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【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第5章 幼なじみの、その先

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第61話 五十パーセントの告白

 金曜日の降水確率は、五十パーセントだった。


 花を買った火曜日から、数字は一度も変わっていない。


 水曜日の朝も五十パーセント。


 昼休みに見ても五十パーセント。


 帰宅してから更新しても、翌日の朝になっても、金曜日の欄には灰色の雲と傘が並んでいた。


 雨が降る可能性と、降らない可能性が同じ。


 どちらへ転んでも天気予報は責められない、便利な数字だった。


 木曜日の朝。


 教室へ着き、席へ座る。


 授業が始まるまでには、まだ十分ほどあった。


 鞄からスマートフォンを取り出し、天気予報を開く。


 五十パーセント。


 変わっていない。


 画面を閉じようとしたところで、隣から声がした。


「また見てる」


 琴音がこちらを見ていた。


「何だよ」


「天気予報」


「明日の予定があるからな」


「朝から三回目だよ」


「まだ一回しか見てない」


「学校に来てからはね」


 家を出る前と、駅で電車を待っている間にも確認していた。


 琴音に見られたはずはない。


「どうして三回だと思ったんだ?」


「颯馬なら、それくらい見てそうだから」


「適当かよ」


「当たってる?」


 答えず、スマートフォンを伏せた。


 琴音が画面をのぞき込む。


「五十パーセント?」


「ああ」


「昨日も同じだったよね」


「予報が更新されたかもしれないだろ」


「更新されてた?」


「時刻は」


「数字は?」


「変わってない」


「じゃあ、見た意味あった?」


「変わってないことは分かった」


「それ、昨日から知ってたよ」


 琴音は少し笑い、机の中から教科書を出した。


 俺も一時間目の準備をする。


 教科書を机へ置いたところで、琴音の手が止まった。


「雨だったら、どうするの?」


「行くよ」


 考える前に答えていた。


 少し強い声が出たらしく、琴音が一度瞬きをする。


「中止にはしない」


「うん」


「ただ、場所は外だから、雨だと景色は見えないかもしれない」


 行き先を隠していたのに、自分から余計なことを言った。


 琴音はそこへ気づいたらしい。


「景色を見るところなんだ」


「今のは忘れろ」


「もう聞いたよ」


「場所までは分からないだろ」


「分からないけど、少し近づいた」


 琴音は小さく笑う。


 これ以上話せば、公園まで当てられそうだった。


「雨でも行く。それだけ覚えておけばいい」


「分かった」


 琴音は教科書を開こうとして、もう一度こちらを見る。


「よかった」


「何が?」


「雨なら中止って言われるのかと思ってたから」


「一度決めたのに、天気だけで変えないよ」


「そっか」


 琴音が前を向く。


 その口元が少し緩んでいた。


 たとえ雨でも、琴音は来る。


 あとは俺が言うだけだった。


     ◇


 放課後にも予報を確認した。


 五十パーセント。


 帰りの電車でも見た。


 やはり五十パーセントだった。


 家へ着き、自分の部屋へ入る。


 制服から着替え、机へ向かった。


 紙袋に入れた花は、店員に教えられたとおり、家にある細い花瓶へ移してある。母さんには使う理由を聞かれたが、学校へ持っていくとは答えなかった。


 窓の外は、既に薄暗い。


 空には雲が広がっていた。


 机の上へスマートフォンを置く。


 天気予報の表示は、まだ変わらない。


 明日の放課後だけ晴れてくれればいい。


 昼まで雨でも構わない。


 展望公園へ着くころにやんで、雲の間から少し夕日が見えれば十分だった。


 そこまで都合よく天気が変わるわけがない。


 分かっていても、降水確率の数字から目が離れなかった。


 数学の問題集を開く。


 一問目を解く。


 途中式を書き、答えを出す。


 スマートフォンを確認する。


 五十パーセント。


 二問目を解く。


 もう一度見る。


 五十パーセント。


 天気予報には、問題集のような解き方がなかった。


 何度見ても、俺にできることはない。


 問題集の横に置いていたティッシュ箱へ手を伸ばす。


 一枚取る。


 端をつまんだところで、手が止まった。


 別に、作るつもりはなかった。


 ただ、何もしないまま天気予報を見続けるよりはましな気がした。


 ティッシュを丸める。


 もう一枚取り出し、その上からかぶせた。


 輪ゴムを探す。


 机の引き出しには見当たらない。筆箱にもない。


 台所へ下り、食品用の輪ゴムを一つ持ってくる。


 丸めた部分の下へ巻きつける。


 形だけは、てるてる坊主になった。


 窓際で持ち上げてみる。


 頭が少し大きい。


 身体は右へ傾いている。


 天気を晴れにするどころか、自分が雨宿りを必要としているように見えた。


 顔を描こうか迷い、やめた。


 顔まで描けば、本気で作ったことになる。


 輪ゴムまで探してきた時点で、十分本気だった。


 糸をつけ、カーテンレールへ吊るす。


