第3話 桐野和泉とジョセフ・ジョーンズ
ジョセフ、和泉、裕二、夏樹は深呼吸をし気持ちを落ち着かせた後佐藤夏樹が陣頭指揮を取り和泉と裕二に提案を出した。
「俺達同じ日本人ということだしせっかくだから俺達とパーティ組まないか?」
和泉と裕二は渋りながら「う~ん……」と声を唸らせ一分後に答えを出した。
「いいけど俺達が君達の思っている以上の結果を出せるかは分からないよ?それでもいいなら――」
「いいよ、いいよ!人数多いに越したことはないしなぁ!それじゃ早速ギルドマスターの所へ行こうぜ!」
佐藤夏樹は強引に二人を連れ出しジョセフは肩を竦めながら帽子の上から頭を掻き「やれやれだぜ……」と唖然していた。
「まあ、どのみち誠経由でギルド支部長に会う予定だったからいいけどあいつの傍若無人で強引なところは変わらないよな……」
「ジョセフ様だって変わってないところはありますよ?女の子の気持ちに鈍感なところとか」
ジョセフが夏樹について呟いているとリサが横から現れ微笑しながら指摘する。リサの容姿は小柄で華奢な部分はあるが妖艶さも持ち合わせているからなのかジョセフはリサを見た瞬間表情が緩くなりジンジャーとケイト、ブーディカは二人を見てニヤケ始めていた。
ジョセフとリサは一年という期間で距離は縮まり婚約者としての関係も良好であったのだ。ジョセフはリサ以外にもケイト、ジンジャー、ブーディカ、アイリス、テレサとの時間も大切にしていた。
特にジンジャーとは歳も近いこともあってかジョセフはリサの次にジンジャーと親密な関係に発展しており、夜の営みもしっかりとしていたようだ。リサと一緒に添い寝する程度の関係に発展こそしていたがリサの年齢が14歳であることは考えれば妥当であろう。
ブーディカとの夜の営みに関してはブーディカの二人の娘のことを考えればむやみやたらに手を出すのは良くないと判断したからなのかジョセフ自身、ブーディカの母性に甘えているのは間違いないだろう。ジョセフはリサやジンジャーとは違う女性と触れ合うことで女性との関係の大切さを学ぶべくブーディカの母性を堪能し、いつかはブーディカとの間に子を作りたいとすら考えていた。
一応ブーディカもバツイチではありつつもジョセフと婚約関係を結んでいるため何ら問題はないのだろう。
ケイト、アイリス、テレサとも当然一緒に一夜を過ごすことはあるがリサ、ジンジャー、ブーディカと比較するならまだ羞恥心を感じている部分もあるからなのかジョセフとの距離が少しあったりするものの三人ともジョセフに好意を抱き、ジョセフも三人に好意を抱いているため関係は決して悪いわけではないのだ。
裕二と和泉を強引に支部長室に連れ出した夏樹は支部長室の扉をノックしようとした瞬間扉が開き夏樹の鼻にぶつかり赤くなった鼻を押えながら夏樹は涙を流していた。
「……ってえなぁ……」
「すみません……」
女性は何度も夏樹に謝罪の言葉を述べ、裕二と和泉は腹を押えながら笑いを堪えていたのだ。
「いっつもこうなんだよなぁ……あの時から圧倒的な力を身に付けたってのに俺の運は一向に良くならないしジョセフみたいに可愛い女の子とラブラブになれるわけでもないし俺みたいなのを……」
夏樹は床に蹲り負の感情を剥き出しにし、自分はなんて不幸な人間なんだと憐れんでいた。裕二と和泉はそんな夏樹を見て唖然としながら肩を竦めそのまま支部長室へと入り、それに気づいた夏樹は後からついてくるようにやってきたのだ。
和泉たちの眼前に現れたのは猫耳に長い茶髪の亜人の女性で、夏樹の方を凝視していた。
「え~っと、君が草凪誠君の言っていたジョセフ・ジョーンズかな?」
亜人族の女性は夏樹に尋ねる。
「俺はその仲間の佐藤夏樹だ。その誠の野郎に頼まれてここに来たわけでジョセフはもうじき美女を連れて来るんじゃないの?」
夏樹は亜人族の女性にぶっきらぼうに話し亜人族の女性は唖然としながら肩を竦め目を瞑り始めた。
