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神様の手違いで異世界転移させられた俺はハーレム生活充実になりました  作者: 桐ヶ谷スバル
第一部 愛を取り戻した転移者 第一章 転移者とワトソン王国
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第35話 人間と魔人族のハーフ

 魔人族はひっそりとジョセフ達を尾行しており仲間の仇討ちをしようと企てていたのだがタイミングを掴めずに苛立つ様子で歯噛みをしていた。


 「あの長髪男は、ゾッドを無惨に殺したのに……人間のくせに何であんな簡単に人殺しをしているのに何とも思っていないんだ!」


 魔人族は自分達を人と思っており、人間でありながらその人を殺すことに何の躊躇いを感じずにいたジョセフを許せずにいた。しかし魔人族もその理屈で言えば罪のない人間を大量に殺したりしているためその矛盾に葛藤をしていた。


 そして自分達が人間と戦う理由に疑問すら感じていた。


 魔人族も人間と同じように平和に過ごしたい、そう思う者もいるのだから。


 ♢♢♢


 「サンドイッチを用意してくれてありがとう。おかげで空腹で死なずに済んだよ」


 ジョセフは素直に食料を用意してくれたリサに感謝の言葉を述べる。


 「そんなこと言いながら死にかけたことを誤魔化そうとしないでください!」


 「……やれやれだな」


 リサの独占欲の強さも可愛さの一種として割り切っていたつもりだがこうも簡単に心を読まれるというのもいい気持ちにはなれないものだ。


 「それはそうとジョセフ……魔物の血を吸い取っていなかった?」


 ジンジャーは少し引き気味な顔で声を震わせ尋ねる。


 「ああ、血を吸っていたのは魔力を回復するためであれは餌のようなものだよ」


 その言葉を聞いた瞬間リサ達は驚愕しており唖然としていた。


 「ジョセフ様、魔物の血肉は毒のようなものでそれを体内に取り込むことは自殺行為に等しいのですよ?」


 「それはマリーにも言われたが体内で『浄化』を発動することで魔物の毒成分は取り除いているからこのとおり体に異常はないよ」


 そう言うとリサは眉間に皺を寄せ目を細め集中力を高めジョセフの心を読み始める。


 「ジョセフ様の言っていることに嘘偽りはないみたいですね。それでもやっぱりジョセフ様が無茶をする姿をこれ以上見るのは婚約者としては賛成できませんわ!」


 そう思うのも当然だ。誰だって愛する者が危険に晒されるのをいいと思う者なんているはずがない。この戦いだってそもそもジョセフが勝手に仕掛けたことでありその落とし前はきっちり付けるつもりでいた。


 勿論リサ達はそれをさせたくはないのだろう。それでも俺は世話になったこの国を襲撃するのを阻止したい。


 そして、ベルが俺達と同じ日本から来た人間だと知った以上放っておくわけにもいかないのだ。


 「リサ、この戦いはもう魔人族と人間の戦いだけってわけにはいかないんだ。もうこれは同じ世界から来た人間でもあるベルを……鈴木徹彦を倒さなければどの道ワトソン王国は……この世界はあいつのものにされる」


 「それでも私は……ジョセフ様がこれ以上苦しむのは……せっかくジョセフ様のような優しい方に本当の恋心を抱けたっていうのに……」


 「リサ、それは優しさではなく俺の甘さだよ……」


 「私はジョセフ様の言うその甘さが好きなのです!その甘さが結果的に優しさになっているのですから……」


 「俺が魔物の血を吸血したことにより人間の心を失っていたとしても同じことを言えるのか?」


 リサは迷うことなくその質問に答える。


 「私はジョセフ様がどのような形になったとしても愛します!」


 真剣な眼差しでそう言われるとジョセフは恥ずかしくなってしまいそうになりながらもリサがそれでもと言うのなら羞恥心を持つのは失礼だと思い改まっていた。


 食事を済ませ次の階層へと進もうと準備を整えると足音が聴こえた。


 リサは足音を聞き集中力を高め心を読もうとするとジョセフ達の命を狙うものの声が聴こえたみたいで全員に戦闘態勢に入るように提案を出した。


 「みなさん、私達の敵がこちらに接近しています!」


 足音は段々と近づきつつリズムでも取るかのようにゆっくりと足音が聴こえたり急に速くなったりとしていた。


 恐らく敵も慎重に行動しているのは間違いないのだろうがあまりにも音が変則的でありリサは集中して心を読むことを辞めてないことから敵は間違いなくジョセフ達に奇襲をかけるつもりだろう。


