第14話 救世主伝説の始まり
ジョセフは初めて『パープルサンダー』という魔法を使った時から違和感を感じており、『パープルサンダー』とは本当に光属性魔法なのか気になるものだが、今は魔力を安定させられるようになるまではあの魔法は使わない方が無難だと思い使用頻度を減らすことにした。
『スパーク』や『フラッシュ』と比較したらあまりにも魔力の消耗が激しすぎるため、むやみやたらと使用すればあの時みたいに吐血して体が動かなくなることもあるかもしれないからだ。
その属性の魔法適正が無い状態で無理やり魔法を発動することなどは出来るのだろうか?ジョセフのいた世界は魔法がない代わりに科学の方が発展しているからやはり気になるものだ。
ジョセフはもしこの世界に科学を取り入れたら間違いなく魔法を必要としなくなるなんてことはありえないだろうが実現したらしたで色々と大変そうなことは分かっていた。そんなことを脳内で考えていたら、怒鳴り声が聴こえるてきた。
この街の冒険者が酒を飲んで喧嘩してるなんて日常茶飯事だけど流石にこう毎日やられると迷惑千万だ。
「ホントこの世界の奴らはすぐに剣抜いて打ち合っているけどマジでどんだけ冒険者ってのは雑頭だらけなんだよ……」
他の野次馬達は面白げに見ているが下手したら死人が出るかもしれないのに無神経にも程があった。
剣を抜いて鍔迫り合いをやっている時点でこれは喧嘩というよりは決闘に近いのだがこの二人に心高き騎士道又は武士道精神なんてものがあるとはジョセフは到底思えなかった。
決闘とか喧嘩なんてものはジョセフが日本にいた頃から嫌という程見たことあるけど酔っぱらい同士の喧嘩なんて理由を述べ、相手も承諾しているとはいえ、アルコールで判断力の鈍った人間の証言なんてあてにならない。
「阿呆が…」
「あぁんっ?今なんて言ったよ?」
オーガのような頭頂部の禿げた大男が赤くなった顔をさらに赤らめながらジョセフの方を向いた。
わざと聴こえるように言ったからジョセフが悪いのだが。
周りの野次馬達はすぐに逃げ去っていき、とばっちりを受けたくないのがまる分かりの引き方だ。
「まったく、人が悪いぜ……」
「てめえか!アホとぬかしたのは?」
「こんな真昼間から喧嘩してるからアホだと言っただけだ」
冒険者同士が喧嘩すること自体が馬鹿馬鹿しいのは本当のことだ。
「んっ?お前最近冒険者やってるジョセフとかいう男だな?女を何人も侍らして調子に乗るなよ若造が!」
「何!俺達をバカにしたのはあの新人のジョセフだったのか、このロリコン野郎が!冒険者てのはよぉ、お前のようなガキのお遊びじゃねえんだよ!」
「お前たちの言いたいことはそれだけか?」
酔っぱらいの男はジョセフが一番言われたくない「ロリコン野郎!」とジョセフに言い放つ。
「なめんじゃねえぞ…このクソガキ!」
「臭い息を吐き散らかすのはそれぐらいにしておけよ」
「むうっ!」
身長190cm以上もある禿げ頭の男が赤い顔でジョセフを睨みつけ、その臭い息を吐きながらジョセフを見下ろす。
ハリウッド映画とかに出てくるムキムキマッチョな凶悪そうな男で恐怖を感じることはない。
「俺はこの世界で二度も死にかけたんだ。あの時のことを考えれば全然大したことはない」
流石に頭にきたジョセフはパキッ、ポキッと指をならし、「ふぅん」とついうっかり鼻で笑ってしまった。
「ぶっ殺してやるぅ!」
男は太い腕を勢いよく振り下ろし、その拳がジョセフの顔面をめがけていた。
パシッ、とジョセフは男の拳を軽々と手で受け止めた。
「スローすぎて眠るかと思ったじゃあねえか」
ジョセフにとって素人の動きはまるっきり通用しない。
「一体何年喧嘩してると思っているんだ、喧嘩の相手は素人から元プロの格闘家を含め10人くらいに相手を無傷でぶちのめしているんだぞ。ぶちのめした相手をトータルで数えれば100人はいってるぞ!お前のような奴の攻撃なんて目を瞑っていても見切れるわ」