「……ふぅ、君は誠の手紙に書いてあった佐藤夏樹か……」
亜人族の女性は溜め息を吐きながら夏樹の名前を呼び、夏樹は亜人族の女性の方へと鬼気迫る様子で詰め寄った。
「んで、俺のことはなんて書いてあったんだ?ちゃんとカッコよくて強いってかいてあるよな?」
夏樹は呑気に尋ねると亜人族の女性は再度肩を竦めながら溜め息を吐き口を開いた。
「いや、傍若無人で下心丸出しの《《冴えない男子》》と書いてあったな」
すると夏樹は顔を赤くし歯を食いしばり鬼気迫る表情で亜人族の女性に手紙のありかを尋ねた。
「その手紙はどこだ!あの野郎、ぶっ殺してやる……ハーレム野郎め!俺のおかげでほぼワトソン王国を魔王ベルの侵略行為を阻止できたと言っても過言ではないのによ……」
夏樹は過去の栄光に縋り付いているようで和泉と裕二は内心ワトソン王国を魔王ベルの手から救った救世主の一人とは思えずにいた。寧ろ本当は関与していないのではと疑う気持ちすらあったのだ。
「いつまで過去の栄光に縋ってんだ?佐藤夏樹」
「ジョセフ、こんな時に急に現れてんじゃねえよ!ラノベ主人公――」
「俺のどこがラノベ主人公だよ?」
「ほぼ全部だよ!グラサン外したらイケメンでした設定とか美女を沢山侍らせたりとオタクの理想を兼ね備えている時点でラノベ主人公じゃねえかよ……」
夏樹は急に号泣しだしジョセフに嫉妬心を抱き、ジョセフのどの辺りがラノベ主人公なのかを指摘しだした。
ジョセフと夏樹が口論していると亜人族の女性は大きく咳ばらいをし、ジョセフ達は口論を辞め背筋を伸ばした。
「それで、あなたが誠の言っていたジョセフ・ジョーンズだね。私はこの街の冒険者ギルドの支部長をしているモニカ・フォリアよ」
「ジョセフ・ジョーンズだ。それで、誠に言われてこの街に来たんだが俺達は一体何をしたらいいんだ?」
モニカはジョセフに自己紹介をし、ジョセフは訝し気な表情でモニカに尋ね始めた。
「実は、この街に魔王軍の配下が接近しているとの情報があってね……ワトソン王国の救世主であるジョセフならばそれを何とか解決してくれるだろうとのことなのだが魔王軍の討伐をしてくれないかな?勿論それなりに高い報酬を出すよ」
モニカはジョセフに説き、渋った表情をしたジョセフは肩を竦めながらも口を開き「分かった、引き受けよう」と返事を出したのだ。モニカは魔王軍に対抗できる冒険者の人員が少ないことに悩んでおり、その節を誠とホームズ王国王都マイクロフト支部冒険者ギルド支部長に相談をしていると誠はジョセフを推薦したのだ。
草凪誠は冒険者ギルド支部長ではないが最上級ランクの冒険者であったからなのか発言権があり、モニカは噂に聞いていた若輩者であるジョセフについてどうするか渋りながらも派遣することを許可したのだ。
「魔王って一人じゃないんだな……」
ジョセフが肩を竦め溜め息をしながら俯かせているとリサはジョセフに説明しだす。
「ジョセフ様、魔王は各国のどこかに複数にいるものでして各国の冒険者や勇者と言った人達は魔人族や魔王軍と戦っているんですよ」
「そうなのか?俺はてっきりベルの奴だけだとずっと思っていたが……まっ、ワトソン王国以外にも魔王がいても何らおかしくはないか」
リサがジョセフに各国に魔王を名乗る存在がいることを伝えるとジョセフはすぐさま納得し、ジョセフは「ありがとう」と言いながらリサの頭を優しく撫でるとリサは「それ程でもありませんよ~」と頬を赤く染めながらデレデレしていたのだ。
「俺がいれば魔王軍だろうと何だろうとすぐにぶっ倒せるからなんとかなるけど、お前達にも手柄を与えてやってもいいぞ?」
夏樹は裕二と和泉の方を向きながら皮肉交じりに言いながらニヤけていた。その姿を見た裕二は「その言葉に甘えて着いてきてもいいんだね?」と夏樹に尋ねた。
