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神様の手違いで異世界転移させられた俺はハーレム生活充実になりました  作者: 桐ヶ谷スバル
第一部 愛を取り戻した転移者 第二章 修行の旅
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第42話 正義執行

 ジョセフはワルドに応接室へと誘導されそのまま応接室に置いてあった椅子へと座り用意されていたお茶を躊躇いなく口に入れる。


 「このお茶、どこが原産なのか分かりますか?」


 「これは確かクラウディウス帝国と同盟関係を結んでいるワトソン王国から輸入してきたものだよ」


 ワルドにお茶の原産がどこかを尋ねるとなんとジョセフが以前リサ達とともにクエストで訪れたスタンフォード邸で飲んだ紅茶と同じ味だったのだ。ジョセフはブリタンニアであの味のするお茶を飲めたことに感激していた。


 「ワトソン王国か……昔これと同じ味のお茶を飲んだことがありましてね。懐かしい味がしたため聞いてみただけです」


 「気に入ってもらえて何よりだよ。女王も捜索してくれたことだし君には色々と感謝しきれないよ」


 ジョセフはティーカップに入ったお茶はちびちびと飲んでいるとワルドは深々とジョセフにお辞儀をする。女王を一日で見つけた上に提供したお茶を気に入ってもらえたことにはワルド自身ジョセフに関心を持っていたのだから。


 「それでだ、女王を捜索してくれた君に再度、クエストを依頼してもらえてもいいかね?」


 「依頼とは?」


 「女王の二人の娘の救出の依頼を君に任せたい。スエトニウス総督が今現在拠点にしている旧ブリテン王国の王宮にいるだろうからその地図を君に渡すよ」


 「あんた、ホントにブリテン王国に骨の髄まで忠誠を誓っている身なんだな」


 ジョセフはワルドのブリテン王国に対する忠誠心の強さに肩を竦め唖然としていたが元よりジョセフはブーディカの二人の娘を救出するつもりでいたのだ。それをギルド支部長でもあるワルド自らがクエストの一環として依頼してくれているのだからジョセフとしても好都合というわけだ。


 「君という男が他国の人間だからこそ頼めることだからだよ。君の功績などを考えれば依頼をするのは必然的だとも思ったからね」


 「この地図はありがたくいただくよ。それに美味い紅茶ありがとうございます」


 ジョセフは椅子から立ち上がろうとすると「もう行くのかい?」とワルドはジョセフに尋ねる。


 「あんまり長居をしているのも癪に障ると思っている人物がいる気がしてね。あんたを巻き添えにするつもりはないので」


 ワルドはジョセフの意見を察っしながらも口を噤みコクリと小さく頷いた。


 「それではジョセフ、健闘を祈るよ」


 ジョセフはギルドを出た後ギルドの裏へと回り込み殺気漂う気配を追いその場所へと駆け付ける。黒いローブで顔を覆っていた人物がジョセフに感づかれたことに気付いたのか戦慄と焦燥の表情を浮かべながら石畳を蹴り上げ逃げ去ろうとしていた。


 しかし、ジョセフから逃げ延びることなどはできるはずもなくジョセフが右手から放出した『エレクトリックショック』が軌道に乗り黒いローブの人物は身動きが取れず麻痺状態になり石畳へと倒れ込んだ。


 「お前は一体何者だ?何故ギルドでの会話を盗み聞きしていた?」


 ジョセフは黒いローブの人物に威圧をかけながら尋ねるも頑なに口を割ろうとしないためジョセフは『スパーク』を纏わせた右手で黒いローブの人物の口角筋に電気信号を操作する電流を流し込んだ。


 「うぐっ……!」


 黒いローブの人物はジョセフの『スパーク』により洗いざらい知っていることを吐き出し、クラウディウス帝国が送り込んだ暗殺者であることも判明した。


 「ギルド支部長達は俺が言うまで気づかなかったみたいだが気配を消して盗聴など俺には通用せんぞ。それで、ブリテン王国女王の二人の娘は何処にいるか知っているか?」


 「すっ、スエトニウス様が拠点にしている旧ブリテン王国宮廷で奴隷として現在ご奉仕をしているだろうな。俺も詳しくは知らないが夜の営みも強いられているみたいだ。まだ12歳と11歳だっていうのに大人の玩具にされているのはあまりいい気分だとは思えないぜ……」


