表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/39

1-18.人間らしく

 周囲が明るくなってきて、アカードは目を醒ました。ミクズは既に起きており、薄く明るい廃墟の街を眺めていた。


「おはよう」


『おはようございます。良い朝ですわ』


「そうだね」

 早朝の空気は冷えており、アカードは火を起こそうと、焚火に薪をくべ始める。


『主様、こちらをどうぞ』

 ミクズの右手の先には、白い湯気を立てた頭一つ分程の水玉が浮かんでいる。


「ありがとう」

 アカードはその水玉からお湯をすくって顔を洗い、うがいをする。


『それと、朝食も任せて下さい』


「ええ、でも…」


『良いのです。恐らく、今日も大変ですから』

 何から何まで世話をしてくれるミクズに、アカードも手伝おうとするが、ミクズはそう言って譲らず、テキパキと朝の支度をしていく。

 ぼんやりと廃墟を観ながら待つこと、暫し。アカードの前には美味しそうな朝食が用意されていた。


「温まるし、美味しいよ。ありがとう。ミクズ」


『ええ、良かったですわ。…ところで、主様。今日、というか今後の予定になるのかもしれないですが、これから如何いたしましょう。周囲のゴブリンは殲滅しましたが、ゴブリンはウヨウヨいます。なので、期限一杯まで狩り尽くし、六日後に目的の場所に辿り着いて、屋敷に戻るというのが良いでしょうか?』

 ミクズも一口スープを飲む。


『それか、このまま、ダンジョン本体の王宮に乗り込むか』


「え…?」

 ピタリとアカードの動きが止まる。


『大きな問題はありません。罠があると面倒ですが、並大抵の罠なら排除出来ます。それに、魔素を探ればダンジョンに眠る、魔道具などの探索も可能ですわ』


「そ、そうなの…確かにミクズがいればなんとかなりそうだけど…」

 アカードとしても、ダンジョンの中には興味がある。時に発見される常識破りな魔道具、隠された宝物、ダンジョンは一攫千金を夢見る人間が目指すべき場所である。

 それに、ミクズと共に行けば、ほぼ確実にダンジョンを攻略出来るだろうし、運が良ければ、魔道具や宝物も手に入れられるだろう。


 (…でもな…)

 ただ、あまりにミクズに依存するのは、何故かとても恐い。破滅に突き進むイメージしか浮かんでこない。

 

 「…まだ、もう少し鍛えていたかな」

 そのため、アカードはカッコつけて、その提案を断った。


『…ええ、きっと主様ならそういうと思いましたわ』

 どこか嬉しそうに、だが、残念そうに、ミクズが微笑む。


 「うん。本当はダンジョンの中にも行きたいんだけど、きっとまだ、僕じゃ歯が立たないだろうし…だから、もう少し強くなってから一緒に挑んでくれたら嬉しい」


『…あああ、なんと愛おしいのでしょう』

 アカードの素直な告白に、ミクズが我慢できず抱き着いてくる。


 「ちょっと、ミクズ!!すぐに抱き着いてくるんだから」

 

 『そうはいっても主様が悪いのですよ』


 「ええええ、なにそれ」

 ミクズに抱き着かれつつ、朝食を終え、準備を整えると、二人は出発することにした。 


 『では、今日もゴブリン狩りということで宜しいですね?』


 「うん、そうしよう」

 ミクズと共に空に飛びあがり、二人は滑るように移動を開始した。少し先に王宮へと繋がるメインストリートが見えてきた所で、ミクズの耳が動き、なにかを感じ取る。


 『…主様、昨日より多くのゴブリンに挑んでみようかと思うのですが、如何ですか?』


 「え?昨日より多く?」


 『はい、百体程』


 「ひゃ、百?!なんでそんなに一気に?!」


 『…ええ、実は私達の眼下に、ゴブリンが集まってきているようなのです。丁度良いかと思いまして』


 「?魔素も撒いてないのに?」


 『他に餌になるものがあるのでは?』

 興味なさげに、ミクズが応える。


 「…魔素の代わり?死体…とか?」


 『良い線かと。あるいは、そうですね…死にかけの冒険者、とか。まあ、どのみち死体になるのだから、流石、主様、正解ですわ』


 「み、ミクズ、助けるよ!降りて!!」


 『ですが、下には、百体程集まっているようですよ。ずいぶんとド派手に暴れて、かき集めたようですわ。宜しいので?』


 「…ここで放っておくわけにはいかないよ」


 『…既に何人かは死んでいるようですし、ほぼ全滅しているかもしれません。かなりの量の人の血の匂いが混じっていますわ』


 「そんな…」


 『気にすることはありません。彼らの結果は彼らが選択したものなのですから。故に、ここは、彼らが、足掻き、ゴブリンを消耗させてくれるのを待った方が得策ですわ。どうせ死体さえあればいいですし、主様もリスクを冒さずに済みます』

