↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第3章 幼なじみと冬休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/65

第34話 幼なじみとおみくじ

「大吉」


 琴音は、おみくじの一番上だけをこちらへ向けた。


 白い紙の中央に書かれた二文字は、離れていても読める。その下へ視線を落とそうとすると、琴音の親指が紙の右側を隠した。


「見せるんじゃないのか」


「大吉は見せたよ」


「下は?」


「颯馬も引いてから」


 琴音は紙を半分に折り、自分のコートの前で持った。


 俺も筒を振る。出てきた番号を係の人へ告げ、受け取った紙を開いた。


「何だった?」


「吉」


「見せて」


「自分は隠しただろ」


「大吉だから、先に見せたよ」


「上だけな」


 母さんと琴音の父親は、少し離れた場所で互いのおみくじを見比べている。母さんは小吉、父親は末吉らしい。


 俺は自分の紙へ目を戻した。


 願望は、遅けれど叶う。学問は、油断せず励め。失せ物は、近くにあり。旅行は、急ぐべからず。


 恋愛欄には短く書かれていた。


『近き縁を粗末にするな』


 読み終える前に、琴音が横から覗き込んでくる。


 反射的に紙を閉じた。


「今、隠した」


「見せるとは言ってない」


「私の真似?」


「条件は同じだろ」


「私は大吉だよ」


「大吉なら全部見せればいい」


「大吉でも、見せたくないところはあるの」


 琴音は折った紙を胸元へ引き寄せる。


「恋愛?」


 尋ねると、琴音の指が止まった。


 好きな人がいる。


 本人にはまだ伝えていない。


 その話を聞いてから、金曜日以外にも会うようになった。文化祭では手をつなぎ、クリスマスには二人だけで贈り物を交換した。


 琴音の好きな相手について、新しく知ったことは何もない。


 聞こうとしたことはある。


 聞かなくていい理由なら、そのたびに見つかった。


「よく分かったね」


「項目の並びで分かる」


「見たことあるんだ」


「去年も引いたからな」


「去年の恋愛、何て書いてあった?」


「覚えてない」


「末吉だったことは覚えてるのに?」


「全体の結果と細かい文は別だろ」


「今年のは覚える?」


「分からない」


 既に一度読んだだけで内容は残っている。


 近き縁。


 その言葉を誰に当てはめるかまでは、書かれていなかった。


「琴音のは何て書いてあった」


「言わない」


「好きな人に関係あるから?」


 口にしてから、聞き方を間違えたと思った。


 琴音は親指を動かさない。


「そうだったら、どうする?」


「どうもしない」


「なら聞かなくていいでしょ」


 琴音は俺の返事を待たず、おみくじを結ぶ場所へ向かった。


 持ち帰るのかと思っていたため、少し遅れて後を追う。


「大吉は持って帰るんじゃないのか」


「決まりじゃないよ」


「せっかく引いたのに」


「ここに置いていく」


「見せたくないから?」


 琴音は返事をせず、空いている場所を探した。


 低い位置は既に紙で埋まっている。少し背伸びをして上の細い縄へ手を伸ばすが、あと少し届かない。


「貸せ」


「何を?」


「結ぶんだろ」


「自分でできる」


「届いてない」


「もう少しだから」


 再び背伸びをする。白いコートの裾が上がり、靴の踵が地面から離れた。


 俺は琴音の手からおみくじを取らず、縄の低い部分を少し引き下げた。


「これなら届くだろ」


「最初からそうして」


「自分でできるって言ったのは琴音だ」


 琴音は紙を細く折り、縄へ結ぶ。一度では緩く、風に揺れてほどけそうになった。


「逆側を通せ」


「今やってる」


「そこじゃない」


 近づいて指そうとすると、琴音の手が止まる。


 俺も動きを止めた。


 クリスマスのあとから、こういう距離に互いが気づくようになった。


 以前なら、そのまま手を出していたかもしれない。今は指先が触れるより前に、どちらも一度考える。


 琴音は自分で紙の端を通し、今度は固く結んだ。


「できた」


「ああ」


 俺が縄から手を離す。


