第19話 シャーロック王子の帰還
一人の少年が勢いよく険しい表情で馬を走らせながらワトソン王国へと向かっていた。
「早く父のもとへと行かねばならないのに僕は立派な人間になるための勉学に励みすぎて遅れるなどどう言い訳すればいいんだ…」
少年は自身が勉学に励むため遠出の学校に通っていたことを深く後悔をし、一秒でも早く父親と再会せねばと思いながら馬も休憩なしで走らせていたからなのか息をきらしており、速度がゆっくりと下降していった。
「そうか、馬をあれから一回も休ませていなかったな…ここで立ち止まるわけにはいかないが大事な馬がなければ僕は国に帰ることができなくなる…」
近くの河原へと向かった少年は馬を休憩させ、自身も川の水で顔を洗っていた。
「はあ、水が冷たくて気持ちいいなあ。学校に行っていなければこんな風に顔を洗うことなんてできないからなぁ…しかし、早く父のもとへ向かわねばならんな!」
この少年、見たところ身分の高い貴族か王族のような身なりをしているがこのような格好をして一人で馬を走らせて大丈夫なのだろうか?この辺りは盗賊だったり魔物が数多く生息していてもおかしくない近辺だっていうのに。
「そうだ!ここに長居はできぬな、この辺は危険な魔物や盗賊がいると学校でも習っていたからすぐに国へと向かわねば…」
五分程休憩した少年はハッと学校で習ったことを思い出していた。
少年はすぐさま休憩を終え、馬を走らせる準備をして勢いよく乗馬し河原を全速力で抜けた。
ワトソン王国近辺に到着した時にはもう周囲は真っ暗で自分が何処にいるのか分からなくなりそうだった。
「空も暗くてワトソン王国がどこなのか分からなくなりそうだ…仕方ないがこの辺で野宿でもするか」
少年は野宿の準備を始め、馬はゆっくりと座っていた。
「今日はお前に無理をさせてすまなかったな…」
眠り付いた馬の頭を撫でながら少年は涙目になりながら謝っていた。
周囲にあった石を組み焚火をして寒さを凌いでいたがそれでも夜は寒く、寝具などの準備をせずに飛び出してきたことを後悔していた。
「夜の外がこんなにも寒いとは思わなかった…僕はどうしてこんなことも分からなかったんだ…」
少年は自分を責めており、誰もいない平野でただ一人孤独を感じていた。
こんな夜中に少年と馬だけでポツリと野宿することは危険ではあるがどこかで休息を取らねばワトソン王国に到着する前に力が尽きてしまうためそうせざるを得ないのだった。
「そういえばお姉ちゃんが婚約をしていると手紙に書いてあったが一体どんな人だろう。あんなに男嫌いだったお姉ちゃんが自分から婚約を申し込んだというのだからさぞかし立派な人なんだろうな…」
少年は自分の姉の婚約者がどんな人かを想像しながら眠りについたのだ。
♢♢♢
「お父様の容体も良くなったのはいいんだけど弟のシャーロックは大丈夫かしら?」
「リサ、弟なんていたんだ」
「ジョセフ様にはまだ言ってませんでしたね。私の弟は国王になるために遠出の学校に通っていましてとても賢いんですよ」
「そうなんだな、君の弟が俺とリサの婚約に反対しなければいいのだがな」
「大丈夫ですよ、シャーロックもきっとジョセフ様との婚約は反対しませんわきっと」
ジョセフはリサに弟がいたというのは初耳であり、ジョセフ自身が気にもしなかったのもあるのだろうがロリコンの烙印を押されなければいいと思っており、それだけが心配であった。
「ジョセフ様、今ロリコンの烙印を押されなければと考えましたよね?」
「心が読めるリサに言い訳するつもりはないが年下の女の子と婚約だなんて普通に考えたらおかしいものだぜ」
「それでも私のことをそんな風にまだ思っていたのは心外です!」
リサは頬っぺたをぷくーっと膨らませながらジョセフの鍛錬された胸筋を細くて色白な手で何度も叩いていた。
「そんなに怒るなよ、リサが同い年だったら完全に俺の好みなんだからよ…」
「それでもやっぱり年下には抵抗があるって言ってるようなものじゃないですか!」
(やっぱりリサのそういうところも含めて可愛いんだが歳が12~3歳くらいってのがちょっとなあ…だが俺のことを真剣に愛してくれるのは嬉しいんだけどね……
俺はそれでもやっぱり彼女の弟にロリコン認定されないかは心配はあるんだよなあ……)ジョセフは肩を竦めロリコン認定されるのではと心配していた。
