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【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第4章 春からは

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第49話 どこまで幼なじみ?

「佐々木」


 放課後、鞄へ教科書を入れていた佐々木の手が止まった。


「何だ?」


「幼なじみに渡す物と、友達に渡す物は違うのか」


 佐々木は顔を上げた。


「何の話?」


「一般論」


「バレンタインの三日後に聞く一般論があるか?」


「いいから答えろ」


 佐々木は鞄を閉じ、椅子へ座り直した。


「琴音さんの話だろ」


「声が大きい」


「まだ教室に人がいるから、場所を変えるか」


 妙なところで気が回る。


 二人で廊下へ出て、使われていない階段の踊り場まで移動した。


「それで?」


「友達と幼なじみで、渡す物を変えることはあるか」


「あるだろ」


「普通に?」


「幼なじみは普通の友達と違うからな」


「なら、それだけかもしれない」


「何が?」


 聞き返され、言葉が止まる。


 幼なじみだから箱にした。


 幼なじみだから学校で渡せなかった。


 幼なじみだから鍵を使わず、玄関で渡した。


 並べると、途中から理由になっていない気がする。


「俺は袋だった」


「ああ」


「高瀬は箱」


「知ってるだろ」


「カードも入ってた?」


 答えずにいると、佐々木の眉が上がった。


「入ってたんだな」


「感謝だけだ」


「何て?」


「言う必要あるか?」


「相談するなら情報は全部出せ」


「いつもありがとう、これからもよろしく」


 声に出すと、書かれていたときより定型文に聞こえた。


 佐々木はすぐに答えなかった。


「普通だな」


「ああ」


「普通すぎる」


「どっちだよ」


「カードだけなら、幼なじみでも友達でも書ける」


「だろ」


 安心したような、何かを取り上げられたような気分になる。


「でも、どこでもらった?」


「家」


「琴音さんが上がってきたのか」


「玄関で渡して帰った」


「学校では?」


「もらってない」


「高瀬の家の鍵を持ってるよな?」


「ああ」


「なのにチャイムを鳴らした?」


「今日は使わないって言ってた」


 佐々木が黙る。


「何だよ」


「それを幼なじみだからで済ませたいなら、済ませればいいと思う」


「ほかに何がある」


「俺に聞く時点で、高瀬も分かってるんじゃないか?」


「分からないから聞いてる」


「じゃあ聞くけど」


 佐々木は階段の手すりへ背を預けた。


「琴音さんの好きな相手が高瀬だったら、困るのか?」


 すぐに答えられなかった。


 困るかどうかを考えたことがない。


 違う。


 考えないようにしていた。


「今の関係が変わる」


「それは告白されてから考えろよ」


「告白されると決まってない」


「なら、今は何に困ってるんだ」


 琴音の好きな相手が自分だった場合ではない。


 自分でなかった場合を考える。


 瀬尾でも、西園寺でも、知らない誰かでもいい。


 琴音がその相手へ、昨日の箱より特別な物を渡していたら。


 その想像が一番引っかかった。


「自分じゃなかったら、安心するのか?」


 佐々木が続ける。


「それも分からない」


「今の顔だと、安心はしなさそうだけどな」


「顔で決めるな」


「高瀬が普段、琴音さんへやってることだろ」


「琴音は分かりやすい」


「お前も大概だぞ」


 佐々木は息を吐いた。


「別に今すぐ好きかどうか決めなくてもいいんじゃないか」


「何を」


「高瀬の方。琴音さんの気持ちを考える前に、自分がどう思ってるかを考えた方がいいだろ」


「偉そうだな」


「相談された側だからな」


「相談とは言ってない」


「一般論を聞かれただけだったな」


 佐々木の口元が上がる。


「ちなみに、箱は残してる?」


「捨ててない」


「カードも?」


「入ってる」


「保存してるじゃないか」


「捨てる理由がないだけだ」


「チョコの包装を残す男子は、だいたいそう言う」


「お前はどうした」


「俺も袋は残してる」


「人のことを言えないだろ」


「琴音さんから初めてもらった友チョコだぞ。記念品に決まってる」


 佐々木は胸を張った。


 自分の物が友チョコだと分かっていて、それでも喜んでいる。


「俺のは何なんだ」


「それを俺へ聞くなよ」


「さっきまで答えてただろ」


「俺に分かるのは、袋とは違ったことだけ」


「役に立たないな」


「高瀬の幼なじみだろ。自分で考えろ」


 琴音と同じことを言われた。


     ◇


 家へ帰ると、玄関に琴音の靴があった。


 踵まで壁際へ揃えられ、俺の靴を置く場所が空いている。


 リビングからテレビの音が聞こえた。


 数日前までなら、それだけで終わっていた。


 琴音が鍵を使って先に入っていることも、俺の帰りを待ちながらソファで過ごしていることも、既に日常になっていた。


「おかえり」


 リビングから琴音の声がした。


 靴を脱ごうとして、手が止まる。


 琴音の好きな相手が自分だったら、困るのか。


「颯馬?」


 琴音が廊下を覗いた。


 灰色のパーカーに、黒いロングスカート。髪は低い位置で一つにまとめている。


 家でだらだら過ごすだけの格好だ。


 何度も見ている。


 それなのに、どこを見ればいいのか分からなくなった。


「何で黙ってるの?」


「別に」


「ただいまは?」


「それは琴音が言う方だろ」


「今日は先に帰ったから、もう言ったよ」


「誰もいなかっただろ」


「でも言った」


 琴音は不思議そうに首を傾けた。


「おかえり、言って」


 今までと同じ要求だった。


 同じはずなのに、返事だけがすぐに出ない。


「颯馬?」


「おかえり」


 ようやく返す。


 琴音の口元が緩んだ。


「うん。ただいま」


「もう言ったんじゃなかったのか」


「颯馬がいなかったから、もう一回」


 琴音はリビングへ戻っていく。


 後を追うと、ソファの隣には俺の分のクッションが置かれていた。


「早く座って」


「何で琴音が決めるんだよ」


「一緒に見たい番組が始まるから」


 琴音が自分の隣を軽く叩く。


 昨日までなら、そのまま座っていた。


 今日は、空いている場所が妙に近く見える。


「そこしかないのか」


「いつもここでしょ」


 琴音の眉が寄る。


「今日、変だよ」


「変じゃない」


「じゃあ座って」


 断る理由も見つからず、隣へ腰を下ろす。


 琴音はすぐテレビへ視線を戻した。


 肩が触れるほどではない。


 それでも、少し動けば触れる距離だった。


 今までも同じだったはずだ。


 変わったのは距離ではない。


 その距離に、俺が初めて別の意味を探し始めたことだった。

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