 大吉の紙が風を受けても、結び目はほどけなかった。


「颯馬は?」


「持って帰る」


「何で?」


「結ぶ必要がないから」


「願いが叶ってほしくないの?」


「そういう決まりでもないだろ」


「私の隣、空いてるよ」


 琴音が自分のおみくじの横を指した。


「大吉の隣に吉を結ぶのか」


「順番は関係ないよ」


「持って帰るって言っただろ」


「見せたくないところがあるから?」


 さっきの問いを返された。


 母さんたちは、まだ別の場所で話している。こちらを見てはいない。


 紙をもう一度開く。


 恋愛欄が目に入り、すぐに閉じた。


 持ち帰れば、机の引き出しにでも入れることになる。その方が、後から何度も見る気がした。


「結ぶ」


「うん」


 琴音が縄を押さえる。


 俺は大吉の隣へ吉を結んだ。


 二枚の紙は、同じ方向へ風に揺れる。


「これなら忘れないね」


「置いていったら見えないだろ」


「隣に何を結んだかは覚えてる」


 琴音は自分の大吉を見上げた。


「颯馬も覚えてて」


「何を」


「私が大吉だったこと」


「それくらいは覚えてる」


「恋愛のところも?」


「見てない」


「見せてないからね」


 琴音は満足したように縄から離れた。


 母さんたちと合流すると、琴音の父親がおみくじの結果を尋ねた。


「琴音は大吉」


 俺が答える。


「そうか。新年から縁起がいいな」


「颯馬は吉」


 今度は琴音が答えた。


「二人とも悪くないね」


 母さんが笑う。


「何て書いてあった?」


「普通」


「いろいろ」


 俺と琴音の声が重なった。


 母さんは少し首を傾けたが、紙を結んできたと知ると、それ以上は聞かなかった。


 帰り道、四人で露店を見て回る。


 母さんが甘酒を買い、琴音の父親は焼きそばの列へ並んだ。


 琴音は団子の屋台を一度見たが、そのまま通り過ぎる。


「食べないのか」


「少し食べてきたから」


「さっき見てただろ」


「見ただけ」


 俺は団子の屋台へ戻り、二本入りを買った。


「一人で二本食べるの?」


「多いから一本やる」


「一本ずつ売ってたよ」


「二本入りの方が先に出てきた」


 琴音は追及せず、差し出した紙袋から一本取った。


 父親と母さんのところへ戻る前に、二人で店の脇へ寄る。


 琴音は最初の一口を食べ、表面のたれがマフラーへつかないよう、少しだけ顎を引いた。


「甘い」


「団子だからな」


「おみくじも大吉だったし」


「関係あるのか」


「今日はいい日かもしれない」


「まだ昼だぞ」


「悪い日になる予定があるの?」


「そういう意味じゃない」


 琴音は二口目を食べる。


「颯馬は、吉で不満?」


「大吉と比べれば下だけど、悪くはないだろ」


「隣に結んだから大丈夫だよ」


「琴音の大吉が分けられるのか」


「少しくらいなら」


「根拠ないだろ」


「私が決めた」


 琴音は最後の一口を食べ終え、串を紙袋へ戻した。


 代金を財布へ戻すため、右手の手袋を外す。


「持つ」


 琴音が空いた手を出した。


「団子は食べ終わっただろ」


「だから持てるよ」


「自分で持てる」


「財布をしまうんでしょ」


 外した手袋を渡す。


 琴音は手袋の甲に入った紺色の線を指で整え、自分のコートのポケットへ入れた。


「返してくれ」


「まだ財布を持ってる」


「もうしまった」


「串も捨てないと」


「それと手袋は関係ない」


「一緒に歩くから、あとで返す」


 理由になっていない。


 父親たちと合流しても、手袋は琴音のポケットに入ったままだった。


 右手へ息を吹きかける。


「寒い?」


「冬だからな」


「手袋、片方しかないから?」


「誰が持ってるんだよ」


 琴音はようやくポケットから取り出した。


 返された手袋は、布地の内側まで少し温かくなっていた。


「私が選んだんだから、なくさないでね」


「さっきまで持ってたのは琴音だろ」


「ちゃんと返したよ」


 手袋へ指を通す。


 境内へ残した二枚のおみくじを思い出した。


 琴音の大吉に何が書かれていたのかは分からない。


