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2-16.ゲーム

 午前中は兵士の演習風景を見せてもらった。

 すごい迫力に気圧されるほどで、この人達が攻めてきたらと思うと少し怖くなった。

 こんな兵士達を指揮するヴィルヘルミーネ様はやっぱりすごい。

 凛とした眼差しには力強さを感じる。

 

 午後はヴィルヘルミーネ様に城下町を案内して頂いたわけだが、町の人達の歓待を受けてこれが仕事であることを意識した。

 気をずっと張っているため疲れ、屋敷に戻ると全く動けそうになかった。

(フリードリヒ様はこれを日常的に行なっているのね……すごいわ)

 ディナーの時間まで少しあるので昼寝をした。本番は夜だ。


 ディナーが終わると、私はヴィルヘルミーネ様をカードゲームに誘った。

「ゲームか、いいね」

 二人で談話室へ向かう。

(一緒にゲームをして仲良くなろう!)

 今までの経験上、一緒に何かをして楽しめば良いと知った私は意気込んだ。

 ヴィルヘルミーネ様はゲームがお強いから、私の得意なものを提案させてもらおう。

 勝たなくたっていい。互角の勝負ができるのが一番だ。


「実はエミリア嬢とやろうと思っていたゲームがあるんだよ」

「え、なんですか?!」

 

「ポーカーを知っているかな?」


「ぽーかー?」

 ルルと練習したゲームの中にない。

「すみません、そのようなゲームは存じ上げず……」

「良かった!知られていたらどうしようかと思っていたよ!私も初心者でね。役ぐらいしか知らないんだ」


 アハハハ!と楽しそうに笑うヴィルヘルミーネ様。

「私が酒場に行っているという噂を聞いたことは?」

「え……えぇ」

「あれは本当なんだ」

 どうぞ、と私に席を譲るヴィルヘルミーネ様。

 道具を持って彼女は私と反対の席に座った。


「このゲームは異国のものだ。酒場の誰かが広めたらしい。簡単だからすぐにルールを覚えられる」

 彼女が出したのは、トランプとコインだった。


「なぜこのゲームを?」

「これ以外のゲームでは、君に勝ち目がないからだ」

「……え」

「君の友達にルル・フォルケンシュタインという夫人がいるね」

「はい」

「多分、私は彼女より強い。なぜなら、宮廷学校に通っている私の妹が、あらゆるゲーム大会のチャンピオンだから」

「妹より強いヴィルヘルミーネ様は、更に強いと」

「いかにも」

 彼女は流し目で私を見た。


「しかし、このゲームなら君にも十分勝ち目はある。どうだい?のるかい?」

 私が誘った手前、乗らないという選択肢はない。二人で楽しめそうならばちょうど良い。

「はい!」

 ヴィルヘルミーネ様は私にトランプを渡す。切れという事なのだろう。15枚のコインが配られた。

「賭け事をするのですか?」

「ポーカーは賭けがあると楽しいゲームなんだよ」

「そうですか……」

 練習しておいて良かった。


「5回勝負でコインの枚数が多い方が勝ちだ」

「分かりました」

「言っておくが、君はこのゲーム勝たないといけない」

「え?」


「私に勝たなければ、君はこの町から出ることはできないからね」


 ***


 あぁ、本当に笑ってしまうねエミリア・ヴォルトブルグ。君が私の思った通りの人間で安心したよ。

 以前会談で会った時は、ネズミ取りに捕まったネズミのように殺されるのを待っているだけだった。

 昨日来た時、私は君が成長していることに気づいた。

 けれどもまだ狩るのにちょうど良いウサギ程度だ。

 少しは自分が力をつけたと思っているね?その通りだよ。君は少し強くなった。

 でもまだ殺される側だ。


 この城塞に足を踏み入れた瞬間、君は敵地へ入ったわけだ。それにも気づかずのほほんとこの二日間過ごしていた。

 私の一存で、歓待していた町中の人間が自分を殺すなんて夢にも思ってなさそうだったね。


 もちろん、そう簡単に公爵夫人を殺すなんてできない。公爵家同士の戦争に発展してしまうかもしれない。

 けれど、生かして人質として持っておくという手があるんだよ。

 我が家、ホーエンローエのライバルであるヴォルトブルグ。広大で豊かな土地。豊富な資源。王家との繋がりも深い。

 私達が欲しいものが全てある。


「分かるかい?ヴォルトブルグ公爵夫人であり、バーデン大公夫人」

 彼女は顔を青ざめさせ、恐怖の目で私を見た。

「君のそういう目はすごく可愛らしい。だからゲームをすることにした。私が勝ったら、君は交渉材料だ。つまり人質。ここから簡単には出られない」

「……」

「怖くなったかい?でもこのゲームに乗らないという選択肢はないと思うけれど」

「分かりました、やります」

「そうか」

「その代わり私が勝ったら……」

 

