第34話 ジョセフの覚悟
神様の手違いでジョセフは異世界に転移させられてかれこれ一か月が過ぎようとしていた頃、ジョセフは療養のため冒険者活動を数日程休業してリサと一緒に宮廷で留守にしていたが久しぶりにギルドへ向かうべく数日ぶりにギルドに顔を出したが何か様子が変だった。いつもならバカみたいに酔っ払っている冒険者達も今回は深刻そうで殺意剥き出しの表情ですれ違った相手を睨みつける。
「ジョセフ様、どうやら魔人族が宣戦布告を仕掛けたみたいです……」
「……ん、なんか宮廷でもそんなことを耳にしたが本当だったのか」
魔人族は本格的にワトソン王国を略奪、否!襲撃するのは間違いないだろう。
「王様を暗殺しようとしたんだ。間違いなく攻めてくるだろう」
「そうなったらまずここが最初に……」
リサは街が火の海になるのではと恐怖しジョセフはそれを阻止することを考えていた。
ジョセフは迷宮にある転移陣で魔人族に言伝を頼まれた冒険者に情報収集をするために色々と尋ねると冒険者は声を震わせていた。
「あの化け物は人間が勝てる相手じゃない……」
「その魔人族は迷宮にいたんだな?そして宣戦布告をするように頼まれた、そう信じていいんだな?」
「そうだ……」
ジョセフはなんだか犯罪者や捕虜に尋問をしているような気がしていた。ジョセフ自身このような行為は性に合わないとは思うのだが対策を練らなければどんなに強くても死ぬことだってあると思っていたからだ。
そのままジョセフはリサと共にギルドへと足を踏み入れ、ドアを開けるとギルド内は喧騒としており、張り紙の張られた掲示板には魔人族討伐の案件でいっぱいになっていた。
「魔人族か、俺達人間の底力を見せつけてやるぜ!」
自信満々に依頼を引き受けるものもいれば「俺は命が惜しい!この案件は今回はお断りだ……」と逃げ腰になる上位ランクの冒険者もいた。
「当然だ、俺だって命くらい惜しいさ……しかし、誰かがやらなくてどうする?このまま黙ってやられるような趣味は俺は持ち合わせてはいないんだ!」
ジョセフは命が惜しいことを呟き、あることを決心していた。
「……お姉さん、張り紙に貼ってある魔人族討伐のクエスト引き受けるよ」
お姉さんはジョセフの声に反応したからなのか思わずえっ!と抜けた声をあげる。
「しっ、しかし……あなたのランクではまだ……魔王を名乗る魔人族だっているんですよ?」
「戦いは数だよ!あとは知力と戦略」
ジョセフはそう言うとお姉さんは困り眉をしながらも「分かりました……」と唖然としながら溜め息を吐く。
「んじゃあ、早速迷宮行って魔人族をぶっ飛ばしに行くか」
ジョセフはさらりとギルドを出ようとすると後ろから革ジャンの袖をくいっと引っ張られ後ろを振り向くとリサが何か言いたそうな目で俯いていた。
「ジョセフ様、簡単に言っていますけど勝算はあるのですか?」
「リサ、俺一人でも行くつもりだ。勝算は分からないけど取り敢えず早く行って奇襲をかける」
リサは涙目になりながら顔をあげジョセフに行かないように呼び掛ける。
「行かないでください!今まで戦ってきたゴブリンやリザードマンのような魔物じゃないんですよ!私は愛する人を失いたくないんです!ジョセフ様がこれ以上傷つく姿を見るのが辛くて……」
リサの瞳は涙でいっぱいになり、両手で顔を覆い床に膝をつき蹲る。ジョセフはリサが何をどう思っているのか気持ちは充分分かっていた。だが、誰かが討伐に行かなくてはどの道誰かが死ぬからだ。
戦わずに無抵抗に殺されるくらいなら愛する女性とその国の為に戦って死ねるのなら戦士としては本望なのだとリサに説くもリサは幼い子供のように駄々をこねる。
「リサの言いたいことは十分分かる、だけどこのまま黙って犠牲者が出るよりも俺が戦って魔人族を少しでも多く討伐した方がいいと思っている……」