 「……んっ、そうか……」


 暗殺者はジョセフの『スパーク』により意思とは無関係に知っていることを全て話しジョセフに命乞いをした。


 「頼む、知っていることはすべて話した。だから、命だけは助けてくれ……」


 「分かった……」


 ジョセフは両手の親指に『スパーク』を纏わせ暗殺者の両こめかみを突き入れ気絶させた。


 「そ……ん……な……」


 「俺達との会話、今日ここで出会ったことすら完全に忘れさせておいた。さてと、記憶も消去したわけだし邪魔ものはだいぶ省けたな……あとはブーディカの二人の娘を救出しにスエトニウスの宮廷へと行くか……」


 ジョセフは暗殺者から黒いローブを剥ぎ取りそのローブを身に纏わせたジョセフはスエトニウスの宮廷まで足を運ばせていた。


 ♢♢♢


 リサとケイトは宿でブーディカと共に朝食を取っており友好的な関係になりつつあったその時だ。


 「ジョセフさんならきっとブーディカさんの二人の娘さんを救出できるですよ!」


 ケイトは快活な態度で言葉を発するとブーディカが切れ長の目を鋭くした。


 「そんなに甘くはないぞ!クラウディウス帝国の兵は鍛錬を積んだ精鋭部隊でそれをたかだか冒険者が簡単に突破できる相手ではない!」


 ブーディカは声を荒げ、ケイトはビクッと体を震わせ動揺していた。


 「ブーディカさんに今からジョセフ様の強さをお伝えしたいと思います。ジョセフ様は魔人族と対等、いいえ……それ以上の強さを持っています。今のジョセフ様ならクラウディウス帝国の兵を全員相手にしても無傷で生還することも可能なほどにです」


 リサはブーディカにジョセフの強さを伝えるもブーディカはそのデタラメな強さを信じることができずに開いた口がふさがらなくなるほどに唖然とした様子を見せていた。傍から見れば当然の結果ではあり、魔人族と対等に戦える人間など現実的に考えればいるはずもないからだ。


 この8ヶ月の修行の旅でリサとジョセフは魔人族と対等、それ以上の強さを得ているため鍛錬された精鋭部隊が束になってもジョセフに重傷を負わせるのは至難の業だ。


 「あの男にはそれほどまでの強さがありながら冒険者でいることに満足しているとでも言うのか?」


 ブーディカはそれでもリサの話しを信用できず顔を引き攣らせるも渾身の剣撃を躱された上にここまで連れてきた男だ。口では信じられなくても本能的にはジョセフが人外の強さがあるのではと認めてはいたのだ。


 「ジョセフ様は自由気ままに生きたいだけなのです。ジョセフ様にとって強さとは自由に生きるためのものであって他人を傷つけるためのものではないのです」


 「えっ、ジョセフさんってそんなこと考えていたんですか!」


 「そうですよ、ジョセフ様は普段無口ですけど心の中では色々と考え込んでいるのですよ。……うふふふっ」


 リサはジョセフが普段考えていることをケイトとブーディカに語り、ケイトは瞳孔を開き驚愕した。ブーディカはジョセフという人間が自由を手に入れるために強さを求めていたことに唖然とし、単純な動機でそこまで強くなれることに疑問を抱いていた。


 「リサ、ケイト、ジョセフは私の二人の娘を本当に救出できると思うのか?」


 ブーディカはリサとケイトに尋ねる。


 「「大丈夫です」」


 リサとケイトは同時に同じ言葉を発し、それを聞いたブーディカは安堵した。その反面信じてもいいものなのかと不安な気持ちもあったがリサとケイトが信じ愛しているジョセフと言う男を信じることしか今のブーディカにはできなかった。