「それよりもリサ、もう夜だし早く寝ないと体がきつくなるぞ」
「なら今日はジョセフ様と一緒に寝てもいいですか?」
「俺と?」
「一応ジョセフ様の婚約者ですよ私は!」
リサは笑顔で言うものの格好からして間違いなく今日はジョセフと一緒に寝る気満々であったのだ。
リサの体はとてもいい匂いがしており、そして体も柔らかくて一緒にいると何故か安心感も湧いてしまいジョセフはクマのぬいぐるみと一緒にいる気分を味わっていた。この光景を佐藤夏樹に見られたら間違いなく誤解されそうだがジョセフにとって今はそんなことはどうでもよかった。
「それじゃあ灯りを消すよ」
ジョセフはランプの灯を消し、部屋は真っ暗になりジョセフはリサと共にベッドへと眠りについた…といいたいところであったのだがリサの体がジョセフの腕に密着しているせいか中々寝ようにも寝付けない。
リサを見ていると小学生の頃好きだったエミリーっていう留学生の女の子を思い出しており、エミリーもリサのように心優しく一緒にいるだけで安心感があったのだ。
ジョセフがリサのことが好きなのもエミリーに似ているからという理由がその一つでもあるのかもしれない。ジョセフはエミリーには本当に申し訳なく思っており、もう一度日本で会おうと約束したことを二度と果たすことができないことに現在、ジョセフは異世界で思っていた。
エミリーに会えなくなったことに関しては今でもすまないとは思っており、ジョセフが異世界に転移させられたのも今考えれば当然の報いであったのかもしれない。
中学になって一時期エミリーとはもう会えないと絶望していた時期に他の女子に好意を寄せてしまったことでジョセフの精神は崩壊し、ヤンキーやプロの格闘家、学校の教師や女子にまで手をあげる程にまで荒れてしまったのだ。
もしも神様の手違いで異世界転移させられなかったとしてももうあの世界でジョセフは人生をやり直すことは確実にできなかったのだろう。
これも全て、ジョセフが選択を間違えてしまったことが原因なのだろう。神様は手違いで異世界に転移させてしまったというが多分あれは嘘であると疑いすら感じた。ジョセフは推測でしか物事を語ることはできないが神様は多分そうでもしないとジョセフが異世界転移させられることを拒否し続けるだろうと思って慌てて言い出したのだろうと思っている。
今もなお、ジョセフはエミリーとの約束を果たせないことへの罪悪感で胸がとても苦しく、張り裂けそうになりそうだった。ジョセフが異世界で強くなったりマリーの魔法で癒してもらったりしてもこの心にぽっかり空いた傷を完全に癒すことはできないだろう。例え、ジョセフは自信の記憶を消したとしても心の中に深く刻まれてしまったものは恐らくジョセフの魂が完全に消滅でもしない限り。
ジョセフにはリサを本気で好きになる資格はあるのか?リサは心優しいためそんなことはないと言いそうではあるのだが小学校の頃真剣に愛し合っていたエミリーのことを忘れていたジョセフは自分みたいな人間の屑に女性を愛していいのかは分からずにいたがエミリーは未だにジョセフのことを愛しているとしたらジョセフはリサを愛していいのかどうか、異世界ではジョセフの経歴なんてものは完全にリセットされているようなものなのであることから細かいことは気にするなと読者から突っ込みを入れられそうな気もするがジョセフもそれほど能天気な人間ではないからなのかそんな楽観的に考えらることはできなかった。
リサの小さな胸が俺の腕に当たり彼女はぐっすりと眠っており、そのせいか俺はなかなか眠ることはできずにいた。
「ジョセフさま~、私達の赤ちゃん~できちゃったみたい~」
ジョセフの耳元でそんな寝言を連発されては眠れるものも眠れなくなってしまうのだ。それ程にまでリサに愛されているジョセフは幸せ者なのかもしれない。それにしてもジョセフは自分と子供作ってる夢をみるリサに関してジョセフは本人の目の前でそんな夢を見られても正直なところ困るものだ。
リサがいるおかげでジョセフは今のところこうやって自我を失わずにいるがリサがいなかったらジョセフは異世界ではどうなっていたのか、おそらく毒が身体中に蔓延してのたれ死んでいたのは間違いないだろう。