佐藤夏樹達は何事かとすぐに駆け付けこうなった経緯を話すと佐藤夏樹達はジョセフ一人で迷宮に行くのを猛反対した。
「ジョセフ!てめえ死にたいのか!?」
佐藤夏樹はジョセフの頬に右ストレートを一発入れた。しかし、ジョセフは微動だにせず立位を保った。左頬は少し腫れたのだが今のジョセフには痛みなんてものは全く感じず、それなのに心の中はなんだか複雑になっていた。
「…………」
「黙ってねえでなんか言えよ!」
佐藤夏樹は怒声をあげる。
「佐藤夏樹!お前の言いたいことは分かっている。ジョセフ、どうしてお前がそこまでして戦わなければいけない?こういうのは上位ランクの冒険者に任せればいいだろ!」
テレサはジョセフを諫めるように説得を試みていた。
「その上位ランクの冒険者ですらビビっている奴がいるのにどうしろと言う?それなら今すぐに迷宮に突撃して魔人族を殲滅した方がいいだろ?」
ジョセフに正論をつかれたテレサは口を噤み俯く。
「ジョセフは死に急いでいるようにしか見えない……そんなの、みんな反対するに決まってるじゃん!」
ジンジャーは涙を流し、アイリスは「ジョセフが死ぬなんて嫌!」と引き留めようとする。
「リサ、ジンジャー、アイリス、テレサ、分かってくれとは言わないがこの国を守るにはどの道俺みたいに戦える人間が志願しなければ誰も戦う勇気を持てなくなる……」
「だからって、ジョセフ様が一人で背負い込む必要があるのですか?」
「俺は知りたいんだ、魔人族が何故俺達と戦いたがるのかを……」
「そんなのどうかしていますよ!」
リサの言う通りジョセフはどうかしているのかもしれない。正気で戦いなどできようもないからだ。
「とにかく俺は一人でも行くよ。そして必ず帰ってくると約束するから……」
ジョセフはギルドを出た後、ワトソン王国王都ベイカーハイドの門を抜けようとするとそこにはマリーと誠が待ち構えていた。
「どうせ止めても行くんでしょ?だったらあたしも行くわ!それにジョセフ君迷宮がどこにあるのか分からないでしょ?」
「ジョセフのことだ、ここで待っていれば遭遇できると思って佐藤夏樹達とはわざと合流しなかったんだ」
「……そうか、俺も人のことを言える立場ではないが死ぬなよ……」
マリーの姿がギルド内で見当たらないと思ったらずっとジョセフが来るのを待っていたのだ。マリーはジョセフが来たのと同時に『エニィウェアゲート』を開いており、ジョセフ達はそのまま迷宮へと一気に移動する。
迷宮はマンガやアニメで見たのと同じだと思ったジョセフはいかにも魔物が住処にしていそうな雰囲気だなと思い、ポーカーフェイスだった表情が柔らかくなった。
「ここが迷宮か……」
「とは言っても二階層なんだけどね」
マリーはさりげなくここが迷宮の第二階層であることを説明する。
「二階層?」
思わずジョセフは抜けた声を出してしまったが佐藤夏樹達はここでゴブリン討伐をこなしたのかと考えると佐藤夏樹自身成長しているのだと窺える。
それはこの迷宮での戦いの痕を見れば分かることだ、ジョセフ一人で戦えば確実に死ぬことだって分かる。この二階層にはもうゴブリンロードのような魔物はいないようだがもしかしたら魔人族が潜んでいるという可能性もあるため気を緩める余裕すら持てない。
ジョセフは陸奥守吉行を鞘から抜刀し、構えながら慎重に二階層から三階層、四階層と着々と進むも魔人族が現れることはなかった。
「魔人族め、一体何故現れない?」
「もしかしたらある程度の階層を進ませてその隙に闇討ちをするなんて作戦を考えているのではないか?あたしならそう考えるけどね」
マリーは魔人族の策略を予測しそれをジョセフに丁寧に説明をする。
ジョセフはギルドを出た後にこの世界の煙草を軽く吸いたいと思い購入しており、ジョセフは煙草を口にくわえながらマリーに火をつけるように要求をした。
「マリー、火をつけてくれないか?」
「いいけど……」
