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【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第4章 春からは

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第41話 母親のいる街

 琴音のスマートフォンに母親から連絡が届いたのは、大学近くの定食屋で昼を食べているときだった。


 画面を確認した琴音の箸が止まる。


「仕事、終わったって」


「そうか」


「駅前の喫茶店まで来られるみたい」


「会うんだろ」


「颯馬も?」


 琴音はスマートフォンを持ったまま、こちらを見ている。


「俺だけ先に帰る方が変だろ」


「帰りの電車は一人でも乗れるよ」


「そこまでして帰る理由がない」


「じゃあ、一緒に会ってくれる?」


 聞き直した声は、普段より少し小さかった。


「ああ」


 琴音の眉間から力が抜ける。


 すぐに返信を打ち始めたが、途中で指が止まった。


「颯馬がいること、まだ言ってない」


「大学へ一緒に来る人がいるとは送ったんだろ」


「うん。でも、名前は書いてない」


「なら今書け」


「幼なじみって?」


「他に何て説明するんだよ」


 琴音は唇を結び、画面へ視線を落とした。


 何文字か入力しては消し、また入力する。


「何を迷ってるんだ」


「どう書けばいいかなと思って」


「高瀬颯馬と一緒です、でいいだろ」


「お母さん、颯馬の名前は知ってるよ」


「なら、なおさら説明はいらない」


「今もよく会ってることは知らないけど」


 金曜日の夕飯が今も続いていること。


 金曜日以外にも高瀬家へ来ていること。


 高瀬家の鍵を持っていること。


 琴音の母親が知っているのは、昔の俺たちだけらしい。


「聞かれたら答えればいいだろ」


「颯馬も答えてね」


「琴音の母親だぞ」


「私の話をするんだから、颯馬にも関係あるよ」


「勝手に話題へ入れるな」


 琴音の口元がわずかに緩んだ。


「もう入ってる」


 何を送ったのか見せないまま、琴音はメッセージを送信した。


     ◇


 喫茶店は駅前の商業施設に入っていた。


 琴音は入口の前で一度立ち止まり、ガラス越しに店内を確認する。


「あそこ」


 奥の席に、琴音と似た栗色の髪の人が座っていた。目元は琴音と違い、全てを見透かすような鋭さをしていた。


 こちらに気づくと席を立つ。


 琴音は歩き出したが、途中で歩幅を狭めた。その分だけ俺が隣へ追いつく。


「琴音」


「お母さん」


 母親は琴音の髪や服装を確かめるように一度見てから、こちらへ顔を向けた。


「高瀬颯馬君?」


「はい。はじめまして」


「はじめまして。琴音の母です。急に呼んでごめんなさい」


「俺は別に」


「颯馬」


 琴音が小さな声で止める。


「何だよ」


「別に、じゃなくて」


「急でも困ってない」


 言い直すと、琴音の母親が口元を緩めた。


「琴音から聞いていたとおりね」


「何を聞いてたんですか」


「思ったことをそのまま言うところ」


「悪く言われてないか?」


「悪くは言ってないよ」


 琴音は先に席へ座った。


 四人掛けの席で、母親の向かいに琴音、その隣に俺が座る。


「大学はどうだった?」


 注文を終えると、母親が尋ねた。


「見たい学部の建物は見られたよ。図書館も外からだけど」


 琴音は鞄から構内図を取り出す。


 建物の間を歩く時間や、駅までの距離が書き込まれていた。


「颯馬が時間を気にするから、全部測った」


「琴音が毎日通うかもしれないんだろ」


「颯馬君は大学より、駅と食堂を見ていたの?」


「生活するなら必要なので」


「スーパーも探してた」


「夕飯を作るなら店は必要だろ」


 母親の視線が、俺から琴音へ移る。


「琴音、料理をするようになったの?」


「少し。颯馬に教えてもらってる」


「昔は包丁を持ちたがらなかったのに」


「小学生の頃でしょ」


「人参も残してたわね」


「今は残さないよ」


「先に食べるけどな」


 琴音がこちらを見た。


「颯馬」


「本当だろ」


「今日の話じゃないでしょ」


 琴音の頬がわずかに赤くなっている。


 母親は懐かしそうに目元を緩めた。


「今も高瀬家で御飯を食べることがあるの?」


「あるよ」


 琴音の返事は早かった。


「金曜日は、ほとんど毎週」


「今も続いていたのね」


「金曜日以外も行くけど」


 そこまで付け足す必要はない。


 琴音は構内図の角を揃えながら、口元には小さな笑みを残している。


「颯馬君のお母さんは、お元気?」


「はい。勤務は変わってないです」


「今も市民病院?」


「そうです」


「ずっとご挨拶できていなかったわね」


 母親は琴音へ視線を戻した。


「こちらへ来るとき、高瀬家にも一度伺っていいかしら」


「うちに?」


「琴音が今もお世話になっているなら、ご挨拶くらいしたいの」


「母さんは気にしないと思います」


「気にするかではなくて、私がしたいの」


 琴音に止められる前に言われた。


「来月、こちらへ行く予定があるの。そのときでもいい?」


「お父さんに会う予定?」


「それも含めて、これから相談するつもり」


 琴音は俺を見る。


「颯馬、その日いる?」


「日程も決まってないだろ」


「決まったら、先に言うから」


「俺の家なんだから、予定がなければいる」


「予定、入れないでね」


 琴音の口角が上がった。


 俺の返事を承諾として受け取ったらしい。


「琴音。まずはお父さんと相談してからよ」


「分かってる」


 琴音はスマートフォンへ予定を入れようとして、鞄を開いた。


 内ポケットのファスナーを下ろす。


 紺色のキーホルダーが、鞄の外へ少しだけ出た。


 母親の視線がそこへ止まる。


「琴音」


「何?」


「その鍵、家の物とは違うわよね」


 琴音の指が、開きかけたファスナーの上で止まった。


 口元にあった笑みも、そこで止まった。

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