「あなたの心を下さい」

「……え?」

「私はそのためにここに来ました。あなたと仲良くなるために」

「もう仲良しだと思うよ?」

「いいえ、それは仲良しとは言いません。私が勝ったらあなたは私の友……いえ!親友です!」


 了承しておいた。早くゲームを始めたい。


「簡単に説明しよう。これは手札として配られた5枚のカードを高い役の組み合わせにするゲームだ」

 私はエミリア嬢に役が書かれたメモを渡した。

 

「そこに賭け要素が含まれる。まず、コインをお互い一枚場に出す。次に手札を5枚配る。手札を見て私達は行動を選ぶ。

 行動は2つ、コールかドロップだ。コールは一枚コインを出す。ドロップは棄権だ。

 君か私がドロップしなかった場合、私達は役を揃えるために手札のカードを好きな枚数捨てて、山札から捨てた枚数を引く。捨てるのをパスしても良いよ。

 そうしてもう一度コールかドロップか選ぶ。

 最後にカードを開いて、強い役を揃えていた方が勝ち。場のコインは勝者のものだ」


「えっと……つまり自分の手札が相手より強そうだったらコールして、ダメそうだと思ったらドロップするってことですか?」


「おおよそそんな感じだね。運要素の絡んだ心理戦だ。相手の様子や交換する札の枚数を見て、強い手札を持っているかそうでないかを予想する。

 相手がどんなカードや役を持っているか考えるわけだから、完全に役を覚えきっていない君は不利だろう。

 そこで第一試合はハンデをあげる。君が全ての行動を決めて良い。先にカードを引くか、後に引くか。コールドロップの宣言もね。じっくりと私の様子を見てから決めていいよ」


 私は「パイプを吸いに行く」と言い一服しに行き、その間にエミリアに役を覚えてもらうことにした。


「さて、良いかな?」

「……はい」

 緊張で強張った顔。君の実力はいかに?


 ***


 第一試合


 エミリアとヴィルヘルミーネはお互いに一枚コインを出した。

 手札を五枚引く。


 エミリアは役を思い出しながら手札のカードを見ている。

 ヴィルヘルミーネは余裕そうにカードを眺めた。

 最初の行動をエミリアが決めた。


「コール」

 一枚コインを出す。

「私もコール」


 ポーカーの役を覚えるのは難しくない。

 エミリアは、ロイヤルフラッシュやストレートフラッシュなどの作るのが難しい役は狙う必要がないとして、覚えるのをパスした。

 そうすると覚える役は7つ。


 1ペアと2ペアは同じカードがペアになるという組み合わせ。

 スリーカードとフォーカードは同じ数字が手札に3枚あるか4枚あるか。

 ストレート。これは数字の階段。

 フラッシュは同じスートが5枚。

 フルハウスはワンペアとスリーカード。


 強さの順は1(ペア)2(ペア)スリ(3)ーカード。フォー(4)カードの間にストレートとフラッシュとフルハウス。

 

 エミリアはじっとヴィルヘルミーネの様子を伺った。

(最初は様子見ってところなのかしら……そういう私も様子見だけれど。でも全然役が揃ってないなんてことはなさそう)

 

 エミリアはワンペアだった。残りの三枚を交換することにした。

(あ!スリーカードになった!)

 スリーカードを二発で引くの確率は約13%。十分強い。


 ヴィルヘルミーネは「引いていいかい?」と確認を取り、一枚捨てた。


(一枚ってことは、既にいい役ができているの?ここでドロップすれば、コインを失うのは2枚で済む。コールするべき?)

 負けたら人質……。そう思うと弱気になる。

(ドロップしたいけど……ゲームのルールを知るためにも一試合やりきるのが良いわよね……)


「お先にどうぞ」

「ではコール」

「コール……」

 お互いにチップを一枚賭ける。

 

 場にコインは3枚づつ。


 カードがオープンされる。リカが読み上げた。

「エミリア様スリーカード。ヴィルヘルミーネ様ツーペア」


 エミリアの勝ちだった。

(良いカードが来てくれて良かったぁ……)


 エミリア18 ヴィルヘルミーネ12

 

 ***

 

 二試合目


(役も分かったから、さっきよりスムーズに進める事ができるはず……って、これ!すごく良い役なんじゃない?!ストレートって!もう交換する余地ないわ)

 5枚引いてストレートが一発で出る確率はわずか0.14%。相当運が良い。エミリアは口元が緩みそうになるのを必死に抑える。

 

 お互いにコールする。

「パス」

 エミリアはカードを引かない選択をした。

 ヴィルヘルミーネが2枚引く。


「コール」

「私はドロップだ」

 あっさりと勝敗が決した。パスする時点でエミリアに相当良い手が出ているのは明らかだ。

 ヴィルヘルミーネの選択は冷静だった。


 エミリア20 ヴィルヘルミーネ10


 コイン差が開く。差し迫った状況ではなくなり、エミリアは胸を撫で下ろした。

次回、ゲームの勝敗が決まります。

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