マリーは火属性魔法『ファイヤー』を最小出力で発動し煙草は着火した。
ジョセフは異世界に来てから煙草を吸うことはなかったのだが日本で不良達と喧嘩するときはいつも煙草をふかしていたことを思い出していた。あの頃のジョセフは愛なんてものは幻想でまやかしだと世界に絶望していた荒れた時代でもあったため人殺し、万引き、窃盗以外の殆どはやっていたものだ。
異世界の煙草はいわゆる地球で言うところの葉巻のようなもので臭いも葉巻そのものだった。
「タバコとか吸ってたんだ!」
マリーはジョセフが煙草を吸うところに驚きを隠せずうっかりと大声をあげる。
「……リサと出会ってからは辞めてたんだがこの戦い、本当に死ぬかもしれないからな……昔の破壊を望んでいた頃の感覚を研ぎ澄ますためにも煙草を再開したよ」
煙草の煙は迷宮内にかなり蔓延しており臭いに敏感な魔物を引き寄せるのにも効果的でもあった。眠っていたゴブリン、リザードマンに今までジョセフが戦ったことのないキメラのような魔物が一気にジョセフ達の方へと攻め込み、マリーはお得意の魔法で蹂躙する。
「なるほどね、ここで魔物をまとめて減らす作戦ってことね……『煉獄』!」
マリーは火属性魔法『煉獄』を発動し、今までに見たことのない威力であることから上級魔法であることを瞬時に察した。
「ぐぅるるるるるる~!」
ゴブリンがジョセフの背後を取ったと思い込んだからなのか勢いよくボロボロの剣を振りかざそうとした瞬間、試したいことがあったため闇属性魔法『ブラッドサッカー』でゴブリンの血液に含まれる魔力と生気を吸い取り、ゴブリンの腹部をジョセフの左手の5本の指で突き刺し、ゴブリンの血液をドクドクと音を立て吸い取っているのが分かった。
「これが『ブラッドサッカー』か……念のため体内の血液を綺麗にしておくか……『浄化』!」
魔物の血肉とは人間にとっては毒そのものでもあるためジョセフは念のために体内で循環している血液を光属性魔法『浄化』で綺麗にしていた。本来『浄化』は体内をいk例にする魔法ではなく、アンデッドなどの魔物に使用する魔法であるためジョセフの使い方を見たテレサとマリーはまたもや唖然としていた。
「血も十分吸い取ったな。止めを刺すとするか……『スパーク』!」
ゴブリンは血液を全て吸い尽くされ枯渇しており、痩せていた体はミイラのようになり突き刺さった五本の指から『スパーク』を流し込み無惨にも体は破裂した。
ゴブリンの血液は一滴残らず全て吸い尽くしたため血飛沫が飛び散ることはなかったがジョセフが殺したゴブリンの死体は普通の人が見れば確実に嘔吐するであろう程に酷いものであった。
分かりやすく言うならばゴブリンの死体はミンチのようにバラバラになっていた。
他の魔物たちは本能的に勝てないと悟ったからなのか勢いよく逃げ出しそれをマリーが殲滅しようとするもジョセフは宥めるように止めた。
「ジョセフ君、何故あの《《魔法》》を?」
マリーはジョセフの肩を掴んだ後勢いよく揺らし深刻そうな顔をしながら尋ねる。
「宮廷にあった書庫に『古の魔法の書』という本があってそれから知識を得た」
ジョセフはハッキリとした声でそれを明かす。
「何処か体に異常はないの?魔物の血肉は人間にとっては毒なんだからそんなものを体内に取り込めばどうなるか分かっているの?」
「ちゃんと体内で血液を綺麗にしたから大丈夫だよ」
ジョセフが言ったことに嘘偽りはなく、魔力量もいつもよりも漲り『パープルサンダー』を一発使用しても吐血しないだろうと自信すら沸いていた。
「それよりも、光属性究極魔法『インドラ』の習得方法を知らないかな?全属性魔法に適性があるってことだけど」
誠はマリーに尋ねる。
「残念だけどその魔法はあたしには使えないわ。それにその魔法は今だ誰も習得できなかった魔法だっていうのに方法を求められても出来るわけないじゃない……」