 ブーディカ達は朝食を終え、リサとケイトは宿を出ようとした時だ。


 「ちょっと待て、二人は何処へ行くんだ?」


 「それは勿論ジョセフ様の所へ行きます!」


 リサはブーディカに行き先を尋ねられきっぱりと答え、ケイトも「私もジョセフさんのサポートをしたいので」と元気に手を上げ答える。


 「何処に行ったのかも分からないのによくそう簡単に言えるのだな……」


 「ジョセフ様の行き先なんて大抵分かるものですよ?」


 「その言葉、信じていいのか?」


 リサにはジョセフの行動が手に取るように分かり、ブーディカにはリサの根拠もないのに自信に満ち溢れていることに理解を示せずにいた。


 「リサさんの言うことは本当です。ですので信じて大丈夫ですよ」


 「そうか……ならば私も同行させてくれないか?娘の顔をもう一度拝みたい……」


 「いいですよ」


 ケイトはブーディカにリサは真実を言っていることを伝えるとブーディカは口を噤み躊躇いながらもリサとケイトと同行したい旨を伝え、リサは微笑しながら同行することを受け入れた。


 ブーディカは自分の娘同様にリサからは華奢で幼さを感じつつも妖艶な雰囲気を漂わせていた。ケイトとリサを真剣な眼差しで見つめていると二人の娘がそこにいるかのような目の錯覚をし、目をこすってみるとそこには二人の娘ではなくリサとケイトが目の前にいた。


 「それでは、ジョセフ様の支援に行きましょう」


 「行きましょう!」


 「そうだな……」


 リサが指揮を取り、ケイトは真ん中で気合を入れながら拳を上げブーディカは口を噤みながら宿を出た。


 ♢♢♢


 ジョセフはワルドから貰った宮殿の地図を見ながらブーディカの娘を救出すべく行動を取るのだがGPSが存在しない異世界では方角がはっきりと分からずにいたジョセフは行き当たりばったりで宮殿へ通じる隠し通路を探し、自分自身の勘に頼っていたのだが途中で迷子になってしまったのだ。


 ワルドから貰った地図には隠し通路への道が書き記されているのだがジョセフはそんな情報をどこで手に入れたのか疑問に思っていたのだが腹が急にぐぅ~っと音を鳴らし空腹感が増していた。


 「朝から何も食べてないしこの辺りで食事でもとるか……」


 ジョセフは地図を四つ折りにして革ジャンの内ポケットにしまい込み、適当に食事が取れそうな場所をぶらぶらと探しながら歩いていた。しかし、どの店もクラディウス帝国の兵達が食事を取っていたりと店内からは不穏な空気が漂っていた。


 「この辺りはクラディウス帝国の兵でいっぱいになってまともに食事も取れそうにないな……」


 ふと、ジョセフは呟きながら肩を竦めていると路地裏から低い老人のような掠れた声が聴こえてきた。


 「……仕方ないさ……”ブリタンニア”は大都市とはいえ旧ブリテン王国の王都だったわけでどうしても兵隊達が集中してしまうのじゃよ……」


 ジョセフは首を右に振り向きながら路地裏へと向かい、そこには小汚いホームレスのような恰好をした老人が三角座りをしておりジョセフは情報収集をするには丁度いいと思い老人に尋ねた。


 「あんた、ブリテン王国の人間か?」


 「それも昔の話しじゃよ。クラウディウス帝国が占領する前はブリテン王国の人間として生活していたが今はクラウディウス帝国の政策に不満を感じこうやって世捨て人となったただの浮浪者じゃよ……お前さん、見たところこの辺の人間じゃなさそうだから分からないだろうが宮殿にはスエトニウスという下衆な総督がいての、その男はブリテン王国の貴族や王族を奴隷にして事実上ブリテン王国は国王が死去したことを利用して国が解体したというデマを他国やブリテン王国国民に広めたのじゃよ……」


 「知っているさ。そのスエトニウスという男は通貨の製造を制限していて銀貨の枚数は制限されていて金貨の製造は禁止なんだっけ?んで、他国の人間にバレないように口封じとしてクラウディウス帝国の兵がこの辺を監視していてブリテン王国の王族の存在を忘れさせているのだろ?」


 「何じゃ、おぬし知っておったのか……」


 老人は顔を俯かせ口を噤む。


 「この街に来る前、反乱軍が拠点にしていて村があって関係ない村人までクラウディウス帝国の兵に反乱軍を匿ったからという理由で殺されたりと悲惨なものだったよ。荒野には人間の死体が沢山転がっていたりと……クラウディウス帝国の皇帝ってのは本当に俺達と《《同じ人間なのか》》?」


