第10話 ジョセフの甘さ
魔王軍の兵達と戦う日々が続き、和泉達は徐々に熟練度をあげかなり効率的な戦闘ができているのに対してジョセフは魔王軍の兵を倒すことに躊躇いを感じ始めていた。
その理由の一つに、魔王軍を倒すことで世界の秩序が乱れてしまうのではと思うようになっていたからだ。無意識に思い始めているが故に勝手な思い込みだと気にもしていなかったがそれでも魂に刻まれた不安を拭いきれていなかった。
「この五日間、ずっと魔物と魔王軍の兵に付け狙われているけどさ。俺達をそこまでして襲う理由はあるのか?」
「知らねえよ、ゲームだと勇者パーティは魔王軍に狙われるなんてのはテンプレだろ?つまりそういうことだよ」
魔王軍が毎度の如く自分達を襲撃してくることに疑問を抱く和泉であったが夏樹はゲームでよくある展開だといつもながらの楽観的な態度で和泉の意見をまともに聞こうともしなかった。
「それにしてもジョセフ、今日は妙に動きが鈍かったが具合でも悪いのか?」
「…………」
夏樹はジョセフの体調を心配するもジョセフは沈黙のまま視線を逸らす。それに苛立ちを感じた夏樹は背を向けたジョセフ肩を掴もうとするとリサが現れ止めに入った。
「夏樹さん、今は落ち着いてください」
「そこをどけよ!」
感情的になった夏樹はリサを振り払い、リサは地面に倒れ込みジョセフは夏樹を睥睨しながら沈黙で近づく。
「…………」
「なんだよ?なんとか言ったらどうだ!」
ジョセフの胸ぐらを掴んだ夏樹は歯を食いしばり無理やりに問い詰めるもジョセフは沈黙を辞めない。テレサは鞘に差した剣に手を添え、ブーディカとジンジャー、ケイト、アイリスはそんなテレサの怒りを抑えようと宥めるも不穏な空気が漂い続けていた。
「ねぇ、どうして二人はあんなになってるんですか?」
無垢な瞳を裕二に向けるチカは裕二に尋ねる。
「チカ、僕と一緒に違うところへ……」
幼い子供には見せるべきでないと判断した裕二はチカを連れジョセフ達から距離を置いていた。
「……んっ、そんなに知りたいか?ならば教えよう。魔王軍を討伐することはこの世界の秩序を……乱してしまうかもしれないと思ったからだ。そして俺の魂の奥底から魔王軍を殲滅してはいけない気がしたからだ」
「ふざけんじゃねぇよ!そんなことのためにお前は戦うことに戸惑いを感じているのかよ!魔王軍は魔王ベルの時以上に悪なんだぞ!」
「夏樹、魔王軍からしたら俺達こそ悪だ。この世に勧善懲悪なんてものは存在しない、それゆえに人間というものは正義だの悪だのと優劣を決めたがる」
夏樹とジョセフお互い睨み合い続け、我慢の限界に達した夏樹は拳を振り上げジョセフを殴りかかろうとした瞬間にリサはジョセフを庇うかのように間に入りジョセフの代わりに殴られる。
リサは夏樹に顔を殴られた衝撃で頬が腫れあがり強い痛みが生じ身動きが取れず蹲り、その怒りを制御することができないジョセフは感情を爆発させ夏樹に無数もの”スパーク”を纏わせた両拳で夏樹の体中に打ち込む。
夏樹は吐血しながら”スパーク”の影響で体中に麻痺が生じ身動きを取るのに精一杯で魔法で傷を治癒しようにも呂律が回らず呪文さえ詠唱することがままならない状態であった。
夏樹は気力とマリーという少女と同化した際に強化された魔力でジョセフの放った”スパーク”による麻痺効果を軽減させ、呪文を詠唱する。
「――”電光石火”!」
”電光石火”により夏樹の速度は向上し、ジョセフを連続で殴りダメージを与えるも今のジョセフの強さを考えると痛みを感じることはなく継続して夏樹に攻撃を仕掛ける。
「なぁ、ジョセフを止めなくていいのか?」
和泉は冷や汗を掻きながらリサに尋ねる。
「はい、本当は止めた方がいいのでしょうが男の子ならこのくらい血気盛んな方がいいと思い見守っています」
リサはそう言いながら瞼を閉じ、和泉は肩を竦め深く溜め息を吐く。
「いやいや、ジョセフはリサが殴られたことでプッツンしているわけなんだし止めようよ……」
「ジョセフもまだ年頃の男だ。喧嘩の一つや二つしてもおかしくはないさ」
「そうそう、逆に今までよく殴り合いの喧嘩しなかったのか疑問に思うくらいだけどね」
その光景を見ていたテレサとジンジャー達も同意見であり、殺し合っているわけではないからこのくらいの喧嘩も時には必要だろうと判断していた。
地球と異世界の価値観の違いからなのか和泉自身カットを感じたりはしていたがジョセフと夏樹の喧嘩を見る限り、魔王軍の兵や魔物と戦っている時と違って殺気を一切感じないことからリサ達が止めないのも一理あると割り切ることができたのは時間の問題であった。
ジョセフと夏樹の喧嘩はかれこれ三時間以上続き、二人は地面にばったりと倒れ込み息を切らしていたようだ。
「……ハァっ、ハァっ……」
「…………」
息を荒げながら二人はお互いに視線を向け合うと急にニヤけながら夏樹は高笑いをし、汗を前腕部で拭い、ジョセフは沈黙していた。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハッ」
「何がおかしいんだ?」
急に笑い出した夏樹に対しジョセフは訝し気に尋ね、その質問に対して夏樹は笑ったまま答えることはなかった。
「この二人は本当に予測不能な奴らだな……」
和泉はそんなジョセフと夏樹を見て溜め息を吐く。
「だからこそジョセフ様と夏樹さんは今日まで一緒に行動できたんですよ?」
「リサ、頬の方は大丈夫?」
ジョセフは慌てた様子で起き上がりリサに尋ねる。
「ええ、一応”ヒール”で治癒しましたので痛みはないですよ。ほら、このとおり頬の腫れも引いているでしょ?」
リサは自慢げに頬を見せつけ、普段無愛想なジョセフは苦笑いしながら口元を緩めリサの頭を優しく撫でる。
「もう、ジョセフ様ったらぁ……」
人前で頭を撫でられ頬を赤らめるリサを見たケイトはジョセフの方へと近づき涙目になりながら視線を向ける。
「ジョセフさん、リサさんにばっかりずるいです!私の頭も撫でてください!」
ケイトはジョセフに頭を撫でてほしいとねだり始め、ジョセフは肩を竦めながら「やれやれだぜ」と言いながらケイトの頭を撫でる。
「ジョセフさん、大好きです」
小動物のようにほんわかとしたケイトはもっともっととジョセフにおねだりをしだし、それを見た夏樹はさっきまでの怪我と痛みを忘れ急に起き上がり怒声をあげる。
「ちくしょう……ジョセフ、どうしててめえにはこういつも慰めてくれる女がいるんだよ!くそがぁ……あいたたたたたたたたっ……」
夏樹は身体全体に激痛が走り犬のように転がり込み悲鳴を上げていた。