マリーですら習得できない魔法があること自体にジョセフは驚愕してしまった。それよりも誠が『インドラ』のことを知っているのはもっと驚きだった。
「お前もあの本のことを知っているのか?」
「ホームズ王国の宮廷では禁書として保管されててその本を読んでいたら偶然見つけてね、それで『インドラ』を発動しようとしたんだけど全然ダメだったんだ……」
「ダメだったって言ってるけど神様に色々強化してもらったのに習得できなかったのかよ……」
「神様に相談したんだけど神々でも習得できない魔法みたいだから正直『インドラ』が本当に存在する魔法なのか怪しいよね」
「今神々ですら習得できないと言った?」
マリーは誠の発言に疑問を感じ訝しげに尋ねる。
「そうだけどマリーさんさっきから随分と深刻そうな顔しているけどどうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!神々ですら習得できなかった魔法が何故『古の魔法の書』に記されているのか?ジョセフ君が使用していた『パープルサンダー』だって実在してる魔法なんだから確実に誰か習得した人はいるはずよ!」
マリーの言うことにも一理あるのだろうがそれを証明できるものがないため『インドラ』が実在する魔法なのか疑わしい。誠の言うように実は『古の魔法の書』自体がデタラメなのではと考えることもできるわけでどれが正しいかなんて今のところそれは誰にも分からない。
8階層辺りまで進むと魔物もかなり強くなっておりどうしても魔法よりも武器を使った方が効率がいいことにジョセフは気付いて『スパーク』と『ブラッドサッカー』の使用頻度が減っていた。
「あまり陸奥守吉行は経年劣化しているため使いたくはなかったが龍王丸以外に仕える武器がない以上他の剣で二刀流なんてできないからな……」
ジョセフは右手には陸奥守吉行、左手には龍王丸を握っており、交互に使い分けてはゴリラに似た魔物やオオカミもどきをバッサバッサと斬り捨てていた。
ベヒーモスがいきなり迷宮の壁をぶち壊し咆哮をあげており、マリーは『ファイヤーウォール』を、誠が『アイススピア』で牽制してくれたおかげでジョセフは陸奥守吉行に『スパーク』を流し込み高出力レーザーブレードのようにバチバチと青白い火花が飛び散る。
陸奥守吉行に『スパーク』を流しレーザーブレード感覚で使用しているのだがこれには理由があって経年劣化している陸奥守吉行の耐久性を考えれば魔法で強化した方がいいと思ったからなんだ。普通なら無属性魔法とかで強化すればいいのだがマリーも誠も牽制をかけているためそんな余裕が無かったというのが事実だけどそれは突っ込まないお約束だ。
ジョセフは『スパーク』を最大出力で陸奥守吉行に流し込み刀身は全長3~4メートル以上にまで伸びベヒーモスの角と右顔面の皮膚が爛れるようにじゅわ~っとステーキを焼くように肉の油が飛び散り音を立てながら高熱で溶けていくのが分かった。
「ぐおるるるるぅぅ~!」
ベヒーモスは咆哮をあげ爛れた皮膚の痛みに苦しみながらもジョセフ達の方へと突撃するのを辞めようとはせず、理性を持たない大型魔獣なだけあって流石にジョセフ個人の力だけでは倒せそうにはなかった。
「マリー!」
「了解、『レールアローガン』!」
光属性上級魔法『レールアローガン』は上級魔法であるのに詠唱いらずで魔力を集中させるだけで発動させることができる魔法らしく、その名の通りレールガンのようにプラズマを発生させておりベヒーモスへと軌道に乗りベヒーモスの体は木端微塵となり大きな肉片から激しく蒸発し迷宮内は高温度に晒されていた。
ジョセフは『スパーク』を最大出力で発動していたため魔力も枯渇しかけ倦怠感に襲われていたためベヒーモスの木端微塵となり残った肉片から吸血できる分の血を全て吸い取った。
「……うぐっ!」