「死ねや!」
流石に煽りすぎたからなのか酔っぱらいは握っていた剣でジョセフに斬りかかった。
「光魔法『スパーク』」
「ぐぬっ」
ジョセフは光魔法『スパーク』を指先に集中し軽い威力で発動することに成功。
「本当はクエストとかで試してみたかったが殺すことを目的に試したかった訳ではないしまあいいだろう……」
「このガキっ、なめやがって!」
もう一人の酔っ払った髪の長い髭を生やした男がジョセフに殴りかかろうとした。
「光魔法『エレクトリックショック』」
「かっ…体が…痺れ…る…」
髪の長い髭を生やした男はそう言いながら黒焦げになり気絶してしまった。
「人間ってのは不思議なことに電気信号で動いているみたいだから電気を流して脳に伝わる神経を狂わせることができることもここ最近分かったのだが、やりすぎは良くねえな」
昔、人間の急所を突いてドカーンと体内から爆発させて倒すのがお約束みたいな感じのたマンガがあったが、理論的に考えればそれも電気信号とかを狂わせているのだとろう。
「貴様の魔法、蚊ほどにも効かんわぁ!」
ガクンとなった酔っぱらいは地面に倒れ込み、一瞬何が起こったのか分からずにいた。
「安心しろ、お前の手足の神経を麻痺させた。これからは真面目に生きることだ」
酔っぱらいは悔しそうに麻痺した体をゆっくりと引きずるようにして去っていった。
これも全て光属性の魔法が使えるからこそできる技であって、ジョセフに魔法適正が無かったらただ必要以上に蹂躙していたのは間違いなかっただろう。
実際止まった心臓を電気ショックで動かす術式もあり少なからず人間というものは電気が関係しているのは間違いないのだがこの世界の人間の住人達は電気信号で動いているなんて言っても絶対信じないだろう。
「そんなことはどうでもいいとして、あの野郎、誰がロリコンだよ……誰が好き好んであんな小さい少女を連れていると思っているんだ!それにしても買わなくていい恨み買っちまったなぁ。一人で街中歩くのが少し怖くなってきたよ…今度は『スパーク』で記憶でも消しとくか……できるなら……」
ジョセフ一人ならどうとでもなるのだろうが、テレサに喧嘩を売ろうものなら間違いなく半殺し程度じゃ済まないだろう。
さっき『スパーク』と『エレクトリックショック』という光属性魔法を使ったが違いはモンスター同士を戦わせるゲームで例えるなら直接攻撃をするか状態変化を加えるだけの違いしかない。
『スパーク』の使い方自体がジョセフのは特殊で内部からダメージを与えるよりも外部からダメージを与え、敵に接近するよりも高圧電流を飛ばす感じの魔法だからジョセフ以外の人間があんな使い方してたら死ぬ確率は高いだろう。『スパーク』を掌から放出するのではなく指先だけに集中することによって魔力の消費量を軽減させたりと工夫していたのだがやはり元々魔法が使える世界の人間でないからなのか使った後の反動が少しだけ残っていた。少しずつ慣れてはいるが今はあまり酷使しない方がいいのは目に見えていた。
村は炎に包まれ、村人達はゴブリンの襲撃から逃げ惑う。
最近そんな案件ばかりだ。
バトル漫画を読んでいる人間からしたらゴブリンに抵抗しろと突っ込みたいところだが、普通の人間は逃げることに精一杯なため、戦おうなんて判断力があるはずもない。
近隣の村がゴブリンに襲われる案件が数日で5件も多発しており、冒険者を派遣しようにも支払う金が無かったりと困っているようだ。
「お願いです、ゴブリン討伐をしてくれる冒険者はいないんですか?」
「そう言われましても冒険者に支払う報酬はあるんですか?」
「そっ、それは…」
受付のお姉さんに質問された村の男性は答えることができずにいた。
