第43話 ブーディカとジョセフ
ジョセフ達がクラウディウス帝国領土大都市ブリタンニアを出てから一週間が経ち、ジョセフ達はクラウディウス帝国に追われる身になるものだと思っていたのだがスエトニウスの不正がクラウディウス帝国皇帝ネロ・クラウディウスの耳に入ったことにより総督としての指揮権を剥奪され、その地位はプブリウスという人物に渡されたのだそうだ。
スエトニウスは都民が納めた税金を横領したりブリテン王国の共同統治の約束をしていたのにそれをスエトニウス独自の判断で王族が途絶えたと嘘をつき半ば強引に略奪したことからネロ皇帝の怒りを買ってしまったみたいだ。
それからと言うもの、ブリタンニアは以前よりも通貨の制限、法律等が緩くなり都民達は以前ほどではないにしろ住みやすさを取り戻しつつあった。
「ジョセフ、ジャンヌとヴィクトリアを救出してくれたことには今でも感謝している。ありがとう……」
「気にするなよ、ワルド個人が俺に依頼したクエストであるわけでそれを俺は引き受けただけだ。俺達はまた遠くへ旅に出るつもりだがどうする?」
ジョセフはブーディカと二人の娘を誘った。ブーディカは口を噤み躊躇っていたが二人の娘の顔を見ると二人ともこくりと小さく頷きブーディカはジョセフ達と一緒に行動することを決意した。
「……ん、分かった。ありがたく旅について行くよ。娘達をまた同じ目に合わせるわけにもいかないしあの子達が安心して暮らせる場所が見つかるまではよろしく頼む」
「そうか、ならこちらこそ……」
ジョセフは右手を差し出しブーディカはジョセフと握手を交わし、ブーディカは微笑していた。
「君を見ているとなんだか死んだ旦那のことを思い出してしまった……あの人には三人で幸せになるって誓ったのに……」
「そうなのか?旦那のことを忘れられないなら再婚してみたらどうだ?父親のいない子供ってのは案外父親の熱い思いを求めたりとかするだろうし」
「そうだな……」
病死した旦那のことを忘れられずに悩んでいたブーディカに二人の娘のためにも再婚することを勧めたジョセフはそっとブーディカを抱き寄せていた。
「ジョセフ……」
「驚くのは仕方ないよね。ただ、俺でよければブーディカを守れる自信はある」
「もしかして私にプロポーズしているのか?」
ブーディカは頬を赤らめながらジョセフに尋ねる。
「俺でよければの話しだよ」
「私みたいなおばさんでもいいの?」
「失礼ながら歳はおいくつで?」
「27歳だけど……」
「別にまだおばさんって歳ではないだろ。俺より11歳年上ってだけで」
ジョセフはブーディカの年齢がまだ20代であることを知り、まだ再婚の余地はあると思ったためかプロポーズに関してはジョセフも満更ではなった。
「本当に私でいいのならよろしく……」
「ああ、よろしく」
ブーディカはもじもじとしながらジョセフのプロポーズを受け入れ、ジョセフは初めて自分から結婚の約束をしたのだ。
「それじゃあジョセフさんは私のお父様になるのですか?」
「……ん、まあそうなるけどジョセフのままでいいよ」
ジャンヌがジョセフのことをこれからどのように呼べばいいか迷い、ジョセフは何も躊躇わずにこれからもジョセフと呼んでもらえればいいとのことだった。
「ジョセフさん、お母様とお姉様をこれからもよろしくお願いします。」
「ああ……これからもよろしく、ヴィクトリア」
リサとケイトはジョセフが自分からブーディカに婚約したことに「ええ~っ!」と声を上げジョセフに問い詰める。
「ジョセフ様!私が最初に婚約した時だってそんな風に言ってくれなかったのにどうしてブーディカさんには積極的なんですか!」
「そうですよ!私だってジョセフさんと結婚したいです!」
リサはジョセフにアプローチされたブーディカに嫉妬の念を抱いており、ケイトはジョセフに思わず自分にもプロポーズをしてほしいと手を腰を当てながら上目遣いでジョセフに訴えかけた。
「ケイト、俺と結婚したかったんだ?」
「はっ!」
ケイトは声を上げながら両手で口を塞ぎ顔を赤く染め、慌てて照れ隠しをしていた。
リサはくすくすと笑いながらケイトを見詰める。ジョセフは何故リサがケイトを見て笑っているのか理解できず茫然と煙草を喫煙していた。
「リサ、何でそんなに笑っているんだ?」
「ケイトさんはジョセフさんとずっと婚約したいと思っていたんですよ。ブーディカさんに先を越されてしまったためもっと早くに言えばと後悔しているんですよ」
ジョセフはリサに尋ねると微笑しながらリサは答える。ジョセフは肩を竦めケイトを見ながら言葉を発した。
「ケイト、それなら俺と婚約するか?」
「あっ、あぁ……ジョセフさん……そのぉっ……」
さりげなくジョセフは言葉を言い放ちケイトはまたもや慌てた様子でろれつが回らずにいた。
「そういうところが可愛いというか女の子なんだなあ……」
「ジョセフ様ったら、ケイトさんを本気で口説こうとしていますか?」
「好意を抱いた女性の一人ではあるからね」
