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【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第5章 幼なじみの、その先

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第58話 恋愛は立地が大事

 告白する場所を探す。


 そう決めたものの、何を基準に選べばいいのかまでは考えていなかった。


 人が少ない方がいい。


 誰かに聞かれる心配がなく、琴音が落ち着いて返事をできる場所。


 できれば景色もいい。


 駅から遠すぎず、帰りが遅くならないこと。


 条件を書き出してみると、告白場所ではなく引っ越し先でも探しているようになった。


     ◇


 翌日の土曜日。


 昼食を終えてから家を出た。


 琴音とは午後三時から一緒に勉強する予定になっている。それまでには戻れるはずだ。


 最初に向かったのは、駅から近いまちかど公園だった。


 春には桜も咲く。ベンチもある。


 実際に座ってみると、目の前では小学生がボールを蹴っていた。遊具の近くには、幼い子どもを連れた家族もいる。


 俺と琴音が二人でいても、不自然ではない場所だった。


 ただ、好きだと言った直後にボールが転がってきたら、たぶん集中できない。


 公園はなしだ。


 五分ほどで公園を出た。


 次に川沿いへ向かう。


 遊歩道には犬を連れた人が何人かいた。学校から帰る時間には、自転車で通る生徒も多い。


 歩きながら告白することも考えた。


 琴音が返事を考えている間も、二人で並んで歩き続けることになる。


 断られたら、そのあとも同じ道を歩かなければならない。


 そこまで考えたところで、足が止まった。


 断られる可能性を、なるべく考えないようにしていた。


 琴音は俺と同じ大学へ行きたいと言った。


 隣の席になったことを喜んだ。


 俺を見る回数まで数えている。


 それでも、好きだと言われたわけではない。


 幼なじみとして近くにいたいだけかもしれない。


 告白したあとも、今までどおりでいられる保証はなかった。


 考え始めると、公園も川沿いも関係なくなってくる。


 どこで言っても、返事をするのは琴音だ。


 場所を選べば断られなくなるわけでもない。


 分かっているのに、スマートフォンの地図を開いた。


 駅から少し離れた場所に、小さな展望公園がある。


 以前、近くまで来たことはあったが、公園へ入ったことはない。


 琴音との勉強までは、まだ一時間以上あった。


 地図に表示された経路へ従い、川沿いを離れた。


     ◇


 展望公園は、住宅地の奥にある小さな山を上った先にあった。


 公園と呼ぶには小さい。


 遊具はなく、木々の間にベンチが三つ並んでいる。奥には低い柵があり、その向こうに街が広がっていた。


 駅前のビルと、住宅地の屋根。その先には、山の稜線まで見える。


 並んだ住宅の中には、俺たちの家もあるはずだった。


 ここなら学校帰りでも来られる。


 駅から歩いて二十分ほど。琴音が疲れるほどの距離でもない。


 放課後すぐに学校を出れば、日が沈む前に着く。


 空いていたベンチへ座る。


 右隣に琴音がいるところを想像した。


 街を見ている琴音へ、話があると声をかける。


 琴音が振り返る。


 好きだ。


 頭の中なら、そこまで言えた。


 そのあとの言葉も考える。


 幼なじみだからではなく、琴音だから一緒にいたい。


 大学へ進んだあとも、その先も、近くにいたい。


 そこまで考えたところで、自分でも重い気がしてきた。


 一度の告白で、大学卒業後まで決める必要はない。


「琴音が好きだ」


 声に出してみた。


 思っていたより小さな声だった。


 周囲を確認する。


 誰もいない。


 安心した直後、人の気配がなかったから練習できただけだと気づいた。


 琴音が隣にいれば、同じようには言えない。


 ベンチから立ち上がり、柵の近くへ移動した。


 次の金曜日の日没は、午後六時を少し過ぎたころだった。


 学校を出て、そのまま来れば間に合う。


 条件は悪くない。


 むしろ、完璧だ。


 自分が天才なのではないかと思った。


 勝手に上がる口角を指で押さえながら気を抜くなと自分に言い聞かせる。


 スマートフォンへ場所を保存する。


 第一候補が決まった。


 あとは、琴音を誘うだけだ。


     ◇


 来た道を戻り、駅前まで下りた。


 琴音との勉強までは、まだ四十分ほどある。


 予定より早く決まった。


 このまま帰れば、何事もなかったように三時から琴音と問題集を開ける。


 告白する場所を探していたことも、誰もいない公園で練習したことも、琴音は知らない。


 そう考えていたところで、文具店の扉が開いた。


 琴音が出てくる。


 片手に小さな買い物袋を下げていた。


 琴音もこちらへ気づき、足を止める。


「颯馬?」


 心臓が大きく動いた。


 展望公園で名前を呼ばれたわけではない。


 練習を聞かれたはずもない。


 それでも、直前まで琴音のことばかり考えていたため、見つかったという感覚だけが先に来た。


「何でここにいるんだ」


 問い返す声が、少し上ずった。


「買い物。颯馬こそ」


「俺は……歩いてた」


「散歩?」


「そんなところ」


 琴音が俺の後ろへ視線を向ける。


「そっち、家と反対だよね」


「知ってる」


「何かあった?」


「何もない」


 答えるのが早すぎた。


 琴音がこちらを見る。


 買い物袋が小さく揺れ、持ち手を握り直す。


「何もないのに行ったの?」


