第46話 ケイトとジョセフの出会い
ケイトがソロで活動するようになって数日が経った。ケイトはかつて共に行動していたパーティメンバーの意志を継ぐべく剣、ヌンチャクを購入した。魔法に関しては光属性魔法の適正があり、クエストの合間に本を読んで習得をしていたりと日々鍛錬を積んでいた。
ダガーの扱いに長けているケイトも最初は片手直剣を持ち歩く体力がなく持久力と筋力を向上させようと試みるも身長が145cm程度しかなかったことから剣の長さを短くしたりと試行錯誤した結果軽くなり片手で振りますことが可能になった。
ケイトは訓練として簡単なゴブリンの討伐クエストを受けることにした。
剣とヌンチャク、魔法を上達させるためにとゴブリンの討伐を選んだのだが今回のゴブリン達は実戦慣れしていたからなのかケイトは油断してゴブリンの策略にハマり苦戦を強いられていた。
「……やっぱり、私じゃダメなんだ……」
ケイトは薄暗い森の中で立ち竦み劣等感を抱きゴブリン相手に殺される自分自身を恥じていた。
「ぐぅるるるる」
ゴブリンは哄笑しながら冒険者から身ぐるみを剥いだ剣を振り上げケイトは目を瞑ったたその瞬間であった。
頭部が無惨にも血飛沫を上げながら内部から爆発し、周囲を取り囲んでいたゴブリン達はおらず血の海と化していた。
「……大丈夫か?」
一人の少年がケイトに手を差し伸べながら尋ねる。ケイトはゆっくりと目を開けるとそこには黒い帽子に長い金髪とサングラスで顔を隠していた少年の姿が見えた。
ケイトは「はい!」と頷き少年はケイトを見て言葉を発した。
「そうか、ゴブリンと言っても必ずしも弱いとは限らないからな。今後はもっと策を練って依頼を受けた方がいい」
少年に指摘されたケイトは勇気を振り絞って尋ねるのだ。
「あっ、あの……あなたのお名前は?――」
「ジョセフ、ただの冒険者だ」
ジョセフと名乗った少年を見てケイトは何かを思い出したのだ。
(私はこの人の名前を知っている。ワトソン王国の冒険者にジョセフって人がいてその人の特徴は黒ずくめで長い金髪の少年だったって。しかしその人は迷宮で魔人族に戦いを挑んで戦死したって聞いたけど……)
ケイトはジョセフが魔人族との戦闘中に命を落としたことを思いまさかと思っていたがケイトはどうしても事の真相が気になっていたのかジョセフに尋ねる。
「あなたは半年前に魔人族と戦い戦死したと言われているジョセフさんですか?」
直接質問したケイトにジョセフは肩を竦め溜め息を吐きながら口を開いた。
「まあ、合ってはいるんだけどね――正確には魔王気取りの人間と戦って敗れたってのが事実なんだけどね……」
「そうなんですか?それとさっきは私を救ってくれてありがとうございます!その……一つ頼みたいことがあるのですがいいですか?」
「頼みたいこと?」
ケイトは顔を赤くしながらもじもじとしていると煙草を口に咥えていたジョセフは首を傾げる。
「私とパーティ組んでもらえないでしょうか?」
「何のためにだ?」
「強くなりたいからです!昔のパーティメンバー達の意志を継ぎたくて……でも、今の現状を考えれば難しくて……」
「そうなんだ……う~ん、俺は別にいいけど――」
「私は一向に構いませんよ。ジョセフ様」
ジョセフはケイトをパーティに加えることを渋っていると可愛らしい少女の声がジョセフの後ろから聞こえ始めた。後ろを振り向いたジョセフは「リサ……いいのか?」と首を傾げながら声を発した。
「いいじゃないですか。ジョセフ様だって私を守るために修行の旅に出ているわけですから――」
「んじゃ、そういうことで俺達の旅に同行するか?」
ジョセフは再度ケイトの方を見て確認をするとケイトは「はい、よろしくお願いします……」と自信気のない声でジョセフ達の旅に同行することにした。
「あの、ジョセフさん。もう一つ聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「ジョセフさんはどうして私のことを助けてくれたのですか?」
