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【連載版】学校一の美少女は、金曜日だけ幼なじみに戻る  作者: ロン毛丸
第3章 幼なじみと冬休み

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第33話 人混みでは袖を

 神社へ近づくにつれ、同じ方向へ歩く人が増えた。


 母さんと琴音の父親が前を歩き、俺と琴音がその後ろを進む。家を出たときは俺が母さんの隣にいたはずなのに、最初の交差点を曲がる頃にはこの並びになっていた。


「おばさん、大丈夫かな」


 琴音が前方へ目を向ける。


「夜勤明けだからな」


「眠そう」


「本人が行くって言ったんだ。無理なら途中で帰るだろ」


「颯馬、おばさんにも容赦ないね」


「無理に気を遣う方が嫌がる」


 前を歩く母さんが振り返った。


「聞こえてるからね」


「なら聞くなよ」


「琴音ちゃん、颯馬が冷たい」


「昔からです」


「お前までそっちにつくのか」


 琴音は返事をせず、母さんの隣へ一度歩み寄った。


 俺だけが父親の後ろへ残される。


 神社近くの歩道には露店が並んでいた。甘酒の湯気、焼きそばのソース、砂糖を焦がしたような匂いが、冷たい空気の中で混ざっている。


「帰りに何か食べる?」


 母さんが露店を見ながら尋ねる。


「お昼は?」


「まだ」


「空腹で来たのかよ」


「寝てたから仕方ないでしょ」


「先に食べればよかったのに」


「そうしたら一時に間に合わなかった」


 母さんは琴音へ向き直る。


「琴音ちゃんは?」


「少し食べてきました」


「颯馬は?」


「朝が遅かったから、いらない」


「帰りに相談しようか」


 父親が話をまとめる。


 神社の入口には、歩道まで列が続いていた。警備員の案内に従い、最後尾へ並ぶ。


 列の幅は広かったが、鳥居へ近づくにつれて細くなる。母さんと父親が前へ進み、間へ小さな子どもを連れた家族が入った。


 琴音は俺の横にいる。


 列が急に動いた。


 目の前を子どもが横切り、琴音の足が止まる。俺は二歩進んでから振り返った。


 琴音がこちらへ手を伸ばしている。


 指先は俺の袖へ届く直前で止まった。


 人の流れが再び動く。


 琴音の指が、コートの袖を浅くつかんだ。


「離れそうだったから」


「分かってる」


「人、多いし」


「ああ」


 俺は歩幅を小さくした。


 袖をつかむ必要がなくなる程度まで距離が縮まる。それでも琴音の指は離れなかった。


 文化祭では、こちらから手をつないだ。年末料理の台所では、指先が触れそうになるだけで互いに止まった。


 今つかまれているのは手ではなく、厚いコートの袖だ。


 それでも琴音が一度ためらったことは、見ていたから分かる。


「前、詰めるよ」


 琴音が俺の袖を引いた。


「分かってる」


「止まってたから」


「琴音を待ってた」


 口にしてから、別の言い方があった気がした。


 琴音の指が少しだけ動く。


「そっか」


 それだけ答え、袖をつかんだまま前へ進んだ。


 石段の手前で人の流れが緩む。琴音が手を離したあと、押さえられていた部分だけ布が僅かにへこんでいた。


 母さんたちへ追いつく。


「はぐれなかった?」


 父親が尋ねる。


「大丈夫」


 琴音が先に答えた。


「颯馬が待っててくれたから」


「二歩しか離れてない」


「二歩でも、離れたことには変わらないでしょ」


 父親はそれ以上聞かず、列の前方へ視線を戻した。


 拝殿へ近づくと、賽銭箱の前で列がいくつかに分かれた。


 母さんと父親が右側へ進み、俺は中央の列へ入る。琴音も同じ方へ来た。


「そっちの方が空いてるぞ」


「後ろの人がいるから、動けない」


 振り返ると、確かに人が続いている。


 ただ、琴音が俺と違う列へ行こうとした様子はなかった。


 順番が来て、賽銭を入れる。


 鈴の音と拍手が周囲から何度も重なる。目を閉じ、今年も大きな問題が起きなければいいとだけ願った。


 隣では琴音がまだ目を閉じている。


 何を願っているのかは分からない。