夏樹は(えっ!?冗談で言ったんだけどな……)と内心思いながら冷や汗を掻き称した様子で「いいぞ、着いてこい!」と兄貴面していたのだ。それを見たジョセフは唖然としながらポケットから煙草を取り出し火を着けようとした瞬間、モニカに注意されたのだ。
「ジョセフ、悪いけど煙草は外で吸ってくれないかな……一応室内は禁煙にしているから――」
「すまないな……」
モニカは苦笑しながらジョセフに注意を促し、ジョセフは煙草をポケットの中に戻すとリサは「そもそもジョセフ様のいた世界ではタバコ吸っちゃダメなんですから……」と溜め息を吐きながら苦言を呈していた。
モニカは一通り魔王軍の情報を提供し終えると、夏樹は「俺に任せろ」と言わんばかりにモニカの手を握り魔王軍討伐の依頼を引き受けることにしたのだ。
「そうそう、ついでにこいつらも連れて行っていいか?」
「「えっ!?」」
夏樹は和泉と裕二を指さしながらモニカに尋ねると顔を引き攣らせながら肩を竦め溜め息を吐いた。
「それは私よりも彼らに聞いた方がいいのでは……」
「んじゃ、改めて言うけどお前達も来いよ」
夏樹は空気を読まずに和泉と裕二を誘うと二人は二つ返事で答えた。
「「OK」」
モニカは夏樹に魔王軍が現在拠点にしているであろう場所を記した地図を渡し夏樹はパッと見た後すぐにジョセフへと渡したのだ。
「う~ん、魔王軍が現在拠点にしている場所はッと……」
「ジョセフ様、どうしたのですか?」
ジョセフは地図を見た瞬間訝し気な表情で睥睨し、リサはジョセフに尋ねた。
「いや、俺は基本的に方向音痴だから分からないってのもあるんだが魔王軍が拠点にしている場所ってのがここから結構遠いんだなって思ってさ……」
「そうですね、確かにここからですと結構時間がかかるためかなりの長旅になるとは思いますが今のジョセフ様なら大丈夫だと思います」
「ジョセフは自信気なさそうに言っているが本当に任せて大丈夫なのか?」
モニカは再度ジョセフ達に尋ねるとジョセフは頼まれた以上断るつもりは毛頭なかった。
現在、魔王軍が拠点にしているのはチュードランド王国領土アインヘイムの街から徒歩で1ヶ月程度はかかる場所にあるのだ。そのうえ、ジョセフは敵の戦力が分からない以上、情報も無しに出かけるのは無謀だと思ったからだ。
「この魔王軍討伐は他に受けている人間はいないのか?」
ジョセフはモニカに尋ねるとモニカの表情は曇りつつあった。モニカはどうもジョセフ達に話したがらない様子でいたのかリサはモニカの心を読み取りジョセフの耳元で小声でその理由を教えたのだ。
「まぁ、何でかは聞かないでおくよ……取り敢えず魔王軍は討伐するから安心しな」
モニカに背を向けたジョセフはリサ達を連れてそのまま支部長室を出ていき、モニカは何も聞かないジョセフ達を見て茫然としながら上の空になっていたのだ。
ギルドを出たジョセフは最初に何を考えたのか魔王軍を確実に討伐するにはどのような準備を行うべきか会議を開くことにした。
ジョセフにとってこの会議は恒例のもので夏樹にとってはめんどくさいと感じるものでもあった。しかし、無計画で敵のど真ん中に突っ込むことは確実に自殺行為に等しいため死傷者を出さないためにも会議というものは大切なものであったのだ。
ジョセフ達は会議をするべく酒場へと入り、空いている席へと座っていた。
夏樹は訝し気に大股開きで座り和泉と裕二は夏樹のそんな態度を不穏に思ったからなのか悪態をつく。
「何だよ、お前ら妙に俺に敵意剥き出しだな?」
「何だじゃないだろ、第一お前は何を会議することを不満に思っているんだよ!」
夏樹は和泉に尋ねると和泉はそんな夏樹を睨み声を荒げる。ジョセフは犠牲者は出すべからずと思って会議を開こうとしているのにそれを面倒くさそうにされては見ている側も不快に感じるのは仕方がなかった。
和泉は同じ日本から来た先輩であるジョセフ達がどのような会議をするのか楽しみにしていたのに夏樹の所為で台無しにされたと思い、裕二は和泉を宥めていた。