 「クラディウス帝国のネロ・クラウディウスはそんなことは知らないじゃろう。ただブリテン王国を自分の領土に出来たとだけ報告されただけであろうしこの現状を知る余地もなかろうしの……だからこそ許せんのじゃ……」


 ネロ・クラウディウスはジョセフ達のいた世界ではローマの第五代皇帝でキリスト教書学では暴君と呼ばれていた。その理由はキリスト教徒を迫害していたからであり、ネロは悪魔や大淫婦バビロンと暗喩されている。


 この世界でのネロ皇帝がそうであるかは不明ではあるが流れからしてジョセフ達のいた世界と人格は近いのかもしれない。ブーディカがクラウディウス帝国の人間を憎んでいる点も含めて。


 ジョセフは老人にクラウディウス帝国のスエトニウスの人間性を知り、すぐにでも制裁を加えねばと思い宮殿の場所がどこにあるかを尋ねた。


 「スエトニウスが拠点にしている宮殿は何処だ?」


 「お前さん、わしの話を聞いていたのか?」


 老人は「気でも狂ったのか?」とジョセフに言いたそうな表情で顔を引き攣つらせる。


 「俺は正気だよ。爺さん、何者だか知らないが俺はこの国の人間じゃないんだ。だから俺の好きにさせて貰うぜ……」


 「宮殿に辿り着いたとしてもお前さん、運が悪ければ縛り首では済まないぞ!今ならまだ間に合う!バカなことは辞めるんだ!」


 ジョセフは老人の警告を無視して宮殿の隠し通路を探すべくして探すことにした。さっきまでの空腹感すらも忘れて隠し通路を探すことに無我夢中となり革ジャンの内ポケットにしまい込んでいた地図を取り出し開くとジョセフはいつの間にか近くまで辿り着いており下水道の中へと入っていった。


 下水道にはネズミやゴキブリなどが生息しており汚水の臭いが鼻腔を刺激していたが地図を見ながら薄暗い下水道を灯りでもともしているのか言わんばかりにスムーズに進んでいた。ジョセフは闇属性魔法『ナイトアイズ』を使用しており暗闇でも眼前がはっきりと見えるようになっており夜戦で苦労することは無くなったのだ。


 ジョセフの左目が深紅に輝くようになったのは旅に出て3日目のことだった。ジョセフは魔王ベルの残党軍と戦っている最中にリサを救おうと駆け付けるも距離が離れて間に合わないと思ったその瞬間、時間が止まればいいのにと思っていたからなのかジョセフは時の流れを止め、魔人族の攻撃からリサを救出することに成功したのだ。


 深紅に輝く左目は時を止めるだけでなく魔法の呪文名、詠唱せずに魔力操作することで発動することができ、適正にあった属性魔法であれば戦った敵、味方が使用していた魔法ですらコピー可能である。


 リサはジョセフの深紅の左目は魔眼の一種であろうと推測するもジョセフの左目の能力はどの魔眼とも一致しない新種のようだ。左目は常時赤眼というわけではなく元の碧眼に切り替えることも可能であるため戦闘時以外は基本碧眼であることが多い。


 「この左目の能力を発動しているときだけは呪文名を言わずに魔法が発動できていたがもしかしたらベルとの戦いの時点でこの眼は開眼していたのかもしれないな……」


 ジョセフは修行の旅に出る前から何らかの理由で開眼していたのだろうと予想していた。しかし何故左目だけ開眼したのか?その謎に迫るのであるが結局ジョセフもリサもその答えを見つけられずに月日だけが経ち現在に至る。


 下水道をに潜ってから一時間が経過し、目的地まで辿り着こうとしていた。


 「ここから宮殿に繋がるのか……早くスエトニウスをぶちのめさなきゃな」


 ジョセフは呟きながら歩き梯子を登り、蓋をゆっくりと開け周囲を確認してから地上へと上がる。ジョセフが辿り着いたのは警備の薄い裏側であったためかこうも簡単に潜入できることにジョセフは不信感を抱いていたが一刻も早くブーディカの二人の娘を救出すべく忍び足で宮殿の中へと忍び込んだ。