 「リサ、敵に心が読めることはバレない方がいいだろうから敵が来る寸前まで気づかないふりをしていた方がいい」


 ジョセフはリサの能力を敵に知られると確実に対策を取られてしまうことを恐れ耳元で小声で提案を出しリサは首を振り頷く。


 リサは小声で敵がどのように動くのかジョセフに教えた。ジョセフはわざと気付かないふりをしながら二本目の煙草を吸うためマリーの『ファイヤー』で煙草に火を着けてもらい口に咥え煙を吸い込みふぅ~っとと息を吐くようにゆっくり吐くとゲホッゲホッとむせる声が聞こえ始めた。


 「どうやら後ろにいるみたいだな……」


 ジョセフは指をバキッボキッと鳴らしながら『スパーク』を発動しようとしたその時佐藤夏樹が前に出る。


 「出てきやがれ!俺は魔人族でも怖くはないぞ!」


 佐藤夏樹は怒鳴り声を上げながら後ろで隠れている敵は反応したのか後ろにある物陰から影が揺らめいていた。


 「バレちゃあ仕方がないな……」


 後ろにある物陰から人間らしき人物が現れ、ジョセフとリサ以外の全員が一瞬安堵しようとしていたが再度攻撃態勢を整えなおす。


 「死んでいった魔人族の仲間達の敵は取らせてもらうぞ!人間よ!」


 魔人族を名乗る男は人間如きと言いたそうな表情で余裕ぶっていた。


 「まっ、魔人族だと!?」


 佐藤夏樹はあまりにも人間と同じ雰囲気をしていたため魔人族と言われても信用できない様子だ。


 「お前が言いたいのは見た目が人間に似ていると言いたいのだろう。俺は人間と魔人族のハーフだからだよ!」


 魔人族と人間のハーフを名乗る男は自分から正体を明かす上に如何にも「自分は頭が悪いんです」と言っているようなもので正直こんな雑魚よりもさっさとベルを討伐したいのにと内心思いながらも取り敢えず話を聞くことにした。


 佐藤夏樹は間抜けな表情で魔人族に向かってこんなことを発した。


 「人間と魔人族が結婚することってあるんだな……」


 ジョセフはその辺りを疑問に思っていたのだがこの世界で異種族同士で結婚して子供ができるのかは疑問に思っており、知りたいとも思っていた。エッチな同人誌や神話で神と人間のハーフだったり魔王と人間のハーフなんてものを題材にした作品があるためこの世界でも実現できるのかを聞いておく必要があった。


 「俺の父は魔人族で母は人間だ。そして母はまだワトソン王国が他国と戦争をしていた頃にある貴族に辱めを受けた後追放され父に救われたのだ!その父をそこの色眼鏡をかけている長髪が洞窟で殺したのだ!」


 魔人族はジョセフの方を指さしながら睥睨し「絶対に許さん!」と言わんばかりに殺意を剥き出しにしていた。


 「父のタスクをあんな無惨な殺し方をした貴様だけはただでは死なせん!父と同じように地獄を味わわせてから殺す!タスクの息子であるこのチュデルが」


 チュデルと名乗る魔人族はあの時洞窟で倒したドラキュラのような格好をした魔人族の息子であることと人間の母を持つハーフであることから殺すことに躊躇いを一瞬感じてしまったがジョセフの敵である以上、ジョセフは手を抜くつもりはなかった。


 「俺の敵である以上、例え人間であろうとも……殺す」


 ♢♢♢


 チュデルがワトソン王国に復讐することを誓ったのは幼少期、魔人族が生息している領域はワトソン王国近辺にある峡谷にありそこは冒険者ですら近寄らない危険な場所であることから魔人族は過酷な環境で生活することを強いられていた。


