第7話 クライギル村での宿泊
村の中は思っていたよりも血気盛んで、日本で言うところの室町や江戸時代の村人と比較しても屈強で逞しい青年がいることからそれなりに栄えていることが伺えた。
「裕二、この村は観光地か何かか?」
ジョセフは裕二に村にしては治安が良さそうだったため尋ねる。
「この”クライギル村”は駆け出しの冒険者がダンジョンを突破した後に寝泊まりする場所に困らないでいいようにと宿もあるからそのおかげで村は繁盛しているんだよ」
「その宿ってそんなに儲かっているんだな」
「うん、僕も駆け出しの冒険者の頃は結構お世話になっていたけどそこの店主がとてもいい人なんだよ」
裕二はこれから宿泊することになる宿主は人望が厚くサービスが充実していることをジョセフ達に熱く語りだす。
「それは楽しみだな。裕二達と初めて遠方のクエストを受けることになるの考えたら風呂はどうしようって心配してたし――」
「まぁ、日本人にとって風呂は必需品のようなものだからね」
「この世界に来てから毎日風呂に入らない人がいるのは当たり前の文化だったみたいで毎日風呂に入っていることを他の冒険者に話したら凄く笑われたんだよねぇ……」
裕二は苦笑いしながら和泉に自虐ネタを連発する。
「日本くらいだからね、毎日風呂に入るのって」
和泉と裕二は風呂の話題を始め、日本人にとって風呂というものが如何に大切なものなのかを語り合っていた。
「俺も毎日風呂に入ることをリサに話したら『貴族や王族でもない限り毎日入るなんてあり得ないです!』って言われるくらいだからね……」
ジョセフは肩を竦めながら和泉と裕二に体験談を話す。
「二人っきりで修行の旅に出た時にジョセフ様言ってましたもんね。うふふ……」
「……んっ、あんまり笑わないでもらえると嬉しいのだがね……」
リサは無垢な笑みを浮かべながら修行の旅のことを思い出し、ジョセフはリサに少しは自重するようにしてもらいたいと思いながら溜め息を吐いた。
「しかし、私もジョセフさんがあんなに風呂に拘る人だと知ったときは驚きましたよ。リサさんが時々私にその話をしたりと――」
「ケイト、もうこれ以上は言わないでもらってもいいかな?」
リサに続いてケイトが口に出すとジョセフは異様なまでに威圧をかけケイトは恐縮したようで口を噤んだ。
「リサさん、ジョセフさんに何か言ってくださいよぉ~!」
ケイトはリサの方へと泣きつき、リサの目には「ジョセフ様が気にしていることをケイトさんが言うからです!」と言いたげな様子で深いため息を吐きつつもケイトを抱き寄せ頭を優しく撫でていた。
「ジョセフって普段は物静かで何考えているか分からないけどたまーに怒ると怖いよね~」
「別に俺はいつも通りなんだが……」
ジンジャーは軽い口調で指摘するとジョセフは肩を竦めながら溜め息を吐き、しょんぼりと俯いた。
「まぁ、確かにあれはケイトがいけないな」
テレサは腕を組みながら頷く。
「でも、こんなに可愛い子を泣かせちゃだめだよ。ジョセフが思っているより年頃の女の子って傷つきやすいんだから」
「……んっ、そうなのか?ブーディカ」
ブーディカはジョセフに苦言を呈し、ジョセフは「そんな大袈裟な……」と言いたそうに首を傾げた。
「そうだぞ~、ジョセフはもっと女の子の気持ちを考えるのだ~」
リサよりも一つ年下のアイリスにも説教されるようでは流石のジョセフ面目が立たずに、口を噤まざるを得なかった。
ケイトがリサの小さな胸元に顔を埋めて泣きついた直後、裕二がジョセフ達に声をかけた。
「みんな、着いたよ」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」
「村の宿っていうからへんぴなものだと思ったら結構おしゃれな店してるじゃん!」
「そうだろ、僕もこの辺でクエストするときはたまに顔出しているんだ」
その宿は村近辺でクエストをしている冒険者に人気というだけあって外見から快適そうで尚且つ花壇があり宿というよりは旅館に近い感じがして和泉達日本人にとってどこか懐かしさがあったのだ。
早速、和泉達は宿の中へと入るとカウンターには野武士風の茶髪の無精髭を生やした男性がいて裕二に気付いたのか手を大きく振っていた。
「よお裕二、最近冒険者ランクが上がっちまったからこの辺寄らないと思ったら今日は珍しく来たな!」
「ええ、少し訳ありで通りかかったので今晩はここで寝泊まりしようと思って」
「久しぶりに来たんだ。料金は少し値引きしといてやるよ」
カウンターの男は裕二の後ろにいたテレサを見詰めながらそう言うと、テレサは睥睨としながら威圧をかけ、男を凝視していた。