「落ち着きなよ和泉、君の気持ちは充分分かるけど少し頭を冷やして!」
「でもよ、こいつ変に不貞腐れているのが……」
「佐藤夏樹はいつもこんな感じだから気にしなくていいよ。それより、魔王軍討伐についての会議だが……」
裕二は和泉に冷静になるよう注意を促し、子供のように感情を剥き出しになっている和泉の横から割り込むようにジョセフは魔王軍討伐の会議を開いた。
「魔王軍の討伐の依頼を受けたからといきなり敵地に飛び込むなんてことをするのは自殺行為に等しい。それを未然に防ぐ方法としてまずは情報収集だ。魔王軍がここを拠点にしている以上その場所の地理を知らねば地の利でこっちが不利になることがあるからな」
ジョセフは地図を開き魔王軍が拠点にしているであろう位置を指さしながらそう言うとリサとテレサ、ブーディカは頷き、和泉と裕二は同じ転移者として感心していた。一方夏樹は鼻に指を入れながら「もう会議は終わったのか?」と欠伸をしており裕二と和泉は夏樹のだらしなさに悪印象しかもっていなかった。
「しかしよぉ、情報収集って言うけどどうやって情報を得るんだよ?」
夏樹は訝し気にジョセフに尋ねる。ジョセフはそれも考慮していたのか「魔王軍が拠点にしている廃墟の近くに街があるからそこに行って情報を得る方法もあるし、もしかすれば途中で魔王軍と遭遇する可能性もあるだろう」と旨を伝えると夏樹は納得した。
「んじゃ、さっさと魔王軍ぶっ倒して帰ろうぜ!ジョセフ――」
「そうだな、お前の言う通り早くこのクエスト終わらせてゆっくりしたいしな……」
ジョセフと夏樹が立ち上がろうとした瞬間、リサがジョセフの革ジャンの裾を引っ張っり上目遣いをした。
「ジョセフ様、そのぉ……まずはお食事を済ませてからにしましょう」
リサは食事を済ませてから出発しようとジョセフに言い、リサの意見に納得したジンジャー、ケイト、テレサ、アイリス、ブーディカ、裕二、和泉もうんうんと頷き始めた。
和泉達は食事を済ませた後街を出て魔王軍が拠点にしている現在廃墟と化した古城へと向かうことにしたのだ。
「それでジョセフ、その腰に差しているのは坂本龍馬が使用していたであろう名刀陸奥守吉行と龍王丸で合ってる?」
ジョセフの左腰に差して二本の刀に視線を向けた和泉はジョセフに尋ねた。
「それも小説で知ったの?確かにそうだよ」
「うん、本物のジョセフの刀をこの場で見られるなんて思ってもいなかったから今凄く興奮しているんだよね」
するとジョセフは「ふ~ん」と頷きつつも和泉の背中に背負っている黒い剣に視線を向けていた。
「その黒い剣、中々かっこいいね。これも神様から貰ったの?」
「まあね、神様が餞別としてこの剣もくれたんだよ。そしてこのスマホも神様に魔改造してもらったんだ」
和泉はジョセフに魔改造してもらったスマホを取り出し見せびらかしにしていた。ジョセフはスマホを久しぶりに見たのか黒い剣とスマホに強い視線を向けていた。
「ジョセフ様、これがジョセフ様が言っていた《《スマホ》》っですか?」
「うん、スマホってのはスマートフォンの略称で俺達のいた世界では今じゃ当たり前のように使われている携帯電話という連絡手段にも使える道具なんだよ」
ジョセフはリサに説明するとリサは瞳を煌びやかに輝かせながら和泉のスマホを見詰めていた。リサはジョセフに聞かされていたスマホに一瞬そんな便利な機能がついているのようには思えないとも思っていたがスマホの画面が急に光り人の写真のようなものが写りだしたことでその凄さを理解したようだ。
「それにしても久々だな。スマホなんて見るの……んで、日本って今どんな感じ?」
「いつもと変わらないよ……」
夏樹が日本の現状を和泉に尋ねると和泉は顔を俯かせながらあまり日本のことについて語りたがろうとはしなかった。夏樹は「そうか……」とだけ呟き肩を竦め和泉の肩をポンポンと叩き微笑した。