 「父さん、人間はどうして俺達魔人族に敵対するの?」


 幼いチュデルは父親であるタスクに純粋な眼差しを向けながら尋ねる。


 「人間と魔人族は昔から争いをする運命にあるのだよ。だがこれだけは覚えておいてほしい、我々は好き好んで人間と戦っているわけではないということを……」


 タスクはチュデルの頭をポンポンと頭を軽く叩きながら寂しい表情をしながら言い聞かせていた。


 チュデルは人間である母を見ていつか人間と魔人族が無駄な争いをする必要がなくなる日が来るようになればと祈りを込めていた。母親は暖かい眼差しでチュデルに抱きつきチュデルも母親に甘える。


 「チュデル、私はある貴族の策略によりワトソン王国を追放されたことは知っていますね?魔人族と人間の血を引くあなたには私達とは違い選ぶ権利があるわ」


 「母さん……」


 チュデルは魔人族の血を引くものとしては優しく穏やかな心を強く持っていて他の魔人族からはあまりよく思われていない節があった。


 ♢♢♢


 「殺すだと?お前は俺が魔人族だから殺すとでも言うのか?」


 チュデルは喚くような声でジョセフに問う。


 「違うな、お前が俺の敵だからだ。敵が人間であろうと魔人族であろうとお前が俺の邪魔をするならば殺すだけだ」


 傍から見ればその理屈はかなり無茶苦茶ではあるが命の奪い合いをしている以上はそう言う考えで行かざるを得ない。


 ジョセフの直感がここで息の根を止めておかねば今後、何か危険が及ぶのでは思っていたからだ。


 「ベルという男はお前のように人間の血を引くものだと聞くぞ?それでもお前は魔人族としてワトソン王国を襲撃するつもりなのか?」


 「これも全ては愛する母の為だ!死んでいった母の為にもワトソン王国の人間を一人残らず地獄に味わわせてやるんだ!」


 チュデルはかなりのマザコンなのか母という単語を連呼していた。


 「全てはガーグとかいう貴族のせいだ!そいつのせいで母は冤罪をかけられた上に辱めを受け、数年前に死んでしまった……」


 ガーグとはワトソン王国の貴族であり最近魔人族と手を組み略奪を計画していた一人だ。マリーとリサのおかげでガーグは反逆罪で処刑にされたのだがチュデルは母を冤罪にかけたガーグへの憎悪が募っていた。


 「そのガーグはお前達側についていたがそのことには触れないんだな」


 「どの道奴は俺がこの手で殺すつもりではあったのだがな……そして俺の正義の鉄槌をお前に下す!」


 魔人族の口から正義という言葉を発せられるなんて全く予想もしておらずこれが漫画とかアニメであれば勧善懲悪な世界観としてはチャデルのような魔人族は悪として描かれていることも少なくないがチュデルにとってはジョセフは悪のようだ。


 「……よかろう、ならばお前を俺が裁く」


 ジョセフは再度バキッボキッと指を鳴らし、ブルースリーのようなファイティングポーズを取り始めた。


 ジョセフは着ていた革ジャンを脱ぎ、陸奥守吉行と龍王丸と一緒にリサに渡した。


 「ジョセフ様、どうして刀を使わないんですか?」


 リサは丸腰で戦おうとするジョセフに疑問を抱き尋ねる。


 「陸奥守吉行は経年劣化していて碌にメンテナンスもされてないうえに龍王丸に関してはなんとなくリサに持っていてほしかっただけだよ。革ジャンに関してはこれ一着しかないからだよ」


 ジョセフは流石にライダースの革ジャンを量産できる技術力がこの世界にあるとは思っていなかった為である。革ジャンそのものは生産できてもファスナー部分を作成できる技術が備わっていないだろうから同じものを量産できないのを想定するなら戦闘する際は脱いでいた方がいいと思ったからだ。


 革ジャンを脱いだからといって煙草を吸うのを辞めたのかと言われればそうではなく寧ろ吸う量は増えていく一方で3本目に突入していた。煙草を吸うというのは肺癌になりやすい確率が高く肺がニコチン成分により汚れてしまうのだが煙草を吸っているのと同時に『浄化』を体内で発動して体内を綺麗にしているためその心配はない。