「その依頼、ただで引き受けよう」
「ジョッ、ジョセフ…ただで引き受けるって言ったか?」
「言ったよ、テレサ」
「しかしそれでは冒険者として生計を立てている身としては…」
「村が滅ぶかもしれないってのに金の事を気にしている場合か!」
「そうですよ!ジョセフ様の言う通りですよ!」
「テレサの言う通り、報酬が無いのはあれだけど後でそれなりの報酬は貰えるんじゃないの?」
ジンジャーは行商で身につけた話術でテレサを上手く口車に乗せようとしていた。
何事も前向きに考えているところジンジャーに対してジョセフは凄いメンタルだと思った。
「全く、好きにしろ…」
呆れかえってしまったテレサはそっぽを向きながらも賛成してくれた。
「あぁ~、貴方達はまさに救世主です」
「おいおい、おっさん。そういうのはゴブリンを討伐した後に言ってくれよ」
佐藤夏樹は苦笑いしながら男性にそう言った。
受付のお姉さんはかなり驚いた表情をしており、無報酬でクエストを受ける冒険者は前例になく、無報酬で依頼を受けることを止めようとしていたのだが今更止めても無駄だと悟ったのかジョセフ達に何も言うことはなかった。
「おっさん、無報酬でゴブリンを倒す代わりに、討伐後は食事を提供してくれるってことでいいか?」
「できる限りのことはやります…」
男性の住んでいる村はここ最近ゴブリンの被害が大きく、村を復興するためにかなりの費用を使っており、報酬を支払うことができないみたいだからせめて討伐後は食事だけでも提供してもらわねばとジョセフは思っていたがそれは食事を提供できるほどの経済力がまだ村に残っていればの話だ。
ジョセフは少し男性を困らせてしまったがテレサの言う通りジョセフ達冒険者はクエストの報酬で生活をしているため無報酬でクエストを受けるというのはかなり危険だ。
「金の代わりになるものがあれば正直金でなくてもいいと思っている」
通貨が存在しなかった時代は物々交換をしていたことをジョセフは思い出した。
ゴブリン討伐の為だけに一国の軍隊を派遣すればともテレサは提案したのだが国家に関わるレベルの案件ではないため、そんなことをしてまでゴブリンを討伐することはないだろうとリサは言っていたのだがその辺は流石異世界ファンタジーって感じがして否めなかった。
「んでおっさん、あんたの村は近いのか?」
「あっ、はい…この街から出てすぐにあります…」
男性はとても震えているみたいだ。
「これ以上この人たちのように悲しみだけが残るなんてことはあっちゃいけない!俺達がそれを何とかしなきゃいけないんだ!」
村が無くなるってことはジョセフ達が食べているパンや肉、野菜を作ってくれる人達がいなくなるという意味でもあり、それを他国から輸入するということは大変なことでもある。
そんなことは意地でも避けねばならないのだが、ジョセフは日本とは食文化の違う異世界で好き嫌いは言ってられないから好きな食べ物とか嫌いなものは無いのだ。日本にいた頃は紅茶を好んで飲んではいたのだがこの世界ではほぼ毎日のように紅茶を飲んでいるのだけれど味はやはり日本で慣れているからなのか味に関してはまあまあと言ったところだ。
男性に案内されて村に行くことにしたのだがゴブリンに襲われて全滅なんてことになってはいけないので村に出かける前にジョセフ達は作戦会議を立てることにした。
「ゴブリン討伐に関してだが、今回はゴブリンから村を守るのが主だ。それで村のみんなを守るのはリサとアイリス、マリーに頼みたい」
「あたしは別にジョセフ君達が仕留め損ねたゴブリンを魔法で倒せばいいけど佐藤夏樹君もあたしと一緒にいた方がいいんじゃない?」
「そうだな、佐藤夏樹の力量が明確に分からない以上、その方がいいな…」
「テレサとマリーはそう提案してくれているがお前はどうしたい?」
