2-30.エーデルの花畑で
ついにサロンが開催される日となった。
「招待ありがとう、エミリア様」
「この日を楽しみにしていました」
リーゼロッテ様とエレオノーレ様が挨拶に来る。二人は私が先生探しに奔走しているのを見て、参加を決めてくれたようだった。
「お招き頂き感謝するよ、エミリア様」
ヴィルヘルミーネ様は、先生に会えると聞いて喜んで来た。
先生を探しているからか、どこかソワソワしている。
「こんにちわァ。エミリア様」
アナスタシア様が光のない目でニコニコとしていた。
ほとんど信者のいない空間は、興味のない人間だらけだからだろう。
日程調整をし、五代公爵会談を終えて4ヶ月後についに公爵夫人5人が集まった。
ちなみに夫達は意図的に排除している。緊張感が高まりそうだからだ。
それにより、フリードリヒ様もお留守番だった。
(すごい心配してたな……)
花畑のそばでガーデンパーティを催す。小楽団が優雅な音楽を奏で、あらゆる分野の知識人達が交流しているのを私は注意深く見ていた。
(だって、私ホストなんだもの!!!公爵夫人達は楽しんで下さっているわよね?お呼びしたゲスト達は困っていないかしら?あぁ、心配だわ)
オロオロとしていると、色々な人が話しかけてくる。
(ホストとして堂々と!堂々としなければ!あぁ、でも周りが気になるし、フリードリヒ様なしでのパーティはまだ慣れていないし、どうしたら……)
3人の貴族に囲まれて、私はヘラヘラとしながら適当な顔をする。
いつもならこれで十分だが、ホストならもっと気の利いた事を言ったほうが……
(まだ私から話すのあんまり得意じゃないの……もう公爵夫人になって一年と5ヶ月経とうとしているのに……!)
困り果てていると、リーゼロッテ様が現れた。
美しく着飾った公爵夫人の登場に、3人ともがそちらを向く。
「ご挨拶がまだでしたわね!ずっとお会いしたかったんですの!」
リーゼロッテ様は社交が上手いことで有名だった。褒め言葉やウィットに富んだ言葉がすらすらと出てくる。
私はリーゼロッテ様のお陰でヘラヘラしているだけで済んだ。
ヴィルヘルミーネ様は先生と話をしている。
エレオノーレ様は知識人と話をしているようだ。彼らも一応庶民だから興味があるのかもしれない。彼女は教養があるので、きっと楽しめるだろう。
アナスタシア様は——
(ポツンとしていらっしゃる!!!)
ポツンどころではない。周りに全然人がいない!
私は急いでアナスタシア様のところへ行った。
「すみません、楽しくないですね!」
テンパって思わずそう言うと、彼女は首を傾げた。
「そうですね。いつもそうですね」
(ひ〜〜〜〜〜〜)
「何か!せめて美味しいものを食べて下さい!色々なものを用意しましたので!」
「それでわ」
私は必死に食事の説明をしながらアナスタシア様に取り分けた。
「なぜアナタ自ら取り分けるのですか?従者の方に頼んでわ?」
その通り過ぎて恥ずかしい。
***
二次会は公爵夫人5人で行われた。
奇しくも以前と同じような円卓だった。
「えー本日は良い天気にも恵まれまして、エーデルの花も綺麗に咲き誇り、えーっと、皆々様におかれましてもー」
「エミリア様、硬すぎ」
リーゼロッテ様に突っ込まれる。こういうの仕切ったことないんです。すみません。
私がやるわ、と司会を引き受けてもらった。
「素晴らしい陽気ですわね!皆様!」
「そうですわね」
「いかにも」
「は、はいっ!」
アナスタシア様はぼーっとしている。
「私達全員が聖騎士エガントスの物語が好きだということで、エミリア様がこのような素晴らしい場を設けて下さいました」
「い、いえっ!喜んでいただけて光栄です!」
「本当に物語に出てくるのと同じだな。先生も実際には見た事がないようだから喜んでいた」
「美しいですわ」
「……」
(うわぁぁぁ、アナスタシア様!)
笑っているが笑っていない顔で無言。怖すぎる。リーゼロッテ様も頑張ってくれているが、ここから巻き返せる気がしない。
私は懸命にアナスタシア様に話しかけるが「あらァ、そうなの」としか言わない。
「聞いているだけでワタクシは良いの。お勉強に来ただけだからァ」
(それだと、仲良くはなれない気がする……!)
