第45話 ケイトの過去
ケイトはケルティック王国のとある村で生まれ、春に16歳になり冒険者になるべくギルドで手続きを済ませ冒険者カードを見て自分は新しい一歩を踏み出したんだ思いクエストを受けようと張り紙を見詰めていると複数の冒険者が後ろからケイトに声をかけた。
「君、もしかして駆け出しの冒険者?」
「そっ、そうですけど……」
赤毛にハチマキを蒔いた青年が尋ねるとケイトはきょどきょどしながら答えた。
「俺達もまだ新人冒険者なんだけどさ、もし良ければ一緒にパーティを組まないか?俺のパーティは俺と魔法使いのハーディと武道家のジャッキーの三人なんだ」
「……私でよければよろしくおねがいします」
「おっと、自己紹介を忘れていたな。俺はブルータス、一応剣士をやっている」
ブルータスはケイトに快活な態度で自己紹介を済ませる。
「けっ……ケイトと言います……皆さんの足を引っ張るかもしれませんがよろしくお願いします……」
「あたしはハーディ、こいつはお調子者だから何かあったらあたしの魔法でなんとかしてあげるわ」
「俺はジャッキー、先祖はケルティック王国よりも遠いロンフェイ王国出身なんだ」
チャイナ服に似た服装をしていたジャッキー長い黒髪を三つ編みに結んでおり、その妖艶な姿は女性と見違えるほどに美しかった。
ケイトはジャッキーの美しさに見惚れてしまい憧れを抱き始めたのだ。
「ところでケイトは何が得意なの?」
ブルータスはケイトに得意分野は何かを尋ね、茫然としたケイトはブルータスの声に入り焦燥ぶりを見せていた。
「あっ、え……私は……その、小柄を活かしてダガーで懐へ切り込む戦法が得意です……」
ケイトは自信気のない声でブルータスの質問に答え、ジャッキーはケイトを見て頷いていた。
「なるほど、その小柄な体を活かして戦うのか」
「はい、まだ実戦経験はありませんがよろしくお願いします……」
「――んじゃ、早速クエストに行こうぜ!」
快活なブルータスはケイトの手を握り強引にギルドの外へと連れクエストへと向かうことにした。ケイトにとっての初めてのクエストはブルータス、ハーディ、ジャッキーの三人がいてくれたおかげで無事にこなすことができ、ケイトが最後にゴブリンのボスの間合いに入り上手くダガーで急所を斬り付けたことで勝利を獲得したのだ。
「凄いじゃないか!やっぱり君をパーティに加えてよかった」
ブルータスはケイトの手を握りブンブン振っていた。ケイトは「いえいえ……私なんてまだまだです……」と謙虚になりハーディとジャッキーもケイトの凄さを認めていた。
ケイトはそれからもブルータスと共に数々のクエストをこなし冒険者ランクも着実に上がっていき高ランクのクエストもこなしたいと高レベルの魔物が生息している山の麓へと向かったのだ。
「この辺りにサーベルウルフがいるはずだ――」
「そうみたいだな。サーベルウルフは敏捷性に優れているみたいだからケイトが一番相性がいいかもしれないな」
ブルータス達が談話をしているその時だった。ケイト達の背後にはサーベルウルフの群れが現れ、威嚇をしながら向かってきていたのだ。
ケイト達は戦闘態勢に入り陣形を整え、「いつも通りにやるぞ……」と快活なブルータスの目つきは鋭くなり、気を引き締めていた。
ダガーを逆手に持ったケイトは冷や汗を額から垂れ流しながら体を震わせており、ジャッキーが「ブルータスも言っていただろ。『いつも通りにやるぞ』って……」と気休めの言葉をケイトに送った。
サーベルウルフの動きは予想していた以上に早くブルータス達は苦戦を強いられていたようだ。ケイトはブルータスとジャッキーを援護するべくサーベルウルフに詰め寄ろうとするもサーベルウルフは攻撃を加える余地など与えずケイトに鋭い爪で切り裂こうとした。