ケイトは赤の他人である自分自身を助けてくれたジョセフに助けた理由を尋ね、ジョセフは頬を軽く掻きながら肩を竦めた。
「絶対に笑わないって約束してくれるなら……」
ジョセフは訝しげにケイトに言うとケイトは「笑いません!」とジョセフに詰め寄りながら言った。
「それはだな、ゴホンッ……君が俺の婚約者であるリサになんとなく似ているからかな……」
「えっ、それだけの理由でですか?」
「それだけだよ」
唐突な発言に呆然としたケイトはその後手を口に当てながら笑い始めた。
「アハハハッ、助けた理由がリサさんに似ているからってそれ何の冗談ですか?」
「あのさぁ、笑わないって言ったよな……」
ジョセフは「やっちまった……」と思ったのか帽子の上からガリガリと頭を掻き溜め息を吐いた。
「うふふっ……ジョセフ様らしい理由ですね」
「リサまで笑うことはないだろ……」
リサもケイトに続いて笑い始め、ジョセフは訝しそうな表情をしながら顔を俯かせていた。
ジョセフ達と共に行動をすることにしたケイトはジョセフの圧倒的な強さに心揺さぶられていた。
自分に持っていないものをジョセフはもっていることへの憧れからだ。見ず知らずの相手でも救いの手を差し伸べる強靭な心の持ち主だと感じたケイトはジョセフを通して何か買われるのではないかと思ったからだ。
初めて出会った森で雑魚同然のゴブリンに殺されかけた自分の無力さに気付かされたことでもう一度原点回帰しようと一念発起した。
「ジョセフさんはどうしてそんなに強いのですか?」
「別に強くはないさ。俺だってリサがいなければ確実にゴブリンに殺されていたようなものだし、まあ簡単に言うなら経験って奴だよ――」
「それだけで強くなれるものなんですか?」
「個人差ってのもあるから一概にそれが正しいというわけでもないが多分」
ケイトはジョセフに強さの理由を鬼気迫るように尋ねるもジョセフの答えは少々曖昧に思ったのかケイトは肩を竦め溜め息を吐く。何せジョセフは日本にいた頃はいじめられっ子で家に引きこもりになってはいたものの体を鍛え動画投稿サイトで格闘技を独学で習得しその修行の成果を試すべく片っ端からヤンキー達と喧嘩をしたりとお世辞にも異世界転生、転移する日本人としてあるまじき行動であった。
「ジョセフ様は魔法がそんなに使えなかった頃から奇抜な戦法を思いついたりとしていたのも強くなった理由だと私は解釈しています」
「そうなんですね……確かにさっきゴブリンを倒した時詠唱も無しに無言で魔法を発動していましたがそれも強さの理由なんですか?」
「まあそういうことかな……」
リサが横から入りながらケイトに説明し、ジョセフはまたもや曖昧にケイトの質問に答えた。
ケイトはジト目でジョセフを見詰めるもジョセフはリサに次はどの街へ向かうか今後の旅の計画の打ち合わせをしていた。
「それで、ジョセフさんは今後どこへ行くとか決めているんですか?」
ケイトは真剣な眼差しでジョセフに尋ねジョセフは「特に考えていない」と答えた。唖然としたケイトは(この人大丈夫なのかな?)と内心心配しつつも命を助けられた恩人である以上ジョセフに恩返しをしたいと思っていたのだ。
「修行の旅に出てからもう2~3ヶ月は経つのかな?取り敢えず一年は国に帰るつもりはないからそれまでにリサや他の人達を魔人族や強敵から守れるくらいの強さがあればなと思っているところだ」
「それくらい強ければ十分リサさんを守れると思うのですが――」
「普通はそう思うだろうけど魔人族はもっと強いし俺よりも強い人間は知っている限り二人いる。その一人は最近ある男と同化していないんだけどさ……」
「ワトソン王国の襲撃を阻止してるみたいですしその辺りは納得しましたがジョセフさん以上に強い人間がいるのはもっと驚きです……私も強くなれるのでしょうか?」