ゴブリンの時とは違い肉塊となったベヒーモスの血を体内に取り込むと激痛が走り、ジョセフは自分の細胞が壊れかけているのが分かり早く『浄化』をしなければと思い、慌てて光属性魔法『浄化』を体内で発動した。
「これが『ブラッドサッカー』のデメリットってやつか……もしこれが強力な魔人族の血を吸った場合は『浄化』が間に合うか怪しいな……」
ジョセフは『ブラッドサッカー』で吸血した後『浄化』で体内の血液を綺麗にし魔力に変換し、『スパーク』を通常の出力で5~6回は使用できるだけの魔力量は回復できたと実感し前へと進む。
「それにしてもジョセフ君が無理しているのはいつものことだけど今回は危険な魔法を連発したりと心臓に悪いわね……」
「僕も驚いたよ、人以外の血を体内に取り込んで魔力回復なんて発想は……」
誠が関心しているとマリーはキレのあるツッコミを入れる。
「いやいや、突っ込むところはそこじゃないでしょ!」
マリーは『ブラッドサッカー』がいかに人間にとって危険な魔法なのか知っているからなのかいつも無茶ばかりしているジョセフに呆れ果てており「もう何言ってもダメだ……」と諦め気味になっていた。
「そこまでだ!人間ども!」
後ろからジョセフ達に向かって怒鳴る声が聴こえた。
「……んっ?」
「何だその反応は!おいお前!そこの男だか女だかよく分かんねえ奴!後ろじゃねえよ!ふざけてないで真面目な反応せんかい!俺は魔人族のゾッド様だぞ!」
魔人族のゾッドというまたしてもイケメンな顔立ちをした見た目が人間そのものにしか見えない男がジョセフに向かって怒号をあげていた。ジョセフはわざと「男だか女だか分からない人さ~ん」と後ろを振り向き俺は変な人じゃないよアピールをしていたのだが逆に神経を逆撫でするだけだった。
「お前魔人族なんだ?だったら殺してもいいんだよな?誠、マリー」
ジョセフは指をバキッ、ボキッと音を鳴らしながら誠とマリーに確認を取ると「「お願いします……」」と間抜けな声で息ぴったりに答えた。
マリーと誠はかなりの棒読みで言っているため急展開すぎるため唖然としているのが目に見えた。
「それで、ゴンザとかあの洞窟で遭遇した魔人族より強いのか?お前は……」
「ばっ、馬鹿にするな!この俺様は人間風情にやられるほどやわじゃねえ!そしてお前を殺して残りの二人もベル様のもとに首を持って帰ってやる!」
ゾッドはさっきから顔をカアッと赤く染め理性を失いかけていた。
「……そういうところはまさに魔人族って感じだな」
「今更気づいても遅いわぁ!」
ゾッドは電光石火の如く俺に急接近し、咆哮をあげ握っていた剣を振りかざすが今の俺にはゾッドの動きがスローモーションに見えるためすんなりと躱す。
振りかざしたゾッドの剣は勢いのあまり地面へと食い込み必死に抜こうとするのだがぐぬぬ!と声を唸らせていた。
「『スパーク』!」
ゾッドは唸り声を上げ必死に剣を抜くことに夢中になっており、その隙にジョセフは『スパーク』を左拳に一点集中しさせゾッドの右腕に正拳突きを食らわせる。
「ウリィヤァ~!」
ジョセフは意味を持たない声をあげながらゾッドを殴り飛ばしゾッドは2メートルほど吹き飛び地面に叩きつけられる。ゾッドはすぐにでも立ち上がろうと四つん這いになる。
「まっ、マグレだろ?俺様が人間の攻撃を食らうなんて……」
ゾッドは立ち上がり両手を出して魔法を発動する準備をしていた。両掌からは魔法陣がバン!と飛び出し紫色に輝きながら禍々しいものを放出しようとしていた。
「フハハハハハ!この魔法でなら貴様を跡形もなく殺せるだろう!死ねえぇぇぇ!」
魔法を発動しようとした瞬間、ゾッドの右腕は骨は粉砕しビューッと血液が激しく吹き出し右腕はブランブランと出血しがら揺れていた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!俺の……俺の腕がぁぁぁぁ!」