 時を2~3秒ずつ止めながら宮殿の中を探索していたためクラウディウス帝国の兵に気付かれることなく石畳の張られていた通路をジョセフは歩いていた。


 「恐らく地下牢か王室のどちらかにいるのは間違いはないだろうが誰にも見つからずに探し出せるものか……」


 何度も左目の能力である時間停止を使用していたからなのか体力の消耗が激しく息遣いも荒くなり何処かで休息を取ろうにもジョセフが現在いる場所は敵地のど真ん中である以上そんなことをする余裕はなかった。


 「時間の止めすぎは身体に負担が掛かりすぎて連続で使用するのは危ないな……」


 ジョセフは左目を閉じ深紅に輝く赤眼をゲームのモードを切り替えるように碧眼へと戻していた。赤眼にしている状態だと魔力や体力の消耗が激しく長期戦向きではないため無駄なエネルギー消費は避けるべきだろう。


 何しろ赤眼を開眼しているのが左目だけであるためかなりの負担を左目に掛けており、視力もリサの魔法でなんとか状態を維持しているようなものだ。


 「どうやら俺の左目は能力を使えば使う程視力が低下してしまう諸刃の剣ということか……スエトニウスをぶちのめすまでは暫く使用しない方がいいな」


 リサがいなければ今頃ジョセフの左目は失明していただろう。だが、今はリサはケイト、ブーディカと三人で宿にいるためジョセフは左目の治療を行えないうえに吸血できそうな人間、魔物がいないため万全な状態とは言えなかった。


 ジョセフは最初に地下牢を探索することにした。地下牢には門番が複数人いたためジョセフは闇属性魔法『ステルス』により気配を消し、光属性魔法『電光石火』で光の速さで瞬発力を向上させ門番も気付かぬスピードで移動した。


 地下牢は薄暗く牢の中には骸骨になった人間の死体と思わしきものが石畳の上に転がっていたりとブーディカの二人の娘がいる気配は一切なかった。一通り牢の中を探してみるも誰もいなかった為ジョセフは王室へと向かうことにした。ジョセフは門番を背後から『スパーク』で気絶させそのついでに『ブラッドサッカー』で門番の血液を吸血し魔力と体力を回復させた。


 「やはり魔力量の少ない普通の人間の血液を半分以上吸い取っても完全回復に至ることはないか……まあ、予想はしていたがここまで回復できる量が少ないと長期戦に追い込まれたら完全に詰むな……」


 ジョセフは少しずつ休息を入れながら宮殿の探索をしていたからなのか体力はそれなりに回復はしていたが魔力自体は完全回復していなかった為肉弾戦が中心になることを想定して龍王丸を鞘から抜き出していた。


 「陸奥守吉行は碌な整備も行っていないからな……ジャスミンが丹精込めて作ってくれたこの異世界製日本刀で戦うことになるな」


 闇属性魔法『ステルス』で気配を遮断しているとはいえど透明になっているわけではないので他人に目視されるわけなので気休めでしかないのだ。ジョセフの魔力も左目の影響もあり魔力量も草凪誠、佐藤夏樹やマリー程の量はないにしても魔人族と同等かそれ以上の魔力量を有しており上級魔法を主にしなければ魔法での長期戦も可能となっている。


 それでも、リサと比較するなら魔力量は大差変わらないためジョセフの魔力量は決して極端に増えたわけではないが戦闘バリエーションは増えたことで戦況によっては大勝利を得ることができるようになったのだ。


 しかし、ジョセフが大勝利を得られるのはリサが一緒にいる場合であってジョセフ単体では魔力量の少なさから苦戦を強いられることも今でもあるのだがリサが一緒にいるなら人間相手ならほぼ敵なしといってもいいだろう。


 ジョセフは単純な強さはプロの格闘家を無傷で勝利を得ることはできても魔力量も比例して多いわけではないのでパワーごり押しでなんとかなるチート転生、転移者と比較するならばジョセフは決して強くはなかった。