「これだけはケイトに言うよ。強さってのは誰かを傷つけるためのものではないということを。戦う技術だけが強さではないんだよ」
ジョセフは強さについて論しているとケイトは唖然としながら首を傾げた。強さを求めていながら戦う技術が全てではないと言われてもケイトにとって納得ができなかったからだ。
「それでは強さとは一体……」
「愛だな」
「……愛!?」
ケイトはジョセフが言い放った言葉を訝しげに思い肩を竦め溜め息を吐いた。
ジョセフは強くなりたくば愛する心を持つことも大事だと提唱しているようだがそれを兼ね備えることで強くなれるのなら誰でも強くなれるはずとケイトは信じることができなかった。
ケイトはジョセフが強い理由はそれ以外にあるだろうとリサに尋ねてみるもジョセフと同様のことしか言わないため訝しそうに肩を竦めた。
「二人ともふざけているんですか?愛だの恋で強くなれるなら今頃誰もクエストで死ぬことなんてありませんよ!」
我慢の限界に達したケイトはそんな二人の発言に怒りを露わにした。ジョセフは「そんなこと言われてもなぁ……」と茫然としており、リサは完全に知らないふり状態だ。
「ケイト、早速だが軽く魔物の討伐にでも行くか。実は次の街へ向かってギルドで依頼を受けようと考えていた所だしな」
ジョセフは何もない荒野でケイトに旨を伝えるとケイトは目を煌びやかに輝かせながらジョセフに詰め寄る。ケイトはジョセフの強さの秘訣を知るためにはやはり戦い方を見て学ぶしか方法しかなかったからだ。
「ジョセフ様、街に向かう前にここで休憩しませんか?」
「そうだな、ケイトと出会ってから休憩挟まずに歩き続けていたから腹も減ってきたな」
リサは食事を取り出しジョセフは集めた木を火属性魔法『ファイヤー』で火を着け、ケイト達と出会う前に狩った鹿の肉を焼きそれを頬張っていた。
「調味料がないと肉ってのはえぐみがあって旨いとは思えないものだが好き嫌いは言ってられないな――」
「私は結構おいしいと思いますよ?ジョセフ様と一緒に旅できることを考えれば」
「普通街や村以外で肉を焼いて食べることなんて殆どありませんから焼いて食べる肉はおいしいものですよ」
女性陣からは調味料がなくても肉は美味であるというがジョセフのいた日本では調味料を加えることでより一層肉の旨みを引き出していたため塩も呼称も使わずに食べる肉というものはただえぐいだけであった。
「異世界では好き嫌いはやっぱ言ってられないな……」
「そうですよ!早くこの世界の食事になれなきゃメッ!ですよ」
ジョセフは日本にいた頃の食文化を懐かしみまだ日本での生活を心では内心恋しく思っていた。
「ジョセフさん、《《異世界》》とは?」
首を傾げながらケイトはジョセフに尋ねる。
「ジョセフ様は私達とは違う世界からやって来たため色々と食文化が違うんですよ。ジョセフ様の世界での食事は王族でなくても調味料を使った料理を当たり前のように食べられるんです」
「えっ!?」
「それだけじゃないですよ。ジョセフ様の話しによれば魔法のような道具を当たり前のように持っているんです」
ジョセフから教えられた日本の話をリサは熱く語りケイトは目を輝かせながら関心を持っていたようだ。
ジョセフ達はワトソン王国と同盟を結んでいるモリアーティ王国領土のハイードの街の検問所へと到着し、門番はすかさずジョセフ達のもとへと寄って来たのだ。
「身分証の提示を――」
門番はジョセフ達にそう言うとジョセフは冒険者カードを門番に見せると門番はさっきまで喧騒だった顔から柔らかい表情へと変わっていった。
「――これは、魔王ベルとその集団を討伐した冒険者の一人のジョセフ殿でしたか……どうぞ――」
「それじゃあ、通るよ」
ジョセフはリサ達を連れて門を潜り抜けハイード支部の冒険者ギルドでカウンターにガンドゥーム鉱石、ワイバーンの牙等をどっさりと置き受付嬢を驚かせたのだ。
「こっ、これはガンドゥーム鉱石じゃないですか!」
「ええ、換金してもらえると嬉しいのですが……」