 ミクズの言葉は間違っていない。確かに、ダンジョンに挑むことは、命を懸けて危険な博打であり、全ては自己の選択による結果だ。


「…だけど、ここで放っておいたら、明日の目覚めが悪いよ。それに、どうせ戦うなら、今からでもあまり変わらない、と思うんだ」

 それでも、そんなに簡単にはアカードは割り切れなかった。目の前で救えるかもしれない存在がいるならば、手を差し伸べたいと思うのだ。


 『…それが主様の選択なら、是非もありませんわ』

 空中で尻尾を畳み、急降下していくミクズとアカード。急激な浮遊感を感じながらも、アカードは刀の柄を握る。


 地面が見えてきた所で、速度が緩やかになる。見れば、何十体ものゴブリンがうろついている。


 『散らしますわ』

 そう言うと同時に、ミクズを中心に鋭い風の刃が飛び散っていく。


<ゲエエエエエエエ!>

<ゲッ>

 アカード達の着地と同時に、周囲からゴブリンの悲鳴や怒号、そして瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえてくる。


「いくよ!!」

 ミクズから離れ、刀を抜き放ったアカードにゴブリンが襲い掛かってくる。刹那の抜き去り際、アカードの一閃がゴブリンの首をはねる。


(え…!?)

 自分でも驚く程、身体が軽い。しかも、ゴブリンの動きは昨日よりも遅く感じられ、ゴブリンが放った粗末な刺突は止まっているにすら見える。アカードが通り抜けただけで、三体ものゴブリンを切り殺されていた。何も考えずとも、自分の身体が勝手に動いている。


『お見事ですわ!主様!!』

 ミクズの声で、夢から覚めるように、はっと我に返る。


 「あ、ありがとう」

 瞬時に周囲を確認する。近くにいたゴブリンの群れが波のように迫ってくる。


 『固まってくださるとは、手間が省けますわ』

 アカードの背後から四方にミクズの風刃が放たれる。当然、アカードに触れることはなく、アカード自身もそれを疑うことはない。故に、気にせず、崩れたゴブリンの群れへと突進する。


<ゲェッ>

<ゲエエエエエエエ>

<ゲャアアアアアアア>

 阿鼻叫喚。数で圧倒していたゴブリンはその油断と戦意を打ち壊され、恐怖に呑まれた個体があちこちで立ち尽くし始めた。


「…止まったら、終わりだよ」

 骨身に染み渡った言葉を呟きながら、アカードは固まったゴブリンを切り捨てていく。一体二体三体…四体五体六体…十一、十二…十五…二十…


 時に、混乱の中にあっても身の危険を感じ取り、アカードに向かってくるゴブリンもいた。だが、動揺し、振り回しただけに過ぎない粗末な一撃がアカードに届くことは無い。


「ッ!」

 鋭く息を吐き、ゴブリンの喉を刀で貫く。既にアカードは三十余りのゴブリンを屠っていた。


 『…流石、主様。この短期間で凄まじい成長ですわ』

 ミクズの声に振り返ると、既に周囲のゴブリンは殲滅され、死屍累々と転がっている。その中を、虹色に輝く魔素を纏うように吸収しながら、ミクズがアカードに歩み寄ってくる。


 「…うん。自分でも驚くぐらいに身体が軽いんだ」

 事実、三十体程のゴブリンを切り捨てても、まだ体は軽く、気力も充実していた。調子は良い。すこぶる、これ以上ないくらいに良い。だが、それ故に昨日と比べ、その調子の良さに不安になるアカード。


 (こんなに、一日で変わるものかな?)


 『…それはそれは、頼もしい限りですわ。きっと主様の成長は始まったばかりですよ。まだまだ化けますわ』


「そ、そうかな?」


『ええ、成長期が始まった男児は皆、初めはその変化に怯え、混乱するものです。ですが、自然と受け入れ、その変化を楽しんでいくものですわ』

 そっとアカードの頬を撫でながら、ミクズが微笑む。


「成長か、そうか、成長したのか…」

 アカードは自分の手を見つめ、湧いた違和感を握り潰すことにした。


 『…ところで、主様、まだ生きてる人間の反応があるようですが、如何いたしますか?』


 「え?あ!そうだ!どこにいるの?!」

 ミクズの案内を頼りに、慌てて生存者の元に向かう。


 「…いた、でも…」

 アカードとミクズの目線の先、瓦礫の山に倒れこんだ一人の探索者の背中が見える。だが、その背には無数の切り傷がつけられており、鉄製であっただろう防具は、ボロボロになっていた。


 『既に息は無いですわ』

 見れば、苔むした石畳が赤黒く染まっている。


 「そっか…」

 ミクズがその探索者に近づき、何かを確認する。


 『ですが、どうやらこの者は守り切ったようですよ』

 そう言って、死体をそっと押して退かす。そこには、人が一人入り込める穴が開いており、涙を流しながら気絶している少女がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