「俺はジョセフ達と一緒に戦う、こう見えて家に引きこもる前は剣道に空手、弓道だってしてたんだぜ!」
「そうか…無理だと思ったらすぐマリーのところに行け。俺自身最強じゃあないからお前の命までは守り切れないかもしれないからな」
子ども扱いするなよと言いたそうな表情でジョセフのことを見つめていた佐藤夏樹だったが、ジョセフにとって佐藤夏樹は弟みたいなものだからたかだかゴブリン討伐のために死んでほしくなどはなかったからだ。
日本に戻れないと神に宣告されたジョセフだけど、できるなら佐藤夏樹と二人で日本に無事帰りたいとも思っていた。
ジョセフがホモというわけではなくて、同じ日本人としてだ。
無報酬でゴブリン討伐の依頼を引き受けることになったのだがこのまま雑魚狩り専門で生計を立ててもいいもだろうか?しかし、誰かがゴブリンを討伐しなければ小さな村は滅んでしまう。
異世界に来てからジョセフはゴブリン以外の強敵とも戦ってみたいと思う闘争心が湧いてきている。
ゴブリン討伐に関しては報酬も少なく、ベテラン冒険者にとっては全くと言っていい程にやりがいというものが皆無に等しいため、駆け出しの冒険者が自身をつけるために依頼を受けることが多く、時と場合によっては死傷者が出るなんてことも稀ではない。そろそろジョセフとしても村の一つくらい救って、名を広めていきたいとも思っていたことわけで、これはチャンスかもしれなかった。
流石に報酬は貰えた方がいいのだろうが払えるほどの経済力がないのであれば無理に取る気はジョセフ達にはなかった。
異世界に来てからまともに活躍をしていないジョセフはそう簡単に死ぬことはないと確信をしていた。
マリーがいるのだからいざとなれば魔法で殲滅したらいいのだから。
だが、それはあくまで最終手段であって基本はチームで戦うのをジョセフは原則としている。
その理由としては、個々のスキルアップの為である。
以前に比べたらかなり戦力面も改善された方なのだがまだまだ強敵を相手に生き残れるかと言われたらそんなことはない。
この世界はアニメのようなご都合主義が罷り通る世界と違って順序よく事が上手く回るわけないからだ。
現にジョセフは何度も死にかけたことがあり、考えるだけでも世の中は残酷なものだと痛感できるものだ。
今はこうやって村からやって来た男性と一緒に村まで徒歩で向かっているのだがそう遠くはないため1日もかからずにと到着出来るとのことだ。
草原に覆われている道をもうどのくらい歩いているのだろうか?ずっと歩いているのだが疲労感が溜まる気配が全くない。
ジョセフと佐藤夏樹は自転車とか電車みたいな便利な乗り物が普及している世界の人間としてはやはり徒歩というものはきつく感じることもあるのだが、この世界に来てからクエストとかで歩いたり走ったりを繰り返し行っているからなのか慣れていたのだ。
ジョセフと佐藤夏樹の異世界生活もまだ短いものだがなんとなくそんな風に感じることが多々ある。
「おっさん、村はあとどのくらいで着くか分かるか?」
「もうそろそろ村が見えてくるころです」
佐藤夏樹は男性に尋ねるとそんな返事が返ってきた。
ジョセフは地図を見直すと確かにもうそろそろで村が見えてもいい距離のようだ。
辺りは草原しかなかったのだが地図に書いてある通り、村の名前が書かれている看板と柵が見えてきた。
「着きましたよ、ここが私達が生活している村です。」
看板には"マッシュ村へようこそ"と書かれていた。
村の周辺を見る限りはゴブリンと思わしき小さな足跡、畑の作物を食い荒らされている痕跡等が微々たるものではあったが確認できる。
「みんな、冒険者の方々がこのマッシュ村の作物を荒らしているゴブリンを討伐してくれるそうだぞ」
男性が畑や牧場で作業している村人達に声をかける。
「この村を救いに来た救世主が現れましたか」