驚いた受付嬢はすぐさま換金しジョセフは袋に入った硬貨を一枚一枚確認した。
「へぇ~、あの鉱石ってそんなに高かったのか……」
「それはもう、ガンドゥーム鉱石はベンビス山の山頂でないと採れない鉱石ですので当然ですよ」
ガンドゥーム鉱石は名刀龍王丸の加工の際に使用された鉱石で強度、軟度は一級品である。ベンビス山の山頂は足場が悪く採取も困難であるためガンドゥーム鉱石はかなりの高額で取引されているのだとか。
「それよりも、この辺りで訓練がてらにできそうなクエストってあるかな?」
ジョセフは受付嬢に尋ねると受付嬢はすぐさま書類を確認し、見つけた書類の中からジョセフに渡す。
「これとかどうですか?ソニックウルフはゴブリンより少し強めではありますが脱初心者向けではありますよ?」
「そうなんだ、それじゃあソニックウルフの討伐を受けるとするよ」
「かしこまりました」
クエスト討伐の手続きを済ませた後、ジョセフ達は早速ケイトの技量を見るためにソニックウルフ討伐へと向かった。
「ケイト、ソニックウルフってどんな魔物か知っているか?」
「ソニックウルフですか?ソニックウルフは前のパーティでも討伐したことはありますけどゴブリンより速いだけで強さ自体はそんなに変わらないと言われています」
ケイトはジョセフにソニックウルフの強さを伝えるジョセフは手をポンと叩きながら頷いた。
「よし、それじゃあケイトがどんな戦い方をするのか見たいから最初にそのソニックウルフってのに攻撃を仕掛けてほしい」
「分かりました」
ジョセフ達はソニックウルフが生息している場所まで辿り着き複数のソニックウルフが眼前に現れ急接近してきた。ソニックウルフは名前の通り風魔法の適正を持っているようで風属性魔法『マッハダッシュ』で高加速で急接近してきた。
「スピードは速いですけどその速さなら――」
ケイトは冒険者になった時から愛用していたダガーを鞘から抜き、逆手で持ったダガーで一匹のソニックウルフを魔法を使わずに討伐した。ジョセフは「ほぉ……」と感心しながらケイトの戦闘スタイルを分析しておりケイトは次に接近するソニックウルフに苦戦していた。
「ジョセフ様、ケイトさんを助けに行かなくて大丈夫ですか?」
「苦戦はしているがケイトの技量なら何とかなるだろうからもう少し様子を見るよ」
リサはケイトに加勢しなくていいのかと尋ねるもジョセフの言う通り苦戦を強いられてはいたもののケイトは左手にヌンチャクを持ち、ヌンチャクでソニックウルフを複数回殴打した後ダガーでソニックウルフの喉元を深く刺し無事に仕留めることができた。
ケイトはソニックウルフを自力で討伐できたことでジョセフはほっこりと笑みを浮かばせながらリサの耳元で囁いた。
「リサ、あの子は強いが何か迷いを感じているみたいだ」
「迷い?――ですか」
その理由が一体何か気になったリサはジョセフの心を読みようやく意味を理解したのだ。
「ケイトさんはあれだけ強いのに魔物を討伐することに躊躇いを感じている部分があるのですね……過去に何かそういうきっかけがあるのであればどうやって乗り越えるか、それが重要ですね」
「そうだ、彼女は魔物を討つことでさえ躊躇している部分があるのは間違いないだろう。動きを見ればあのソニックウルフの動きを把握していたのに間合いに入り込んで斬り込もうとした瞬間彼女は動きが立ち止まりタイミングずれていたりしているからね」
ジョセフはケイトの戦闘スタイルを見て即座に把握するもそれをどうやって乗り越えるかはケイト次第である。
ケイトは複数のソニックウルフを相手にしておりヌンチャクとダガーでの連携攻撃を加えていたがジャッキーとブルータスはハーディと自分を逃がしたのは足手まといだったからではないかと激しく思い込み手を止めそうになりタイミングがずれたりしていたのが苦戦を強いられる原因の一つであった。
(ジャッキーさん、ブルータスさん……やっぱり私ではダメなんですか?)