 体内を綺麗にしているということは体内に潜んでいるウィルスや癌細胞すらも綺麗にしているため永遠に病気になる心配はなくなったということだ。


 「つかジョセフ、お前俺と同じ年齢なのに煙草って不良かよ!」


 佐藤夏樹は煙草を咥えているジョセフを見てそれを指摘する。


 「緊張感を緩めるのと野生の感覚を研ぎ澄ませるには煙草で集中力を高めたいんだよ」


 ジョセフはいわゆる80年代の某週刊少年誌のバトル漫画の主人公達に憧れを抱いていたためそれが当たり前だと思っていた。


 「そうじゃなくて《《未成年が喫煙》》なんて流石に中高生の見本としてはよくねえだろ!それにお前この物語の主人公だし……」


 佐藤夏樹はジョセフに対してツッコミを続ける。


 ジョセフと佐藤夏樹のやり取りを見て苛立ちを感じていたチュデルは癇癪を起す。


 「いつまで戯れ言を言っているんだお前達は!特にそのジョセフとかいうお前!」


 チュデルはジョセフの方を指さし早く戦うぞと急かし始める。


 「そうだったな……」


 ジョセフは革ジャンを脱いだ分動きも軽やかに世紀末で救世主になった漫画の主人公のように図太い筋肉質な腕が露出しておりチュデルはそれを見た瞬間かなり動揺をしていた。


 「貴様、ジャケットを着用していたからなのか分からなかったがお前は歴戦の勇者なのかと言いたくなるほどに逞しい身体つきをしているのだな……」


 声を震わせながら足元はガクブル状態であった。


 「どうした?言いたいことはそれだけか?」


 ジョセフは低く唸るような声でチュデルを煽ると、「うるせえ!父と死んでいった仲間の仇は必ず取ると決めたんだ!」


 チュデルは跳躍しながら急接近し両手に握っている魔剣風の剣を目一杯振り上げる。振り上げた剣からは紫色のオーラを纏わせており禍々しい空気が一気に蔓延しジンジャー達は攻撃することに躊躇いすら感じ始める。


 「ジョセフよ、この魔剣アングリィブレードに集中したこの感情エネルギーはお前の魔力量では防ぎきれまい!ここがお前の墓場だ、死ねえ!」


 チュデルのアングリィブレードに纏っている紫色の感情エネルギーは更に倍増し高出力ビームソードのように刀身が大きくなりその大きさは2~3メートルは軽く凌駕していた。


 リサはチュデルが剣を振り下ろしたと同時にジョセフの名前をノイズ交じりに叫んだ!


 「ジョセフ様!」


 「ウリィヤアァァァァァァ!」


 ジョセフは両手から紫色の電流をバチバチと纏わせ『パープルサンダー』を両掌から放出した。


 その姿はまさに某バトル漫画の必殺技を放つ主人公のポーズに似ていた。そう、子供達が練習していたあの技のポーズだ。ジョセフも幼い頃よく幼馴染と練習したが歳を重ねるごとに無理だと気づき辞めていたのだ。


 ジョセフは体が慣れてきたからなのか『パープルサンダー』を使用しても不思議なことに倦怠感も吐血をする気配すら感じない。


 『パープルサンダー』とチュデルの魔剣の剣撃が衝突しお互いの攻撃が激しくぶつかりあっていたからなのか風圧が生じ迷宮内にもかなりの轟音が響き渡り周辺はミシミシと軋みマリーの魔法により光属性上級魔法『ホーリーウォール』で防壁を築き被害を最小限に抑える。


 「みんな大丈夫?」


 マリーは後ろにいたジンジャー達に声をかけ「大丈夫」と答える。


 「何!俺の攻撃を受けきっている?しかも俺と同等の威力とは本当にお前は人間なのか?」


 「……だから人間と言っているだろ?お前こそ敵討ちをしているとは思えないくらい攻撃に殺気を感じなかったがな」


 一瞬、チュデルはジョセフの発した言葉に「うっ!」と動揺し剣撃の威力が軽くなった。


 そうだ、チュデルの攻撃は確かにズシリと重さを感じていたのだが本気で殺しに来たものの攻撃とは思えないほどに貧弱で寧ろチュデルの母親を失った哀しみの方が強く感じた。


 「……やっぱりな、お前は戦士になりきれていない。そして人間殺したことないだろ?」


 「うるさいうるさい!お前に何が分かる!俺は魔人族だぞ!お前如き人間なんかを殺すことに躊躇いなんか……」


 どうやら図星のようでチュデルは更に感情的になり感情エネルギーを高めようとしていたのだが時すでに遅し、ジョセフの『パープルサンダー』が完全に押し出し紫色の閃光を激しく浴びながら「グワーッ!」と悲鳴を上げていた。