 宮殿の階段をおそるおそる慎重に登り、王室へと向かう。時間停止を極力使用せずに無事に潜入できるのはジョセフだからこそできることである。


 「ここが王室か……ワルドの持ってた地図ってのはここまで正確に書かれているとはな……」


 ジョセフはワルドから貰った地図を頼りにしていたがここまで正確に作られた地図を作成できることにはジョセフ自身驚愕していたものだ。


 王室の扉をそっと開け、ジョセフは王室の中を確認するとそこには一人の小太りの男と二人の少女と思わしき人物がジョセフの眼前に現れた。


 「誰だ?」


 「……貴様のような外道に名乗る名前などない」


 小太りの男は侵入者が現れたことにようやく気付きジョセフは黒いローブで正体を隠していたため完全に不審者そのものであった。


 「……ただ言うならばブーディカの二人の娘を救出に来たとだけ言おう……」


 「ほう、この二人の女を救出に……もしや貴様は反乱軍か?」


 「俺は反乱軍ではない。ただ、娘を奪われた母親の気持ちを考えれば俺が正義を執行するだけだ」


 夜のしじまだった王室はジョセフが現れたことによって一瞬にして静けさが消え、淀んだ空気が漂っていた。


 「それにしても兵達は何をしていたものか……このスエトニウス、皇帝陛下に宮殿に何者かも分からない人間に侵入されたと知れたら……」


 スエトニウスと名乗った小太りの男は玉座から立ち上がり、羽織っていたマントを脱ぎ二人の少女に渡し腰に帯剣していた直剣を抜き出した。


 ジョセフはジーンズのポケットから取り出した煙草を口に咥え右人差し指で『ファイヤー』を最小出力で発動し煙草に火を着けた。煙草のニコチン成分を体内に摂取し、吸い込んだ煙をゆっくりと吐きだし白い煙が王室の中を漂っていた。


 「あんたがスエトニウスか?だったらなおのことあんたをここでぶちのめしておく必要性があるな」


 「貴様に出来るのか?私に傷一つ付けられんと思うが」


「ぐおおおおおおおお!」


 ジョセフは絨毯の上を蹴り上げ体勢を低くして龍王丸を構え、スエトニウスは咆哮をあげながら剣を振り上げ走り出す。ジョセフは左目を赤眼に切り替えて時間を止めて倒す手段も考えていたがこの能力を極力使用しない方が殺すことを前提とした戦いをしないことを考えればむやみやたらと酷使することは避けていた方がいいだろう。


 この能力はどの魔眼にもない能力である以上誰かに知られるということは時間停止対策をされたり異端者認定されて命を狙われる可能性も少なくはないからだ。魔眼の能力の一例としては未来を予知する未来視だったり透視能力、相手の魔力を色で感じ取ることができたりとジョセフが使用しているような時空間系の能力は存在しないとのことだ。


 一見、ジョセフの赤眼は時間停止だけでなく魔力操作も可能であるため呪文名を唱えたり詠唱、魔法陣なしで魔法を発動することが可能であるためチート級の凄さを誇っているが時間停止の能力に関しては魔力と体力の消耗が激しく失明の危険性も著しく高いため長期戦向きではないのだ。現に、ジョセフは時間停止の能力を酷使することで左目の視力は2.0から0.5程度までに低下しておりリサが回復魔法で左目を治療していなければ失明していたのは時間の問題と言えただろう。


 ジョセフは『電光石火』で敏捷性びんしょうせいを上昇させ赤絨毯は『電光石火』から放たれたスパークにより焼け焦げていた。ジョセフとスエトニウスの距離は縮まり、スエトニウスが剣を勢いよく振りかぶろうととした瞬間、ジョセフの龍王丸とスエトニウスの直剣は凄まじい速度で軌道に乗っていた。剣の質量に関してはスエトニウスが持っている直剣の方が重いためジョセフの陸奥守吉行をベースにした龍王丸は軽いため剣同士が交錯すれば確実に龍王丸が質量差で折れるのは間違いないだろう。


 しかし、ジョセフには勝機があったのだ。8ヶ月の修行の旅の間に越えてきた修羅場を潜り抜けたジョセフは何度も瀕死の重傷を負い、知覚と感覚が日本にいた頃よりも加速し研ぎ澄まされている今のジョセフならば並の人間から繰り出される行動、攻撃パターンがはっきりと見て取れる。


 ジョセフの刀とスエトニウスの剣が衝突し激しく火花を飛び散らせジョセフとスエトニウスは空中ですれ違い互いの位置を入れ替えるかのように着地し、スエトニウスの剣半身は宙高く凄まじい速さで回転しながら吹き飛び赤絨毯の敷かれていない床へと突き刺さった。