ジョセフは色々考え事をしていると眠気がやっと出てきたため、考えるのもこのぐらいにしておこうと眠りについた。
いつの間にかジョセフはリサと共にベッドで眠り、リサからはとてもいい匂いが漂い、ジョセフは安心感で満たされていたのだ。
窓からは明るい光が漏れ、朝が訪れているのが分かった。目が覚めるとリサはすやすやと眠っており、ジョセフはこのままリサを起こそうかとも思ったが、リサがぐっすり眠っている隙に部屋から抜け出し散歩でもしようと思っていた。
「リサの奴心が読めるからバレないよう音をたてずにそ~っと行くか…」
ジョセフは恐る恐る着替え始めこの部屋から抜け出した。
「やはりこういう快晴な日に一人で歩くと気持ちいいなあ」
久しぶりにこうやって散歩することに楽しみを感じ、今日ジョセフはのんびりしていきたいと思った。
「ごめんなさい、僕が前を見ていなかったから…」
「いや、俺の方もごめん…」
一人の少年がジョセフにぶつかり、手を床につけ立ち上がろうとするもかなりふらついている様子であった。
「それにしても見かけないお顔ですけどあなたは?」
「俺はジョセフ、ジョセフ・ジョーンズだ」
「僕はワトソン王国王子のシャーロック・ワトソンと申します」
「シャーロック・ワトソンだと?この少年がリサの言っていた弟か。リサに似て可愛らしい顔立ちをした王子様だな」
「ジョセフ?お父様が手紙で書いていた姉の婚約者のジョセフ様ですか?」
「その様付けは辞めてくれないか?シャーロック王子」
「それでは何と呼べばいいですか?」
「ジョセフかジョーでいいよ」
「それではジョセフさんも僕のことはシャーロックと呼び捨てで構いません」
「シャーロック、せっかく自分の家に帰ってきたわけなんだしゆっくり休んだらどうだ?」
「そういうわけにはいきません。父上が危険な状態だと聞いて…」
「王様の容体はよくなったぞ」
シャーロックは王様が回復したことを知り、自分は一体何のために国に帰って来たんだと思いながらしょんぼりと俯いていた。
「取り敢えず君の部屋はどこだ?」
「僕の部屋は…あの通路を右に行けば…」
そう言いながらシャーロックは長旅の疲れからなのか睡眠不足だったのだろう、シャーロックが教えてくれた部屋にまで連れて行ったのだがリサが今眠っている部屋の隣であったのだ。
リサもそろそろ起きてくるだろうし軽く散歩しようと思っていたらまたすぐに寝室近くまで戻ってくるなんてジョセフは到底思ってもいなかったのだ、ジョセフはひとまずシャーロックを部屋に連れ、ベッドで寝かしつけた後にジョセフはすぐさま自分が昨日眠っていた寝室へと戻り、リサと共に二度寝することにした。
「今日は絶対俺はのんびりしたいから、何人たりとも俺の休息を妨げる奴は許さん……」
ジョセフは今、リサの横で二度寝をしており昨日眠れなかった分までとても気持ちよく眠ることができている。
冒険者として過酷なクエストなどもこなしていたからなのかリサは未だにジョセフの横ですやすやと熟睡しており、やっぱりリサも年相応の女の子なんだと思いながらジョセフはリサをクマのぬいぐるみに優しく抱きつくようにして眠っていた。
確実にロリコン認定されてもおかしくない行為であることはジョセフ自身分かっているが自分用のぬいぐるみと抱き枕がないこの世界で何か抱くものがないと落ち着かないとはいえ日本であれば犯罪になるのは確実。
ジョセフはリサのことをまだ恋愛対象としてではなくて妹感覚だったりマスコットみたいな立ち位置で好きという意味であるからその辺は何とか誤魔化せるだろう、リサ自身がジョセフにべったりくっついたり一緒に寝ようとしているから問題はないはずだと正当化していた。そして今年で13歳になる女の子に発情などジョセフは当然するはずもなく、《《如何わしいネタ》》にするほど最低な人間ではなかった。
今この時間、二度寝できることが最大の幸せであり、人間は二度寝の方が気持ちよく睡眠できるうえにジョセフは身体が浮き上がるような快感まで味わっていた。それにリサ体からいい匂いが混ざって一石二鳥である。
ジョセフはロリコンと呼ばれる人達が幼い女の子に心ときめく気持ちも分からなくもなかったが彼女がある程度成長したらそれこそ本当に結婚してリサとの間に子を作ることも悪くないかもしれないとさえ思っていた。だが、リサが16歳になってからの話であるとジョセフ自身割り切っていた。
