第44話 ジョセフの左目
ジョセフがリサと共に修行の旅に出て一日目、ジョセフはリサをお守りしながら幾度となく現れるゴブリンなどの魔物の討伐をしていた。
「こんなものか……」
肩を竦めたジョセフはゴブリン100体の群れをリサと無傷で討伐できたもののジョセフの体力はかなり消耗しており龍王丸を地面に突き刺し佇んでいた。リサはジョセフに「あの戦いで私達は強くなったつもりでいましたがあの数を相手にするのは骨が折れるものですね」と汗を拭いながら言う。
ゴブリン100体の死体は地面に転がり込んでおり、ジョセフとリサのいた一辺はゴブリンの血で赤く染まっていた。
「ベルとの戦いでも呪文名を唱えずに魔法を発動していましたがジョセフ様はいつからできるようになったんですか?」
「……分からない。あの戦いから俺は一体どうなったのかよく分からないんだ」
リサは魔法を直接発動できるジョセフに尋ねるもジョセフ本人は何故自分がそのようなことができるまでに至ったかが分からず答えることができなかった。ただ、ジョセフは自分が人としての限界を超えつつあるのではないかということだけは身体の奥底で感じており破壊を望む心を抑え込めるものかと考えていたのだ。
「ジョセフ様、あまり無理はしないでくださいね……あの時のようにどこかへいなくなったらと考えたら私……」
「分かっているさ……リサは俺にとっても大切な人だからこれ以上は無茶はしないようにするよ。そのためにリサがこうやって旅に着いてきているんだろ?」
「確かにそうですけど……ジョセフ様の心は読めても時々よく分からない行動をとりますので私がしっかり監視していないとって思いましたわ」
リサはジョセフを思うあまり愛が重くなりずっと一緒にいるが異世界に転移する前のジョセフであればリサのことを鬱陶しく感じ旅に同行させることはまずなかっただろう。ジョセフの心はリサと出会ったことで余裕を取り戻し人を気遣える本来の優しを見せるようになってはいたもののそんな甘い自分を捨てたいとも思っていたのだ。
しかし、リサはジョセフの《《その甘さも含めて》》好きであるためジョセフにはそのままの姿でいてほしいとも思っていた。
「ジョセフ様は前に言っていましたね、私の知っているジョセフ様の優しさは甘さであると……でも、それでも私はジョセフ様の甘さが大好きなんです!だから……無理に変わろうとしないでもっと私に頼ってください」
「リサがそう言ってくれるのなら、俺はその甘さを君にだけ見せよう……リサが本当の愛を俺に教えてくれたからこそ今の俺がいるから」
ジョセフとリサは一日目を野宿で過ごした。ジョセフはリサが無事に睡眠を取れるように一睡も取らずに見張りをしていたようで軽く欠伸をしていた。リサは自分のためにここまでしてくれることに肩を竦め溜め息を吐きつつも感謝の言葉を述べる。
「ジョセフ様、私のために一睡もしないで見張りなんていくら何でも大丈夫なんですか?」
リサは深刻な顔でジョセフを見詰めるもジョセフは『スパーク』で脳の働きを活性化させているためか特変体に異常は感じられなかったようだ。
「そんなことしていたら長生きできませんよ?少しは自分の体のことも心配しなきゃ……メッ、です!」
「やっぱりだめか?」
「ダメです!体が資本だって言うんですからちゃんと大事にして下さい!」
ジョセフはとぼけた表情をするとリサは眉を吊り上げながら頬を膨らませ、体を屈ませながら両手を腰に当て無茶ばかりをするジョセフに注意を促した。
肩を竦めたジョセフはリサの発する言葉に頷きながらも左目の奥から激痛が走り手で左目を抑え、左目から血の涙が流れていた。
「ぐっ、うううぅぅ……左目が……」
「ジョセフ様!?」
苦悶の声を上げ始めたジョセフのもとへと駆け寄ったリサはサングラスを咄嗟に外しジョセフの左目を確認してみると深紅に輝いていた。リサはジョセフの眼の奥から来る《《激しい偏頭痛》》の原因はこの左目の影響であろうと推測した。
「ジョセフ様、左目が赤くなっていますけど何時頃からこの眼になったとか分かりますか?」