ジャッキーは右手に持っていたヌンチャクでサーベルウルフの頭部を殴打するもダメージは与えられていないようでジャッキーは舌打ちをしながらケイトを担ぎサーベルウルフから距離を置いた。ジャッキーは手持ちの煙幕弾とまきびしを地面に撒き散らしサーベルウルフの動きは怯んだ。
「いいかケイト、今から言うことをよく聞け!お前とハーディだけでも逃げろ!俺とブルータスで時間を稼ぐ」
ジャッキーはケイトにハーディと共に逃げるように促すもケイトは拒否した。
「嫌です……私達は同じパーティメンバーじゃないですか!それなのに何で――」
「全滅すれば意味がないだろ!ケイトとハーディは俺達よりも強い!だからこそ生き延びろ!」
「ジャッキーさん、ブルータスさん……ごめんなさい――」
「ケイト!早く逃げるわよ!」
ケイトのことを突き放したジャッキーは怒声を上げ、涙ぐみながらケイトはハーディと共に街へと踵を返した。
「ブルータス、ケイトとハーディは逃がしたよ。俺達はサーベルウルフを一匹でも討伐して後でギルドに持って行って換金してまたみんなで飯でも食おうぜ……」
「そうだな……行くぞ!」
ブルータスとジャッキーは雄叫びを上げながら煙幕とまきびしで怯んだサーベルウルフに奇襲をかけるもサーベルウルフが怯んでいたのは一瞬だけでブルータス達は再度苦戦を強いられ苦悶の声を上げていた。
「ジャッキーさん達、ちゃんと戻ってきますよね?」
ケイトは走りながらハーディに尋ねるも険しい表情で答えようとしなかった――否、答えられなかったのだ。ハーディはジャッキーとブルータスが死を覚悟して逃がしてくれたことを思うと悲しみのあまり声を発することすらできなかったのだ。
「……ケイト、ブルータスとジャッキーはもう――」
「言わないでください!必ず生きて帰ってきます!ですのでっ……」
「――そうね、二人を信じましょう……」
ケイトとハーディは無事に街へと到着したのは夜でボロボロになった状態で宿泊していた宿へと戻りすぐさまベッドへと入り眠り込んだ。明日、ケイトはブルータス達が帰ってくるだろうと楽観的に考え朝一番でギルドへと駆け付けようと思った。ケイトは悪夢に魘され呻き声を上げ、二人の様子が気になってしょうがなかったのだ。
翌日、ケイトはハーディと共にギルドへと向かうもブルータス達の姿は見当たらなかった。ケイトは受付嬢に尋ねてみるも受付嬢は淡い表情で首を横に振った。
「おい聞いたか?サーベルウルフの討伐に行った冒険者の四人の内二人がサーベルウルフと一緒に死んでいたみたいだぞ」
「マジかよ!最近この辺りでも有名なパーティだろ?誰が死んだんだよ?」
「ブルータスとジャッキーだよ……あいつらいい奴だったってのに惨い死に方したみたいだぞ」
他の冒険者たちが酒を飲みながら噂話をしているとハーディは膝から崩れ落ち号泣し始めた。
「うっ、ぐすっ……ブルータス……どうしてよ!どうして……死んじゃったのよ……」
ケイトは泣き崩れたハーディにかける言葉が見つからなかった。
ハーディはブルータスと相思相愛の仲で婚約をしていたのだ。ハーディのお腹にはブルータスとの間に子が宿っており、妊婦にとって愛する者の死というのは心身ともに辛いものであった。
それから一ヶ月後、ハーディは自分のお腹をさすりながらケイトにこう言った。
「ケイト、私は冒険者を辞めて故郷に帰るわ――ブルータスとの間の子と共に……」
「そうですか……短い間でしたけどありがとうございました。元気な赤ちゃんを産んでください……」
ケイトは泣き崩れ、ハーディはケイトを抱き寄せもらい泣きしたのだ。二人は一時間以上号泣した後別れを告げ、ケイトはハーディから譲り受けたスカーフを首に巻きクエストへと向かったのだ。
「ブルータスさん、ジャッキーさん、ハーディさん……私はもっともっと強くなります……」
胸に手を当てながらブルータス達のことを思い出しケイトは大切な人達を守る強さを身に付けるためにもランクアップを目指すのだった。