 てるてる坊主は窓の方を向かず、斜めに傾いたまま俺の机を見下ろした。


 作った本人と同じで、自信がなさそうだった。


「颯馬、シャツ置いておくわね」


 扉が開いた。


 振り向く。


 母さんが洗濯を終えた制服のシャツを持って立っていた。


 窓際に吊るされた物を見て、足を止める。


 数秒、何も言わない。


「何」


「見ても分からなかったから聞くけど」


 母さんがてるてる坊主を指す。


「あれ、何?」


「見れば分かるだろ」


「失敗したクラゲかと思った」


「てるてる坊主」


「颯馬が作ったの?」


「ほかに誰がいるんだよ」


 母さんは窓際へ近づいた。


 てるてる坊主を下から眺める。


 触ろうと手を伸ばしたため、椅子から立った。


「何してるんだ」


「少し傾いてるから、直そうと思って」


「触らなくていい」


「でも、これだと晴れる方向が分からないんじゃない?」


「向きは関係ないだろ」


「顔もないし」


「それも関係ない」


 母さんは手を下ろし、今度は机の上を見る。


 スマートフォンには、天気予報が表示されたままだった。


 金曜日の欄と、五十パーセントの数字。


「明日、琴音ちゃんと出かけるんだっけ」


「何で知ってる」


「琴音ちゃんから聞いたわよ」


「いつ?」


「昨日、夕飯はどうするかまだ分からないって連絡が来たの」


 琴音は俺より先に、夕食の予定を母さんへ伝えていたらしい。


 俺のところへ来るつもりなら、間違ってはいない。


「それで、てるてる坊主なのね」


「別に、それだけじゃない」


「明日以外に晴れてほしい日があるの?」


 答えられなかった。


 母さんが窓際のてるてる坊主を見る。


 次に天気予報。


 最後に俺の顔へ視線を戻した。


「若いわね」


「何が」


「天気を変えようとしてるところ」


「変わるとは思ってない」


「じゃあ、外しておく?」


「それは駄目」


 即答していた。


 母さんの口元が上がる。


「変わると思ってないんじゃなかった?」


「作ったものを外す必要はないだろ」


「そうね。晴れるといいわね」


「もういいから、シャツを置いて出ていってくれ」


「はいはい」


 母さんはシャツを机へ置く。


 部屋を出る直前、もう一度てるてる坊主を見た。


「顔、描いた方がかわいいと思うけど」


「描かない」


「琴音ちゃんには見せないの?」


「何で見せるんだよ」


 母さんはそれ以上言わず、扉を閉めた。


 廊下から足音が遠ざかる。


 窓際を見る。


 てるてる坊主は、相変わらず頼りない角度でぶら下がっていた。


 母さんに見られた。


 それだけで外したくなったが、手は動かなかった。


 椅子へ座り直す。


 問題集へ戻ろうとしたところで、スマートフォンが振動した。


 琴音からメッセージが届いている。


 開く。


 写真が一枚添付されていた。


 琴音の部屋らしい窓際に、小さなてるてる坊主が吊るされている。


 白い布で作られ、丸い目と笑った口まで描かれていた。


 俺のものより、明らかに出来がいい。


『晴れるようにしておいたよ』


 返事を入力する前に、もう一件届く。


『颯馬も作った?』


 窓際を見る。


 顔のないてるてる坊主が、ゆっくり回っている。


『作ってない』


 入力した。


 送信ボタンの上で指が止まる。


 文章を消す。


『何でそう思った』


 送る。


 すぐに既読がついた。


『天気予報を何回も見てたから』


『見るのと作るのは別だろ』


『作ったんだ』


 質問ではなくなっていた。


 否定すれば済む。


 琴音には見えない。


 母さん以外、誰も知らない。


 そう思いながら、窓際のてるてる坊主を見る。


『一つだけ』


 送信した。


 返事はすぐに来た。


『見せて』


 立ち上がり、窓際へ近づく。


 正面からスマートフォンを向けたが、身体が傾いて見える。


 糸の位置を直す。


 さっき母さんが触ろうとしたときは止めたのに、自分では角度を整えていた。


 一枚撮る。


 確認する。


 顔がないせいで、思っていた以上に不気味だった。


 撮り直しても、顔が急に生えるわけではない。


 そのまま送る。


 少しして、琴音から返事が来た。


『顔がないね』


『晴れれば問題ない』


『ちょっと怖い』


『送れって言ったのはそっちだろ』


『颯馬が作ったと思うと、かわいく見えるよ』


 指が止まった。


 かわいいのは、てるてる坊主の話だ。


 ほかの意味はない。


 それでも、すぐには返せなかった。


 窓際のてるてる坊主を見る。


 さっきまで不格好にぶら下がっていたくせに、のっぺらぼうが少し誇らしげな顔になった気がする。


『明日、晴れるといいね』


 琴音から続けて届く。


『そうだな』


 返事を送った。


 画面を閉じようとして、天気予報をもう一度開く。


 金曜日の降水確率は、四十パーセントへ下がっていた。


 十パーセント。


 てるてる坊主二つ分の効果として、大きいのか小さいのかは分からない。


 窓際では、顔のないてるてる坊主がゆっくり揺れている。


 明日の放課後まで、あと一日だった。

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