ううっ、と村の男性が涙ぐみ、作業をしていた人々も皆一斉に手を止めながら待ちわびた様子で歓声を上げていた。
「冒険者の皆さん、自己紹介が忘れていました。私はこの村で村長をやっているスミスと申します」
ジョセフ達をマッシュ村まで誘導してくれた男性が今更ながら自己紹介を始めた。
「それで村長、ゴブリン達は大体どのくらいの時間帯に来るとか目安は分かるかな?」
「はい、ゴブリン達は日が暮れた辺りから畑を荒らしているようですのでその時間帯に待ち伏せてみてはどうでしょうか?」
「そうだな、それでは少しゴブリン達を討伐するための仕掛けを作ってもいいかな?」
「勿論構いませんよ」
村長の承諾も得ることができ、早速ジョセフ達は畑付近に仕掛けを準備した。
仕掛けの内容は単純な落とし穴だ。
落とし穴には先端の尖った棒を用意することにし、落とし穴にはまったゴブリン達をマリーの魔法で殲滅するという作戦だ。
落とし穴にはまらなかった残りのゴブリン達は当然ジョセフ達が仕留める。
村に侵入させないためにもこの作戦を失敗するわけにはいかなかった。
ジョセフが最近分かったことは佐藤夏樹は弓の腕もかなりあるとのことで佐藤夏樹には村に侵入しようとしたゴブリンを仕留めてもらうために物見やぐらでの狙撃を任せることにした。
無属性魔法に適性があるとは言え、使用できる魔法がジョセフみたいにあるわけではないためここは遠距離での戦闘が適任だと思った。
ゴブリンと言えばジョセフは少数を相手にしかしたことがなかったのだが村を襲うってことは相当な数で来ると考えていた方が妥当だと思っていいだろう。
洞窟とかでの戦闘ならまだ何とかなるのだろうが村の外は広い草原で覆われているため油断は禁物だ。
ジョセフはテレサ達にタダ働きをさせてしまっていることに申し訳なく思っているのだが、今回は接近戦はジョセフが全てやることにした。
そのくらいの落とし前を取らなければ男として失格だと思ったからだ。
テレサとジンジャー、マリーはサッカーで言うところのミッドフィルダーでジョセフが敵陣に突っ込むフォワード、佐藤夏樹、リサ、アイリスはディフェンスて感じだ。
サッカー自体ジョセフはそんなに詳しいわけではないがポジションを考えれば間違ってはいない方だ。
作戦会議の際にジョセフが前線に突っ込むことを話したらかなり怒られたがマリーはその方がいいとテレサを説得してくれたのだ。
「ジョセフ、またお前は無茶なことを考えて!」
「タダ働きを無理にさせているようなもんだぞ、そのくらい当然だ」
「だからってジョセフが一人で敵陣に一人で立ち向かうのは…」
「それならテレサも一緒に行けばいいんじゃね?」
「それいいね、佐藤夏樹案外いいこと言うじゃん!」
「ジンジャー、あんまり佐藤夏樹をおだてるなよ、これは俺がみんなに無理言って引き受けたクエストだ、落とし前つけるためにも一人で行くよ」
タダ働きでジョセフ以外の人間が負傷する必要はないのだ。
無償で働かせて従業員に怪我一つ負わせたと他の冒険者に知られたらそれこそ株が落ちてジョセフは周囲から人間失格の烙印を押されてしまうからだ。
村周辺にゴブリンがいつでも襲撃してもいいように色々な仕掛けを作り終えた後、草原に隠れてゴブリンが来るのを待ち伏せていた。
本来、ゴブリンと言うのは夜間帯に行動することが多く、朝や昼間に巣穴から出ることなんて珍しいことだそうだ。
辺りも真っ暗になり、ゴブリンの襲撃を警戒している村の人達、果たしてゴブリンと戦ってジョセフ達は生き残れるのだろうか?そんなことで頭がいっぱいであった。
「一度引き受けた依頼だ。そう簡単に死んでたまるか」
ジョセフはそんなことを考えており、村よりも少し離れた距離から何か物陰が見えた。
ゴブリンだ。薄汚い緑色の小柄の魔物だ。その数はなんと、10体なんて少ない数ではない。
