2-17.勝敗
第三試合
「勝利の女神は君に微笑んでるのかな?」
ヴィルヘルミーネはふ、と笑った。
「運が良いのはその通りだと思います」
「ここから私は巻き返さなければならないのか。難しいね」
難しいと言うが、追い込まれている風ではない。
(ツキがなければあっさりと人質解放だな。つまらないが約束だからね)
ヴィルヘルミーネが5枚引く。
(役なしか。だが……うん、確率的に2回引けば役ができる可能性は高い。勝負に出る価値は充分ある)
エミリアの様子をヴィルヘルミーネは見る。
(向こうもあまり良い手では無さそうだな。しかし簡単に降りられたら困る。エミリアをこの試合の最後までドロップさせず、最高得点を狙う)
一方のエミリアはワンペア。どうすべきか首を捻っていた。
この試合込みで残り三試合、これだけ点差の開いた状態であれば、全てドロップするだけでエミリアは勝てる。
しかし、三試合ドロップし続けるなんて興醒めも良いところだ。
けれども、人質にはなりたくない。
(リスクは取りたくない……。けど守りに徹し過ぎれば、目的の「仲良くなる」が達成できない。そうしたら、ここに来た意味がなくなってしまう)
お互いに楽しむ事が仲良くなる近道というのは、エミリア自身が見つけた大切なポイントだ。
「おっと」
ヴィルヘルミーネがカードを落とした。
すぐに拾ったが、はっきりと見えた。2と4と5。
(ワンペアかツーペアかスリーカードだけれど、偶然落ちたカードがバラバラだったから、スリーカードの可能性は低いわよね。役なしでもおかしくない)
高い手ではないとエミリアはふんだ。
(まだ三試合目だし私の方が勝ってる。ここまでなら余裕がある。次の交換後の賭けで決めよう)
「コール」
「コール」
エミリアが3枚交換する。
ヴィルヘルミーネは1枚。
(やった!またスリーカードになった。ヴィルヘルミーネ様は1枚交換だから引く前ツーペアってことよね。そこからフルハウスを狙うのは難しいはず!)
「コール」
「コール」
「オープン」
ヴィルヘルミーネの手札は、エミリアにとって予想外のものだった。
(2、4、5ならストレートの可能性もあった!)
「エミリア様スリーペア。ヴィルヘルミーネ様ストレート。ヴィルヘルミーネ様の勝ちです」
17-13
(まだ点差はある)
***
第四試合
(ストレートの可能性を全然考えてなかった。あぁしてカードを落としたのは、わざとだったのかも)
ヴィルヘルミーネがあんな粗相をするとは思えない。
(手札が弱い事を印象付けるため……)
今回のエミリアのカードはワンペアだった。
(どうしよう。コールしても良いかしら)
一方のヴィルヘルミーネ。
(4試合終わった時点でエミリアが優勢だった場合、彼女は5試合目をすぐにドロップする可能性が高い)
いくらヴィルヘルミーネを楽しませたいという目的があるにしても、自らの進退がかかっているのだ。
最終試合は安全な方法を取りたいに決まっている。
気の弱いエミリアが、そんな場面で心理戦をして万が一負けるようなリスクを取るとは思えない。
という事は、この試合で同点以上まで持ち込む必要がある。
「外にパイプを吸いに行ってくる」
ヴィルヘルミーネがぶっきらぼうに言う。
バタン!と大きな音をたててドアが閉まった。
その様子を、エミリアは目で追っていた。
***
第五試合
試合開始時点で、二人のコイン数は14-16 になっていた。
ヴィルヘルミーネが優勢になったのである。
(エミリア様、なんてらしくない事を……)
リカはエミリアの側に控えていた。
主人のために表情を変えないように、それこそポーカーフェイスを貫く。
四試合目、二人は最後の賭けまでもつれこんだ。そしてカードをオープンした結果、エミリアが負けた。ヴィルヘルミーネはツーペアで勝ち切った。
(20-10のコールド負けを覚悟した上で勝負に出た胆力も凄まじいけれど、この状況とエミリア様の性格を完璧に読んだ洞察力も凄い)
試合が始まってから、ヴィルヘルミーネは一度も余裕の笑みを崩さない。
エミリアがスリーカードとストレートという強運を連発しても、点差が10点差でも。
ただ勝利するだけだったら、エミリアの勝利は第二試合の時点で決まったも同然だった。
しかし、ドロップをし続けて勝ってもここに来た意味がなくなってしまう。
エミリアが負けることの次に恐れているのは、ヴィルヘルミーネの退屈だ。
ヴィルヘルミーネはこのエミリアの考えを完璧に読んで場外戦を仕掛けてきた。あのカードを落としたのもエミリアを勝負に出させるために、わざとやったのだろうとリカも考えていた。
(パイプを吸いに出た時間が、流れを一気に変えてしまった。ヴィルヘルミーネ様が退屈したのではないかと思ったエミリア様が、珍しく強気に……)
運だけであればエミリアが勝っている。しかし、それ以外の要素の全てにおいてヴィルヘルミーネが上だ。
首元にナイフを当てられていても、当てている相手がエミリアであれば彼女は冷静でいられるのだろう。
切り殺そうという意志のないナイフであれば、恐るるに足らない。
(エミリア様!飲まれてはダメです!)
どんなカードが来ても、エミリアはコールするしかない。ドロップ宣言はすなわち敗北宣言。
人質になる事を認めたも同然。
(ツーペア!良かった。もう流石にヴィルヘルミーネ様が退屈してるだろうかとか考えている場合じゃないわ。何としてでも勝たなければ)
「ドロップ」
「え?」
「ドロップだ。延長戦をやろうじゃないか」
ヴィルヘルミーネは楽しそうに笑う。
15-15
***
第六試合
エミリアには、ヴィルヘルミーネがなぜあっさり延長戦にしたのかが分からなかった。
もうゲームを始めて1時間が経っている。
今すぐにでもこの試合を終えたいとエミリアは思っていた。この緊張感の続く状況を一刻も早く終わらせて、決着を付けたいと。
(コールしてカードを交換したら良い手が出る可能性だってあるのに)
確かに、ヴィルヘルミーネの手はワンペアで良いとは言えなかった。
だがそれ以上にツーペアが出た瞬間、エミリアが明らかに安堵の顔をしたことを見抜かれたのだった。
ここからはもうお互いにドロップできない。運任せだ。
「最後は運の勝負になるなんてね」
カードを引く前にヴィルヘルミーネは言う。
「そうですね」
「ポーカーの勝ち負けは賭け要素が駆け引きになるから運だけじゃないけれど、単純に高い役を揃えられるかというのは運だよね」
「えぇ」
ヴィルヘルミーネとエミリアは手札を見る。
もちろん、お互いに
「コール」
「コール」
2人は3枚ずつ引いて交換する。
「君はワンペアだったのかな?それで3枚引いた?」
「……はい」
「私もそうだよ」
「コール」
「コール」
「オープン」
「確率っていうのは、収束するものだよね」
ワンペアと4枚並んだクイーン。
ヴィルヘルミーネは0.1%以下を引いた。
目の前が真っ暗になる。
「残念だったね、エミリア」
点数計算とか色々と間違っているところがあったらすみません。
次回
負けたエミリアは、ヴィルヘルミーネのところへ行く前にフリードリヒや屋敷の人達と話したことを思い出します。




