、数歩下がって距離を取り、初撃をかわしたアカード。


<カカカ>

 まるで笑うように顎骨を鳴らして、スケルトンは、振り下ろした大剣を再び右肩に担ぎ直し、前進してくる。下手に進めば、スケルトンの間合いに飛び込むことになり、アカードは間合いを詰められない。


「…ッと」

 スケルトンは横なぎに大剣を振り下ろす。スケルトンとは思えない鋭い一撃であったが、紙一重でアカードが避ける。大剣を振り切ったスケルトンの動きが、一瞬制止する。


 (…ここ!)

 その隙に、アカードは飛び込む。まるで、放たれた矢のような速さで距離を詰め、切り抜けようと刀を腰に構える。


 <カカ>

 振り切り、制止していたスケルトンが、嬉しそうに骨を鳴らして、身体を回転させる。それと同時に、振り回された大剣が、左上段から振り下ろされた。


 「ヤバ!!」

 咄嗟にスライディングのように身体を下に落とし、スケルトンの側方を滑り抜けて一撃をかいくぐる。


 <カカカ>

 すり抜けたアカードに追撃をするため、スケルトンは、再び上段に制止した大剣を垂直に叩き落とす。


 「パワフルだな!もう!!」

 悪態をつきながら、アカードは前転して、距離を作る。離れた刹那、アカードが立っていた場所は大剣で粉々に砕かれていた。


 「…ふー」

 一息。確かに、スケルトンの一撃は早く、大剣のリーチは脅威であり、受ければ致命傷になりかねない。だが、アカードは自分が落ち着いていることに気付いた。


 「…リーチの長さ、その重量をものともしない技量、そして、すぐさま二の太刀を斬りこむ機転。骨なのに、かなりの使い手だった思います」

 スケルトンとアカードは円を描くように、お互いの間合いを維持しながら移動していく。そして、同時に二人の動きが止まつた。


 「けど、怖くはない」


 <カカカカ>

 アカードの宣言に、再び嬉しそうに骨を鳴らしたスケルトンが大剣を担ぎ上げる。一瞬の空白。夜風が、二人の間を過ぎて、消えていく。


 「ッス!」

 鋭く息を吐き、電光石火の刺突をスケルトンに繰り出す。


 スケルトンは身体を反転させ、それをかわし、袈裟に大剣を振り下ろす。

 周囲の草が剣風で揺らぐ程の一撃。だが、アカードは臆さず、下にしゃがみ込んでやり過ごす。


 「フッ!!」

 そして、スケルトンの頭蓋へと刀を突きあげた。


 <カッ>

 アカードの一撃に、顎を削られながらも、上半身を反らして躱す、スケルトン。


「逃がすかああ!」

 スケルトンは大剣を振り切り、躱したことで身体の軸が崩れている。その隙を逃がさず、アカードは追撃の一撃を振り下ろす。


 周囲に骨が砕ける音が響いた。



「…籠手!?」

 スケルトンは籠手を巻き付けた左手で、アカード一撃を受け止めていた。ボロボロの籠手では、アカードの一撃は防ぎきれず、籠手は砕け、左手の骨は折れて、地面にゆっくりと落ちていく。


 だが、その刹那。アカードは止まってしまった。スケルトンは右手に握った大剣でアカードを足下を薙ぎ払う。


「…くっ」

 アカードが飛び上がり、バク転するように、空中で回転して、距離を取る。


 <…>


 「…」

 左手を失ったスケルトンがゆっくりと立ち上がる。充分な間合いを置いて、一人と一体は睨み合う。時間を煮詰めたような濃い沈黙の中、遠くで水が落ちる音だけが響いていた。


 「え?」

 ゆっくりと、スケルトンが大剣の切っ先をあげ始めた。


 <…カカ>

 そして、まるで騎士が敬意と、全身全霊で挑むことをアカードに誓うように、大剣の切っ先を天に向ける。


 「…なんか、楽しいね」

 ハニカミながらと、アカードも刀の切っ先を天へと向けて、それに応えた。


 〈アアアアアアアア!!〉

 途端、スケルトンが口を大きく開けて、咆哮をあげる。それは、周囲を震わせ、十分に離れているはずのアカードの肌さえ、ピリピリと刺すような、烈迫の気合いだった。


 『あら?主様、スキルを使ってきます!ご注意を!』

 遠巻きに見守っていたミクズが、アカードに声をかける。見れば、スケルトンは薄く、赤く、光り、大剣を右手一本で、まるで小枝のように振り回し始めた。大剣が風を切る音が周囲に響き、周囲の草花が、空を舞っていく。


 「どんだけパワフルなの…」

 剣速も、先程までとは比較にならず、迂闊に入り込めば、容易に凪ぎ払われてしまいそうである。


 大剣に弾かれた小石がまるで弾丸のように飛んでくる。スケルトンはアカードとの間合いを縮め始め、轟音となった風切り音が迫ってくる。


 『主様!スキルの効果は永遠ではありません!』

 ミクズのアドバイスが風切り音に混じって聴こえてくる。

 確かに、スケルトンの身体は少しずつ、骨の先端から崩れ始めているようだ。


 (このまま逃げてれば、自滅してくれそう。だけど…)

  愚策なのだろう。だが、アカードは、全身全霊をかけて向かってくる相手から、逃げる気にはなれなかった。


 『…主様、挑むなら、ここは、推して参るとか、そういうのが相場ですよ!』

  ただ、刀をスケルトンに向けているアカードに、形式美にこだわるミクズから、挑むなら格好ぐらいつけろとの指導が入る。


 「…推して、参るよ」

 小声ながらも、スケルトンに対して、アカードが宣言する。


 〈カカカカ!!〉

 今までの中で、一番嬉しそうに骨を鳴らして、スケルトンは更に剣速を上げる。既にアカードの肌には、切り裂くような剣風が叩き付けられている。


 (ここ!!)