少なくとも50体以上はいた。だが慌てる必要は全くない。
こんなこともあろうかと思って村周辺には落とし穴だったりと色々な仕掛けを事前に用意していたからだ。
ゴブリンは何も考えずにそのまま村の方へ小走りで向かってきた。
「よし、このまま村に直進して来い。お前達ゴブリンを待っているのは先端の尖った竹のある落とし穴だ」
最初はそれでも上手くいくだろうが2度も同じ手は食わないだろうとジョセフは考える。
ジョセフはマリーや佐藤夏樹には遠距離からの援護を頼んでいるから被害は少ないはずだ。
ゴブリンが村の一歩手前まで辿り着いたその時、一気に地面は崩れ落ち、ゴブリンは次々と落とし穴に落ち、体に鋭く尖った棒が突き刺さり、戦闘不能となっていた。
「ゴブリンを殲滅する!」
そのままジョセフはゴブリンの方へと地面を蹴り真っ直ぐに突っ込み、左手に持っていたランスでゴブリンを2~3体同時にくし刺しにした。
ジョセフはランスに突き刺さったゴブリンをそのまま地面へと薙ぎ払い、村周辺を囲っていたゴブリンが俺に気付き、こっちに向かってきた。
ジョセフの方へと急接近で向かってきたゴブリンを次々とランスで刺しては薙ぎ払いを繰り返していたのだがこれでは効率が悪すぎたのか、一向に数が減っていないとすら錯覚していた。
そう思ったジョセフはランスをゴブリンに目掛けて勢いよく投げたのだ。
ゴブリンの顔面に綺麗に突き刺さり、そのまま勢いで吹き飛び、後ろに隠れていたゴブリンに見事に命中。
その隙にジョセフは剣を二本鞘から抜き、他のゴブリンを殲滅している。
もう何体以上ゴブリンを倒していっただろうか、ジョセフはそんなことも分からずに斬り倒していた。
前方にいるゴブリンに集中しすぎていたためかいつの間にかジョセフは背後から襲われていることに気付かずすぐさま振り向いてみるとゴブリンはとっくに剣を引き抜いている状況であった。
バシュッ!と勢いよく遠距離から佐藤夏樹が放った矢が飛んできた。
「ジョセフ!後ろにも目を付けろ!」
後ろにはテレサとジンジャーがいつの間にか援護に来てくれていたのだ。
「すまない、テレサ」
「ジョセフ、テレサだけじゃなくて私もいるよ」
テレサとジンジャーにはジョセフが倒し損ねたゴブリンを討伐してほしいと頼んだのだが、どうやらジョセフ一人で全部仕留めることには納得がいかなかったみたいだ。
「それに、ジョセフ一人にゴブリン退治なんて冒険者仲間としてダメじゃん?」
「そうだったな、俺は一人で戦っているわけではなかったな。何でそんな簡単なことを考えることができなかったんだ俺は……」
ゴブリン討伐をタダで引き受けたからと言ってもジンジャー達は一応ジョセフのギルドメンバーだ。そのギルドメンバーと上手く連携を取ってこそ真価を発揮できるというわけだ。
マリーの水属性魔法『アイススピア』で遠くから接近しているゴブリン達を一斉に倒していくのが分かった。
ジョセフは炎属性の魔法は村の畑や草を燃やして被害が大きくなる可能性があるから事前に炎以外の魔法を使用してもらうようマリーに頼んでいたのだ。
佐藤夏樹の弓矢の技量に関しては本当に素晴らしいものだ。
実際佐藤夏樹がいなければジョセフは今さっきゴブリンに殺されていたことは確かだ。
ゴブリンの数も40~50以上討伐し、残りのゴブリン達の死骸が周辺にゴロゴロと転がり込んでおり、ゴブリンの死体を集め、山のようになっていた。
山のように集めたゴブリンの死体を焼却し、今までよりも大きいゴブリンが1体、こちらの方にズシリと大きな足音を立て向かってきた。
「ゴブリンの親玉が残っていたのか…」
テレサはグググっと唇を噛みしめ、剣を握っている右手をギュッと握りなおした。
「あのデカさ、俺一人で倒して見せる…」
「ジョセフ、あまり無理はするなよ」
「ありがとう、テレサ」