「そんな馬鹿な……私の剣がどこの誰かも分からない奴の剣にへし折られるとは……殺してやる!」


スエトニウスは剣を折られたことで癇癪を起こしジョセフに殺意を向けていた。ジョセフを睥睨しながら折れた剣を床に投げ捨て「衛兵はおらんのか!」と怒号をあげる。


誰も王室に現れる様子はなく静まり返りスエトニウスは恥をかかされたと思ったのかジョセフに八つ当たり混じりで発狂する。


「兵が来ないのは貴様のせいだ!貴様のせいで何もかもがめちゃくちゃになったんだ!その代償は払ってもらうぞ!」


「そんなもの知るか!お前が女王とその二人の娘を辱めたのが原因だろ?だったらお前が代償を払うべきではないのか?」


「黙れ黙れ!お前のせいで皇帝陛下にどう言い訳をすればいいのか考えているところだと言うのに貴様が邪魔したからだ!」


ジョセフはスエトニウスに正論を言うもそれを受け入れられずに赤子のように駄々をこねるスエトニウスの姿は総督の貫禄すら感じられずにいた。


「総督!魔人族を名乗るものが宮殿に……」


「魔人族よりもこの不審者をどうにか……って、あれ!?」


扉の隙間からボロボロになった衛兵がジョセフ達の眼前に現れるバタリと流血しながら床へと倒れ込み、スエトニウスはその光景を呆然と佇んでいた。


 「なるほど……ここが王室か……クラウディウス帝国ってのはワトソン王国よりも歯ごたえがあると思っていたがここまで酷いものなのか?」


 ジョセフは聞き覚えのある声だと思いながらその魔人族がどんな相手か確認してみると黒いロングコートにラノベ主人公のような髪型をした青年が扉の陰から現れたのだ。


 「きっ……貴様……何者だ!」


 スエトニウスは声を震わせながらその魔人族に尋ねる。


 「俺はチュデル。お前達のやっていることが非人道的行為だから排除しにやって来た人間の心を持った魔人族だ!」


 「人間の心を持った魔人族だと?ふざけているのかぁ!貴様は!魔人族が我ら人間と同じ心を持っているだと?」


 「そうだ!俺は魔人族の父と人間の母との間に生まれたからこそ人としての心を持っている。これで納得してくれるか?」


 チュデルとはジョセフがベルとの戦いの前に勝負を挑んだ魔人族で人としての心が残っていたことからジョセフが唯一殺さなかった魔人族の一人である。そのチュデルが人の心を持ち合わせクラウディウス帝国の非人道的行為を許せずにいたのは必然的であったのだ。


 「納得するわけないだろう!魔人族と子を作る人間など汚らわしい!貴様らのような野蛮な魔人族が人間と同じであるわけがないのだよ!」


 スエトニウスはチュデルに罵声を浴びせ否定し続ける。チュデルは自分自身を侮辱することに関しては何とも思っていなかったが母親を侮辱されたことには怒りを露わにしていた。


 「貴様は俺の母を愚弄するか?母は貴様以上にいい人間だった……貴様など心を持たないゴブリン以上のゲス野郎だ!」


 チュデルとスエトニウスが口論をしている隙にジョセフは二人の少女に繋がれていた首輪を外し宮殿から脱出の準備をしていた。


 「君達が誰なのかまだ確認をしていなかったね。ブリテン王国の王女様で合っているかな?」


 「「はい……」」


 ジョセフが二人の少女に尋ねると二人の少女は小声ながらも頷きジョセフと共に王室を抜け出したのだ。チュデルがあそこで現れたのは予想外でありジョセフにとっても好都合であったため無駄な殺生を避けることができたため安堵していた。


 「あの、あなたは一体……」


 ブーディカの長女らしき少女がジョセフに尋ねる。


 「俺はジョセフ、ただの通りすがりの冒険者だよ。君達の母親が君達を見つけるために数々のクラウディウス帝国の兵を闇討ちしていたからそれを放っておけずに救出しに来ただけのね」