和泉は夏樹に肩を叩かれたことを癪に感じたのか素直に受け答えすることができず不貞腐れた表情をしながら俯いていた。
さっきまで口論していた相手と急にフレンドリーに接するなんてことは思春期真っ只中でナイーブな和泉には難しいことでもあったからだ。裕二はその辺りを割り切れていたからなのか夏樹ともすぐに打ち解けていたりと介護職で鍛えたコミュニケーション能力が生かされていたりしていた。
「夏樹は普段あんな感じだから気にしなくていいとは言ったがまぁ、俺も苦手だなと思う部分はあったがなれたよ……」
「実在の人物が小説や漫画に出てくると結構美化されたりすることが多いけどあなたの凄さは不変だと思います」
「日本にいた頃があれだから別に褒められるところはないと思うがね?」
ジョセフは上手く場の空気に馴染めない和泉に気を遣っているのか和泉の傍らへと寄り声をかけると和泉はジョセフの凄さは小説の中だけのものではないと実感し、和泉は己自信を卑下していた。
草原を歩き続けて二時間が経過し、前方にはダンジョンと言われるものが和泉達の眼前に現れ中に入ることにしたのだ。
ジョセフは再度地図を開き現在地を確認した後ポケットの中にしまい込んだ。
「この地図通りに行けばいいんだよな?」
「少なくとも魔王軍が拠点にしている場所に行くならこのダンジョンを言った方が確実だよ」
地理に詳しくないジョセフに裕二は親切丁寧に教えていた。
今から向かうダンジョンはいわゆる初心者の訓練用としても利用されているダンジョンでよほどのことがない限り死傷者が出ることはないと言われていた。ダンジョンに生息している魔物は主にゴブリン、リザードマン等の低レベルの魔物であるため上級者の冒険者がダンジョンに入ることはなかったためジョセフはそれを聞いて肩を竦めていた。
「裕二、俺は冒険者としてそんなに日にち経ってないから分からないんだけどラノベとかアニメみたいにそんな都合よく低レベルの魔物しか生息していないって保証はできるのか?」
「魔人族とか盗賊のような類がいなければ基本は初心者向けなのは間違いないよ」
和泉は異世界の仕組みが分かっていなかったからなのか裕二に尋ねっぱなしであったが和泉はラノベや漫画で得た知識と照らし合わせてみると異世界ファンタジーを作品として世に出している人達は異世界で生活していたのではと疑いもしていた。
ダンジョンには裕二が言っていた通り低レベルの魔物のゴブリン、オレンジバルーンが大量に出現していた。裕二と和泉は低レベルの魔物でも気を緩めずに慎重に戦おうとした瞬間、ジョセフ達は無鉄砲に突撃するかのように距離を詰め武器を構えていた。
夏樹はお得意の魔法でゴブリンの半分を撃墜し、ジョセフは瞬間移動でもしているのかと疑問に思う程速く動きオレンジバルーンを次々に斬り込みオレンジバルーンを全て倒したのだ。
「――”レールアローガン”!」
夏樹が使用してる”レールアローガン”という魔法は光属性魔法の中でも会得ランクが高めであるからなのか”レールアローガン”を覚えようとするものも少ない方であった。
会得ランクが高い理由は魔力の消費量が高く連続で発動するのが難しく長期戦向きではないからだ。
夏樹とジョセフに気を取られていた和泉と裕二は背後から迫ってくるゴブリンに気付くタイミングがズレ剣を構えようとしたが致命傷は避けられないようだったが和泉の眼前に閃光が迸りゴブリンの首はくし刺しにされていたのだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ……伊達にジョセフの婚約者しているんじゃないんだな……」
和泉の眼前に現れたのはリサだった。リサの小柄で華奢な身体つきからは想像できないほどに剣捌きは正確で冒険者としてそれなりに活躍していた裕二でさえ「僕よりすごい……」と言わしめてしまうほどに動きが見えなかったのだ。
「まだゴブリン残っていますよ。――”電光石火”!」