リサはジョセフに手鏡を渡しながら尋ねる。
「分からない。リサが言うまで左目が赤くなっているなんて気付いてもいなかったから……うぅぅっ……」
ジョセフは悶え苦しみ今にでも死にそうな勢いで低く声を唸らせていた。
「もしかしたらジョセフ様の左目は《《魔眼の可能性が高い》》かもしれません」
「……魔眼?」
リサはジョセフの左目が魔眼であろうと推測で答えジョセフが苦しみながら首を傾げていた。ジョセフの激しい偏頭痛は先程よりも治まり左目が赤から元の碧眼へと戻っていた。
「ジョセフ様!左目が青から赤に戻りましたよ!そんな……魔眼を開眼したものは永遠に《《元の眼に戻ることはない》》はずなのに……」
ジョセフの左目を見て驚いたリサは大声を上げる。
「しかし、もしも俺の左目が魔眼を開眼したのならこれからも《《それを使う機会》》が増えるかもしれないってことだろ?」
「もしかしたらそうなるのかもしれません……魔眼は通常ジョセフ様のように激しい痛みに見舞われたりすることはなくてそれと比例して魔力量も増幅するみたいです」
リサは魔眼の原理をジョセフに説明をし始めた。通常の魔眼は魔力が常人の数倍以上に跳ね上がり、魔人族をも凌駕する力を手に入れることが可能らしい。魔眼には魔力を直接操作したり相手の本質を見抜いたり、千里眼、透視、未来予測、石化させたり、反応速度が向上したりとするのだがジョセフのように激痛が走り血の涙が流れる実例はないようだ。
魔眼の開眼条件は未だに解明されておらず、生まれながらに魔眼を生まれ持つ者もいればジョセフのように突然開眼したりすることがあるようだ。魔眼の力を欲するものも数多くそれを奪おうと魔眼を奪い移植する者もいるが成功した例が少なく拒絶反応を起こし死に至ることもある。
「ジョセフ様、この左目のことは二人だけの秘密にしましょう……これがもし魔眼であればジョセフ様の目を奪おうとするものも出てくる可能性もありますので」
「うん、これは俺とリサだけの秘密にしよう。その魔眼を奪う人ってのはいるんだな……」
「はい、魔眼を巡って目を奪われた事件も過去に3件あったようですので……」
リサはジョセフの左目を奪うものが出てくるのではないかと危惧したからなのか左目のことは二人だけの秘密にすることにした。
修行の旅を始めてから三日目、ジョセフの左目の力を本領発揮する時が来たのだ。
「やっと見つけたぞ!ジョセフにワトソン王国の王女!」
ジョセフとリサはベルの率いていた魔人族の残党と遭遇してしまったのだ。魔人族の数は五人と少なかったが知能を持たない魔物よりも手強いため安堵する余裕などはなかった。
「リサ、後ろから援護してくれないか?」
「はい……ジョセフ様」
リサは頷きジョセフは左目は赤く輝き光属性魔法『電光石火』を発動し『スパーク』を纏わせた両手で急所を寸分の狂いもなく打ち込み戦闘をしていた。
「どうした?魔人族ってのは集団で奇襲を仕掛けなければ何もできない雑魚集団なのか?」
「くうぅ……ふざけやがって!」
魔人族が言葉を発した瞬間だった。魔人族は「うぐわぁ~!」と悲鳴を上げながら身体が無惨に飛び散っていた。
「今からならまだ間に合うぞ?早くここから消えろ。お前達だって命が惜しいだろ?」
ジョセフは魔人族にも慈悲の言葉を与えていたのだが、魔人族は不意を突いてかリサに正面からジェットコースターのように急加速して接近していた。
「今だ!ジョセフの連れている女を、ワトソン王国の王女を殺せ!その次はジョセフだ!」
「しまった!リサあぁぁぁぁぁ!」
「ジョセフ様!」
リサは目を強くつぶりながらジョセフの名を叫んだ。
ジョセフはリサを守れるように強くなるための修行の旅でありながらリサをここで死なせてしまうのか?と心の中で思いはじめ、ジョセフはあと十秒、一秒だけでもいいのでリサを守れるだけの時間が欲しかった。