「ぐぅるるるるる~!」
咆哮を上げたソニックウルフの威圧に押しつぶされそうになっていたケイトは目を瞑りながら蹲っていた。
ジョセフは両拳に光属性魔法『スパーク』を纏わせ複数のソニックウルフに攻撃を加えソニックウルフの肉体は内部から破裂し血飛沫を上げていた。
「ケイト、君は強いが迷いを捨てない限りはいつか命を落とすことになる……それは俺がどうこう言って改善するかは分からない。君の取るべき道は二つだ!俺達との関係をここで終わらせるか、俺達と共に行動しゆっくりと乗り越えていくかだ。俺も修行の旅に出て6ヶ月だがまだ答えを見出せていない」
ジョセフはケイトにどうしたいかを問い詰めケイトは息を詰まらせ声を発することに迷いを感じつつも考え込んでいた。
(私はジョセフさんの強さの理由を真剣に考えていたの?いいえ、もしかしたら私は表面だけの強さしか見ていなかったからダメだったのかな?でもやっぱり……ジョセフさんに命を救われたのも何かのめぐり合わせなのかもしれない……)
心の中で真剣に考えこんだケイトは口をゆっくりと開け声を発した。
「わっ……わたっ……私は……ジョセフさんと共に行動したいです!迷いを捨てられるかは分からないですけどジョセフさんと一緒にいたいんです!」
勇気を振り絞ったケイトは大声で叫んだあと我に返り「はっ!」と両手で口を押え顔を赤らめ焦燥していた。
ジョセフ達はソニックウルフを討伐し終え、戦利品としてソニックウルフの爪に牙、毛皮を剥ぎ取りハイード支部のギルドのカウンターへと換金するべく受付嬢に渡そうとしたその時だった。
柄の悪い貴族風の冒険者が横から割り込み受付嬢にナンパをしていたのだ。
「お嬢ちゃん、今夜は俺と食事でもいかがかな?俺の権力なら高級の食材を揃えた店を貸し切りにすることだってできるんだぜ?」
「いっ、いえ……結構です。お仕事が忙しいので……」
柄の悪い男は受付嬢にニヤニヤとしながら誘うも受付嬢は顔を引き攣らせながらその誘いを断るのだった。すると男は断られた腹いせか矛先はジョセフの方へと向かったのだ。
「おいお前!髪の長いお前だ!」
「……う~ん」
ジョセフは「髪の長い人呼ばれてますぜ」と自分じゃないアピールをするも火に油を注ぐ結果となった。
「お前が侍らせている女二人を今夜俺に貸してくれよ。勿論タダでとは言わん」
柄の悪い男は横柄な態度を取る上にリサとケイトを見てよだれを垂らしながら言う。
「悪いけどそういうのは風俗とかでやってくれないか?リサは俺の婚約者だしケイトは俺の大切なパーティメンバーだから」
「何だと!てめえ、ちびのくせに生意気言ってんじゃねえぞ!」
柄の悪い男はジョセフに怒声を上げ、ジョセフは無視して受付嬢に換金を催促で済ませるように促していた。
「この俺様を無視するとはいい度胸だ!この俺は子爵のターブ様だぞ!」
ターブと名乗る肥満体系の子爵はジョセフに襲い掛かり、ジョセフは時を止め、ターブの背後へと回りターブは自分から突進して石畳に勢いよく転んだ。
それを見た周囲はジョセフ達を凝視し、一人の男性がジョセフ達のもとへと駆け寄った。
「ジョセフ・ジョーンズという冒険者はいるか?」
「それが俺だ。仕掛けてきたのは向こうで俺は何も手を出してはいない」
ジョセフは男性に無罪を主張すると男性は口を開き「支部長がお呼びだ」と言い、ジョセフ達を支部長室へと誘導した。