 それでも、見せなかった紙を俺の吉の隣へ結んだことだけは、忘れない気がした。


     ◇


 神社からの帰り道、母さんが足を止めた。


「少し休んでいい?」


 境内を出たところには、木製の長椅子が並んでいる。夜勤明けで人混みの中を歩いたのだから、疲れて当然だった。


 琴音の父親が空いている長椅子を見つけ、母さんと並んで腰を下ろす。


 俺と琴音は少し離れた場所に立った。


 琴音は串を捨てた紙袋を小さく畳み、コートのポケットへ入れる。


「颯馬」


「何」


「来年も、おみくじ引く?」


「初詣へ来たら引くだろ」


「四人で来られなくても?」


「母さんたちの予定次第じゃないのか」


「四人で来られないときの話」


 琴音は少し先にある鳥居へ目を向けた。


 参拝客が絶えず通り、白い息がいくつも重なっている。


「二人なら?」


 一年先の予定を聞かれても、答えようがない。


 来年の正月に誰がどこにいるのか。母さんの勤務だけでなく、学校や受験の予定も変わっているかもしれない。


 今の俺たちは、次の金曜日の献立さえ直前まで決めない。


「受験の直前じゃなければ」


 答えると、琴音がこちらを向いた。


「来るの?」


「予定が合えば」


「二人でも?」


「四人が無理ならな」


「分かった」


 琴音はそれ以上条件を増やさなかった。


 長椅子では、母さんが紙コップの甘酒を両手で包んでいる。琴音の父親が何かを話し、母さんが小さく笑った。


 琴音はポケットの中で指を動かした。


「来年は、颯馬も大吉かもしれないね」


「今年は吉で十分だ」


「本当に?」


 恋愛欄の言葉が頭に浮かぶ。


 近き縁を粗末にするな。


「悪くはなかった」


「見せてくれなかったけどね」


「琴音もだろ」


「私は大吉だけ見せた」


「結果は俺も言った」


「結果だけならね」


 琴音はそれ以上見せろとは言わなかった。


 隠した項目の意味を聞けば、自分も答えなければならなくなるからかもしれない。


 母さんが甘酒を飲み終え、立ち上がった。


「そろそろ帰ろうか。眠くなってきた」


「帰ったらすぐ寝ろよ」


「分かってる。颯馬は琴音ちゃんのお父さんと歩いて」


「何で決めるんだよ」


「琴音ちゃんと話したいから」


 帰り道は、母さんと琴音が前を歩いた。琴音の父親と俺がその後ろへ並ぶ。


「琴音、楽しそうだな」


 父親が前を見たまま言った。


「そうですか」


「最近は、予定をよく話すようになった」


「前は話さなかったんですか」


「必要なことは言ってたよ。ただ、誰とどこへ行きたいかまでは、あまり言わなかった」


 父親はそれだけ話し、歩く速度を少し落とした。


 前では、母さんが琴音へ病院の話をしている。琴音は時々振り返り、俺たちとの距離を確認した。


 家の前に着くと、母さんは先に玄関へ入った。


 琴音も父親と相沢家の方へ向かう。


「琴音」


 呼ぶと、琴音だけが振り返った。


「何?」


「冬休みが終わる前、もう一度うちで食べるか」


 琴音は返事をせず、こちらへ身体を向けた。


「いつ?」


「始業式の前の日」


「金曜日じゃないよ」


「知ってる」


「おばさんは?」


「日勤。帰りは遅い」


 琴音は隣にいる父親を見た。


「夕飯なら、行ってくればいい」


 父親はそれだけ言い、玄関の鍵を取り出す。


 琴音がもう一度こちらを見る。


「六時に帰る」


「来る、だろ」


「同じでしょ」


「違う」


「じゃあ、六時に行く」


 言い直したあと、琴音は少しだけ考えた。


「献立は?」


「まだ決めてない」


「決まったら教えて」


「琴音が決めるんじゃないのか」


「颯馬が誘ったから」


「誘った方が献立まで決めるのかよ」


「嫌なら、私が決めてもいいけど」


「嫌とは言ってない」


「またそれ」


 琴音は小さく笑い、父親の隣へ戻った。


「待ってるから、連絡して」


「ああ」


「忘れないでね」


「忘れない」


 今度こそ、琴音は隣の家へ帰っていく。


 来年の初詣より先に、冬休み最後の予定が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。