ゾッドは口を大きく開け絶叫する。あまりの激痛に声をあげずにはいられない様子で動かなくなった右腕を残っている左手で支えながら止血をしていたのだが『スパーク』により神経を完全に破壊するように脳に電気信号を送られていたからなのか手遅れであった。
「……どうした?さっきまでの威勢はどうしたんだ?弱い犬程よく吠えるとはこのことだな……」
ジョセフは火の着いた煙草を口に咥えながらゾッドを煽りこれでもかと言わんばかりに挑発を続ける。
煙草の煙が揺らめき迷宮内の独特な臭いと煙草の臭いが交錯する。
「貴様、煙草を吸いながらとは随分と魔人族を舐めきっているじゃないか……」
「舐めるも何もお前がバカすぎるからだろ?」
ジョセフは煽るのを辞めようとはせず、ゾッドを煽り痛めつけるのが楽しいとすら思えてきた。
「ジョセフ君本当に性格悪いわね……」
マリーは肩を竦め唖然としており誠はアハハと苦笑いしながら何も言えないようであった。
「さてと、あんまり調子に乗っていると碌なことがなさそうだから止めを刺すか……」
ジョセフは再度指をバキッボキッと鳴らし左拳に『スパーク』を一点集中させる。
「貴様っ、いつの間に魔法を発動した!?詠唱どころか呪文名すら言っているところを見てすらいない!」
ゾッドが呪文名を言わずに魔法を発動していることを指摘しマリーと誠はハッとした表情でジョセフに見蕩れていた。
「細かいことはどうでもいいだろ?どの道お前はここで死ぬ」
「ふざけるなぁ!」
ゾッドは左手で地面に刺さった剣を強引に抜いたため切っ先の部分が折れてしまいそれでもジョセフを確実に殺そうと思いきり上に掲げ渾身を込めて振り下ろす。
『スパーク』を纏わせた左手からは青白い電流が火花を散らし、ゾッドが振り下ろした剣とジョセフの拳が交わりお互いの力が押し合い風圧が生じ砂埃を立てる。一見ゾッドが優勢に見えていたのだがジョセフの『スパーク』は出力を普段20パーセント程度で発動しているのだが今は80パーセントの出力で発動していてゾッドの剣を『スパーク』から発せられる高熱を帯びた電流から飛び散る火花で融解させていた。
「バカなッ!俺の剣が溶けているだと!?何故だ?何故俺が人間風情に……」
『スパーク』の出力を80~90パーセントまで上げると融解しかけた剣はボキりとへし折れゾッドの顔面に直撃し『スパーク』から発せられる青白い火花で皮膚が爛れ始めイケメンだった顔立ちは面影を無くすほどまでに変形していた。
ジョセフに殴られたゾッドはそのまま勢いよく吹き飛び壁へと叩きこみメキメキと音を立てゾッドを壁にめり込ませていた。
「ほっ、本当に人間なのか……?」
ゾッドはジョセフを睥睨しながら最後の力を振り絞るような声で尋ねる。
「……人間だよ、一時期愛を信じられなくなったただの……」
ジョセフは自分自身が人間であるのかすら分からなくなっていた状況でもあり、リサのおかげで愛を取り戻しかけていたのもまた事実だ。
「詠唱も呪文名を言わずに魔法を発動できる人間なんて初めて見たぞ……ベル様ですら貴様のように何も言わずに魔法を発動することはできないってのに貴様は本当は魔物ではないのか?」
「魔物なわけないだろ!そのベルって奴が何者なのか死ぬ前に教えてもらおう」
ジョセフは壁にめり込んだゾッドを無理矢理張り紙を剥がすようにぞんざいに地面へと張り倒した。ゾッドは頑なにベルの情報を穿くことはな『スパーク』を纏わせた指で顎を強く押し込み自らの意思とは関係なしにベルの情報を喋らせた。
「あのお方はかつて人間であった……正確には人間としての心を捨て理性を持たない魔獣のように非常で残酷にならざるを得ないと言ったところだ……それ以上は知らん!頼む、何でもするし貴様にも忠誠を誓う!」
ゾッドは全てを自白し命乞いをする。