 魔剣アングリィブレードは感情エネルギーと『パープルサンダー』の衝撃に耐えきれずへし折れてしまいゲームでよくあるガラス塊を砕くような音が響き微細な欠片となり灰のように散っていた。


 チュデルは『パープルサンダー』の電流の混ざった紫の光を浴びて全身ボロボロになり装備していた鎧は半壊しており皮膚は所々火傷しており傷口からは血がポタポタと雫になり地面に落ちていた。


 「どうした?お前の親父はこの程度じゃ死ななかったぞ?」


 「うっ、うるさい!魔剣なんぞなくても俺はお前になんか負けん!」


 チュデルは体を起こし立位を保つのがやっとのようだ。それでもジョセフは容赦するつもりはなかった。


 「……そうか」


 チュデルは拳を振り上げラッシュを始め一つ一つが重くなり始めた。


 その突きは段々と速くなりどうしても負けられないようで『パープルサンダー』を使用して魔力を消費しすぎた今のジョセフでは躱すので精一杯だった。


 速くなりすぎた拳がジョセフの右肩を掠め今度は頬、腹部と攻撃が当たり始めその衝撃により吹き飛び石蹴りのように地面を跳ね壁へと叩きつけられうつ伏せになる。


 「……ハァっ、ハァ……」


 チュデルは息を荒げながら背を少し丸めフラフラとしながらも倒れないように立位を保ち体の限界が近づいていた。


 ジョセフは息が詰まりかけ吐血をしてしまい気管が一部損傷しているのが分かった。


 異世界に来てここまで追い込まれたのは初めてでジョセフ自身、このまま死ぬわけにもいかないと思い歯を食いしばり根性でなんとかしようとしていた。


 「ほう、まだ立てるのか?並の人間であれば確実に死んでいるところであるがな……」


 チュデルの方も体力をかなり消耗してはいるものの魔人族なだけあって人間のジョセフ以上の強靭な肉体を持ち合わせていたようだ。


 「……俺はっ、俺は……お……れ……はっ……」


 ジョセフは一瞬白目をむき、意識が朦朧としかけ走馬灯すら見え脳内には過去に起こった出来事がフラッシュバックしその光景を思い出しやり残したこと、過去の失敗を悔いながら死ぬのかと思い、瞼を閉じようとしたその瞬間だ。


 「ジョセフ様!」


 リサの声が最初に脳内に浮かびジンジャー、マリー、佐藤夏樹の声がジョセフの脳内に訴えかける。


 「そうだ、俺はまだこんなところでは死ねない!」


 リサ達の思いが一つとなりジョセフは覚醒し、筋肉が膨張し着ていた服が一瞬にして破れタンポポのように飛び散る。


 「なんて凄まじいんだ、今までのジョセフからは感じられない覇気を感じる……」


 ジンジャーはあまりの変貌ぶりに驚きを隠せずに動揺しておりリサ達もその光景を見て驚いていた。


 「おいおい、ジョセフの奴昔のマンガのキャラみたいに服破けてるぞ!」


 「いやいや、今はそんなこと言っている場合じゃないと思うけど……」


 「うるせえハーレム野郎!」


 誠が佐藤夏樹にツッコミを入れ佐藤夏樹は理不尽に誠に逆ギレをする。


 「あんた達、それよりもジョセフの心配をしていた方がいいわよ!」


 ジンジャーは二人に注意をすると佐藤夏樹と誠はビシッと背を伸ばし気を付けをする。


 「ほう、俺の攻撃を受けて動けないかと思っていたらまだ力が残っていたのか……」


 チュデルは不敵な笑みを浮かべてはいるのとは裏腹に声はかなり震えていた。


 「そういうお前は立っているのがやっとに見えるがな?」


 ジョセフは口に咥えていた煙草を吸いながらバキッボキッと指を鳴らしチュデルを煽る。


 「ならば俺の本気をお前にぶつけるとしよう」


 チュデルは身体をフラつかせながらも自分の持てる力全部を振り切ろうと「うおおおおおおお!」と唸り声をあげる。


 唸り声を上げながら再度急接近したチュデルは連続で火属性魔法『ファイヤースピア』闇属性魔法『シャドウキャノン』をジョセフ目掛けて打ち込むがその軌道全てがスローモーションに見えてしまい欠伸が出そうになるのを堪えながらジョセフは軽々と躱す。