「行きたい場所があったんだよ」


「どこ?」


「それは」


 展望公園。


 言うだけなら問題はない。


 しかし場所を伝えれば、何をしに行ったのかも聞かれる。


 下見だと答えれば、何の下見なのかまで続く。


 琴音を前にすると、用意していなかった質問ばかり増えていく。


「今は言えない」


「私に言えない場所?」


 琴音の声が少しだけ低くなった。


「違う。そういう意味じゃない」


「じゃあ、誰かと行くの?」


 また答えが遅れた。


 告白当日は、琴音と行く。


 今ここでそう言うのは、誘うのと同じだ。


 まだ金曜日の予定も聞いていない。


「そのつもりだけど」


「誰と?」


 琴音はこちらを見たまま、返事を待っている。


 琴音には関係ない。


 そう言えば、この話は終わる。


「琴音には……」


「うん」


 関係ない、と続けかけた。


 琴音の指が、買い物袋の持ち手を握る。


「まだ言えない」


 別の言葉へ変えた。


 琴音が一度瞬きをする。


「まだ?」


「ああ」


「いつなら言えるの?」


「近いうち」


「誰と行くかも?」


「それも」


「私の知ってる人?」


「知ってる」


 琴音の眉がわずかに寄る。


 順番に答えるほど、余計に怪しくなっている。


「誰?」


「今は言えないって言っただろ」


「言えないことばっかりだね」


「悪い」


「謝るくらいなら教えてくれてもいいのに」


 琴音が前を向く。


 帰る方向へ歩き出したため、隣へ並んだ。


 怒ってはいないように見える。


 ただ、歩く速度が普段より少し速い。


「すねたのか?」


「すねてないよ」


「なら、もう少しゆっくり歩け」


「三時から勉強するんでしょ。早く帰らないと」


 時計を見る。


 まだ十分に間に合う。


「さっきの場所は、琴音にも関係ある」


 足を止めないまま言った。


 琴音の歩幅が小さくなる。


「私に?」


「ああ」


「どういうふうに?」


「それを言ったら、隠した意味がなくなる」


「じゃあ、誰かと行くっていうのは?」


「その相手も、琴音に関係ある」


「私が知ってる人なんだよね」


「かなり知ってると思う」


 琴音がこちらを見る。


 目が合うと、さっきまで寄っていた眉が戻った。


「悪いこと?」


「違う」


「いいこと?」


「それは、俺だけでは決められない」


「また分からない答え」


「俺も今は、それ以上言えないんだよ」


「今は?」


「近いうちには言う」


 どこまで伝わったのか分からない。


 琴音はしばらくこちらを見たあと、前へ顔を戻した。


「じゃあ、聞かないでおく」


「助かる」


「その代わり、楽しみにしてもいい?」


 今度は俺の足が止まりかけた。


「内容も知らないだろ」


「知らないから楽しみにするの」


「悪い話かもしれないぞ」


「違うって言ったよ」


 自分で逃げ道を塞いでいた。


「少しくらいなら」


「どのくらい?」


「決めなくていいだろ」


「じゃあ、たくさん楽しみにする」


「増やすなよ」


「楽しみにする量は、私が決めてもいいでしょ」


 琴音の歩く速度が、いつもの速さへ戻る。


 自分から余計なことを言った気がする。


 それでも、先ほどまでよりは話しやすかった。


「何を買ったんだ?」


「ノートとペン。颯馬の分もあるよ」


「俺の?」


「一緒に勉強すると、途中で貸してって言うでしょ」


「最近は言ってない」


「春休みに二回言ったよ」


「数えてたのか」


「颯馬のことだからね」


 答えになっているようで、なっていない。


 琴音は買い物袋から、新しいペンを一本取り出した。


「はい」


「今渡すのか?」


「あとで渡すのを忘れそうだから」


「分かった」


 ペンを受け取る。


 鞄へ入れようとして、やめた。


 このあとすぐに使う。手に持ったままでも問題はない。


 告白場所を決めた帰りに、琴音から渡されたペン。


 もちろん、琴音に特別な意味はない。


 それでも、少し前まで頭の中だけにあった金曜日へ、現実のものが一つ加わった気がした。


「颯馬」


「何」


「近いうちって、いつ?」


「聞かないんじゃなかったのか」


「場所と相手は聞かない。いつかだけ」


「それも今は言えない」


「今日?」


「違う」


「明日?」


「違う」


「月曜日?」


「一日ずつ聞くつもりか?」


「金曜日までには当たりそう」


 金曜日。


 琴音は深い意味もなく口にしたのかもしれない。


 それだけで、ペンを持つ指へ力が入った。


「そのうち俺から言う」


「分かった」


 琴音は素直に頷いた。


 数歩進み、こちらを見上げる。


「楽しみにしてるね」


「だから、期待しすぎるなよ」


「颯馬がそんな顔をするくらいのことなんでしょ?」


「どんな顔だよ」


「見つかったら困るものを隠してる顔」


 展望公園も、下見も、告白の練習も知られていない。


 それでも、隠し事をしていることだけは完全にばれていた。


「変なことじゃないからな」


「うん」


「何で笑うんだよ」


「変なことじゃないって、自分から言うところ」


 琴音は楽しそうに歩いている。


 こちらは駅前で会っただけなのに、下見を見つかったときより疲れていた。


 展望公園の場所は知られていない。


 金曜日の予定も、まだ誘っていない。


 それでも琴音は、何かがあることだけは待ち始めていた。


 次は、待たせる日を伝えなければならなかった。

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