「助かりたいのか?」
「助かりたい!助かりたいです……!」
「そうか……」
ジョセフはそっけない態度でゾッドから距離を置き次の階層へと向かうべく茫然と立ち止まっている誠とマリーの元へと駆け付ける。
「バカめ!俺を殺さなかったことが貴様の命取りだ!……んっ、いだぎやぁ!」
ゾッドは左掌から最小出力ながら最後の魔法を発動しようとするのだが発動しようとした瞬間魔力は暴走し体中がブクブクと膨れ上がり肉体は無惨に飛び散り血飛沫をあげていた。あの時顔面に『スパーク』を纏わせた左拳で殴ったことにより脳細胞に全ての神経を破壊し肉体を破壊するようにジョセフが電気信号を送り込んだためだ。
「俺が何もしないわけないだろ。一度敵となった相手を生半可な気持ちで生かす程俺は甘くはない……ベルと言う奴が人間でありながら魔人族を自称しているのは分かった」
「ジョセフ、ベルのことなんだが……殺さずに神様のもとに連れていきたいんだがいいかな?」
「……んっ?」
「ベルの本名は鈴木徹彦といい僕達と同じ日本から来たんだ。神様はそんな彼を手違いで異世界に転移させたことを深く反省しているからなのかもう一度話し合いたいみたいだからなるべく戦闘するんだったら……」
誠は急にベルと対話をしたいと意見を持ち出す。ジョセフは(そんなことをしながら戦闘できると思っていのか?そもそも魔人族を一撃で倒せないこととボスであることを考えるなら確実に手を抜いて戦えるわけがないじゃないか)と訝しげな表情で帽子の上から頭を掻きむしる。
「それは無理難題じゃないのか?まずこのゾッドとかいう奴も本気を出さなきゃ確実に死んでいたかもしれない強さを持っていたんだ。ベルとか言う奴と呼称したいのならお前がやってくれ……」
「誠にとっては至って真面目に頼みごとをしているのだろうがこっちは神様に特別な力を授かって魔力量が多いわけでもなく属性魔法の適正だって全てあるわけでもないんだぜ」
ジョセフは如何せん先程のゾッドとの戦いで魔力量が半分以上減ったっていうのにそんな余裕持てるほどの力は有り余ってはいないからだ。
そんなこととは裏腹に、ジョセフはリサにジンジャー、アイリス、テレサ、佐藤夏樹の反対を強引に押し切り迷宮で魔人族を討伐しに行ったのはいいのだがどのようにして帰った後に謝ろうかと帽子の上から頭をガリガリと左手で掻きむしりギリギリと歯を食いしばっていた。
ゾッドを倒してからというもの魔人族と遭遇することはなくゴブリン、キメラ、スライムと言った低レベルの魔物しか出現せず極力魔法を使わずに仕留めていたのだがジョセフは先程から体に違和感を覚え始めていた。
いつもは「『スパーク』!」を詠唱してから発動していたのに対しゾッドと戦っているときに何故か頭に浮かんだ魔法をそのまま発動させちゃったりと格ゲーをプレイして無意識に今までできなかったコンボ技が急に使えるようになったかのような感覚を味わい、ゾッドの言うようにジョセフは(俺はもう人間ではないのか?)と思い始めるようになった。
ジョセフ達は今、迷宮の何階層まで進んでいるのか途中から数えるのを辞めているためかここがどこなのか全く分からず、いざとなればマリーの『エニィウェアゲート』でギルドやワトソン王国の宮廷に踵を返すこともできるからあまり心配はしていない様子だ。もしマリーが負傷したとしてもチートの誠がいるのでそれこそ後先など全く考えていなかった。
ジョセフの魔力量に関しては複数の魔物から吸血してやっと完璧に補充できたことから倦怠感もなくなったと思いきや、意識が朦朧となり後ろに倒れ込み瀕死になったのだがマリーの『ホーリーヒール』のおかげでなんとか一命を取り留めた。
意識が朦朧となった時、ジョセフは1時間以上も眠っていたのかと思っていたら現実の10秒にも満たないのである。意識の中は初めて神様と出会ったあの場所に似ており彷徨い続けていたのだがそこには何もなかった、何もない状況からマリーと誠が俺を魔法で治療している声が聴こえ意識は現実へと戻った。