そう思っていた時だった……ジョセフの深紅の左目は能力を発揮したのかジョセフの世界は止まったのだ。一瞬ジョセフは何が起きたのか状況を理解出来ずに判断力を失いかけていたが自分の意志で時を止めたのだと悟ることができた。
リサを正面から剣で突き刺そうとした魔人族のもとへと全速力で駆け付け、止まった世界で魔人族の両腕を龍王丸で切り落とした。ジョセフは時間を三秒ほど時間を止めることに成功し、ジョセフは時間を動かした後リサの傍らへと駆け付けリサを抱きしめた。
「すまない……あと少し遅ければリサを守れなかった……」
「いいんですよ。ジョセフ様が私を守ってくれただけでも嬉しいです……」
ジョセフはリサを抱きしめながら先程時を止めて腕を切り落とした魔人族両断し、襲い掛かる魔人族三人が咆哮をあげながら『ファイヤースピア』を乱射するもジョセフとリサに当たることはなかった。
正確にはジョセフが時を止めながら躱していたため当たらなかったわけで魔人族の魔法の扱いが下手なわけではなかったのだ。リサはジョセフの体に触れていたからなのかジョセフの止まった世界を体験することができた。
リサにとって止まった世界とは神の領域であり、それを実現できるジョセフは違う意味で強くなっているのだと実感した。
「……なっ、なんなんだよ!お前達は一体何者なんだ!」
「タダの冒険者のジョセフ、そして俺の婚約者のリサだ」
ジョセフは呪文名を唱えずに両手に『スパーク』を纏わせさらに『電光石火』を両手に発動させたことで1秒間に100発ものパンチを繰り出すことが可能になった。
三人の魔人族はただジョセフに蹂躙されながら『スパーク』を纏わせた拳を百発も受けながら勢いよく地面に吹き飛び砂埃と轟音が鳴り響いた。魔人族の三人中二人の頭部は血飛沫を上げながら吹き飛び一人の魔人族は失禁しながら命乞いを始めた。
「頼む、何でもするから命だけは勘弁してくれ……」
「《《命だけは》》?俺ならともかくリサの命を奪おうとしたお前らがか?死ぬ覚悟もないのに相手の命を奪う気でいるとか虫が良すぎないか?そしてお前は俺の敵でありお前を生かしたところでまた命を狙うだろう?」
ジョセフは『ブラッドサッカー』で魔人族の首を右の五本の指で突き刺し血を吸血し魔力と体力を回復し、ジョセフは血を吸う快感を味わい「吸血鬼が血を吸うのを辞められない気持ちが分かってきた……」と呟く。
「ジョセフ様、殺すのですか?」
「放っておけばどの道俺達が殺されるからな……」
リサは血を吸血されて失神した魔人族を見ながらジョセフに尋ねる。魔人族はジョセフに吸血されたことで屈強した体が急激に痩せ細り枯渇する寸前まで吸い尽くしたジョセフは満足げに『スパーク』で魔人族のこめかみを突いた。
「まさか殺したんですか?」
「殺してはないよ。こいつの記憶そのものを消しただけだよ」
リサは苦笑いしながら頷きながらジョセフの左目を確認すると左目からは血の涙が流れておりリサはジョセフに問い詰める。
「ジョセフ様、血の涙が流れていますけど視力とかに支障はないのですか?」
「……ん、少し左目だけ視力が落ちた気がするな……それに頭も痛い……」
魔人族から吸い取った血で魔力を回復したのに頭痛と倦怠感で頭を抱えるジョセフにリサは『ホーリーヒール』でジョセフの左目を治療した。
「頭痛と倦怠感が治まった……さっきまで落ちていた左目の視力も回復している……」
ジョセフの左目は赤から青へと戻り失いかけていた光をリサの魔法のおかげで取り戻したのだ。
「ジョセフ様、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。リサ、ありがとう」
「どういたしまして」
リサはジョセフに心配するとジョセフは口を緩めながら感謝の言葉を述べリサはほっこりと微笑する。ジョセフとリサは大切な人達を守る強さを得るための修行の旅を再開し新天地へと向かう。
そしてリサはジョセフの深紅に輝く左目を酷使することでジョセフは神にも悪魔にもなれる存在になるのではと考え、それでもリサはジョセフを愛する気持ちに揺るぎはなかった。