ジョセフとリサはお互いに真顔で言い合いながらテレサはこれ以上言ってほしくないからなのか奇声を上げるもブーディカがケイトを宥めていた。
「ケイトって言ったかな?いいじゃない、ジョセフのことは好きなんでしょ?だったら素直に喜ばなきゃ」
「……だってぇ~、ジョセフさん本人にあんなこと目の前で言われたら恥ずかしいですもの……」
両手で顔を隠すケイトはジョセフへの思いを隠しきれずリサは心を読みながらケイトをいじり始めた。
「ケイトさんはいつもジョセフ様の横にいようとしていましたけどいつも私に気遣っていたのも知っていたんですよ。ジョセフ様に素直に横にいてもいいか聞けばジョセフ様だってそれを聞き入れてくださったでしょうに」
「リサさん、それは言わないお約束だったじゃありませんか!」
「ケイトさんって本当に可愛いですね。ジョセフ様がケイトさんを旅に同行させるのも納得している理由もその一つなんだと今でも思います」
リサはケイトがマスコット的な可愛さがあってジョセフの心を和ませているのだなと解釈しているがジョセフ自身リサのことを小動物のような可愛らしさを感じている点ではリサとケイトは同類に入るようだ。
「二人は本当は姉妹なんじゃないかってくらい可愛らしいよな……日本のオタク達がこの光景を見たら百合展開萌え~~~!って発狂しているだろうな」
ジョセフはリサとケイトの会話を見て百合オタクであれば確実に興奮していただろうと予想していた。リサはジョセフの心を読みながらなんとなく自己解釈できたもののケイトとブーディカ達からしたらジョセフが何を言っているのか理解を示すことができなかった。
ジョセフ達はクラウディウス帝国から追われることなくのんびりと過ごしており、ジョセフは旅の目的を忘れ満喫していたのだ。
修行の旅に出たあの頃と比較するならばジョセフもだいぶ物静かになりリサのことをより一層好きになっていたことから初めて出会った当初よりも距離は縮まり婚約者らしくなっていた。
「それにしてもジョセフ様も旅に出てから私に対する考えが変わってくれたのも売れく思っているんですよ。最初は全然婚約者として扱ってくれなかったのに」
「そりゃあいきなり13歳の女の子と婚約させられたらどう考えても婚約者として見れるわけもなかろう……今は婚約者として、冒険者仲間としても頼りにしている」
ジョセフはリサに現在思っていることに嘘偽りはなくリサはジョセフの本心を聞けたこと、婚約者として見てくれていることが嬉しくて気分が上昇していた。リサの貧相な胸がジョセフの腕に当たり、ブーディカもリサに負けじと豊満な胸をジョセフに当て、ケイトが入る隙はなく惨敗したようなものだ。
年下であるジャンヌとヴィクトリアに慰められているケイトの姿は姉妹のようであり、年下の二人にケイトは泣きじゃくる。
「ブーディカさん、ジョセフ様の最初の婚約者は私なんですから独り占めは辞めてくれませんか?」
「別に独り占めはしていないんだけどなぁ……ジョセフよりは年上である実感はあるから大人の女としてジョセフを愛撫しているつもりよ?」
ブーディカの身長172cmとジョセフよりも2cm高く、いくらジョセフがブーツで身長を高く見せようとしてもハイヒールを履かれでもしたらかなりの身長差が出てしまうだろう。それに対してリサの身長は145cmと日本の13歳の女子の平均身長よりも低く、ジャンヌと同い年でありながらかなりの身長さがあったのだ。
「私だって、まだ成長期ですもの……」
リサは小柄で華奢な体も数年後には成長していることをブーディカに言うもブーディカは「はいはい」と母親目線で受け流していた。流石のジョセフも同じ婚約者でありながらここまで差が出るとブーディカの母性に甘えたくなりつつもリサの立場を考え、ブーディカの胸に埋もれたいという欲望を抑えていた。
「リサさん、ジョセフさんは恐らくそのままのリサさんでいてほしいと思っているんじゃないですか?それに成長期だからって胸が大きくなるとは限らないです!」
「ケイトさん、胸の大きさに触れるなんて酷いです!とにかくジョセフ様の最初の婚約者は私ですからジョセフ様を独り占めなんて絶対に私が許しません!」
ケイトは自分の胸の大きさを棚に上げ、リサはジョセフの婚約者であることを自己主張し独占欲剥き出しで思っていることをケイトとブーディカに言い放った。
「……んじゃ、そろそろ次の街へと向かうか」
「「はい!」」
「そうだね、ジャンヌとヴィクトリアをいつまでも野外に留まらせるのも危ないからね」
「ジョセフさんとお母さまについて行きます!」
「私もです!」
ジョセフは立ち上がり出発することを伝えるとリサとケイトは同時に返事をし、ブーディカはゆったりと立ち上がりジャンヌとヴィクトリアはジョセフとブーディカの行くところはどこへでもと意思表示を示した。
宿を出たジョセフ達は次の街へと向かうべく石畳の上を歩き始めた。ブーツで石畳を踏む音が響き渡りジョセフは進むべき未来へと一歩ずつ歩みリサ達を率いて愛する者達を守るため、強くなるための旅を再開するのだった。