困り果てた。仕方がないので、共通の話題としてフリードリヒ様の話をした時だった。
「あァ、カワイソウな彼ね。困っていたわよォ、アナタに」
「えっ?!?」
「私だって、目の前で信者にあそこまで言われたら恥ずかしいわァ」
「え?何をやらかしたの?エミリア様」
ワクワクとした目でこちらを見るリーゼロッテ様。
「いや、そのぉ……」
「エミリア様の狂信ぶりに、さすがの私もドン引きしたお話をしましょうか?」
「アナスタシア様……!」
せっかく良い感じに話題ができたけど、それ……?!?
そこから私の恥を晒され、私を除いた公爵夫人全員が爆笑していた。
恥ずかしくて下を向く。高貴な方々でもこんなに笑うのね。
「本当にエミリア様はヴォルトブルグ公が好きだな!」
涙を流しながら笑うヴィルヘルミーネ様。
「ヴィルヘルミーネ様だって、ホーエンローエ公爵が好きなくせに……」
あまりにも馬鹿にされてつい言い返してしまった。やらかした。
急いで口を押さえる。
「えーーー!!!そーなの?!ヴィルヘルミーネ様!!!」
リーゼロッテ様が食いついた。
「いや……エミリア!」
「すすすみません」
リーゼロッテ様は追求の手を緩めない。
「それなら、リーゼロッテ様もお話ししてくださるという事ですね?」
「別に〜?構わなくてよ!」
「うぐ……」
お酒も出ていてこの5人しかいないため、皆口が軽い。
「リーゼロッテ!卑怯だぞ!もう少しちゃんと話すと……!」
「ふ〜ん。本当に我が家は淡白なのです!これ以上話せることはありませんわ〜」
「リーゼロッテはツンデレだ」
エレオノーレ様の声が妙に響いた。
「へぇ。君のようなはっきりと意見を言う女性が素直になれないとはね?好きで素直になれないと」
「エレオノーレ〜……様!」
つんとするエレオノーレ様
「うちは本当に仲が悪いが、リーゼロッテはなんだかんだ相思相愛だ」
「なぜ仲が悪いのですかァ?」
(アナスタシア様が喋った!)
みんなが一斉にアナスタシア様の方を見る。
「……うちの夫は頼りない。ナヨナヨしていてダメなのです」
「エレオノーレ様から襲えば良いのでわ?」
「「「「はぁ?!?!」」」」
アナスタシア様以外の声が重なった。
「どどどどどういう事ですの、アナスタシア様」
リーゼロッテ様が吃りながら言う。
「言葉の通りですが?」
「おそ、襲う……とは具体的に」
「何を聞いてるのよ!ヴィルヘルミーネ!」
諌めるリーゼロッテ様だが、形だけだ。
エレオノーレ様に至っては何も言えなくなっている。
「やりたいようにやるということです」
ルカトの聖女は違った。あの国では彼女が一番偉いのだ。
急にみんなの興味がアナスタシア様にいく。
「アナスタシア様の旦那様……」
「パーヴェルですか?ナヨナヨしていて、腰が低くて、私の言う事をなんでも聞いてくれる人です」
「そんな夫が好きなのですか?」
エレオノーレ様の言葉に、アナスタシア様の頬が染まった。
「はァい!とても可愛くて、カワイソウで、最高の男ですわ」
(衝撃)
「私のやりたいと言うことは、なんでも言う事を聞いてくれます。小さくて可愛らしくて。思わず頭をぐりぐりと撫でてしまうのです。この前強くやったら神に怒られました。ほどほどにするようにと」
「それで嫌がられないのか……?」
「意外と喜んでくれますよォ?」
(虐められるのが好きなタイプの人……?!)
需要と共有がピッタリだ。ここまで運命的なカップルもそういない。
「ち、ちなみにどのように好き勝手やっているの……?」
「リーゼロッテ!」
今度はヴィルヘルミーネ様が止める。
そこからは聞くに絶えない会話だった。
夫達がいなくて良かったと言うものだ。日常生活から夜の生活まで全てが筒抜け。
アナスタシア様は信者に教えるかのように「このようにすれば男性は喜びます」と話し出し、それを皆んなが食い入るように聞いていた。
その様子をアナスタシア様はいたく気に入ったらしい。今日一番の笑顔で話していた。
(これは成功……なの?)
エガントスなんてどこへやら。結局女性が好む話はこういうものらしい。
「エミリアも話しなさいよ!!!」
リーゼロッテ様、だいぶ酔っていますね。
「お姉様のお話お聞かせ下さい〜」
「君だけ逃げられると?」
(適当に相槌打って逃げてたのに!アナスタシア様さえ興味あり気!)
「えっと〜私の話は皆様のからするととてもつまらないと〜」
(ごめんなさいフリードリヒ様。逃げられそうにありません)
公爵夫人達の楽しそうな笑い声が花畑に響いた。
次回 エピローグです。