「ひぃっ、何も如何わしいことは考えていませんよ……」
「どうだろうな……男というものは変態が多いからな」
男は顔面蒼白になりテレサから目線を逸らし俯いた。
「おいおい見ろよ、あの女。女好きの店主をいとも簡単に黙らせたぞ……」
「気を付けねえとありゃ間違いなく殺されるな」
テーブルで食事を取っていた男達はヒソヒソと会話をし、テレサのことを警戒していたのだ。
店主はテレサに睨まれたことがトラウマになったのかリサとケイトを目にした瞬間体をビクつかせオドオドと体を動揺させながら接待していた。
「そ……れっ……で、何日お泊りの予定で……?」
「――一泊で」
裕二は一日だけ宿泊することを伝え、店主は「え~っと、裕二は一人部屋でいいとしてそちらの色眼鏡の兄ちゃんとお連れの方は……」
「そうだな~、和泉と佐藤夏樹は一人部屋でいいだろ?俺とリサ、ケイト、ジンジャーは二人部屋でブーディカとテレサとアイリスはも二人部屋でいいか?」
「それでいいよ」
「俺はいいが全く、女を侍らせているジョセフ君は大胆だな」
「私達は一向に構わない」
和泉はジョセフの提案に賛成のようで、夏樹は皮肉を言いながらも頷きテレサ達もその案を受け入れた。
「それならいつもの一泊飯付きでいいんだな?」
「それで頼むね、レックス」
裕二はにこりと笑い、店主のレックスは裕二の耳元で囁く。
「なぁ裕二、あの長い金髪の男は巷で有名になっているジョセフって男じゃないのか?」
「うん、そうだよ」
「『そうだよ』って……、噂では可愛い女の子を侍らせていると聞いていたがまさかここまで凄いとは思ってもいなかったが。お前、よく平気な顔で答えられるよな……」
レックスは裕二がジョセフと一緒に行動していることを知ると、レックスはジョセフの噂を裕二に説明していた。
「あのジョセフってのは世界で最もフレンドリーと言われているワトソン王国の冒険者で何でも魔人族率いる魔王ベルを倒した救世主の一人でだな……ジョセフを敵に回した相手は必要以上に制裁を受けたりと精神的に影響をきたす報復を受けるみたいだがお前、そんな奴と一緒に行動するなら気を付けろよ……」
「レックス、ありがとう。でも、ジョセフはいい人だと思うよ」
レックスは裕二に警告を促すも裕二は微笑しながら感謝の言葉を述べる。
「お前なぁ……」
溜め息を吐きながら裕二のお人好しぶりにレックスは唖然としていた。
「まぁ、レックスさんの言う通りジョセフは少しやばい部分はあるが悪い人間じゃないぜ」
「小説でしかどんな人物か知らないけど俺もそう思う」
夏樹と和泉はレックスの警告していた通り手に負えない部分はあるも味方としては頼りになることを裕二に伝える。
「ジョセフってそんなに凄いんだね」
「やる時はやるタイプだからな」
犬猿の仲状態だった裕二と夏樹はこうやって親睦を深めていき、お互い笑い飛ばしながら会話は盛り上がっていた。
異世界に転移してから桐野和泉は休む暇のなかったがクライギル村”レックスの宿”で一休みできると安堵しており、泊まることになった部屋で背伸びをし寛いでいた。
「さぁ~てと、早速スマホっと……」
和泉はポケットからスマホを取り出し電源を入れロック画面を開く。そして、インターネットができるアプリを開き日本での状況を確認していた。
「――ええっ!あの人結婚していたのかよ!ってか、綾野侑先生最新作小説が書籍化するのかよ!このアニメ、実写化するのかよ!大体アニメと漫画原作の実写化は失敗するのがお決まりだっていうのによくも懲りないなぁ……」
神様から魔改造してもらったスマホでネットサーフィンをしながら日本の現状確認をしつつ、好きなアニメが実写することに唖然としながら肩を竦めていた。
「それにしても神様ってやっぱすげぇよ……このスマホ、電波がないこの世界でも使えるようにしてくれるんだからよ」
異世界にスマホを持ち出すということは情報戦でもかなり有利になるということにも繋がるのでそれを上手く活用すれば今後のクエストでも役に立つだろうと和泉は考えだした。
「まずは魔王軍が拠点にしている場所についてググってと……」
和泉は魔王軍が拠点にしている廃墟がどんな場所かを検索してみるとそこには廃墟になる前の古城に関する情報が沢山出てきた。
「うわっ!こんなに情報あるのかよ!?取り敢えずっと……」
調べた内容は殆どが説明文がくどく小難しい言葉も沢山使用されていたりで和泉の脳はパソコンのように情報量をバックアップしている途中でショートするのではないかという勢いで加速していた。