日本の法律では男子は18歳、女子は16歳からでないと結婚ができず、リサが16歳になった時ジョセフは19歳になるので普通に考えても日本では結婚も可能ではあるがジョセフが二十歳の場合は両親の同意があればリサが18歳でもでき、親の同意なしの場合は二十歳を過ぎなければ結婚はできないのだ。
この国の法律では12歳から婚約、結婚も可能らしく一夫多妻も認められているということだ。もしリサが一夫多妻に反対しなければジョセフはテレサやジンジャーとも結婚したいとも思っているのだが本人達がそれを受け入れてくれるかも重要であった。アイリスに関してはほぼ無理やり婚約させられリサの時と違い考える猶予がないという過酷な状況ではあったがオタクでやりたいことしかできないジョセフがそもそもが婚約まで発展しているということ自体が物語的にはご都合主義なんだろうとはジョセフ本人も重々承知なのだがこれは素直に喜ぶべきか悩んでいるところだった。
日本に帰りたい気持ちも当然あるのだがジョセフはエミリーと結婚はしたいのだが彼女とまた再開できる保証はなくて、もしかしたらエミリーは他の男と仲良くなってジョセフのことを忘れているのかもしれない。
二度寝しながらそんなことを考えていたジョセフはすっかり意識が別の方向へといき、聴覚も浅く遮断していくのが分かった。
シャーロックは長旅の疲れからなのかベッドで熟睡をしていた。
自分が何故ワトソン王国に帰国したのかもすっかり忘れていたようでかなり気が抜けていたのだろう。
そんなシャーロックは家族にとても愛されていた。リサのように相手の心を読んだりする能力は持っていなかったがとても頭がよく武器を持たない平和な世界を築き上げるという野望があったのだ。だがシャーロックは今の現状を考えれば武器を持たずに生きていくことは不可能だと思い始めどのようにすれば人間は、亜人族や魔人族を含めた生物は争いを辞めるのか答えを見つけるために遠出の学校に通うことを決めたのだが誰もシャーロックの意見などに耳を貸す者はいなかった。
ワトソン王国は現状、他国との戦争はないものの帝国や魔人族にいつ襲撃されるのか分からない状況で王様も望まぬ戦争を準備する日がくるのではないのか警戒をしていたがシャーロックはそれでも戦わずにしてどうにかなる方法を探り続けていたのだ。ワトソン王国は他国と比較してもかなり治安は良い方でこれといって国王の政治について悪い噂を聞いたことがないほどに国は潤っていたのだ。
シャーロックはそんな偉大な父の背中を見ながら育ち、リサという純粋で心優しい姉と母がいたからこそ平和を愛する少年に成長していったのだ。
「いかんいかん、僕は一体どのくらい眠り込んでいたんだ?父上の容体が悪いと聞いて帰って来たのに父上に会わずに寝てしまうとは…」
ハッと勢いよく起き上がったシャーロックは何故自分がワトソン王国に帰国したのかを思い出しすぐ王様のもとへと向かおうとしていた。
シャーロックは部屋の扉に手をかけ、深呼吸をしながらぶつぶつと独り言を言い出した。
「大丈夫だ、まだ昼にはなっていないから大丈夫だ…」
手にかけてた扉を開け、すぐさま王様の王室へとシャーロックは駆け足で走り出した。
「ん~ん、よく寝たな。やっぱり二度寝は気持ちがいい」
ジョセフは二度寝を気持ちよくしていたからなのか疲れはだいぶ取れ、体も入れ替わったかのように軽くなっていた。
ジョセフの隣にはリサがおり、そのリサもやっとお目覚めのようだった。
「ふあ~、ん?ジョセフ様…おはようございます」
リサは眠そうな目をこすりながら起き上がった。
「おはよう」
ジョセフはリサに一言挨拶を済ませそのまま部屋を出ようとした。
「そういえばシャーロックというリサの弟が帰ってきてたぞ」
「えっ、シャーロックが帰って来たんですか?」
リサはとても驚いた表情で声をあげた。
「随分と疲れていたようだったから彼を部屋まで送って寝かせたよ」
「そうですか…シャーロックはお父様が元気になられたことをまだ知らないということですね」
「多分そういうことになるね。今日一日はゆっくり二人でいないか?」
「えっ?」
いきなりジョセフがそう言ったからなのかリサは慌てた様子で顔を赤くしだした。




