第9話 戦い
奴隷少女チカを保護してから二日が経ち、裕二はチカを守りながら人気の少ない森林で戦闘をしていたからなのか本来の力を発揮できずにいた。
魔王軍の集団の攻撃は上級ランクの冒険者と同等かそれ以上の強さで攻撃を見切ることに精一杯な裕二と和泉、テレサ、アイリス、ブーディカに対してジョセフとリサ、夏樹、ジンジャー、ケイトは難なく戦闘をしていたことから才能と経験の差を思い知らされていた。
「まだ一週間も経っていないってのに何でこういきなり魔王軍が現れているんだよ?」
「多分、自動車のようなアーティファクトがこの世界にあるんじゃないの?それかあらかじめ転移陣を用意していたかここも魔王軍が密かに占拠していたかのどれかだね」
和泉と裕二はお互いの背中を任せ、裕二は傍らにいたチカを守りながら魔王軍の集団をどのように攻略していくかを策を練っているが地形を把握しきれていない裕二にとっては至難の業だ。
「どちらにせよ神様から力を授かったわけでもないジョセフがあそこまで戦えるのは異常すぎる……あの眼の能力のおかげではあるのだろうがもうその域を超えている気がする」
「裕二様、私のせいで本気で戦えないのですか?私、邪魔しないから……」
傍にいたチカは裕二に自分が戦闘の邪魔をしていると心を押し潰され、その罪悪感からか裕二から頑なに離れようとした。
「チカは邪魔なんかじゃない、僕が君を必ず守って見せる!だから、チカは僕の後ろにしっかりいるんだよ」
「はい……」
チカは自信のない声で返事をする。
「裕二、お前はチカをしっかり守ってろよ。俺が何とかやっつけるからよ」
「すまない、和泉……」
和泉は地面を勢いよく蹴り上げ魔王軍の雑魚の軍勢に立ち向かう。
強いて言うなら今現在和泉達が戦っている相手は魔王軍の中でも最弱と呼ばれている部隊ではあるものの人間と比較するならば確実に強いのだ。魔法適正のないテレサとブーディカも人間の中では強い部類で神様に力を授かった和泉と裕二も同様ではあるが知能を持っている以上魔物とは違う戦い方をしてくるので場数を踏んだ裕二でも苦戦を強いられそのうえ、チカという少女を守りながらともなると戦闘に集中できないのは仕方のないことだった。
「人間風情がこの俺達魔王軍に敵うとでも思っているのか?」
「人間だからって舐めるなよ!」
魔王軍の兵は和泉を見下すように軽々と躱し不敵な笑みを浮かべており、和泉はがむしゃらに剣を振り回し脳内で敵の動きを予測し自慢の反応速度に頼っていた。
和泉の剣と魔王軍の兵の斧が交錯し、火花が勢いよく飛び散り和泉の剣捌きは速く、勢いを増していた。その膂力は和泉の肉体能力によるものだけでなく、魔力と剣の能力が合わさったことによるものだということを本人は気付いておらず無我夢中になっていた。
「こいつ、さっきよりも動きが早い……人間なんかにこの俺が……魔王軍の兵であるこのっ……」
魔王軍の兵は戦闘中にブツブツと呟いていたからなのか舌を噛んでしまい口の中に痛感が出て体が怯んでいるのが分かった。
和泉の体が深紅に発光し、その光はオーラに形成されて魔王軍の兵を振るえ立たせるほどに強大でかなりの威圧を感じていた。
「”マッハダッシュ”!」
風属性魔法”マッハダッシュ”を発動し、瞬時に魔王軍の兵の懐へと踏み込んだ和泉は”マッハダッシュ”の加速と瞬発力を活かし剣のスキルでもある”トリプルブレイク”で斬り込みを入れる。
「ぐっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
魔王軍の兵は断末魔の叫びをあげながら息絶え、他の兵は「よくも仲間を!」と雑魚敵によくある感情的になって後先考えずに鬼気迫る様子で和泉に突撃していた。
和泉の深紅のオーラは纏い続けたままその攻撃をすんなりと躱し剣を逆手に持ち替え魔王軍の兵の腹を斬り、その兵からは多量の血と腸が飛び出し呻き声をあげた。
「こ……んっ……な……はず……じゃ……」
他の魔王軍の兵は一瞬にして同輩を二人も殺されたことに動揺し逃亡しようか考えてもいたが魔王軍の恥さらしになるくらいならと死ぬ覚悟で和泉に集中攻撃を仕掛ける。
「あの人間を殺せ!仲間達の仇は必ず取るんだ!」
「「「おうっ!」」」
魔王軍の兵は他の兵の指揮を取り和泉を殺すよう命じ怒号をあげ、兵達は後先考えずに火と闇を複合した複合魔法”ヘルファイヤー”を連続で発動し、兵達は自分の命を犠牲にしてでも和泉を打ち取りたいという信念があった。
今の和泉にとってゲームで言うところの雑魚敵の魔法攻撃などはパターンが読めており野生の感で避けることが可能であり、兵達が錯乱状態であったため和泉本人も無意識に次の攻撃の準備に備えることができた。
「何故だ!何故我々の攻撃がこうも簡単に避けられるんだ!?人間が、こんなこと……ありえない!」
「命を捨てる覚悟で”ヘルファイヤー”を発動したってのに……」
捨て身で発動した複合魔法”ヘルファイヤー”が無駄になった魔王軍の兵達は唇を噛みしめ藁にも縋る思いで発狂しながらも悪あがきを続ける。
魔王軍の兵の大半が和泉に集中攻撃をしていたため、裕二やジョセフ達の方は手が空いており和泉のことが心配になりすぐに駆け付けるも心配なさそうだったので安堵していた。
和泉は大勢の魔王軍の兵を相手に戦闘していたからなのか息が荒くなり、足もよろめき始めていたが戦闘を続行することは可能のようで全ての兵を蹂躙し、戦いが終わった後には和泉の周囲は血の海と化していた。
「和泉の奴、ここまで強いとどうしても敵に回してはいけない気がしたな……」
煙草に火を着けたジョセフはそう呟き、リサはジト目を向けながら注意を促す。
「ジョセフ様、煙草はメッ!っていつも言っているでしょ?」
「血管を締めるために吸っているわけでちゃんと意味は……」
ジョセフは意に介さないものの口を噤めすぐさま煙草を地面に捨てた。
「裕二、もう戦いは終わったのか?」
息は荒く、汗を沢山掻いていた和泉は裕二に尋ねる。
「うん、敵の殆どは和泉が倒しちゃったみたいだからね。そのおかげで僕にチカ、ジョセフ達も五体満足だよ……」
裕二は申し訳なさそうに和泉に説明をし、和泉はそんな裕二の気持ちを察してはいながらもコミュ障であったからなのか裕二にかける言葉が見つからずにいた。
「魔王軍の雑魚もここまで強いと魔法適正のない私とテレサは戦力外なんじゃないかと疑いたくもなるけどここまで来た以上引き返すわけにもいかないよね」
「騎士の家系としても一度引き受けたからには責任をもって果たしたいものだ」
ブーディカとテレサはジョセフ達と共に戦い負い目を感じていたがそれでも最後まで見届けたいとのことでワトソン王国に戻ることはしなかった。
「……んっ、そうか。無理について行く必要はないと言いたいところだったがブーディカとテレサはそれでも着いて行くと言うなら俺も止めはしない……だが、無理だけはしないでほしい」
「「「「「「「「それはこっちの台詞!」」」」」」」」
ジョセフはブーディカとテレサを心配して声をかけると裕二とチカ以外の七人は一斉に声を合わせてツッコミを入れた。