リサは光属性魔法”電光石火”という高速移動が可能な魔法を発動しており、”電光石火”は無属性魔法”ハイスピード”にも似ていることから識別しにくい部分があり間違われることがよくあるようだ。”電光石火”は発動時に閃光が迸り、”ハイスピード”はその名の通り単純に高速移動が可能になっただけだ。
”電光石火”は光属性魔法であることから高速移動することで稲妻が生じ、攻撃力も”ハイスピード”発動時の比にならない程に上昇するのだ。しかし、”電光石火”は魔力消費も”ハイスピード”と比較すると消費量が多く燃費が悪い。”電光石火”は光属性魔法を分解する作用を持つ魔物や魔人族、地域ではその効果は弱まるため、光属性魔法と無属性魔法の両方の適正を持つものは魔力消費の少ない”ハイスピード”を好んで発動するようだ。
「腕を上げたな、リサ」
先ほどまでオレンジバルーンを殲滅するためリサと距離が離れていたジョセフが一瞬で移動したように思ったのか和泉は困惑した表情をしながら肩を竦めていた。
「ジョセフ様と一緒に旅に出たのとテレサさんの訓練のおかげですよ」
リサは満面な笑みを浮かべ、ジョセフは背後から強襲してきたゴブリンを左手の四本の指を槍のようにゴブリンの胴体を突き刺しドクッドクッとゴブリンの体から音が鳴っていた。そう、ジョセフはゴブリンの血液を体内に取り込んでいたのだ。
ゴブリンは血液を全て吸血されたからなのか身体は枯渇しミイラのように干からびていた。
「ゴブリンの血液を久しぶりに吸ってみたがあんまり魔力は回復していないみたいだな……」
「小説では確か魔物の血を吸うのと同時に光属性魔法”浄化”で体内で循環している血液を綺麗にしているんだっけ?」
和泉は小説の内容を思い出しながらジョセフに尋ねていた。
「ああ、妹の小説読んでるならそれ以外にも知っているんじゃないのか?」
「確か”スパーク”を掌から放出するんじゃなくて指先又は拳に一点集中して発動していたんだっけ?……って、綾野侑先生ってジョセフの妹なの!」
「正確には義理の妹なんだけどね。そもそもが日本国籍取得する前は俺は北欧系アメリカ人だったみたいだし」
小説の内容をある程度熟知していた和泉はそんなジョセフの出自を聞かされ、神様に力を授かっているわけでもないのに自分よりも機敏な動きでゴブリンやオレンジバルーンの大群を相手に怯まないところはある意味チートなのではないかと疑問に思っていた。
「それなら俺の活躍も見ていてくれよ。ジョセフやリサにばっかりいい思いされるってのも癪だからよ……」
和泉はそう言うとジョセフは微笑しながら和泉をサポートすることに徹し、ジョセフはリサと一緒に和泉を見守っていた。
黒い剣を構えた和泉は某ライトノベルの剣士のように地面を蹴り上げゴブリンに急加速で接近し剣を振り上げる。
ゴブリンは和泉の攻撃を予測し古びた剣で和泉の剣撃を防ごうとするも和泉の振り下ろした黒い剣は外見こそ細身の片手直剣ではあったが斬馬刀並みの威力でゴブリンの剣をへし折り、ゴブリンの頭部へと軌道が乗り一刀両断したのだ。
「ぐぅるるるるる~!」
低い声で他のゴブリンは唸り和泉に集中し、攻撃を仕掛けようとしたのだ。
和泉は危険を察知したのか黒い剣は緑色に輝くオーラを纏わせ、和泉が軽く一振りするとカマイタチにでも襲われたかのように複数のゴブリン達の肉体は木っ端微塵に切り裂かれていた。
「ハラショーだなぁ……神様に力を授けてもらってるか否かでここまで差が出るとはな……」
「どうだいジョセフ?俺だってそれなりに戦えるだろ?」
和泉は黒い剣を背中に背負っていた鞘にカッコつけながら納め、ジョセフは口を噤ませながら肩を竦めていた。
「マジで凄いな……そのくらい強いなら魔王ベルも単独で倒せたかもしれないな」
「いやいや、そんな大物相手は流石に俺一人でも無理だって……」
ジョセフは冗談交じりに和泉を褒めると和泉は謙虚になっていた。