 間合いにアカードを捉えたスケルトンが、渾身の一撃を繰り出す。


 「っつー!!」

 アカードは振り下ろされる大剣の速度に刀を合わせて、弾くでもなく、防ぐでもなく、受け流しながらスケルトンの懐へと飛び込んでいく。すこしでもタイミングがズレれば押し切られ、叩き切られるだろう。

 時間は酷くゆっくりと流れ、息を忘れる程に、刀に全神経を集中させる。


 〈アアアアアア!!!〉

 スケルトンの烈迫の気合と共に、一段と大剣の速度そして、重さが増す。


 「…ぐッ」

 もはや、刀で受け流すことは難しく、さりとて引いては、間に合わない。

 アカードに残された選択肢は、踏み込む、ただ、それだけだった。


「おああああ!!」

 迫る死の恐怖に負けないように気合を入れて、大きく一歩踏み出す。大剣との摩擦で、刀からは火花が上がり、刀を握る右腕の骨は軋み始めていた。


 (間に合え!!)

 無意識だった。無意識にアカードは踏み込んだ脚を軸にして、円を描くようにスケルトンの側方を抜け始める。


 <カアアアアア!!>

 轟音と共に、スケルトンが大剣を振り切り、空を斬る。そこにはアカードの姿は無く、ヒラヒラと草や葉が舞う。


 「…もらったああああ」

 スケルトンの背後に回った、アカードの刀がスケルトンの首を斬る。切断されたスケルトンの頭蓋骨が夜の闇を泳いで、落ちていく。


 張りつめた空気が弾けたような沈黙の後、スケルトンの身体は大剣を振り切った状態のまま、前にゆっくりと倒れていき、粉々に砕け散った。


 <カ…カ………カ…>

 近くの石畳に転がった頭蓋骨が、最後にどこか満足そうに骨を鳴らし、崩れていった。


 「…お、終わった…」


 『お見事!』

 力が抜けて、そのまま地面に膝を付きそうなアカードをミクズが後ろから支える。


 「…ミクズ、勝ったよ」


 『ええ、ええ、とても見事な勝ちっぷりでしたわ。よく、恐怖に打ち勝ち、踏み込みましたわ』


 「…ありがとう」

 微笑んでいるミクズがいっしゅん、薄く紅く光った気がした。

 

 「?あ、…あ…れ?」


 『…後は、お任せを。主様』

 そして、その声を最後に、アカードの意識は沈んでいった。


===


 吹き付ける風の冷たさに、アカードは目を醒ました。周囲は既に明るく、どうやら昨夜の戦いの後、気絶するように寝てしまったようだ。

 傍にはミクズがおり、アカードの顔を微笑みながら見つめ、優しく頭を撫でていた。


「…ひょっとして、また、気絶しちゃった?」


 『…疲れはてて、寝てしまったようです』

 意識がはっきりとしてきて、昨夜のことを思い出そうとすると、アカードは黒装束は元より、服も脱がされており、下着一枚であることに気付く。


「え?えええ?これは、ミクズ?これ、どういうこと??」


 『お召し物がホコリだらけでしたから、全て洗わせていただきました。もちろん、その下着も洗い終わったものでございます』


 「ぬ、脱がされたの!?」


 『でなければ、洗えませんわ』


 「えええええ、そりゃそうだけど…」


 『とても鍛え上げられた。美味しそうな身体でしたわ』

 何か思い出そうとしていたことは、裸にされて観察されたという事実に、吹き飛んでしまった。


===

「よし、行こうか」

 『まずは腹ごしらえを』というミクズの提案を受け、昼食も兼ねた遅めの朝食を済ませた、アカードとミクズは、昨夜スケルトンが立ちふさがっていた先にある小屋を見つめる。その小屋も母屋と同じように所々朽ちており、ボロボロの扉が着いていた。


 『ええ、今日のように天気が良い日は主様とピクニックに興じたい所存ですが、参りましょう。執事の課題とやらを終わらせに』

 ミクズとアカードは立ち上がると、小屋へと向かっていく。ミクズの言う通り、晴れやかな早朝で、庭の草花の香りを乗せた風が心地良い。


 『扉の向こうに魔物の気配はありませんわ』


 「うん、開けるよ」

 そう言って、アカードは扉を押し開けた。


 「…え?」


 『…なんにも、ありませんわね』

 だが、扉を開けた向こうには、朽ち果てた家具と、割れた窓、そして、入り込んで来た落ち葉ぐらいしか存在しない小さな部屋だった。

 カーディの課題の目的地であることや、昨夜の強力なスケルトンが守護していたことから、何かあることを期待して、二人は室内を見て回る。


 『地下に続く階段や隠し扉を期待していましたのに…』


 「…うん。僕もだよ。…ってあれ?」

 アカードは、扉の外側のノブには鍵穴があったのに、内側には鍵らしきものが無いことに気付く。そして、カーディから鍵を渡されていたことも思い出す。


 「ひょっとして…」


 『どうされました?』

 アカードはミクズと共に一度小屋の外に出ると、カーディから渡されていた鍵を鍵穴に入れる。

 鍵を回した途端、扉の向こう側から虹色の光が漏れて出てくる。


 『これは…流石、主様です!!』


 「おお!今度こそ、いくよ」

 ゆっくりと、アカードは扉を開き、カーディからの課題であり、謎の答えがあるであろう室内へと足を踏み入れていった。

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