「ジョセフ君、一瞬心臓が止まっていたわよ!」
ジョセフ閉じていた瞼をゆっくりと開けるとそこにはマリーが涙を堪えながら心配する気持ちを隠せずにはいられない様子でいた。
「君って本当にいつも……無茶ばっかりして手に負えないんだから……」
瞳からこぼれた涙を手で拭いながらマリーはジョセフに苦言を呈する。その涙は嘘偽りではなく本当に心配してたのだ。
誠はコホンと咳ばらいをし先を急ぐように促す。
「ちょっと待って!ジョセフ君はまだ……」
マリーが誠に文句を言おうとしたためジョセフはすぐさま横から手を出し宥めるように止める。
「いいんだ、元々使用できなかった魔法を使いすぎて体が拒絶反応を今まで以上に起こしていたのだろうから……」
多分それだけではないのだろうが今のジョセフにはその原因を考える余地などなかった。
だからこそ次の階層に足を踏み入れることが最善だと思うのが今のジョセフが出した結論でもありマリーと誠もそれを考えていた。
「それにしても地上はもう夜とかになってんのかな?」
迷宮に入ってから休憩を一切行っていないため今がどのくらいの時間帯なのか分からず、空腹感すら感じていた。
「少しお腹すいたね……」
「急いで迷宮に突撃したから食べ物の準備なんてしていなかったからね」
マリーと誠はお互いに自分のお腹を押さえぐぅ~っとなる音を聞いて顔を赤く染めていた。ジョセフ達は迷宮に行く前に食料を準備せずに迷宮を攻略できるものだと慢心していたためか空腹になることを想定していなかったのだ。ここまで迷宮攻略が大変であることを想定していなかったことに後悔すら感じていた。
空腹で倒れそうになっていたジョセフ達の後方から聞き覚えのある声が聴こえたのだ。
「ジョセフ様、迷宮に行くんなら私達も行くに決まってるでしょ?食料も準備せずに迷宮攻略しようなんて無防備ですわ!」
後ろを振り向くとリサ、ジンジャー、佐藤夏樹、誠の仲間のレイラ、トキがいた。ジョセフはテレサとアイリスがいないのが気になり首をキョロキョロと動かし目で探すもどうやらここには来ていないみたいだ。
「リサ!それに佐藤夏樹まで何でそこに?」
ジョセフは急展開に焦燥ぶりを見せつつ肩を竦め尋ねる。
「ジョセフ様を何とか止めようと考えていたら偶然通りかかっていたレイラ王女とトキさんがギルドにいたため声を掛けたら誠さんも迷宮に行くことを知って佐藤夏樹さんが『エニィウェアゲート』を習得しているとのことだったので皆さんにバレないように後からつけていたんです」
「……ずっと《《つけていたのか》》?」
リサはこくりと頷きむすぅ~っと頬を膨らませ眉間に皺を寄せ妖艶な顔をジョセフに近づける。
「それが《《婚約者》》に向かって言う態度ですか?そんなこと言うならジョセフ様の分はあげないんですから……」
ふんっと顔を横に振り鼻息を立てながらサンドイッチを前に出す。
「ジョセフ様、食べないんですか?」
「……ん、ありがとう」
リサの小さな手からはみ出ていたサンドイッチをそっと受け取るとさっきまで引き攣っていた顔は緩くなりいつもの可愛らしい笑みを浮かばせる。リサの好意を無駄にしたくないと思ったジョセフはサンドイッチを一口食べよく咀嚼し飲み込む。
「んでっ、テレサとアイリスはどうしたの?」
「今頃は宮廷にいます」
テレサはアイリスとともに宮廷に戻り待機してもらっているとのことだ。ジョセフ達の帰りを待つ人が一人でも多い方がいいだろうと佐藤夏樹の提案もあって今回は留守番をすることになったのだとか。
神様の手違いでジョセフは異世界に転移させられて一ヶ月程が経とうとしている今現在、こうやって仲間達と迷宮で食事を取る日々が来るなんて想像すらしていなかった。