 先に終えた俺が横へ移動しても、琴音はしばらくその場に残っていた。


「長かったな」


 琴音が目を開けてから言う。


「そう?」


「他の人より」


「比べてたの?」


「隣にいたから見えただけ」


「颯馬は何をお願いしたの?」


「言ったら叶わないだろ」


「それは誰が決めたの?」


「知らないけど、そういうものじゃないのか」


「じゃあ、聞かない」


 琴音は自分の願いも言わなかった。


 母さんたちと合流すると、父親が境内の端を指した。


「写真を撮らないか」


「四人で?」


「四人で来たんだから」


 母さんがスマートフォンを取り出す。


 通りかかった女の人が撮影を申し出てくれたため、拝殿を背に四人で並んだ。


 母さんと父親が外側へ立ち、俺と琴音が中央へ入る。


 相談した並びではない。


 琴音のコートの袖が、俺の袖へ触れた。


 女の人が画面を確認し、もう少し中央へ寄るよう手で示す。俺が半歩動くと、琴音との間が狭まった。


 肩までは触れない。


 先ほど琴音がつかんでいた袖だけが重なる。


「撮ります」


 声に合わせ、全員がカメラを見る。


 二枚撮ってもらった。


「ありがとうございます」


 母さんが頭を下げる。


「ちゃんと写ってる」


 母さんのスマートフォンを四人で覗き込む。一枚目は父親が少し目を細め、二枚目は母さんのマフラーが風で動いていた。


「どっちがいい?」


「二枚とも送ればいいだろ」


「颯馬は写真を選ばないね」


「写ってれば同じだ」


「同じじゃないよ」


 琴音が二枚を見比べる。


「こっち」


 二枚目を指した。


「母さんのマフラー、曲がってるぞ」


「でも、颯馬が少し笑ってる」


「笑ってない」


「一枚目よりは」


 母さんが画面を拡大する。


「本当だ。珍しい」


「拡大するなよ」


「こうやって見ると家族みたいね」


 母さんが何気なく言う。


「ほんとだね」


 琴音はなんでもないことかのように笑ったが、耳が少し赤かった。それが寒さのせいかは俺にはわからない。


 社務所の近くには、お守りと破魔矢が並んでいる。母さんは健康守りを一つ手に取り、父親は交通安全の札を見ていた。


「琴音は買わないのか」


「おみくじを見てから」


「結果で決めるの?」


「悪かったら、お守りも買う」


「大吉だったら?」


「そのとき考える」


 琴音はまだ引いてもいない結果を、一番いいものから口にした。


 母さんが会計を終え、健康守りを俺へ差し出す。


「これ、颯馬の分」


「母さんのじゃないのか」


「私は病院で十分健康を意識してるから」


「病院へいるから健康になるわけじゃないだろ」


「夜勤明けの人に細かいことを言わないで」


 琴音が横からお守りを見る。


「鞄につける?」


「家に置く」


「持ち歩かないと意味なくない?」


「机でもいいだろ」


「落としたくない?」


「そういうわけじゃない」


 母さんは口を挟まず、同じ色のお守りをもう一つ買った。


「琴音ちゃんにも」


「私にも?」


「起こしてくれたお礼」


「そんなに大きなお礼はいらないです」


「じゃあ、初詣に付き合ってくれた分も入れて」


 琴音は両手で受け取った。


「ありがとうございます」


 俺と琴音の手には、同じ色のお守りが一つずつ残る。


 琴音は自分の鞄へすぐにつけた。


「颯馬もつければ?」


「帰ってから考える」


「なくさないでね」


「琴音からもらった物じゃないだろ」


「同じ物を持ってるから」


 琴音は自分の鞄を少し持ち上げた。


 揺れたお守りを見てから、俺もコートの内ポケットへしまう。


 四人でおみくじの列へ並んだ。


 母さんと父親は先に番号を受け取り、少し離れた場所で紙を開く。


 琴音は筒を振り、出てきた棒の番号を確かめた。


 受け取った紙を開いた瞬間、目が僅かに見開かれる。


「何だった?」


 琴音は紙をこちらへ向けた。


 一番上に、太い二文字がある。


「大吉」


 人混みで離れかけても、写真へ並んでも、新年最初の運まで、琴音は俺の隣にいた。

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