「廃墟に関しては特変仕掛けがあるわけでもなく、魔王軍の幹部に関する情報までは載っていなかったがそれでも地形は写真付きだからその辺は頭に叩きつければ今後の戦闘には役に立つな……」
和泉はそう思いながらも夏樹の顔が脳内に現れていた。
何故なら、夏樹は空気を読まずに無鉄砲に突っ込む可能性があったからだ。
考え込んでも何も起きないと諦めた和泉はすぐさま毛布で顔を隠し蹲っていた。
翌日、和泉はジョセフ達と朝食を取っておりレックス特製の手料理を存分に喰らっていた。
その味は裕二と初めて会った時に食べた宿の食事よりも味は濃く、調味料もしっかり利いていて食べ応えがあった。
「レックスの料理はどれも絶品だよ!」
「そうだろ、俺の腕もあってか初心者冒険者は中級、上級になってもたまに飯食いによりに来るからそれなりには繁盛しているからな」
裕二は料理を褒め、レックスは高笑いをしながら自身の腕を自画自賛していた。
ジョセフと夏樹に関しては某バトル漫画の戦闘民族のように勢いよく口の中に頬張り、それを見ていたリサは「ジョセフ様、行儀が悪いのでメッですよ!」と注意を促すもリサの声はジョセフには聴こえていないようだ。
「そう硬いこと言うなよリサ、この世界の食い物は地球のと違って調味料が少なかったりとしているんだからそれくらいこのおっさんの料理が上手いってことだよ」
夏樹は生真面目なリサにジョセフの食べ方を大目に見るように促すもリサは頑固に「それでもダメです!」と頬を膨らませ夏樹を睨んでいた。
「おっさんって……俺はまだ24歳だぞ……」
レックスは肩を竦め溜め息を吐き、自身の容姿を気にしていた様子だ。
(そういえばレックスってずっと前に観ていたVRMMOを題材にしたアニメのキャラに似てるなぁ……無精ひげ生やした野武士風の男だし)
和泉は内心そんなことを思いながらレックスの手料理を堪能していた。
”レックスの宿”で一夜を過ごした和泉達は朝食を食べ終えるとすぐさま宿を出て、魔王軍の拠点にしている廃墟と化した古城へと辿り着くべく次の街へと向かうことにした。
「裕二、魔王軍の拠点にしている場所に向かうんだったらこれ持っていきな」
レックスが裕二に渡したのは古風の剣である。
「レックス、この剣は――」
「これは俺がまだ冒険者をしていた頃に使用していた剣だ。一応定期的にメンテナンスはしているからちょっとやそっとでは俺ないはずだ」
裕二は剣について尋ねるとレックスは白い歯をニッと光らせ親指をグッと立てた。
「この剣は魔剣や聖剣の類ではないがガンドゥーム鉱石とミスリルを合成させたガンミリウム合金製の剣だから魔法攻撃にも体制のあるから役に立つとは思う」
「それこそ受け取れないよ!そんな大事な剣を……」
「どの道今の俺では使い道がないからお前に託したい」
レックスの強い説得により裕二は肩を竦め溜め息を深く吐きながらも剣を貰うことにしたのだ。
「ガンドゥーム鉱石と言ったな?俺の刀もガンドゥーム鉱石を使用しているよ」
ジョセフがそう言うとレックスは鬼気迫る表情で距離を詰めジョセフに尋ねる。
「それは本当か!ガンドゥーム鉱石はただでさえ入手が困難だっていうのにその刀もそうなのか?ちょっと見せてくれないか?」
レックスがジョセフの刀に興味津々になりジョセフは刀を鞘から抜き出しレックスに渡す。ジョセフの刀の刃文はとても美しく日本刀のように反りがあり柄は木製ではなく鉄であることから日本刀と比較しても重量は少々重い方だが切れ味は日本刀動揺かなり優れている。
「……なるほど、これは中々興味深いな……この刀は誰が作ったんだ?」
「これか、これはワトソン王国で武器屋やっているジャスミンって女性が作った刀だが――」
ジョセフはそう答えるとレックスは訝し気な表情になり肩を竦める。
「ジャスミンか、俺の従妹なんだがまさかあのジャスミンがこんな凄い剣を作れるようになるなんてな」
「親戚だったのか?」
「ああ、結構さばさばとして可愛いだろ?」
「初対面の相手にも物怖じしないくらい馴れ馴れしいね。それが逆に調書なんだろうがね」
次の街へと旅立とうとしていたのにジョセフとレックスが会話を盛り上がらせているおかげで一向に出発できそうになく、レックスがテレサに目線を合わせると冷や汗を掻きながら咳払いをした。
ジョセフはハッとした様子でリサ達に見やると申し訳なさそうに顔を俯かせ、”クライギル村”を出て行ったのだ。
和泉達にとって”クライギル村”は駆け出し冒険者にとっても心地の良い村であり、魔王軍を討伐し終えた後にまた”レックスの宿”で宿泊したいと思っていた。