何事も起きなければいいがと思ったジョセフの不安な心を読み取ったリサは「きっと大丈夫ですよ」と声をかける。ジョセフは「ありがとう」と感謝の言葉を述べ、ケイトはニコッと微笑しジョセフに「私のことを仲間と呼んでくれてありがとうです……」とデレていた。
「支部長、ジョセフ・ジョーンズをお連れしました」
男性は支部長室をノックした後扉を開け報告をした。ジョセフ達の眼前に現れたのは女性であった。
「よく来たな。私がハイード支部支部長のアンジェリーナ・リバープルだ」
アンジェリーナ・リバープルと名乗った女性の支部長はジョセフ達に自己紹介を始めた。
「それで、俺達をここへ呼び出した理由はなんだ?まさか子爵と軽く揉めたからって剥奪とか言うんじゃないだろうな――」
「いや、剥奪なんてことはしないよ。ただ君達に依頼したいクエストがあってね」
アンジェリーナはジョセフ達に快活な態度でジョセフに何かを依頼しようとしていたようだ。
「その依頼とはなんだ?」
ジョセフはアンジェリーナに尋ねると「この手紙をクラウディウス帝国大都市ブリタンニア支部支部長に渡してほしいのだよ。勿論この私直々に依頼を頼んでいるわけだから報酬は前払いで出すよ」とアンジェリーナはジョセフに言う。
「そのブリタンニアってのは遠いのか?」
「そうだな、ここからだと二ヶ月はかかるだろう。何しろクラウディウス帝国はかなり治安が悪いと聞くからな」
アンジェリーなはクラウディウス帝国の治安が悪いことを説明し、リサは渋った表情でジョセフに尋ねる。
「ジョセフ様、クラウディウス帝国はとても危険だと聞いています。それにアンジェリーナさんだって治安が――」
「修行の旅をしている以上、修羅場を潜り抜けるのも大切だとは思う。それに今の俺の実力ならリサとケイトなら守り切る自信がある……」
リサはクラウディウス帝国の名を耳にし、ジョセフに警告をするもジョセフはリサを守るための修行の旅であることと二人程度なら守りながら戦闘もできると断言した。
「分かった。その依頼、ありがたく引き受けさせてもらう」
「――そうか、本当にすまないな……頼めるのが君くらいしかいなかったからな」
アンジェリーナは危険な場所へと手紙を配達に行かせてしまうことに深く頭を下げジョセフは慌てて「いやいや、冒険者としては当然のことだから」と頭を上げるように促していた。
手紙を受け取ったジョセフはリサとケイトを連れて支部長室を出ていき、宿を見つけ次の日の早朝に出発することにした。部屋はジョセフとリサが同室でケイトは別の部屋で泊まることになった。
「今日のジョセフ様も素敵でしたよ」
リサはベッドに腰かけながらジョセフの傍らで微笑んでいた。ジョセフは「いつもと変わらないよ」と謙虚になりつつもそんなリサに内心感謝していた。
二人の距離は縮まり互いの体は当たり、リサの鼓動が高鳴っていた。ジョセフは(俺はロリコンなんかじゃない!)と内心思いながら何でもないふりをするも心の読めるリサには全てお見通しではあるもリサは何も言わずニコリと笑っていたのだ。
「ジョセフ様……」
もじもじとしながらリサは顔を赤くしジョセフの名前を呼ぶ。
「どうしたの、リサ?」
「えっ、その……目を瞑ってもらえますか?」
リサは真剣な表情でそう言い、ジョセフはすぐさまリサは自分とキスしたいんだと察し、リサの想いに応えサングラスを外し目を瞑る。
ジョセフの唇に柔らかいと微かな暖かさと感触が伝わり、これが二人にとってのファーストキスでもあったのだ。