 「そんな、ありえない……」


 チュデルは語彙力を失いかけるも希望を持ち続けながらも魔法を発動するのを辞めない。


 「もう辞めておけ、これ以上魔法を打ち続ければお前は確実に死ぬぞ!」


 「言ったはずだ!俺はお前を必ず殺すと!」


 血反吐を吐きながらもジョセフの警告を無視し魔法の発動を辞める気配を一切見せなかった。


 「ウリウリウリウリウリウリウリウリウリィヤァァァァァァァァァ!」


 ジョセフは某有名な「オラオラ」や「あたたた」のような声を出して『スパーク』を両拳に集中し最小出力で連続で打ち込む。


 ドドドドっとサンドバックを抉るような轟音が鳴り響きチュデルはボディを打ち込まれ勢い良く吹き飛びそのまま地面へと倒れ込み砂埃が舞い上がる。


 「何でだ、お前の攻撃は一瞬だけ痛みが感じたのにその後は全然大したことはないのに体が……」


 「暫くお前の身体は麻痺して動くことはできない、死ね!」


 ジョセフは『スパーク』を纏わせた左拳を振りかざし完全に息の根を止めようと振り下ろそうとした。


 「母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 「ジョセフ様、ダメぇっ!」


 チュデルは目一杯振り絞った声で母親のことを思い出しながら絶叫した。


 ジョセフはリサの懇願もあってかチュデルの顔面直前で振り下ろした左拳をスッと寸止めをする。


 「何故だ!その気になれば俺を殺せたはずだ……」


 チュデルは枯れた声で拳を止めたジョセフに苦言をていする。


 「お前は人間である母のことを叫んだ、その意味を考えればお前は他に生きる方法を探すべきなのではないのか?復讐とか《《そんなこと以外》》にも?」


 「《《そんなこと》》だと?お前、ふざけているのか!?俺は魔人族でお前は人間、ここで俺を生かせばお前をいつか殺しに来るかもしれないんだぞ?怖くはないのか?」


 「正直なところ俺にも分からない。死への恐怖というのはゴブリンに殺されかけたり魔法の使い過ぎで瀕死になったりと死の境地に陥ったことなんて何度もあるからな」


 そのくらいジョセフにとって死というものへの価値観が狂ってしまい死への恐怖を感じないジョセフを見たチュデルは唖然としながら地面に横たわっていた。


 「お前はベル様に似ているようで何か違う……あのお方は負のオーラを感じるのに大したお前には負のオーラだけではなく人としての暖かささえ感じる。お前はどのように生きていたらそのようになったんだ?」


 チュデルは吐血しながらボロボロになった身体を気にせずジョセフに尋ねる。


 「愛だ……人類に絶望していた時にリサやアイリス、ジンジャー、テレサ達と出会い本当の愛を知ったからこそ今の俺がいる」


 ジョセフは口に煙草を咥えながらチュデルの質問に安直に答える。


 「そんな単純なものなのか?本当の愛を知っただけでそこまで強くなれるはずがない!愛故に悲しみ苦しむことがあるっていうのにお前はそれでも愛を信じるというのか?」


 チュデルはジョセフが強くなったのが愛を知ったからであることを信じられない様子でそれを口に出して喚き声を上げる。


 「シンプルな答えではあるがそれが事実である以上それ以外に何が言える?」


 「そうか?ならばこの先には今まで以上に強い魔物が現れるはずだ……ジョセフ、もしかしたらお前なら本当の意味で救世主になれるのかもしれないな。人間族にとっても魔人族にとっても……」


 チュデルはそう言いながら次の階層へと向かうように促し、ジョセフは手持ちの回復薬の入っている瓶をチュデルに向かってポイっと投げ捨てそのまま次の階層へと向かうべく無言で走り去る。


 投げ捨てられた回復薬は地面にコロコロと転がりながらチュデルの右耳に当たりチュデルは右手で回復薬を拾い蓋を開け飲み干す。


 「ジョセフとかいう奴、とても変わっているな……」


 そんなことを呟きながらチュデルは両手を伸ばし薄暗い迷宮の天井を眺めていた。

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