ジョセフはそのまま最後のゴブリンの方へと地面を蹴りながら走り、ボロボロになった剣をゴブリンの方へと投げつけた。
ジョセフが投げつけた剣をゴブリンは大きな斧で薙ぎ払い、ゴブリンの間合いに入ったジョセフは右手に持っていたもう一本の剣でゴブリンの右手を切り落とす。
右手を切り落とされたゴブリンは呻き声を上げ、左手で出血していた右腕部を押さえていた。
「ゴブリンてのは不意打ちは得意でも、されるってことには不慣れのようだな」
最後のゴブリンがこんなにも簡単に仕留められるなんて思いもしなかったのだ。異世界に来て間もない頃なんかは殺されかけてたジョセフが成長した証拠でもある。
「最後はこの魔法で仕留める。『スパーク』」
『スパーク』を纏わせた左手にバチバチと青白い光が電流が火花を散らし、ゴブリンの腹部に右ストレートを入れた。
ジョセフの右ストレートが綺麗に入ったからなのかゴブリンはそのまましゃがみ込んだ。
ゴブリンに背中を向けながらジョセフは村の方向へと戻ろうとした。
「ジョセフ、危ない!」
ゴブリンがすぐさま起き上がり、大きな体でジョセフに襲い掛かろうとした瞬間だった。
「|You are already dead《お前はとっくに死んでいるよ》」
「グルルルルぅ」
ゴブリンが低く声を唸らせながら腹部から爆発し、跡形もなく吹き飛んでいた。
「英語で一度言ってみたかったんだよな、この有名なセリフ」
何でゴブリンが後から爆発したのかと疑問に思う人もいるだろう、『スパーク』を発動した時にジョセフはゴブリンの脳に腹部を爆発させるように電気信号を送ったからだ。
「ジョセフ、あのゴブリンは何でバラバラに…」
「あれは俺の魔法で爆発させたんだよ」
「まっ、魔法で?」
ジンジャーとテレサが驚くのも無理もない話だ、ジョセフ自身魔法が使えるようになって編み出した技法であるため。
「村に戻ろう」
そう言って、ジョセフ達は村に戻り、村長達は村で帰りを待っていてくれたのだ。
「ゴブリンの討伐、一応完了しました」
「ありがとうございます、冒険者の皆さん、あなた達はこの村の救世主です!」
「冒険者として当然のことをしたまでですよ」
そのとおり、ジョセフ達は冒険者として当たり前のことをしただけだ。
「ジョセフ様、ご無事で…」
リサはジョセフに怪我がないかじっくりと確認していた。
「リサ、怪我なんてしてないよ」
「いいえ、ジョセフ様はあまりにも無自覚なところがありますので確認しなきゃ」
「ジョセフー、ゴブリンは倒したのか?」
「ああ、倒したよ。アイリス」
アイリスはすぐさまジョセフに飛び込み離れようとしなかった。
「俺がいなかったらあの時死んでたんだぜ」
鼻をこすりながら佐藤夏樹は自慢げに言う。
「そうよ、あたしが遠距離から魔法発動してなかったらこうやってみんな無事に会話することも出来てないからね」
マリーも言い出す。
ジョセフはマリーと佐藤夏樹が結局何が言いたいのかは分からなくもないがもう少し言葉を選ぶことは出来なかったのかと肩を竦めため息を吐く。
「ありがとう、佐藤夏樹、マリー」
「「どういたしまして」」
二人は息ぴったりにハモった。
「それではゴブリン討伐をしたことですので我々はここで…」
「もう、お帰りになられるのですか?」
「仕事も終わりましたので」
「報酬を支払うことは出来ませんけど今晩はここで寝泊まりをしてもらえないでしょうか?」
村長がジョセフに頼み込んだ。
「朝食も用意してくださるのでしたら」
そう答えたら村長の顔は微笑んでいた。
報酬が支払えないことは事前に分かっていたのでジョセフ達も重々承知しており、金がないのに報酬金を支払わなければゴブリンを討伐してもらえない村は他にもあるわけでこれからもそんな村があるのなら救出していきたいとジョセフは思い始めていた。