 ジョセフはブーディカの娘に自己紹介と救出に来た理由を説明し二人の少女は戸惑いを隠せずにいたが今はただジョセフの言うことを信じることしかできなかった。


 「それで、君達名前は?」


 「……ジャンヌよ……そしてこの子が私の妹のヴィクトリアよ」


 長女のジャンヌとその妹のヴィクトリアはスエトニウスの奴隷として朝から晩まで家畜のように扱われ食事も碌に取らせてもらえなかったことから痩せ細っておりその姿を見たジョセフはすぐにでも栄養のある食事を与えねばと宿まで踵を返していた。


 「貴様っ魔人族か!?」


 クラウディウス帝国の兵に見つかったジョセフ達であるがジョセフは『スパーク』で気絶させたと同時に兵の記憶を消したりしていたためジョセフ達が逃亡していることを知るものは誰もいなかった。ジョセフは隠し通路を使いジャンヌとヴィクトリアを連れて走り続けた。


 下水道の中を走り続け体中がドブ水で汚れようともそれを気にする余裕などはなくただ、無事に逃げ切ることだけを考えながら。出口に辿り着き息を切らしたジョセフ達は立ち止まり下を向き呼吸を整えていたその時だったのだ。


 「ジョセフ様?」


 下を向いていた顔を見上げてみるとそこにはリサ、ケイト、ブーディカの三人が目の前に現れブーディカは目を見開き口を大きく開けていた。


 「……ジャンヌ、ヴィクトリア……」


 「「おっ、お母さん?」」


 ブーディカは二人の娘のもとへと駆け寄りギュッと強く二人の娘を抱きしめ涙を流していた。


 「ごめんね……私がもっとしっかりしていれば……」


 「いいえ、お母さまが謝る必要なんてありませんわ……」


 ブーディカ親子は号泣をしながら膝から崩れ落ち抱き合っていた。


 「んん~~~~っ、感動の再開の中申し訳ありませんが早くこの街から逃げた方がいいのではありませんか?クラウディウス帝国の兵達が血眼で探している可能性もありますし……」


 リサは咳ばらいをしながらブーディカ達に早く逃げる準備をするよう促す。ジョセフは「その前にワルドの所へ行って報酬を貰おう」と提案し、リサはジョセフの考えを心を読みその旨を理解し賛成した。ジョセフ達はすぐさま冒険者ギルドへと向かいアポなしでワルドのいた支部長室へと強引に入りジョセフはワルドに一言発した。


 「女王の二人の娘を救出したから報酬を……」


 いきなりのことで茫然となったワルドは状況を整理できずにいた。


 「……んっ、もしかして本当に女王のご子息を救出してしまうとはね……君と言う男は実に興味深い」


 ワルドはやっと状況を理解したのかジョセフの行動には唖然としながらもその凄さを認めざるを得なかった。ワルドはジョセフに報酬金の入った袋を渡し、ジョセフは最後にワルドの手を握り感謝の気持ちを述べていた。


 「あの地図のおかげで任務を達成することができました。ありがとうございます!」


 ジョセフ達はゆっくりしている暇はないと支部長室から出ようとした瞬間、ワルドが引き留めた。


 「ジョセフ、君はこのまま女王とご子息を連れてこの街から出るつもりだろうが私に一つ手伝わせてはくれないかな?」


 ワルドが提案を出したのだ。ジョセフは「ワルドさんよ、そんなことがバレたらあなたの地位が……」とワルドの身を心配しながらも口を噤む。


 「私の心配はいい。こんなこともあろうかと思って馬車を用意していたんだ。女王とご子息を救出してくれた君には感謝しても返しきれない恩さえ感じているんだ。ジョセフ、これだけは覚えていてほしい……ブリタンニアがクラウディウス帝国の領土になろうとも女王とご子息を思う国民の気持ちはそう簡単には変わらないということを……」


 「ええ……あなたのブリテン王国への忠誠心は滲み出ていますよ」


 ジョセフ達は支部長室を出た後、冒険者ギルド前にワルドが事前に手配していた馬車が到着しており、御者台に乗っていた冒険者の男性が「乗りな!」とジョセフ達を荷台に乗るよう促し勢いよく乗り込んだ。


 乗り込んだのを確認した冒険者は鞭で馬の背中を叩き馬はいななき、勢いよく石畳を蹴り上げ走り出した。

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