二人にとって初めてのキスというのはドキドキするもので夜中だったからなのかムード的にもこれは何かが起きるのではとフラグが立ちそうな雰囲気だ。
「……その、ジョセフ様との初めてのキスがこんなにもドキドキするなんて思ってもいませんでした」
「俺もだよ。リサとキスした時、俺はこんなにも自分のことを愛してくれている人がいるものだと実感できたよ」
「ジョセフ様、そろそろ寝ましょう……そして、私……初めてですので……優しく、お願いします……」
「そうするよ」
黄色に輝く月は日本で見た時と同じで真っ暗になった部屋を月明かりが照らし、ジョセフとリサの影はゆっくりと重なり合っていた。
ジョセフとリサが一夜を過ごした翌日、目が覚めたジョセフは体を起こし横にいたリサは幸せそうな表情で眠っていた。
ベッドから離れ服を着ながらジョセフは昨夜起きた出来事を思い出していた。そう、初めての相手がリサであったことを。
「昨日はリサと一緒に……それにしてもロリコン認定されないのかどうかは心配だがここは日本じゃないし法に触れているわけでもないから大丈夫だろうな……」
ジョセフはフッと笑いながら呟いた。ジョセフはベッドに腰を掛けリサの頭を優しく撫でてているとリサはジョセフの手を握りゆっくりと目を覚まそうとしていた。
「うっ、う~ん……あっ、おはようございます。ジョセフ様」
「おはよう」
昨日のことで眠気が取れていないのかリサは目を擦りながらジョセフに挨拶をし、ジョセフもリサに挨拶を返した。
ジョセフはこうやってリサと二人でいられる時間というものが大切であると思い、この時間が永遠に続けばいいのにと考えていた瞬間だった。
「おはようございま……っす」
ケイトはジョセフとリサが泊まっていた部屋の扉を勢いよく開け挨拶をしようとするも二人の姿を見て顔を赤く染めながら口を噤んだ。
「ケイト、入るならノックくらいしたらどうだ?」
「ごっ、ごめんなさい……」
ジョセフはケイトに注意を促し、ノックもせずに部屋に入り込んだケイトは顔を俯かせながら反省していた。
「それよりも、リサさん昨日よりも肌が艶やかになっていますけど」
ケイトはジト目をリサに向けながらそう呟き、ジョセフはリサに慌てて衣服を投げ渡した。着替えを終えたリサはジョセフ、ケイトと共に一階にある食堂へと降り朝食を取っていた。
「それで、二人は夜に何していたの?」
ケイトの顔はニヤケており、ジョセフとリサはどう答えればいいのか迷いながらあることないこと口を開けながら言う。
「一緒に添い寝したくらいさ……ほら、俺とリサって婚約者だろ?だから一緒に寝るのは当たり前なんだよ」
「へぇ~、本当ですかねえ――」
「本当です!」
朝から賑やかでジョセフ達を見ていた他の客達は凝視しながら嫉妬の目を向けていた。ジョセフは軽く咳ばらいをしながら食事を済ませ、ジョセフ達は出発の準備を開始した。
「取り敢えず、必要な水と食料は調達できたしすぐにでもブリタンニアに行くとするか……リサ、ケイト、準備はいいか?」
「「はい!」」
ジョセフは傍らにいたリサとケイトの方を振り向き尋ねると二人はハキハキとした声で返事をした。ハイードの門を潜り抜け、ブリタンニアのあるクラウディウス領土まで徒歩で向かうジョセフ、リサ、ケイトは見知らぬ土を踏み入れることに期待と不安の気持ちを膨らませながら東へと向かったのだ。




